ビジネスパーソンインタビュー

「ダイバーシティの効果」を経営学の観点からスッキリ理解

「同質性の高いチームのほうが、成果出ませんか?」多様性にまつわるモヤモヤを経営学者・入山章栄先生に相談してきた

新R25編集部

2024/09/24

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「複雑なビジネスパーソンの悩みを、単純化して取材していた」「本質的じゃない悩みをでっちあげていた」

という反省のうえ、個人のリアルな悩みにひもづいた取材を改めてしていくことを方針とした新R25編集部。

“ビジパの悩みインサイト”企画、今回は編集長の渡辺が「多様性にまつわるモヤモヤ」を打ち明けます。

「仕事をするうえで、多様性って常に大事なんだろうか」

渡辺

「多様性」は最近の自分のホットトピックなんだけど…

正直、自分は仕事をする上で、同質性の高いコミュニティで働きたいと思ってるんだよね。

天野

似たような人がいる環境で?

渡辺

まぁ…そうだね。特に気になるのは価値観のズレなんだけど。

たとえば、「必ず定時で帰りたいし、就業後は会社の人と飲みに行きたくない」という価値観の人と、「寝る間も惜しんで働きたいし、仕事終わったら会社のメンバーで飲みに行きたい」という価値観の人が同じチームの中に共存してたら、正直ちょっとやりにくいじゃん。

天野

そうですね…

渡辺

多様性に配慮しすぎると、どんどん窮屈になっていくというか。何も言えなくなっていく。

天野

僕も男子校ノリが好きですけど、普段は出さないようにしてます。

渡辺

Xでも、政治思想が違う人たちっていつまでもケンカしてるじゃん。混ぜてもいいことがない。

だったら、それぞれが心地の良い、ある意味同質なコミュニティに所属していたほうがいいんじゃないかと思うんだよね。

森久保

わかりますけど、難しい問題ですね…

日本全体とかマス視点で見たら多様性はあったほうがいい。でも、会社単位で見たらどうなの?っていう。

渡辺

そうなんだよね。

「同質性の高い会社がたくさんある。でもそれらを俯瞰して日本全体で見たら多様性」ってことじゃダメなのかなぁ…と。

天野

なるほど。うーーん…

渡辺

今、世の中的には「同質性もアリだよね」っていう空気はほとんどないじゃん。でも個人的には、そんなこともないと思うんだよね。

そんな多様性に関するモヤモヤを相談したい。

こんな「多様性にまつわるモヤモヤ」を相談したのは…

渡辺

今日は自分がモヤモヤしていることを、ダイバーシティについて経営の観点から論じている入山先生に相談したいなと思っておりまして…

入山先生

(メモを見ながら)これ、いいモヤモヤですね〜。

【入山章栄(いりやま・あきえ)】早稲田大学ビジネススクール教授。三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院で博士号を取得。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から現職。専門は経営学で、国際的な主要経営学術誌に多く論文を発表している

渡辺

そう言っていただけて嬉しいです。

最近はダイバーシティ&インクルージョンの必要性が叫ばれていますけど、仕事の現場やチーム作りの観点から考えたときに多様性とどう向き合うべきか、入山先生の見解を聞いてみたいなと思いまして。

これからの日本経営にダイバーシティが求められるワケ

入山先生

まず、これからの会社経営としては、基本的にダイバーシティがあったほうがいいというのは間違いないと思います。

渡辺

それはなぜですか?

入山先生

人類って、基本的に多様性で発達してきてるんです。

会社が成長しつづけるには、新しいことに挑戦しつづけないといけないじゃないですか。そのためには、新しいアイデアが必要ですよね?

渡辺

そうですね。

入山先生

で、そのイノベーティブなアイデアがどう生まれるかというと、この世にあるんだけど組み合わさっていないものの組み合わせなんです。

入山先生

シュンペーター(経済学者)はそれを90年前から「新結合」と呼んで提唱していたわけですけど…

たとえば、トヨタがブレイクしたきっかけになった「トヨタ生産システム」はアメリカのスーパーマーケットの考え方を導入してできたものですし、TSUTAYAのビジネスモデルの原型も消費者金融にヒントを得てできたものなんです。

渡辺

へぇ〜、そうなんですね。知らなかったです。

入山先生

今の日本の会社、特にJTC(Japanese Traditional Company=伝統的な日本企業)にはイノベーションが必要じゃないですか。だからそのためには、多様な人間の“離れた知”をどんどん組み合わせる必要があるんですよ。

そういう意味で、ダイバーシティはとても重要。経営学の観点から見ても、イノベーション度が高い会社は多様性が高いです。

渡辺

なるほど、納得しました。

入山先生

これは国単位で見てもそうだと思っていて。

たとえば、シリコンバレーで起業する人の半分以上は移民なんですよね。

世界中の人が集まって多様な知恵を組み合わせるから、新しい事業アイデアが生まれて、 イノベーションが起きている。

多様性は、成長とイノベーションの根源なんです。

「多様性」よりも「同質性」が有効なケース

渡辺

その点、もう少し深堀りさせてください。

今の日本は既存の構造を壊すイノベーションが求められているので多様性が必要だけど、成長モデルが固まっているときには同質性のほうが強い、みたいなこともあるんですかね?

