ビジネスパーソンインタビュー

人材育成の"あと一歩"、どう乗り越えればいい?

人材育成の本質は“脳を変える”こと。人材開発オタク・李英俊が伝授する「人を一気に成長させる本番環境のつくりかた」

新R25編集部

2024/08/30

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複雑なはずのビジパの悩みを、単純化していた」 「本質的じゃない悩みをでっちあげていた」という反省のうえ、「個人のリアルな悩みの言語化」を新方針としたインタビューを開始した新R25編集部。


“ビジパの悩みインサイト”企画 第4回は、新R25編集長の渡辺が人材育成のちょっとこじらせた(?)悩みを打ち明けました。

渡辺の仕事の悩みは、人材育成の“ラストワンマイル”

渡辺

自分の仕事の悩みは「人材育成」なんだけど…


“クリエイティブ領域で市場競争力があるモノづくりをしたい”と思ったときに、ラストワンマイル”の教育が本当に難しくて

天野

“ラストワンマイル”ってどういうことですか?

渡辺

70〜80点の仕事のクオリティを上げるために必要な、残り20〜30点のこと


70〜80点って聞くと「じゃあもうだいたい合格ですね」って思うかもしれないけど、残り20〜30点こそが競争力になると思ってるので。“標準化から先”を教える難易度が高いんだよね。

天野

あー、なるほど。

渡辺

自分もなるべく指摘内容を抽象化して、転用可能な形で伝えようとしてるんだけど、なかなか変わらないというか、“のれんに腕押し”状態になることも多くて…

天野

わかります。

渡辺

ただ、逆にずーっと変わらなかった人が、ふと気づくとすごく成長してることもあって。


人を成長させるステップが、まだ自分のなかで体系化できていない気がする。


どういうステップなら“アウトプットのラストワンマイル”を教育できるのか、人材育成の専門家に相談してきます。

“ラストワンマイル”を埋めるには、「脳を変えること」が必要

渡辺

はじめまして。「北欧、暮らしの道具店」の青木社長のFacebook投稿で李さんのYouTubeを知りまして。

Embedly

渡辺

人材開発や組織開発についてめちゃくちゃ本質的なことをお話される方だなと、チーム内でも話題になってました。

李さん

ありがとうございます。

【李英俊(り・よんじゅん)】マインドセット株式会社代表取締役。外資系コンサルティングファームで戦略コンサルタントとしてキャリアを開始し、インキュベーター企業でビジネスプロデューサー兼人材開発責任者を歴任。現在はトップ人材の指導者として、メンタリングセッション・リーダーシップ開発・組織エンゲージメントに圧倒的な強みを持つ。ビジネス領域に留まらず、プロアスリート・運動指導者たちへの身体開発・操作能力向上の指導を担当し、彼らのパフォーマンスアップに貢献している

渡辺

今日は李さんに、僕の人材育成の悩み相談に乗っていただきたいです。

李さん

ぜひぜひ。

渡辺

人材育成ってマネージャーやトレーナーは誰もが悩むテーマだと思うんですけど、僕の場合だと“最後の最後”を教えきれなかったり、任せきれなかったりすることが課題で。

特に自分は、自分自身のこだわりや全能感が強いタイプだと自覚してるんです。

李さん

わかります。実は僕も同じタイプなんで(笑)。

渡辺

そうなんですか!? それであればなおさら、この課題を突破するヒントをいただきたいです。

李さん

結論をいうと、“脳みそを揺らす”アプローチが必要ですね。


それをやらない限りは、こっちがいくら言っても言葉が相手に“入らない”。成果を出すためにそれが一番大事なことだと、脳が認識していないんです。

渡辺

あぁ…たしかに。字面上では理解しているように見えて、本当の意味で体得できていない。それが根本の課題な気がします。

李さん

これを解決するために、脳が重要だと判断することをズラす必要があるんです。

たとえば、自分に子どもが生まれたら、街を歩いているときに自然と子どもが目に入るようになりますよね

? もしベンツを買ったら、「なんかこの辺ベンツだらけだな」って、勝手に脳がとらえるようになる

渡辺

あー、ありますね。

李さん

これを「Reticular Activating System」って言うんですけど、これを刺激して脳を変えるために必要なのは、“努力”じゃないんです。脳にコストを払わせれば終わり

Reticular Activating System(RAS)とは  … 「網様体賦活系」と呼ばれる脳の機能。目の前に起こるさまざまな現実のどれを認識してどれを認識しないかを振り分けるフィルターのようなもの

渡辺

“脳にコストを払わせる”というのは?

