ビジネスパーソンインタビュー
「絶対ここで優勝するシナリオだと思ってた」
M-1で残した涙と爪痕。「1年で300ネタは作る」ジャルジャルが語った苦悩と希望
新R25編集部
「僕は一番おもしろかった」
とろサーモンがラストイヤーで優勝を掴んだ「M-1グランプリ2017」。しかし、あの松本人志がもっとも高く評価したのは6位に終わったジャルジャルだった。
感動すら覚える圧倒的なオリジナリティと完成度。放送終了後すぐに彼らの漫才は大きな話題となり、ネタのモチーフとなった「ピンポンパンゲーム」はYouTubeなどでもマネをする人が続出。まさに2017年の「M-1」はジャルジャル抜きでは語れない大会となった。
新R25では、そんな「M-1」の熱が冷めやらない2017年12月某日、ルミネの出番の合間を縫ってふたりに独占インタビューを敢行。
“尖っている”と言われることも多いふたりだが、出番終わりに声をかけると、廊下でいきなりパンツ一丁になって急いで着替えてくれた福徳さん。その姿に若干肩透かしを食らったような状態からインタビューはスタートした。
※聞き手:渡辺将基(新R25編集長)
「ネタが終わってから移動中のバスの中でも、ずっと泣きそうだった」
左=後藤淳平(ごとうじゅんぺい)、右=福徳秀介(ふくとくしゅうすけ)
渡辺(新R25編集長)
ふたりとも、テレビで見る印象よりだいぶ背が高くてビックリしました(※1)。
(※1)吉本興業のプロフィールによると、後藤さんが177cm、福徳さんが175cm
後藤
よく言われます。顔がでかいから(テレビでは)小さく見えるんですよ。
渡辺
いきなりすみません(笑)。
ところで、先日の「M-1」のネタは笑いを通り越して感動しました。そしてやっぱり、福徳さんの涙がすごく印象的で。
福徳
正直言って今回のネタができたときに、これは(優勝が)見えたなと思ったんです。誰も傷つけてない、本当にいいネタができたと。いざ営業でやってみても、子どもでもおじいちゃんでも笑う。
いつもならスベってるような極悪の環境でも、このネタならウケたんですよ。これはやっぱりすごいんだと思って。だから、本番でも自信満々でやって、手応えもあって。
渡辺
会場の反応もすごい良かったですよね。
福徳
こっちもテンション上がっているせいか、今田(耕司)さんの目もキラキラしているように見えたんですよ。あ、やっぱり良かったんだと。
でもいざ採点になったら「あれ?」って思うくらいどんどん低い点が出てきて、「うわ、泣きそう」と思って。子どもが上手に描けたと思った絵をお母さんに見せたら、「いや、全然うまないよ」って言われている感覚ですよ。
「泣きそう、泣きそう、やべぇ。でも絶対泣いたらダメだ」と思って、必死に耐えてました。
渡辺
テレビからもそれは伝わってきました…。ちなみに、後藤さんはどういう心境だったんですか?
後藤
僕はいつも最悪の状況を想定するタイプなので、こうなったときはこう(リアクション)しようと思ってましたね。
もちろん期待はしてたんですけど、一応点数が低かったときの想像もしてました。
渡辺
福徳さんはそんな後藤さんを見て、「お前ようボケれんな」と涙ぐみながらツッコんでましたが…
福徳
あれは本当に感謝です。(ボケてくれて)ありがとうございます、っていう。
渡辺
後藤さんは、福徳さんが涙ぐんでいるのを見てどう思われたんでしょうか?
後藤
スポーツマンだなと。「わかる、わかるよ」っていう気持ちもありましたけど。
渡辺
でも結局、福徳さんはそのあとの「GYAO!」の生配信番組で号泣してしまうという…。
福徳
ネタ終わったあとも、ずっと密着でインタビューされてたんです。そのときもずっと泣きそうで、これはやばいなと思ってて。
バスで移動してるときも、何かしゃべろうとしたら涙がこぼれそうになるんです。やばいやばい、これはもうしゃべらないでおこうと思って、ずっとひとりでいました。
そのまま「GYAO!」の生放送が始まったんですけど、みんなガヤで突っ込んだりするシーンとかあるじゃないですか。そこで僕も一緒に行くんですけど、声を出したらまた「あ、泣きそうや」ってなってしまって。
そして自分らが話す番になったら案の定、「泣きそう泣きそう、あ、もう泣く」って。気づいたら、もう…。
渡辺
福徳さんの涙をはじめて見たということで、ネットニュースでも話題になってました。
福徳
今回は本当に自信があったんです。後藤は悪い結果になることも想定してたって言ってますけど、僕はもうその想定をする必要はないと、これはいけると思ってましたから。
芸歴14年いろんな経験をしてきましたけど、これまでのデータからしてもこのネタは完璧やと。
レギュラー番組が次々と終了…「絶対ここで優勝するシナリオだと思ってた」
渡辺
「めちゃイケ」はじめ、2017年はたてつづけにレギュラー番組の終了が発表されるという状況がありましたが、そういう流れもあってやはり今回の「M-1」にかける気持ちは大きかったんでしょうか?