入山先生

それはあると思います。

日本も昔強かったのは製造業じゃないですか。でも、イノベーションが起きたのはアメリカですよね。

日本はそれをマネして、小さく・安く・安定したモノを作るのがめちゃくちゃ上手かったんですよ。

入山先生

日本は現場が強い国だから、同質性を活かしてみんな同じことをやる方が、当時は競争力が高かった。

だから、今もそういうことをやりたい会社は同じ戦略を取った方がいいと思います。

渡辺

なるほど。多様性を重視すべきかどうかには、場合分けがありますよね。

入山先生

ありますね。

日本全体で見れば多様性は大事だけれども、すべての会社が多様である必要はなくて、結局は目的と会社の状況次第

渡辺

もっとミクロなチームビルディングの話をするんですけど、例えば数人で新しいサービスを立ち上げるときのあるべきチーム編成については、どのように思われますか?

入山先生

それ、すごくいい質問ですね。

僕の個人的な肌感でいくと、同質性が高いほうがいいんじゃないですかね。

入山先生

ハーバード大学にノーム・ワッサーマンっていう研究者がいるんですけど、彼の研究結果でも「上場してからしばらくの間は、むやみに社外取締役を増やさない方がいい」と結論づけてるんです。

スピードが落ちちゃうので。

渡辺

なるほど。逆に、同質性が悪さをするのはどんな点でしょうか?

入山先生

繰り返しになりますけど、やはり新しいアイデアが入ってこないことですね。

うまくいっていて突っ走れてるときはいいんですけど、多様性がないと突っ走れなくなったときに行き詰まります。

あとはコンプライアンス的な観点ですかね。

渡辺

「イノベーション」と「コンプライアンス」の2つですね。

入山先生

だからどんな会社でも成長していく過程で多様性を高める必要はあると思うんですけど、難しいのは、それをやりすぎるとつまらない会社になっちゃうことですよね。

渡辺

わかります…

「視点を多様にして、ビジョンは揃える」

渡辺

そもそも多様性って、性別や年齢みたいに分かりやすいものもあれば、性格や価値観、ビジョンみたいなものもあると思うんです。

そのあたりはどう考えたらいいのでしょうか?

入山先生

あ、そこを整理しておくと、 「価値観」とか「ビジョン」は全員揃っていたほうがいいけど、「物事の考え方」や「経験」は、多様性が高いほうがいい。

すなわち、視点を多様にしてビジョンは揃える。これが一番理想的な状態です。

この取材で渡辺が一番覚えておきたいと思ったパンチラインです

渡辺

なるほど。すごくわかりやすいです。

入山先生

基本的に、多様性が高い組織は揉めますからね。

でも、健全に揉めることに価値があるんです。揉めない組織はイノベーティブじゃないので。

渡辺

なるほど(笑)。

入山先生

ただ、揉めたときでもビジョンが揃っていれば、「今回はアイツの言っていることも一理あるな」って思えるじゃないですか。

そういう感覚が組織で醸成されていることが重要なんですよね。

渡辺

「目的が統一されているのか」っていうことですよね。

それがなかったら不健全な揉め方になっちゃう。

入山先生

おっしゃる通りで、それ(不健全な揉め方)が今日本の伝統的な会社で起こってるんですよね。

その状態がそのまま放置されると、派閥になります。

渡辺

派閥は典型的な「悪しき多様性」という感じがします(笑)。

イノベーションに効くのは「内面の多様性」

入山先生

さらに補足すると、経営学的には「デモグラフィー型ダイバーシティ」「タスク型ダイバーシティ」というものがあるんですね。

「デモグラフィー型ダイバーシティ」は性別や年齢、国籍などの外見の多様性のことで、「タスク型ダイバーシティ」は能力や経験など、目に見えない内面の多様性のこと。

渡辺

外面の多様性と、内面の多様性。これもわかりやすい分類ですね。

入山先生

で、経営学的には、内面の多様性(タスク型ダイバーシティ)はイノベーションにプラスだけど、外見の多様性(デモグラフィー型ダイバーシティ)は意外とプラス効果がないって言われてるんです。

渡辺

そうなんですか?