李さん

責任を負わせる、身銭を切らせる、恥をかかせるなど、何かしらのリスクをべットさせるということですね。


こういう状況をつくることで、脳に「現状を維持することが合理性に欠ける」と思わせるわけです。

渡辺

なるほど… 「脳を変える」ことが人材育成の本質なんですね。

そのために、我々が具体的にすべきことは何でしょうか?

李さん

「本番環境」を用意することですね。

渡辺

本番環境?

李さん

サッカーで言うなら、育成したい選手を負けが確定した試合のアディショナルタイムに出すことってあるじゃないですか。会場の雰囲気を体感させるために。あれも一種の「本番環境」ですね。


人材育成の“ラストワンマイル”を埋めるには、この「本番環境」が必要です

渡辺

なるほど。


管理側が組織としての大きなリスクを負わないなかで、うまくその本番環境をつくることが必要なんですかね?

李さん

その通りです。

人材育成のための本番環境構築術①「リアルタイム議事録」

渡辺

李さんが教育の現場でどのように「本番環境」をつくっているのか、具体的な方法を聞いてもいいですか?

李さん

新人なら、議事録から始めるのがおすすめですね。「リアルタイム議事録」

渡辺

リアルタイム議事録?

李さん

議事録って、会議中はメモにとどめておいて、あとで整形する人が多いですよね。

渡辺

そうですね。

李さん

そうじゃなくて、「リアルタイム議事録」は会議中にみんなが喋った内容の議事録を打ち込んでいるメモを直接プロジェクターに映すんです。最後はその場で全員の承認をとって、関係者に送信してもらいます。

李さん

これもひとつの「本番環境」。自分が書いているものが経営陣にずっと見られてますから。

渡辺

ほぉ〜、なるほど!

李さん

これをやってると話のどこを抽象化して、どこを要約すべきかの力が鍛えられていって、結果として会議のファシリテーションができるようになります。議事録を取らせるだけで、どんどん人材が育つんです

渡辺

しかも、社内の議事録作成なら大きなリスクはないですもんね。

だんだん「本番環境」の解像度が上がってきました。

人材育成のための本番環境構築術②「教育担当に任命」

李さん

結局、「失敗したら恥をかくかもしれない」という状況をいかにつくるかなんです。

以前、オフィスが汚くて社員に「ちゃんと整理整頓しなさい」って言ったことがあって。でも、みんな「忙しいから」って言ってなかなか掃除をしなかった。

だから、オフィスでテレビ番組の取材を受けることにしたんです。 

いざ収録になったら、みんな服装もちゃんとして、オフィスもキレイになってた(笑)。これが本番ってことですね。

渡辺

わかりやすい(笑)。

李さん

ほかにも、ラストワンマイルを教育したい人材に、アシスタントとしてインターン生や大学生をつけてあげれば、キラキラしたところを見せたくて頑張ったりするし。

渡辺

よく「人に教える立場になったら成長する」って言いますよね。

李さん

そうですね。しかも「オートクライン」と言って、自分が発言したことを自分の耳で聞くとより気づきが生まれるという効果もあるんです。

「オートクライン効果」とは … 自分が話した言葉を自分で聞くことによって、自分の潜在的な考えに気づくこと

渡辺

へぇ〜! 本番環境って、自分が直接指導する以外にもつくる方法があるんですね。

李さん

全然ありますね。

人材育成のための本番環境構築術③「“いきなり本番”ドッキリ」

渡辺

せっかくなのでもう一個くらい、実践で使えそうな本番環境構築のテクニックを教えていただきたいです(笑)。

李さん

そうですね…


たとえば、僕がメインのプレゼンに後輩をアシスタント的に同行させるとするじゃないですか。それを直前でいきなりドタキャンして、後輩だけで行かせるっていう(笑)

渡辺

「急に体調悪くなったから」みたいな?(笑)

李さん

そうです(笑)。これ、僕は広告代理店時代にめちゃくちゃやってましたね。

「ウチのメンバーを育てたいから」とクライアントも巻き込んで、自分は近くの喫茶店で待ってることもありました。

渡辺

ほぼドッキリですね(笑)。

李さん

でもこれ、本当に伸びますよ。一気に80点から100点になります。

渡辺

急に訪れた圧倒的な「本番」ですもんね。

でもそればっかりやってると、「李さんまた直前でドタキャンするだろうな」って思われません?

