ビジネスパーソンインタビュー
最近のマンガ、アニメ…以前のように追えてますか?
「俯瞰するって、むしろ大人ではない」“エンタメ鑑賞タスク化してる問題”に佐渡島庸平が一石
新R25編集部
「複雑なはずのビジパの悩みを、単純化して取材していた」 「本質的じゃない悩みをでっちあげていた」
という反省のうえ、「個人のリアルな悩みにひもづいた取材」を改めてしていくことを方針とした新R25編集部。
今回は、新R25副編集長・天野の「最近のエンタメが純粋に楽しめない」という葛藤について。
そう思ってる方……いませんか!?!?
「最近のマンガが読めない」「音楽が全部同じに聴こえる」は“老化”なのか問題
天野
僕、TikTok見てないんですよ。TikTokで流行ってる曲とか全然知らない。
YouTubeはテレビがわりに毎日見てるけど、好きな野球系チャンネルとかだけで、見る範囲が狭い。
森久保
パーソナライズの時代だ…
天野
マンガもすごい好きだったんですけど、家にある昔の漫画を繰り返し読んでて…
『鬼滅の刃』が“最近のマンガ”の軸なんですけど、「アフター鬼滅」の作品はあんまり読めてないんですよ。
渡辺
わかる。俺はもうアフタードラゴンボールから…
昔すぎる。ありえないぐらいエンタメを摂取してない編集部
天野
ネトフリとかもそうで。最近の作品、めちゃくちゃトレンドを分析して生み出されてるんじゃないかと思っちゃうんですよね。
その結果を「無理やり食べさせられてる」みたいな感覚があって。
渡辺
なるほど。マーケティングの成果みたいな。
天野
あのころ純粋にドラゴンボールを読んだり、ドラクエをやったりしたときの「面白い!」という気持ちとは全然違うんですよね…
それが自分の老化なのか、本当に最近のエンタメがロジック偏重になっているのかがわからない。
森久保
僕らみたいなメディアが出てきたことで、エンタメビジネスの裏側が暴かれる機会は増えてると思うんです。マジシャンが種明かししちゃうみたいな。
そのせいで勘ぐっちゃうのかな。
天野
そうなのかも…
渡辺
たとえばものすごく機能が豊富なアプリがあっても、使いこなせない人にとってはストレスになって、エンゲージメントが上がらないんだって。
今、 エンタメが多すぎて見られてないっていう状態はストレスになり得るよね。
天野
「これはヒット間違いなしだから、見たほうがいいです!」っていう文脈が先にある。「面白そう」って自分で思う前にそう言われて。
実際見たら面白いんだけど、もはや“確認作業”になってる。
渡辺
たしかに俺も、最近どんな音楽を聴いても、昔ミスチルを聴いたときのあの甘酸っぱい感じが出てこないんだよ…
言い方悪いけど、歌手とか、歌い方とかも同質化してると思っちゃう。
天野
でもそれって、おじいさんが「やっぱり演歌がいい」「心がある」って言ってるのと一緒なんですかね?
佐渡島さんが振り返る“ある後悔”。自分の受容のセンサーを知れ
天野
佐渡島さん、「エンタメの受容の仕方」についてぜひご意見を聞かせてください。
最近、エンタメ作品に純粋に没頭できないというか、楽しみ切れない自分がいて…
【佐渡島庸平(さどしま・ようへい)】編集者。講談社にて、『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などの大ヒットマンガ作品を手がける。マンガ家・小説家のためのエージェント会社、株式会社コルクを立ち上げる。安野モヨコ、三田紀房、平野啓一郎、羽賀翔一、岸田奈美…など幅広いクリエイターと作品をつくり続けている
佐渡島さん
うん…僕はね、 自分が読みたいものを読んでます。
天野
あ~。なるほど。
佐渡島さん
自分が何を読みたいかを考えて、それをつくった人は何を見てつくったのかを調べて、同じものを見て…ってやってると、その連鎖。ずっと何かを読んでることになりますね(笑)。
天野
いったん音楽の話になるんですけど…
おじさんがよく「最近の音楽って全部似てる」とか言うじゃないですか。佐渡島さんはそういう感覚ってあります?
