

「自然体でいたほうが、テレビで長く生き残れる」
「キレイに枯れていきたい」マルチタレント・ふかわりょうの“力を抜いていく”キャリア論
新R25編集部
情報番組『Abema Prime(木曜日)』『5時に夢中!』のMCを務めるタレント・ふかわりょうさん。
2000年代は高学歴の“いじられ芸人”として認知されていましたが、昨今のふかわさんは情報番組の顔のほか、音楽活動、執筆・ラジオパーソナリティーなど軸足を変えてマルチに活躍中。
ふかわさんがここまで大きく変貌を遂げたのには、どんなきっかけが? そこにはボクらにも参考になる価値観があるのではないかと思い、本人に話を聞いてきました。
〈※聞き手:福田啄也(新R25編集部)〉
「これって本当の自分なのかな?」ガチガチに力が入っていた20代で覚えた違和感

福田
R25世代からすると、ふかわさんはバラエティ番組で活躍していた印象が強いと思います。
現在はMCやコメンテーターとして情報番組に出演されることが多いですが、その芸風の変化にはどんなきっかけがあったんでしょうか?

ふかわさん
ボクの芸歴なんて大したものではないですよ。
ただ強いて言うならば、これまでの芸能生活はずっと「力を抜いていく」期間でした。

福田
力を抜いていく期間? どういうことでしょう?

ふかわさん
自然体に近づくようにしているっていう意味です。
ボクは20歳でデビューしたのですが、下積み期間もなくテレビに出ていたので、かなり苦戦していました。

福田
そこで生まれたのが、当時のリアクション芸やいじられ芸ですね。

ふかわさん
ただ、それを続けていたら、「これって本当の自分なのかな?」という違和感が生まれたんですよ。
「テレビの中のふかわりょう」と「本来のふかわりょう」がどんどん乖離していきました。

福田
当時のふかわさんはどのような状態だったのでしょうか?

ふかわさん
ガチガチに力が入っていましたね。
テレビの中でどう動くかを一生懸命考えていて、とにかくがむしゃら。「本来の自分」との乖離に気づいても、どんどん離れていってしまいました。

福田
もどかしい…

ふかわさん
「このままじゃダメだ」と思ったのが30歳の時です。
もともと芸人という道を選んだのは、「死ぬまで向き合える仕事がしたい」という理由だったので、「今のままいくと、いつかパンクしてしまう。ずっとは続けられないんじゃないかな」って思いました。
その時、テレビにしがみつくのをやめたんです。
自然体でいたほうが、長くテレビに出ていられる気がした

福田
それがふかわさんにとってのターニングポイントだったんですね。

ふかわさん
そうだと思います。
20代はとにかく「テレビに出たい」という気持ちが強く、その気持ちを最優先に行動していました。そして、自分の力量が追い付かないまま、無理をしてしまっていたんだと思います。

福田
テレビにしがみつくのをやめる、というのは具体的にいうと?

ふかわさん
偉そうだと思われてしまうかもしれませんが、お仕事を選ぶこともありました。
でもそれは決して仕事を放棄するということではありません。力を抜いた姿で、またテレビに入ってやるという気持ちがありました。
むしろ逆説的に、しがみつかないほうが50~60歳の時もテレビの画面の中にいられるんじゃないかなって思ったんですよ。

福田
なるほど。そんな「力を抜いた存在」として憧れている人がいたりしたんですか?

ふかわさん
タモリさんや所ジョージさんですね。ふたりは全国ネットの番組に出ていても、まるで近所のコンビニに行くような自然体じゃないですか。
子どものころは、ビッグ3のゴルフを見て「なんでタモリさんだけ真面目にゴルフやってるんだろう」「なんでボケないんだろう」って思ってたんです。
だけど今は、そのスゴさがわかる。ただただ尊敬ですね。
「芸人らしくない」と言われ悩んだが、気づけば時代が変わってきた

福田
ふかわさんの「自然体」ってどんな感じなんですか?

ふかわさん
僕はどちらかというと、DJとか執筆活動とか、いくつかの世界を持っているほうが精神的に安定するタイプなんですよ。ラジオパーソナリティーもやってます。

福田
ROCKETMANとしての音楽活動や、東京新聞でのコラム執筆などをみると、芸人の片手間というよりは、どれも本業のように活躍されていますよね。

ふかわさん
「芸人らしくない」と思いました?

