ビジネスパーソンインタビュー
40万部超のロングセラー本に異議あり!
“宴会芸は死ぬ気でやれ”って古くない?『入社1年目の教科書』著者の社長にツッコんだ
新R25編集部
発売は2011年ながら息が長く評価され、発行部数は40万部を超えているロングセラーの『入社1年目の教科書』。新しい社員が入社するこの時期になると書店でもよく目にするので、手にとってみた。
本の中には「これだけは守ってほしい!」という3つの原則と50のルールが記載されています。たしかに、会社員として大切な心構えがたくさん詰まっているように思えますが…
「つまらない仕事はない」
「宴会芸は死ぬ気でやれ」
「新聞は2紙以上、紙で読め」
…って、ちょっと古くないですか?
2017年5月に刊行して異例のヒットとなった『多動力』(堀江貴文著)とは逆をいく主張のようにも見える。堀江さんの主張を支持している人が多い現代でも、『入社1年目の教科書』は通用するのか。
気になったので、『入社1年目の教科書』の著者であるライフネット生命保険株式会社の代表取締役社長・岩瀬大輔さんに話を聞いてきました!
編集部・葛上
朝早くからお時間をいただき、ありがとうございます。
今日は、岩瀬さんが書かれた『入社1年目の教科書』についていろいろとツッコませていただきたいと思っております。
岩瀬さん
はい。
柔らかい対応ながら圧がある
「頼まれたら必ずやりきる」!?
編集部・葛上
さっそくなのですが、「頼まれたら必ずやりきる」という原則から突っこませてください。
”ブラック企業”という言葉が飛び交う昨今、やり切れる以上のものを渡されてツラい人も多いのでは?
岩瀬さん
そもそも、これは上司が仕事をある程度しっかり依頼できている、という前提の話ですね。
そして、僕が言いたい「頼まれたら必ずやりきる」というのは、すっぽかさないということ。できないならできないと訴えればいいと思います。
編集部・葛上
無理してなんでもやれというわけではない、ということですね。
岩瀬さん
そうです。この原則の本質は、「仕事を頼む側の人に信頼される人材になろう」ということです。
「できません」と手をあげるのも信頼されるための手段になります。
編集部・葛上
なるほど。
岩瀬さん
仕事を頼む立場からすると、特に大事なのは“予測可能性”なんです。頼んだものが期日までに返ってくるのか、もし期日までにむずかしいのであれば早めに教えてほしいですよね。
つまり、信頼される人になるためには「予測可能性の高いやり方で仕事をしよう」ということです。
(これは強敵だな…)
岩瀬さん
めっちゃ顔見てきますね。
わざとですか? 挑発してますか(笑)?
冗談っぽく言われながらも焦りを隠せない
「つまらない仕事はない」!?
編集部・葛上
続いてのツッコミなのですが、「つまらない仕事はない」という原則も少し古く感じました。
たとえば堀江さんは、「経費精算を自分でやっているやつは出世しない」ともおっしゃっていますし。
岩瀬さん
「やらないでいいこと」をやりなさい、と言っているわけではないんですよ。だから堀江さんがおっしゃっていることに反論はしていなくて、他の人に任せられるのであれば任せればいいと思います。
でも、頼まれてやらざるを得ないこともありますよね。そういうことには自ら楽しさを見出したほうがいいのではないか、ということです。
編集部・葛上
とはいえ、すべてを楽しもうと思っても難しそうです。どうすればいいんでしょうか?
岩瀬さん
立場上、いろんな人を見ていますが、文句を言う人って何をやっても文句を言いますよね。一方で、文句を言わない人は何をやっても楽しそうにしています。
編集部・葛上
ということは、つまらない仕事を楽しむコツはないのでしょうか?
岩瀬さん
究極的にいえば、そうかもしれません。ただし、いまは楽しそうに仕事をしている人でも、新人の頃は一見すると楽しくないように見える仕事をしてきたということは認識しておくべきですね。
編集部・葛上
やはりそういうものなんでしょうか?
岩瀬さん
サイバーエージェントの藤田晋社長だって、新人の頃は営業で大量のアポ取りをしたりして、なんらかの苦労をされていたはずです。
その時でも「なんでこんなに断られなきゃいけないんだ、つまらない! 俺は企画をやりたいんだ!」などと文句はいわずに粛々とやっていたと思います。
大変な仕事であっても、どこか楽しみを見つけながらやっているような気がするんです。
編集部・葛上
なるほど…
岩瀬さん
思わずケンカ腰になってしまいそうです。大人げないですね(笑)。
岩瀬さん
視点を変えましょう。たとえば大学のテニスサークルに1年生が入ってきたとしますよね。
その新入生が「僕はグランド整備せずにスマッシュの練習だけしたいです」と言ってきたらどうですか?
編集部・葛上
それは…たしかに通用しないですね。
岩瀬さん
あれ…? 妙に聞き分けがいいですね。
僕が言いくるめた感じになってしまいましたが、記事になったときは全然違う雰囲気になっているんでしょうか(笑)。
いや、そのまま書きました
「コミュニケーションはメール『and』電話」!?