後藤
もちろん毎年全力で行ってるんですけど、逆にこうやって一気にレギュラーがなくなることで、「今年は優勝するっていう人生のシナリオなんだ」と思ってたんですよ。
渡辺
たしかに、そうなったら完璧なストーリーですね。
後藤
2015年の「M-1」のときに、ちょうど家を建てようかなと思って土地を探していて。そのときも「これは家を買って優勝するってシナリオだ」と思って、決勝に残った段階で手付金を払ったんです。でも結局ダメで(※2)。
それで今年、(買った土地の上に)ローン組んで家建てたらレギュラーが終わっていったんです。ただ、そこでまた決勝に残ったんで、今回こそは絶対ここで優勝する流れなんだと。
これ以上のタイミングなんてあるわけないと思ったんですけど…人生うまいこといかないもんですね。
(※2)ジャルジャルは2015年の「M-1」において、決勝のファーストラウンドで史上最高得点を叩き出しながら、最終決戦で3位となり優勝を逃している。
今までにないくらいの反響。「昔のネタも見直されてるのがうれしい」
渡辺
でも今回、反響はかなり大きいんじゃないですか?
福徳
正直、今までにないぐらいですね。街を歩いてるとけっこう声かけてもらったり。
渡辺
芸人さんもみんな絶賛してますよね。松本(人志)さん、岡村(隆史)さん、オードリーさん…あと、藤井健太郎さん(「水曜日のダウンタウン」プロデューサー)も。
後藤
結構言ってくださいましたね。ありがたいです。
渡辺
これから何か変わりそうな予感はありますか?
福徳
経験上、こういう盛り上がりってすぐ消えるんです。本当ウソみたいに。
それこそ、1カ月もしたらもう(ブーム)終わるんじゃないかなという…。
渡辺
いや、今回はわからないんじゃないですか?
福徳
でもうれしいのは、今回おもしろいと思ってくれた人が「実は昔のあのネタもおもしろい」って言ってくれてることですね。
渡辺
僕も過去のコント見はじめたら止まらなくなりました。(YouTube)公式チャンネルの 『めっちゃふざける奴』とか死ぬほど笑いましたね。
「わかる人だけわかればいい」という気持ちはゼロ。賞レースは皆勤賞
渡辺
ジャルジャルさんって、これまでなぜか「アンチが多い」と言われることが多かったですよね。
僕の勝手な解釈だと、独創的なネタと飄々(ひょうひょう)とした雰囲気、あとはやっぱりあの「バスケットボール事件(※3)」が影響してるのかなって思っているんですけど、おふたりはどう分析しているんですか?