福田
いえいえ!今は芸人以外のお仕事をやっている方も多いですから。

ふかわさん
今はそうですね。でも、ボクが音楽活動を始めたときは、「なんで芸人なのにDJやってるの?」って言われる時代だったんですよ。
情報番組の仕事ではオチのないコメントをすることもあったので、「お前の仕事はなんなんだ」っていう声もありましたし。

福田
以前のインタビューでは「自分が何者かわからない」というのをコンプレックスに感じていたとお話されていましたね。

ふかわさん
ネガティブに捉えちゃっていた時期もありましたね。芸人としてこの世界に入ったので、「芸人らしくない」っていうのが存在の否定のように聞こえちゃったんです。
でも今は大谷選手の二刀流だったり、副業解禁だったり、多様化を求められる時代になりました。芸人だってひとつやふたつコンテンツを持っていないと、『アメトーーク!』には出られません。
時代の風向きが変わってきたんだと思っています。
バラバラの仕事のように見えて共通点があったり、掛け算が生まれていたりする

福田
今の時代はひとつのことに没頭するより、いろんなことをやりながらキャリアを形成するほうがいいと思いますか?

ふかわさん
専門的にひとつのことを極めるのがフィットする人もいれば、いろんな世界を持つことが栄養になる人もいると思いますよ。
どっちがいいかはその人次第だと思うんですけど、ボクは後者のほうが安定するタイプです。

福田
必要な能力も全然違いそうですし、切り替えが大変だったりしないでしょうか?

ふかわさん
たとえば、1時間のDJと1時間のMCは似ているところがあります。
向き合う対象がダンスフロアとお茶の間の違いなだけで、本質的にやろうとしていることは一緒だと思うんですよね。

福田
なるほど。バラバラの仕事のように見えて、どこか共通点があるですね。
それぞれの仕事が相乗効果を生むこともありますか?

ふかわさん
テレビの中のボクは番組を成立させるいちキャストなので、周囲を見て発言しなければなりません。
逆に、ラジオや執筆では「ふだん自分が何を考えているか」「どこにアンテナを張っているか」がすごく大事になるんですが、そこで抽出したことがテレビでぽろっと活きる瞬間があるんですよね。

福田
なるほど。ちょっと気の利いたコメントができたり。

ふかわさん
そう、その“ちょっと活きる感じ”が大事なんですよ。そこは相乗効果というか、掛け算になっているなと実感します。
「美しく枯れていきたい」ふかわりょうが考える人生の美学

ふかわさん
自然体というテーマだと、ボクはまだまだ力を抜いている途中なんですよね。

福田
えっ、そうなんですか?

ふかわさん
もっと力を抜けたらいいなって思ってますよ。
ボクは年を重ねていくうちに、周りをもっと照らしたいと思えるようになりました。
今後はテレビのいちスタッフのスタンスで仕事に取り組んでいきたいんですけど、そう思うと自然と力が抜けてくるんです。

福田
若い頃とは違う意識になってるんですね。

ふかわさん
ちょっと気が早いかもしれませんが、“キレイに枯れていきたい”なんてことを思ったりもしますね。

福田
枯れる?

ふかわさん
枯れるってネガティブなイメージではなくて、力を抜いていった先に待っている美しい現象だと思うんです。
力を抜いて、きれいに死んでいく。そんな生き方に憧れてます。

福田
もうそんな先のことまで意識されているんですか!?

ふかわさん
昔から先々のことをよく考えるんです。
もともと、80歳になっても向き合えて、経験がどんどん味となっていく仕事がしたいと思っていて、それが音楽とお笑いだったんです。

福田
それじゃあ43歳の今は、まだまだ折り返しくらいですね。

ふかわさん
ゆくゆくはテレビで何もしゃべらないキャラもいいなあって思います。1時間ずっとニコニコしているだけとか(笑)。

福田
ギャラ泥棒じゃないですか(笑)

ふかわさん
でも、晩年の永六輔さんのラジオなんか、何を言っているか分からない部分ができてもリスナーは喜んでるんですよね。
ボクもそういう人になりたいなって思います。

福田
なるほど…!ふかわさんの美学を聞いて、自らの人生や本当にやりたいことを見つめ直すR25世代も多いと思います。
今日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
おわりに
『AbemaPrime』収録前の楽屋で、畳に正座しながら、まさに自然体で話をしてくれたふかわさん。
「今の若い人たちに、ボクの考えなんて参考になりますかね?」
本人はそう危惧していたけど、自身が葛藤の末にたどり着いた現在の姿やその言葉には、ボクらがこれからの人生を充実させるヒントが詰まっていました。
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/取材協力=渡辺将基(@mw19830720)/撮影=森カズシゲ〉

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