編集部・葛上
これはメールだけじゃなくて電話も使えという主張ですが、チャットも普及している今でも、電話でのコミュニケーションは必要なのでしょうか?
岩瀬さん
これはあくまでメタファ(比喩の一種)なんです。相手にとって一番快適なコミュニケーション手段を考えましょうということです。
(メタファ…)
岩瀬さん
たとえば、会社のエラい人にメールを送ったとします。ただ、受け手であるその人が毎日400通のメールを受け取っていたとしたら、読まれない可能性があります。
大事な連絡であれば、それが読まれているかどうかを確認したほうがいいですよね。そのために口頭で確認をするなどの方法が必要になります。
編集部・葛上
そういうことであれば、もれなく返事をくれる方ならメールでもいいということになりますね。
岩瀬さん
はい。この話に関連して、「遅刻の連絡はLINEじゃダメなんですか?」というテーマがよく議論になりますが、ツールとしてはまったく問題ないと思います。
ただ、会議に遅刻してしまいそうなときに上司へLINEをしたとしても、上司はスマホをデスクに置いて会議室で待っているかもしれません。
そこで、会社あるいは上司の携帯に電話をすれば、部署の人が対応してくれたり、着信音に気づいた人がスマホを上司へ届けてくれたりするかもしれないですよね。
そういう想像力を働かせましょう、ということをここではお伝えしたかったんです。
編集部・葛上
堀江さんの「電話は人の時間を奪っているから悪だ」という主張についてはどう思いますか?
岩瀬さん
正しいと思います。ただし状況によりますね。僕がそれほど電話がイヤではないのは、ほとんどかかってこないからです。
一方で電話を嫌う堀江さんの場合は、新聞記者やテレビ局の人のような“電話文化”
の方と関わることが多く、知らない人から電話がかかってくることが多いのだと思います。
編集部・葛上
なるほど。業界や立場によって違いがあると。
岩瀬さん
たとえば、いつもメールでしかやり取りしないような会社のエラい方から「いい仕事したね」とか、直接電話がかかってきたら嬉しくないですか?
編集部・葛上
それは嬉しいです。
岩瀬さん
結局のところ、相手が喜ぶコミュニケーション方法を選ぼうということです。
「新聞は2紙以上、紙で読め」!?
編集部・葛上
「新聞は2紙以上、紙で読め」という主張もありましたが、今の時代でも新聞を読むべきなのでしょうか?
岩瀬さん
これは紙かどうかにこだわりはなくて、自分が予期していない、キュレーションされたコンテンツを一覧性の高い形で読むのが大事だと思っています。
編集部・葛上
予期していない、というのはどういうことですか?
岩瀬さん
新聞は編集に命をかけているプロが優先順位をつけてニュースを掲載しているので、自分が探していない大事な情報にも、期せずして出会えることがあります。
「新しい発想は偶然の出会いから生まれる」といろんな方がおっしゃっていますよね。デジタルだとそういう出会いが生まれづらいと思います。
編集部・葛上
なぜデジタルでは偶然の出会いが少ないんでしょうか? 「SmartNews」などのニュースキュレーションアプリもありますが。
岩瀬さん
良くも悪くも、どんどん自分の興味・関心に最適化されていきますよね。気づかないうちに自分の読みたい話ばかりになってしまいます。
編集部・葛上
新聞を読むときも、結局は自分が読みたい部分だけに目を通しません?
岩瀬さん
まあ最終的にはそうなんですが、見出し等を一覧することでより幅広く目につきますから、予期せぬ情報に出会う可能性は高いと思います。
なかなか攻略できない
「目上の人を尊敬せよ」!?
編集部・葛上
あと「目上の人を尊敬せよ」というのも“年功序列感”というか、ちょっと古臭い印象を受けました。
岩瀬さん
これはあえてそう書いています。要するに、今はまだ尊敬できない人も尊敬できる努力をしようということです。
編集部・葛上
なぜそんなことをする必要が?
岩瀬さん
たとえば、上司とは長い時間付き合わなければなりませんよね。「こいつはバカだ」と罵倒しても仕方がないでしょう。
それよりも、上司のいいところを探して付き合ったほうがいいという考え方・処世術です。
編集部・葛上
上司のいいところを探す…コツはありますか?
岩瀬さん
嫌いだとか苦手だとか思ってしまう人のプライベートを想像してみることをおすすめします。
仕事場で見ている姿は嫌いでも、家に帰ったら奥さんがいたり、お子さんがいたりして子煩悩であったりするかもしれない。
そういう普段は見えない姿をイメージしたら、憎めない人だと思えません?
編集部・葛上
ああ、たしかに…!
いや、誰かのことを想像しているわけではありませんよ
岩瀬さん
そういえば、韓国の会社のコールセンターで似たような効果をうまく使っていると聞いたことがあります。
編集部・葛上
なにをしたんですか?