(※3)2011年の「FNS27時間テレビ」のコーナー内で、ナインティナインの岡村さんの頭に何度もバスケットボールをぶつけた福徳さんに対し、(台本通りの演出であったにも関わらず)「大人のイジメ」だと視聴者から批判が殺到してしまった事件。
後藤
そうですね。僕らには人懐っこさがあんまりないとか、ほかにもいろんな要素があるかもしれませんけど、全然そんなつもりはなくて。
ただ、こんなに何年も言われつづけるってことは、ほかの芸人さんと比べたら尖ってるということなんだと、もう納得するようにしてます(笑)。
笑いに対してはだいぶ純粋だと思うんですけどね…。
福徳
ほかの芸人さんと合同コントをやるときは構成作家が台本を書くんですけど、一回それがむちゃくちゃだったことがあって、みんなで(台本)変えたんですよ。
そのことが一人歩きしたのか、ある日スタッフから「ジャルジャルって、作家が書いた台本ではやらないらしいね」って言われて。
実際そんなことないんですけど、「でも、おもしろくなかったらやらないでしょ?」と言うわけです。いや、それは当たり前だろと思ったんですけど、そのときに「あれ? これって尖りなのか?」と自分でもわからなくなりましたね。
後藤
純粋に自分たちがおもしろいと思うことをやりたいだけなので、それはそんなに悪いことなのかなぁとは思いますね。
福徳
おもしろくないと思いながらやるのもお客さんに失礼じゃないですか。
後藤
ただ、これはけっこう悩ましい問題で。最近はあんまり斜に構えてると思われたくないとか考えずに、本当に純粋な気持ちを忘れずにやるのが一番だろうなと思ってます。
渡辺
でもその(尖った)印象が、今回の福徳さんの涙で一気にひっくり返ったんだと思います。
福徳
ただの悲し泣きなんですけどね(笑)。
渡辺
でも、真摯にお笑いに向き合っている感じが伝わってきたというか。
「わかるヤツだけわかればいい」「審査員の点数なんてどうでもいい」と思ってたら泣かないじゃないですか。
福徳
それはまったくないです。
後藤
それはそうですね。
福徳
僕ら、その(「わかるヤツだけわかればいい」という)スタンスは昔から一切持ってないです。高校のときからそうでした。
渡辺
そもそも、斜に構えてたら賞レースには出ないですよね。
福徳
僕らキングオブコントとM-1は全部出てますから。1回も休んでません。
渡辺
「めちゃイケ」レギュラーの芸人さんでもここまで意欲的に賞レースに出るというのは、ちょっと意外かもしれません。
福徳
それ、たまに言われるんですよ。でも僕ら的にはゼロです、その発想は。
後藤
まだ何も結果として残してないですから。
作家なし、台本なし、説明なし。ふたりだけで年間300ネタを量産
渡辺
ネタ作りに関しても話を聞きたいです。おふたりは作家を入れないんですよね?
後藤
そうですね。僕らのネタはふたりだけで作ってます。
渡辺
どういう流れでネタを作っていくんですか?
後藤
漫才はきっちり話し合いながら作っていく感じなんですけど、コントはとりあえず即興で思いついたことからはじめます。
それがうまいこと流れていったら、だんだんと形にしていくという感じですね。
渡辺
いきなりどちらかがボケてツッコんで…とやり合う感じで?
後藤
そうです。で、なんとなくできたらタイトルだけメモします。
渡辺
そこから詰めていくのはどうするんですか?
福徳
それも別に話し合うわけじゃなく、何回かやっていくうちに自然とできていきますね。
渡辺
こういうネタの作り方は普通なんですか?
福徳
いや、だいぶ珍しいほうだと思います。台本作らないとか、お互い説明せずに作るとか。
渡辺
台本作らないで、ネタを覚えられるものなんですね。
後藤
僕は逆に、書いて覚えようとしても全然覚えられないです。自分らでやり合いながら作っていくほうが忘れないですね、細かいネタであっても。
覚えることに関しては全然苦じゃありません。
渡辺
でも、ふたりで絡みながらネタを作るとなると、ガッツリ時間を確保しないといけないですよね?
福徳
そうですね。今日一日ネタ作りとなったら、普通に6〜7時間ぐらいずっとふたりで部屋にいます。
渡辺
ストイックですね…。
ちなみに、ネタのベースを考えるのはどちらなんでしょうか?
福徳
子作りで「お父さんとお母さんどっちが僕を作ったの?」と言われても、どっちでもないじゃないですか。
それと同じで、全部ふたりで絡み合ってできたネタなんです、本当に。
渡辺
なるほど。
福徳
高校のとき、休み時間にいつも保健室でアドリブのコントやって遊んでたんです。保健の先生とか、保健室に来た生徒がそれを見て笑ってくれたりして。
それを今でもやってる感じですね。
渡辺
新しいネタはどれくらいの頻度で仕込むんでしょうか?
福徳
僕らがコント作るのは、基本的に単独ライブ前です。その2カ月前ぐらいから、空いてる日はほぼ毎日集まってガーッと案を出して、だいたい120個ぐらいネタが出て。そこから10個ぐらいに絞って、それを単独ライブでおろすんです。
毎回のライブでそれぐらいネタを出すので、ストックはめちゃくちゃありますね。
渡辺
そういう、集中してネタを出す機会は年に何回ぐらいあるんですか?
福徳
2回ぐらいです。
渡辺
じゃあ、年間どれぐらいネタを作っているかというと…?