李さん

バレてたら、(後輩の出番をつくらずに)自分で全部プレゼンします(笑)。そうすると、「次自分にやらせてください!」って言ってきますから。めっちゃ自分ごと化します。

渡辺

想定内にはさせないわけですね(笑)。でも、「自分がやるかもしれない」って思ってプレゼンに臨んでたら、それはそれで「本番環境」になってるのか…

李さん

はい。こういう無茶振りこそがリーダーシップ開発なんで。

うまく恥をかくことができる環境をいかに用意するかがポイントです。

フィードバックをするときに重要なのは、「出口管理」ではなく「入口管理」

李さん

僕が実践する教育ステップだと、こうやって本番環境をつくりながら、育成対象のメンバーが成果をコントロールできる範囲をキッチリ明示します。「まずはここだけ100点を出せ」と。

そこから徐々に任せる範囲を広げていく感じですね。

渡辺

そのときは、やっぱり「口を出さずに最後までやらせる」のがいいんでしょうか? 僕はそれがどうしても難しくて…

李さん

まだ能力が低い人や経験が浅い人だと、いきなり任せるのは難しいですよね。そういうときは、「出口管理」じゃなくて「入口管理」をすることが大事です。

渡辺

入口管理?

李さん

「この仕事は何を、どの順番で、どのようにやって成果を出すのか」という戦略をプレゼンテーションさせるんです。それに対して丁寧にフィードバックして、スケルトン(骨子)がOKになったらGOを出す。


逆に、最後のアウトプットだけを見て「これは手を抜きすぎ」って指摘するのは「出口管理」です。

渡辺

あー、なるほど。

李さん

結局、アウトプットがイマイチだったり、こだわりがないように見えるのは、その過程のどこかに問題があるからじゃないですか。

渡辺

たしかに、思考の過程が表出してるのが最終的な成果物ですよね。

李さん

そうです。だから、教育する側は自分のスタンスとの差分をチェックして、思考過程そのものを変えないといけないわけで。

出たものだけを見てフィードバックをしても意味がないんです。

渡辺

たしかに… しかも、期日ギリギリになると思考過程を辿ってフィードバックする余裕もないですもんね。「時間がないから俺が直す!」とかやっちゃってますね。

李さん

「出口管理」は品質管理としてもダメだし、教育としてもダメなんですよね。

渡辺

考えてみれば、こちらも丁寧に教育やフィードバックをする余裕があるのは、仕事の初期段階(入口)ですね。

李さん

そうですね。

僕も入口管理ができてないときは、プレゼン前日に徹夜して部下の提案書をつくり直すみたいなことを散々してましたから(笑)。

【まとめ】人を一気に成長させる人材育成の3ステップ

渡辺

いや〜、今日は今の自分の悩みに対してドンズバな回答をいただけました。

最後に改めて、人材育成の理想的なステップを整理してもいいですか?

李さん

まとめると、こんな感じですかね。

まとめ

1.まずはその人が主体性を持って自分の仕事の成果をコントロールできる領域をつくる

2.次に、成果を出すための戦略や計画を仕事の“入口”でプレゼンテーションさせて、ズレがあればフィードバックする

3.プレッシャーのかかる「本番環境」を与えて、そこでアウトプットをしてもらう

渡辺

カンペキに整理されました。ありがとうございます! すぐに実践できることがありそうです。

ぜひ今後もこのコーナーで、定期的にお悩み相談させてください(笑)。

李さん

僕でよければぜひ!

李さんのYouTubeチャンネル「Mindset Coaching Academy」はこちら!

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