ビジネスパーソンインタビュー

年金のミスが月100件…ってなぜ!? ツッコんでみたら「日本の組織」全体の問題だった

「職員の怠慢」ではないらしい

年金のミスが月100件…ってなぜ!? ツッコんでみたら「日本の組織」全体の問題だった

新R25編集部

2018/06/05

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ニュースでたびたび報道される、年金の事務処理ミスや情報流出の問題。実際に、なんと月に約100件のミスが発生しているらしい!

国民の大事なお金を扱っているはずなのに、どうしてそんなにミスが多いんだろうか…。年金の問題に詳しい弁護士、野村修也先生に聞いてみた。

〈聞き手:ライター・森かおる(@orca_tweet1)〉

なんでミスが多いの?→年金制度はルール変更が多く、めちゃくちゃ複雑

ライター森

よろしくお願いいたします! 今日は年金の問題についてお伺いさせてください。

野村さん

はい。まず前提として、今ミスが起きている「日本年金機構」の仕事は、2009年まで「社会保険庁」という組織が行っていたのはご存じですか?

ライター森

う~ん、なんとなく聞いたことはあります。

野村さん

2007年に「消えた年金問題」が発覚し、官公庁のひとつだった社会保険庁は、2010年に、特殊法人の日本年金機構として生まれ変わったんです。

この「消えた年金問題」は、誰の年金記録か分からないものが5000万件も見つかったというものです。原因は様々ですが、年金記録を紙台帳からコンピュータに入力し直す際、ミスが多発していたと考えられています。

ライター森

年金の事務処理ミスは以前から多いんですね。今でも月に約100件のミスが発生しているそうですが、一体なぜなんでしょう…?

年金機構の職員は、厳しい試験に合格した優秀な人たちじゃないんでしょうか?

野村さん

もちろん採用試験がありますし、大手企業への就職活動と同じくらいハードルは高いはずです。

ライター森

それでもミスが多発しているのは、なぜなんですか?

野村さん

年金制度ってとても複雑になっているんですよ。

高齢化にともない、制度を維持するために今まで何度もルール変更が繰り返されていて、生まれた年や職業経歴によって、皆それぞれ受給条件が異なるんです。

しかも、20歳以上の国民全員が加入してるわけですから、作業の複雑さは、民間の保険会社の比じゃないんですよ。

ライター森

たしかに、若い人からお年寄りまでみんな関係していて、それぞれ制度がちがうわけですからね…

「職員がダメ」というのは偏見!? 年金機構は「めちゃくちゃ働きにくい」環境

野村さん

また、使用するシステムにも問題がある。年金管理機構の業務には、専用のPC端末が使われます。

これは、外部のインターネットには接続できず、年金業務専用のソフトだけを動かすもの。入社したら、このソフトの使い方を覚えることから始めなくてはいけないんです。

ライター森

うわ~めんどくさそう…)エクセルのように、使い方がわからなければググったり、市販の参考書を読んだりできないんですね。

野村さん

システムの使い方や制度についてなど、ノウハウが共有されるべきなんですが、それができないのも大問題。というのも、年金機構で働いている人の約半分が非正規の職員なんです。

社会保険庁の時代はみな公務員でしたが、日本年金機構の職員は公務員ではなくなったので、職員の雇い方が多様化し、人件費を削減するために非正規が増えたわけです。

ライター森

非正規職員だとノウハウを共有できないんですか?

野村さん

有期雇用の人を5年以上継続して雇用すると「無期雇用に転換しなければならない」という法律ができましたよね。

それは予算的に厳しいため、5年経たないところで雇い止めをしているんです。

ライター森

じゃあ、働いている人が次々入れ替わっちゃうわけなんですね…!

野村さん

そう。これだけ働きにくい環境なら、むしろミスをしないほうがおかしいくらいですよね?

ミスがあることは確かに問題なのですが、現場の職員さんは、頑張ってくれていると思いますよ。

ライター森

すごい失礼ながら、「ユルい職場でいい加減に仕事をしてるからミスが起きるんだろうな」みたいなイメージを持ってました…

トップは「厚労省から出向してきたおエライさん」たち。組織力がない

ライター森

先ほど「働きにくい環境」であるとおっしゃっていましたが、他に働きにくさの原因となっていることはあるのでしょうか?

野村さん

組織内の風通しの悪さ」ですね。これは社会保険庁時代の「3層構造」というピラミッドを引きずっています。

ライター森

野村さん

かんたんにいえば、下には「現場の仕事」を担う年金事務所があって、その上に「管理の仕事」を行う本部組織が君臨しています。この両者の間の風通しが良くない

ライター森

なぜですか?

野村さん

本部組織の中核を占めている人の多くが厚労省から出向してきた人たちだからです。

数年でもとのお役所に戻るわけですから、他人事なんです。制度変更で現場の負担が増えるときも、書類で通達するだけで、何もフォローをしないようなことも多かったそうです。

ライター森

うーん、そういう会社、民間にも沢山ありそうな気がしますね…

野村さん

年金業務の複雑さを乗り越えていくには組織力が必要です。しかし、こんな状況では組織力なんて育ちませんよね。

若手官僚が改革してるけど…「お役所っぽいルールづくり」ではダメなんじゃ?

ライター森

問題が山積みに思えますが…今後、年金のミスは減るんでしょうか?

野村さん

若手官僚たちがこの組織構造を改善すべく、改革プロジェクトを立てました。

今ちょうど、現場での実践が進められているところです。これがそのプロジェクトの取り組みに関する資料です。(バサッ

ライター森

うわ、チェック項目が71項目もありますね

「管理職育成プログラムの導入」「マニュアル統合作業の実施」…。確かに頑張っている感じはしますけど…

野村さん

でも、しょせん「机上で決めたルール」という感じじゃないですか?(笑)

ライター森

そうですね…いかにも「お役所」という…

野村さん

こんな話があります。

コンビニで1万円札をくすねる店員がいて、本社は困っていた。

そこでどうするか。最初に考えられたのは「レジに1万円札が入るたびノートにメモさせる」。しかし、段々とメモするのを店員たちがサボり、最後に帳尻だけ合わせようとする…

結局ちゃんと効果があったのは、大声で「1万円入りまーす」と言わせる単純な方法だったんです。

年金機構が今やっているのは、「いちいちメモしろ」という面倒なルールづくりな気がしてなりません。

ライター森

うーん、やっぱりこれって、日本のいろいろな組織で起きていることな気がします。

野村さん

年金のミスが多発している原因は、日本の古い「組織のあり方」の問題でしょう。

年金のミスを減らすためには、マニュアルの作成などももちろん必要です。しかしまずは、管理職が現場に顔を出し「お疲れ様です」と現場をねぎらうだけでも、変わることがあると思いますよ。

ライター森

最初は「職員の問題でしょ」みたいに思ってたけど、自分たちにも関係する問題なわけですね…。考え方が変わりました。

働きにくい環境」は単にストレスがたまるという話だけではなく、業務ミスが多発する温床にもなってしまうという話のよう。

「親会社からの出向組がいて、職場の雰囲気が悪い」「無駄なルールが多くて、本末転倒になっている」…なんていうR25世代のビジネスマンは、今日から“仕事仲間への心遣い”を意識して働いてみては。

〈取材・文=森かおる(@orca_tweet1)/取材・編集=天野俊吉(@amanop)〉

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