入山先生

なぜかというと、人間って目に見えやすい分類で人をグループ化してしまうので、「デモグラフィー型ダイバーシティ」を高めると知らずのうちに組織内組織ができて、情報がうまく回らないみたいな現象が起きてしまうんですね。

これはイノベーションにとってはマイナスじゃないですか。

入山先生

そういうアプローチじゃなくて、組織に“多様な知”を取り入れようとすれば、必然的に女性も増えるし、外国人も増えるはずなんですよ。

渡辺

表面的な多様性ケアで女性を入れるのと、多様な知を取り入れようとするのでは全然目的が違いますもんね。

一番大事なのは「何のためにやるのか」

入山先生

結局、多様性を取り入れる最大のポイントは何のためにやるのかということなんです。

「組織にどんな人を入れるか」というのは手段でしかないので、結局は会社やチームが何を目指しているのか次第。

目指しているものがイノベーションであるなら多様な知見を持っている人がいたほうがよいけど、それ以外の目的があるなら、多様性を重視しなくてもいいかもしれない。

渡辺

なるほどな… これをちゃんと理解せずに間違った多様性の配慮をして、おかしくなった会社もありそうですよね…?

入山先生

…あるね。言えないけど、あるね(笑)

入山先生

昔、ある会社の「ダイバーシティ推進室 室長」という肩書きの人が僕のところにダイバーシティ経営の相談に来たことがあって。

でも、僕がダイバーシティを取り入れる目的を聞いたら、言葉に詰まるわけですよ。「社長が言うから…」とか「世の中の流れ的に…」みたいな。

そういう会社はまずうまくいかないですね。

渡辺

そもそも、「ダイバーシティ推進室」っていう箱からしてちょっと危ない気がします(笑)。

入山先生

危ないでしょ?(笑)

僕のまわりで本当にダイバーシティ経営に真面目に取り組んでいる会社は、あまり「自分たちがダイバーシティを重視してます」って言わないんですよね。

会社の目的達成の手段としてダイバーシティ経営をやってるだけなので。

渡辺

ダイバーシティが目的になっているからアピールしたくなるわけで、手段としてやっているなら、過度にアピールする必要はないですもんね。

本当にアピールすべき自分たちの「ビジョン」や「価値観」をおざなりにして、ダイバーシティのことだけをアピールするのは不健全なのかもな…

「ダイバーシティはひとりでも実現できる」

渡辺

僕自身は小さなチームを率いて事業やサービスを始めることが多いんですけど、お話を聞いていて、まずは自分自身がいろんな知と知の結合を生むように多様な人と触れ会うべきなのかも、と思いました。

入山先生

それはすごい重要なポイントで、多様性って先ほどの分類とはまた別に、「イントラパーソナル・ダイバーシティ」というものもあるんです。

渡辺

イントラ、パーソナル…?

入山先生

イントラパーソナル・ダイバーシティ。すなわち、「個人内多様性」

渡辺

なるほど。個人内多様性。

入山先生

同じ組織に多様な人がいる状態じゃなくても、ひとりが多様な経験や幅広い知見を持っていたら、その人の中で離れた知と知の組み合わせが生まれるじゃないですか。

だから、ダイバーシティって実はひとりでも実現できるんです。

渡辺

なるほど。個人内多様性を高めることは、自分にとってはすごく大事なことかもしれません。

入山先生

同質性の高いコミュニティが心地良いのは当然なのでそれはそれでいいと思うんですが、個人内多様性のことを考えたら、同じく居心地が良くていいんだけど、そこからちょっと離れたコミュニティに所属するのも大事だと思います。

渡辺

なるほど。それなら窮屈な多様性に耐えろという話じゃないので、無理なく受け入れられます。

入山先生

そうやってご自身がいろんなところに行ったりいろんな人と会ったりすることで多様な知見を得て、そこから出てきたアイデアを形にする際にインプリメンテーション(実行)が大事なら、そこは同質性の高いチームを組成してもいいと思います。

渡辺

なるほど。事業やサービスのゼロイチフェーズは、「個人内多様性の高いリーダー×同質性の高いチーム」がベストな組み合わせかもしれませんね。

結論:多様性を重視すべきかどうかは、会社や人の目的次第

渡辺

我々より上の世代は、ダイバーシティの重要性を素直に受け入れられる人ってあまり多くないと思うんです。

ただ、今日の先生の話を聞いてもらったらきっと腹落ちするんじゃないかなと。

何のために多様性が必要なのかをちゃんと理解してもらえたら、打つ手を間違えずに済むと思いました。

入山先生

ありがとうございます。

繰り返しになりますけど、会社はイノベーションが必要ならダイバーシティを重視したほうがいいし、個人のキャリアの観点でも、変化の激しい時代にいろんなチャレンジをしていきたいなら、個人内多様性が高いほうがいい

ただ、そういう人生を選ばないなら、無理に多様性を気にしなくていいと思いますけどね。

渡辺

今日お話を聞いて、自分自身もモヤモヤがスッキリ晴れました。

また経営学の知見に頼りたいときは相談させてください!

入山先生、これからもよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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