ビジネスパーソンインタビュー

30歳間近、僕はどん底にいた。『ULTRA JAPAN』小橋賢児が壮絶な過去から学んだもの

「今を変えたいなら、旅をするといい」

30歳間近、僕はどん底にいた。『ULTRA JAPAN』小橋賢児が壮絶な過去から学んだもの

新R25編集部

2018/04/12

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記事提供:20's type

成功を掴み、夢を叶えた30代の大人たちは、20代で何に悩み、何に躓き、何を乗り越えてここまできたんだろう。新時代の“カッコイイ大人”を目指すべく、先輩たちが歩んできた道のりや20代でした大きな決断について聞いてみた。

本特集一人目に登場するのは、世界最大級の音楽イベント『ULTRA MUSIC FESTIVAL』の日本上陸の立役者で、クリエイティブディレクターを務める小橋賢児さん

8歳で芸能界デビューし、『人間・失格』や『ちゅらさん』など、数々の作品に出演したのち、27歳で芸能界での活動を停止した。元俳優でイベントプロデューサー。そんな華々しい世界の裏側には、20代で“自分の生き方”に悩み苦しんだ過去がある。

小橋賢児/クリエーティブディレクター

「自分に嘘をついて生きていた」苦しくて芸能界から逃げた20代

僕は子どもの頃、直感を信じて突っ走るタイプの少年でした。両親が共働きで家にほとんどいなかったので、何でも自分で動かないと始まらないぞ、という意識が強かったんでしょうね。芸能界に入ったのもそう。家が裕福ではなかったので、中学生の時には買いたい洋服のために内緒で新聞配達をしたり、原宿のアクセサリー屋のバイト募集広告をみて内職を請け負ったり……とにかく思い立ったら即行動しちゃうんです(笑)。

ところが中学3年生で『人間・失格』というドラマに出たら、いきなりダンボール2箱分ぐらいのファンレターが来たんです。急に人から見られるようになって、“僕は芸能人なんだから、変な行動をしたらダメだ”と思うようになりました。その頃から自分に制限をかけて、何をするにも感覚より理性を優先するようになってしまったんですね。

そうして10年以上“芸能人”として生きてきて、それなりのポジションや生活を手に入れることはできました。プライベートでも同じ業界の人たちと、個室の居酒屋で身内トークを楽しむ毎日。それが一番無難で楽しい時間でしたから。

でもふと、思ったんです。それって本当に僕の幸せなんだろうかって。漠然と思っていた「男は30歳から」の年齢を前に、そんな自問自答を繰り返していました。

その当時は言語化できていなかったけど、シンプルに言えば、「お金と名声が欲しいがために、自分に嘘をついて生きている」状態だったんです。

まずは自分の環境を変えてみようと、同じ業界の人たちではなくクリエーターの先輩方と遊ぶようになりました。彼らが自然を楽しみ、そこから作品を生み出していく過程を見ていたら、「僕だって俳優というクリエーターなのに、夕日や星空を見て感動することすらも忘れていたんだな」と、彼らとのギャップに大きなショックを受けたんです。

そして決定打となったのが、もっと知らない世界を見ようと、26歳でたまたま訪れたネパールです。現地の同世代の男の子と数日一緒に過ごしたら、彼の家族を守る強さや生きる力、なんというか、人間力みたいなものを感じて。一方の僕は、自分の立場を守るために、自分に嘘をついて生きている。そのギャップに辛くなってしまいました。

それで27歳で、芸能界の活動を停止しました。日本に帰ってからはいろいろなことが嘘のように感じてしまって、もう無理だと思った。決断なんてかっこいいことじゃなくて、苦しくて逃げたんです

人生のどん底から這い上がった30歳の誕生日。これまでと真逆の幸せに気付いた

人生の再スタートだ、と意気込んだ先に待っていたのは、俳優だった過去が足を引っ張るという現実。「元俳優が仕事なんてまともにできるわけない」という、あからさまな空気がありました。社会人として認められていなかったんですね。

いろいろチャレンジはしてみたけど、結局何もできなくて、貯金も底をつき、仕事もない。家だって芸能人の頃には考えられないほど狭い四畳半以下の部屋に引っ越していました。気付けばうつ病のようになっていて、半分寝たきりのような状態。病院に行ったら肝臓も壊していたんですよ。