福徳
300ぐらいは行ってると思いますよ。
渡辺
300! それはすごい数ですね…。
シンプルな素材を決めて、その“ひとつ奥”を探る。以心伝心のネタ作り
渡辺
あと、気になっているのは独創的なアイデアを生む発想法です。ちなみに、おふたりは自分たちのネタの特徴をどう捉えてるんですか?
福徳
僕らはベタだと思ってますね。
後藤
シンプルというか、素材はこれ!というのをドンと見せるみたいなネタが多いかもしれないです。
渡辺
たしかにそうですね。
しかし、どうやったらあんなネタを思いつくのかなと…。
福徳
僕らは身近な現象をヒントにしてることが多いですかね。
たとえば今もこの狭い部屋に無理やり4人も入って、カメラマンさんめっちゃ動きづらそうだなとか、それだけでちょっとおもしろいじゃないですか。
渡辺
なるほど…!
ちなみに、僕もふだん仕事でアイデアを出さなきゃいけない機会が多いんですけど、自分がおもしろいと思っても、「これ、たぶん誰にも理解されないだろうな」と思って言えないことがけっこうありまして…。
福徳
それでいうと、自分の脳みそのなかってなかなか人に伝えられないじゃないですか。でも僕らは高校のころからずっと一緒にいたから、脳が一緒なんですよ。
後藤
確かにこのふたりというのは大きいです。いつもやってるようなネタをひとりで思いついて、大勢の前で説明するのはちょっと無理かもしれないですね。
渡辺
突飛なことでも躊躇なく提案できる関係性ということでしょうか?
福徳
突飛だとも思ってないというか、ふつうに「これイイじゃん」という感覚が近いんです。
後藤
おもしろいと思うポイントがほぼ一緒なので、話は早いですね。「なるほど、そういうことね」というのはお互いすぐわかります。
渡辺
まさに以心伝心ですね。うらやましいです。
ほかにもネタ作りの際に意識してることはありますか?
福徳
アイデアを思いついたうえで、「そのもうひとつ奥を見つける」みたいなのはありますね。
「もう1個奥行け、もう1個奥行け」って思いながら、アドリブでお互い探り合います。「こんなん思いついたけどどう?」とかも言わないですね。
たまに奥行こうとしすぎて、気いついたら1時間ぐらい経ってるときもあります(笑)。
渡辺
それがふたりのオリジナリティになってるんでしょうね。シンプルな素材を見つけて、それを掘り下げていくというやり方が。
M-1で見えた道筋。「やっぱり自分たちのお笑い番組を絶対にやりたい」
渡辺
「M-1」の出場資格は“結成15年以内”ですから、次回が最後ですね。いつぐらいから準備していく予定ですか?
福徳
もう始めないといけないですね。もしかしたら、昔のネタをテコ入れするパターンもあるかもしれませんけど。
渡辺
ただ、和牛さんが2大会連続で2位ときて、今回これだけ話題をつくったジャルジャルさんがラストイヤーで、2018年は一体どうなるんだろうって思いますね。
ドラマ性を考えると、2組とも優勝しなきゃいけない流れに思えます。
福徳
和牛はあと2年あるんです。だから本人たちにも、「俺らは次が最後や、頼むわ」って話してます(笑)。
後藤
「キングオブコント」に関しては、もう7年も決勝に行ってないですからね。2010年が最後です。
福徳
むしろ僕らコントメインでずっとやってきたのに、コント大会の決勝に7年出られていないという…。これはなかなかキツイですね。本当に(決勝)行きたいです。
渡辺
最後に、賞レース以外でも今後の目標や野望があれば教えていただきたいです。
後藤
今回の「M-1」で、僕らがこっちに行ったらいいんじゃないかなという道筋ははっきり見えたような気はします。
やっぱり自分たちのコント番組、お笑い番組は絶対やりたいなって思いますね。
福徳
詳細はまだ言えないんですが、もうすぐホームページもリニューアルする予定なので、ぜひチェックしてもらえたらうれしいです。
渡辺
2018年の活躍も楽しみにしております。今日はありがとうございました!
〈取材・文=渡辺将基(新R25編集長)/撮影=長谷英史〉
【ジャルジャル プロフィール】
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年4月にコンビ結成。
後藤淳平(ごとうじゅんぺい)
生年月日:1984年3月20日
出身地:大阪府
福徳秀介(ふくとくしゅうすけ)
生年月日:1983年10月5日
出身地:兵庫県
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