岩瀬さん
かかってきたクレームの電話の待ち受けメッセージを、担当者のご家族に吹き込んでもらったそうなんです。
「今から電話に出るのは私の大好きなママです」と娘が吹き込んでいたり、「これから対応させていただくのは私の大切な娘で、誠意を持って仕事をしています」というように。
このメッセージにしたら、苦情が8割くらい減ったらしいんですよ。
編集部・葛上
それはすごい手法。
岩瀬さん
相手を人間として見られるように工夫する。そうすれば以前より好意を持って接することができるかもしれませんね。
「宴会芸は死ぬ気でやれ」!?
編集部・葛上
でもさすがに「宴会芸は死ぬ気でやれ」というのは、今の時代では古くないですか?
岩瀬さん
これもメタファなんです。あくまで信頼を得るためのひとつの手段として挙げたまでです。
(またメタファだ…)
岩瀬さん
宴会芸とは、言ってみれば「みんなを喜ばせるための努力」です。たとえば結婚式で新郎新婦のために何かやってあげるというのも同じです。
軽視されがちなことにも本気で取り組むことで、信頼につながります。もしイヤなら、やらなくていいんです。ただその場合でも、ほかの形で努力をすると信頼につながると思います。
編集部・葛上
岩瀬さん自身もそういうことに本気で取り組むのでしょうか?
岩瀬さん
少し前に、ビズリーチ代表の南壮一郎さんの結婚式で、司会とスピーチとピアノ演奏をひとりでやりましたね(笑)。
編集部・葛上
それは大活躍ですね。
岩瀬さん
司会をしながら40枚以上のパワーポイントをめくったり、ピアノを弾いてからみんなでフラッシュモブをやったりして、とても喜んでもらえました。
準備は大変でしたけれど、喜んでもらえて嬉しかったです。
「苦手な人には惚れ力を発揮」!?
編集部・葛上
これが最後のツッコミです。「苦手な人も好きになれ」という主張がありましたが、本当にそういう人に時間を使うべきなのでしょうか?
岩瀬さん
…正直にお伝えします。これはですね、書いてから「自分もできてないな」と反省しています。
なのでこれは却下します。
ついに強敵の牙城を崩した
編集部・葛上
おお、却下!
岩瀬さん
この項目は、できれば割愛していただきたいです(汗)。
苦手な人は苦手なままで仕方ないと思います。すべてを正当化しようとするのはやめます。
編集部・葛上
堀江さんが『多動力』でおっしゃっている「おかしなヤツとは距離を取る」じゃないですけど、苦手な人とは距離をとったほうがいい、ということでしょうか?
岩瀬さん
そうですね。そういう人とはできる限り直接やりとりせずに済むように対処したいところですね。
編集部・葛上
ただ、“嫌い”という感情にはグラデーションがあると思っていて、ちょっと嫌いな人に対してはどうすればいいですか?
岩瀬さん
そういう人とは意外と仲良くなれるかもしれません。
昔の経験をお話すると、私も恥ずかしながらエゴサーチをしていた時期がありまして(笑)。
エゴサしていた過去を振り返る岩瀬さん
編集部・葛上
え、意外ですね。
岩瀬さん
自分に対する言及を眺めていたら、「岩瀬は教養がない」みたいな批判を実名で頻繁に書いている方がいたんです。
その方は弁護士でしたので、突然事務所にお電話して「ランチしませんか」と誘ってみたんです(笑)。今は一緒に落語を見に行くほど仲良くなりました。
編集部・葛上
自分のことを批判している人にあえて会いにいくって、すごい行動力ですね。
岩瀬さん
実はもともと、僕のことを好きでいてくれたようです。
しかし“理想の岩瀬像”とのギャップがもどかしくて、いろいろ厳しいこと、ときにはイヤミのようなことを言ってしまっていたみたいで。
編集部・葛上
なるほど。たしかキングコングの西野さんも似たようなことをおっしゃっていました。
岩瀬さん
一瞬「苦手だ…」と思っても、「気にしてくれているということは、自分のことを好きなのでは?」と解釈して、壁を越えると仲良くなれるパターンもあるんですよね。
もちろん相手にもよりますが。
編集部・葛上
今度、試してみます。ちなみに、ほかにもご自身で修正したいと思う主張があればお教えください。
岩瀬さん
特にありませんが、『入社1年目の教科書』は字面だけだと誤解されてしまうことがけっこうありました。
編集部・葛上
まさに今回の企画ですね(笑)。
岩瀬さん
はい。なので「真意はこういうことです」と補足したのが『入社1年目の教科書 ワークブック』です。
『入社1年目の教科書』全体を通して伝えたいメッセージは、「信頼される人材になりましょう」ということです。会社に限らず大学でも、人と関わるのであれば信頼されるのは大事ですよね。
信頼される人材とはどんな人なのか、自分で考えてみましょう。その理想像を自分なりにつくって、少しずつ近づいていきましょうということを書いています。ぜひ読んでみてください。
編集部・葛上
あわせて読者におすすめしたいと思います。今日は失礼な質問にも真摯にお答えいただき、ありがとうございました!
〈取材・文=葛上洋平(新R25編集部)/ 撮影=福田啄也(新R25編集部)〉
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