その時、あと3カ月で30歳でした。「男は30歳から」だって思っていたのに、まさかの人生で一番最悪な状態です。

でも僕は運がいいことに、どん底まで落ちていたから開き直れたんですよね。どうせだったら、バカな目標をつくって、病気も治しちゃおうと思った。それで立てた目標が、「バースデーパーティのオーガナイズ」と「人生最高の体で30歳を迎えること」です。

お金もないのにお台場のホテルのプールを貸し切って、後に引けない状況をつくりました。人を集めなきゃいけないから、パーティーをイベント化し、お金を払ってでも行きたいと思えるものにしようと。同時に体を治すために、筋トレや食生活の改善を徹底しました。

そうして3カ月後の誕生日、イベントは300人以上から申し込みがあって、僕はアスリートのような最高の体を手に入れていたんです。

四畳半もないような狭い家に住んでいて、お金もない。でも健康で、これだけ友達がいる。これまでと真逆の幸せに気付いたんですよね。お金はそれなりにあるけど自分をないがしろにしていた20代と、自分が完璧な状態にあって、友達がいる30歳。本当に大事なものに気付かされる30代のスタートでした。

今年で39歳になりますが、30歳からはあっという間だったんです。すぐに仕事があったわけじゃなかったし、お金も何もなかった。失敗の連続で、ここまでくるのは決して簡単ではなかったです。

誕生日のときのように、友達とパーティーを開いては人を呼んで、一つ一つの出会いを噛み締めて、大切にする。そうやって知り合った人の仕事を手伝っていったら、それがどんどん大きくなって、『ULTRA JAPAN』をはじめとしたイベントのプロデュースに繋がった。一個一個積み重ねていった結果が、今の自分をつくったんです。

行動は誰でもできる錬金術。“Have to”よりも“Want to”を

振り返って思うのは、全ては行動からしか生まれないということです。20代の自分に伝えることがあるとしたら、「夢なんか考えてんじゃねぇ」ってこと。頭で考えていても、正直何も意味がない。行動は誰にでもできる錬金術で、できることや興味があることをやっていく中で、夢は生まれるんだと思うんです。

今は情報が溢れているから、夢の可能性と自分の現状を比べちゃうんですよね。そのギャップに劣等感が生まれて、試す前に「無理そうだから、やらない方がいい」と諦めてしまうことだってある。

だからこそ、やりたい仕事から逆算して「しなければいけない」という“Have to”を考えるよりも、「やりたい」という“Want to”を実現していく方が、先々に繋がっていくように思うんです。僕自身、子供の時にテレビ番組にハガキを送ったことから俳優になって、30歳で誕生日のイベントをやったことが今の自分に繋がった。“Want to”の気持ちからスタートしていれば、ワクワクするし、貪欲に取り入れられるはずです。

日常は一番のぬるま湯だ。変わりたいなら20代は「旅」に出よ

もし20代の皆さんが今を変えたいという気持ちがあるなら、「旅」をするといいんじゃないかな。といっても、どこかに出かけなさいという意味ではなく、人生の旅にはいろいろあると思うんです。

もちろん海外をまわった経験は僕にとってすごく大きかったけど、だからといって、20代の人に必ずしも海外へ旅に行けとはあまり言いたくないですね。

僕が好きな言葉に、「中道」という言葉があります。両極を知っているからこそ、真ん中が分かるという考え方です。つまり「知らなかったことを知る」ことが、“極”。これが鍵で、僕は“極”を知ることが、“旅”だと思っています。

「知らなかったことを知る」という意味で考えれば、日常でできることはたくさんある。苦手な友達と話してみる、照れ臭くて話せなかった親父と杯を交わす、それも極です。気になる本や映画を見る、会社の帰り道を変える、トイレにいる間だけ何かをやってみる、でもいい。そんな些細なことでも、行動するうちにだんだん繋がって、何かが見つかっていきます。

日常のルーティンは一番のぬるま湯で、コミュニティーやSNSも、自分がフォローしている人たちの似たような世界です。気付けば自分のアイデンティティーや考え方が、そのコミュニティーの常識に染まってしまうから、まずはそこから出てみること。

そうして“極”の世界を知っていくことが、「人生の旅」だと思うんです。

僕の場合は普段都会にいる分、休日は山に登ったりサーフィンをしたり、自然に触れ合うようにしています。自分の住んでる都会という環境と真逆な世界に身を置く、“あえての行動”が幸せな生き方につながっていくのではないでしょうか。

〈取材・文=天野夏海/撮影=竹井俊晴〉

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