ビジネスパーソンインタビュー
“自然エネルギーへの全面転換”を目指す
小泉元首相が「原発ゼロ法案」を発表。でも、“原発ゼロ”ってどうやって実現するの?
新R25編集部
小泉純一郎氏、細川護煕氏、2人の元首相が顧問を務める「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(以下、原自連)」が1月10日、「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」を発表した。
2050年には原子力発電をなくすことを目標としているらしいけど…いまの日本で原発をゼロにして電力をまかなうことって可能なの?
日本の電力供給源の現状。枯渇リスクのある化石燃料からの脱却を目指し、政府は原発を再稼働
ロイター/アフロ
2015年に再稼働した川内原発
まず知っておくべきことは、現状、暮らしや経済に欠かせない電力はなにが供給源になっているかということ。
発電の種類には、石油、石炭、天然ガスといった地中から採掘される化石燃料を燃やす「火力発電」、ウラン燃料の核分裂を利用した「原子力発電」、太陽光・風力・水力・地熱などを利用した「自然エネルギー発電」があって、それらの構成比率は現在こんなかんじ。
「化石燃料」(赤字で「火力計」と示されている部分)の割合はずっと高い。化石燃料そのものが枯渇したり、産出国で紛争や自然災害が起こったりして輸入が難しくなった場合、エネルギー源が不足するってことだ。
だから日本政府は、“エネルギー自給率”を上げるために、とくに「原子力」の比率を高めようとしてきた。が…、2011年の福島原発事故を境に全国の原発が停止。2014年には「原発ゼロ」状態になった。
その後、「いかなる事情よりも安全性を全てに優先」(経済産業省資源エネルギー庁「我が国のエネルギー政策について」より)させつつ、徐々に原発を再稼働させはじめているというのが現状だ。
小泉元首相が主張する「原発ゼロ」プランとは? “あと30年で100%自然エネルギーに転換する”
Rodrigo Reyes Marin/アフロ
記者会見にのぞむ原自連の主要メンバー。左から顧問の細川護煕氏、会長の吉原毅氏、幹事長・事務局長の河合弘之氏、顧問の小泉純一郎氏
こうした動きに対し、「原発ゼロでもやっていける」と主張しているのが、冒頭でふれた「原自連」なのだ。
原自連は「運転されている原子力発電所は直ちに停止する」「運転を停止している原子力発電所は、今後一切稼働させない」「原子力発電所の新増設は認めない」など、徹底した「原発ゼロ」をうたっている。
では、どうやってその分のエネルギーをまかなうつもりなのか?というと、
http://genjiren.com/basiclaw.html太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等の自然エネルギーを最大限かつ可及的速やかに導入する。自然エネルギーの電力比率目標は、平成42年(2030年)までに50%以上、平成62年(2050年)までに100%とする。
という目標を掲げているのだ。
原発がなくて、電力をまかなえるのか? という疑問に対して小泉元首相は「原発ゼロ法案」の発表会見で、原発事故後に全国の原発が運転停止したことを指し、「日本は原発ゼロを宣言しなくても実質的に原発ゼロでやっていけるという証明になった。これがどうしてわからないんだ。不思議でしょうがない」と発言。原発再稼働を推進する政府を痛烈に批判している。
立憲民主党、共産党、社民党の「原発ゼロ」プランを比較!「自然エネルギー強化」は共通のポイント
小泉元首相は、「どの政党であれ、原発ゼロ・自然エネルギー推進に全力で取り組む姿勢があれば、我々は協力していきたい」と、政党を問わず協力していく意向を示している。
実際、原自連だけでなく「原発ゼロ」を目指そうとする政党は複数ある。では、彼らが掲げる“電力プラン”はどんなものなのか?
昨年の衆院選で原発ゼロ法の策定を公約にして躍進した立憲民主党は、2018年1月2日、「原発ゼロ基本法案」の骨子を発表した。
そのなかで同党は、非常時以外の原発の再稼働は認めず、「速やかに全ての商用発電用原子炉廃止」することを目標としている。
そのために、電気の需要量を「2030年までに10年の100分の30に相当する量以上を減少させる」こととあわせて、「30年までに1年間における電気の供給量に占める再生エネルギー電気の割合を4割以上とする」というプランがあるよう。
アフロ
原自連が連携、協力に期待を寄せる立憲民主党の動向に注目が集まる
キモは「電気の需要量減=節電」と、やはり「自然エネルギー発電」の強化だと考えているようだ。
また、共産党は
http://www.jcp.or.jp/web_policy/2017/10/2017-senkyo-seisaku.html#_s082030年までに電力の4割を再生可能エネルギーでまかなう目標をかかげ、省エネ・節電の徹底と、再生可能エネルギー大幅導入の計画を立てて、実行していきます。電力会社による再生エネルギー『買い取り拒否』をやめさせます。家庭や市民共同のとりくみに、適正な買い取り価格を保障します。乱開発にならないよう、環境保全や住民の健康に配慮しながら計画的に推進します。
という原発ゼロへの提言をおこなっている。
ソーラーパネルなどで太陽光発電した電気は、2012年から法律が整備され、電力会社に売れることになっていたものの「(天気に左右されるので)供給が不安定」などとして、電力会社側が拒否。これを「やめさせる」としているのが、共産党案のポイントだろう。
東日本大震災以前より「主要政党の中で唯一、脱原子力の立場を明確に」してきたという社民党は、
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/2017/commitment.htm再生可能エネルギーの割合を2050年までに100%とすることをめざしてすべての政策資源を投入します。再生可能エネルギーの拡大を、イノベーション、雇用創出や内需拡大、地域振興につなげます。洋上風力発電を推進します。水素をエネルギーとして日常生活や産業活動に幅広く利活用する『水素社会』の実現に向けた取り組みをすすめていきます。
などのプランを掲げているよう。「洋上風力発電」とは、海沿いの風力を発電に利用するもので、ヨーロッパでは導入が進んでいる。今後の伸びも期待されているようだ。
海外では大企業が「自然エネルギー」に巨額の投資。日本でも自然エネルギービジネスの支援は進むか?
Rodrigo Reyes Marin/アフロ
城南信用金庫の相談役でもある原自連の会長・吉原毅氏
原自連会長の吉原毅氏は記者会見で、「海外の例をみても、ゴールドマン・サックス社は26兆円、シティバンク社は16兆円というかたちで、自然エネルギーに対する巨額な資金が民間の金融機関からすでに投資されている。そういった動きは(日本でも)方針さえ決まれば民間から自然エネルギーの設備に必要な十数兆円が得られると思う」と語っている。
また、原自連の幹事長・河合弘之氏は、「原発が是か非かという議論は、国会の場で正式に討論をしたことがない。全部ブロックされてきた。民主党(与党)のときもできなかった。まずは国民的議論をすることが大事。国会で真正面から討論することで、この問題に対する国民の意識を覚醒させる、そのことが重要」とも発言。
たしかに、そもそも原発を稼働すべきかどうか、というオフィシャルな議論はあまりなく、「再稼働ありき」で政府の方針が決められてきた印象もある。
もちろん、具体的に実現を目指すとなれば、いくつものハードルが待ち構えていることは間違いないだろう(参考記事)。まずは新しいエネルギー政策への第一歩として、国会で「原発ゼロ」が議論されることになるのか、今後の動向に注目したい!
〈取材・文=新R25編集部〉
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