佐渡島さん
うんうん。俳優とかもありますよね。みんな同じ顔に見える(笑)。
ただ、僕は10代のときも20代のときも、マンガでも音楽でも「人気上位のヒット作品って、同じようなものばっかりだな」と思ってました。
その年のベスト10だとしても、将来ひとつも残らない可能性がある。“みんな同じ顔つきだな”と思うものは、その時代では流行っても、やっぱり消えていく。
そう考えると、真剣に眺めなくていい気がするんですよ。
天野
なるほど…
佐渡島さん
いまだに思い出すのが、編集者になって2、3年目のときに、渋谷駅で流しで歌ってた男の人のこと。
その人の前を通ったときに、「うわ、うまいな…」と思ったんだけど、通り過ぎちゃって。
佐渡島さん
その後、どんな路上ライブを見てもその感動を超えなかった。
あの夜、なんで戻って声をかけられなかったんだろう?って、今でも心に残ってるんです。
天野
自分の琴線に触れたときに、ちゃんと敏感に…
佐渡島さん
動ききれなかったな、と。
だから今はインスタでもTikTokでも見てて「いいな」と思う人がいたら、会いに行って話してみて、いつか人生が交差するときがあれば、と思って生きてます。
天野
つまり、トレンドの作品を見なくては…ってことじゃなくて、“自分が何かを感じるか”こそが重要だと。
佐渡島さん
自分の受容体の“形”を知ることが重要。どういうものが自分の心のなかにストンって入り込むのか。自分全体がセンサーなんですよ。
ただ…
ほとんどの人は自分が何を好きかをわかってないんですよね。
佐渡島さん
たとえば、受験勉強もそうで、机に座って「今日は何が勉強したいかな?」って考えられる人っていない。
天野
参考書とか、決まったことをやりますね。
佐渡島さん
つまり、大半の人は自分のセンサーを動かさず、決められた枠のなかへ自らハマりにいっている。
天野さんは渋谷に出勤しているわけだけど、“渋谷で最も好きな喫茶店の最も好きなイス”が答えられますか?
天野
…答えられない…かも。
佐渡島さん
「渋谷で、最も落ち着く喫茶店の、落ち着く角度を知ろう」ということと、「自分の最も好きなコンテンツを知ろう」とすることは、限りなくイコールな挑戦。
もっと、決められた枠ではない“自分のセンサー”に敏感になったほうがいいと思うね。
人は、「油と砂糖」を求めている。今は“つくり手も受け手も混乱している時代”らしい
天野
インターネットによって、「以前に比べて、受け手側が冒険しなくなっている」って、編集者として感じることってありますか?
佐渡島さん
人間そのものが変わっているとは思わない。
…世間の人が無意識で求めているものは、「興奮」なんです。たとえば、今、世の中で流行っているチェーン店は何を売っているのか?
油と砂糖を売ってるわけです。
「ラーメンにしたってフラペチーノにしたってそうでしょ」
佐渡島さん
動物として、昔足りなかったものを本能的に求めてるわけですね。それは興奮につながる。
現代は世の中に「興奮につながるもの」がたくさん提供されていて、本能を刺激されて過剰摂取して太っちゃう。
TikTokとかYouTubeも、「これ見ないと損!」というコンテンツが多くて、人の不安を煽ることが産業になっている。「いい学校行かなきゃ人生すべて終わっちゃうかも」「子どもの教育は幼稚園のうちに決まる!」とかね。
天野
興奮に訴えかけるコンテンツが増えているとしたら、「ヒット作品」の質も、昔とは変わってるんじゃないかと思うんですが…どうですか?
佐渡島さん
質というより、今はコンテンツの数とそれに触れる時間が飛躍的に増えたんだと思います。
昔から人々は興奮を求めていたんだけど、コンテンツの量が少なかったから、一部のものに集中していた。
「巨人・大鵬・卵焼き」っていう言葉がありましたよね。「巨人・大鵬・卵焼き」も、何かって言えば「興奮」でしょ。
天野
たしかに。
佐渡島さん
ただ、そのなかでも若いクリエイター、新しいクリエイターは、往々にして「刺激的なもの」をつくりたがる。
そして、新しいメディアが生まれると、新しいクリエイターが生まれる。
天野
だから、刺激的なもの、人を興奮させるものが多く生み出されている…
佐渡島さん
マーシャル・マクルーハン(メディアに関する理論で著名)は「メディアはメッセージである」と言っている。そして、メディアが変わるごとにコンテンツの種類も変わると。
メッセージの在り方も変わる。
インスタ、X、YouTube、TikTokなどによってコンテンツの種類はまったく異なるじゃないですか。
天野
えーっと…SNSによって、アルゴリズム的に評価されるものが違うっていう話ですか…?
佐渡島さん
アルゴリズムだけじゃない。メディアごとにつくられるものも、つくるクリエイターも変わる。
CM、テレビドラマ、映画も全部動画だけど、クリエイターは違いますよね。「動画なんだから一緒じゃん?」とか言って、CMをつくってる人に「映画撮ってよ」とか言ったら、「お前わかってねえな~」って言われちゃう。
現在、新しいメディアがたくさん生まれて、その議論が起きちゃってるんだと思います。
新しいメディアについて、誰も解像度高く見ることができていない。
天野
あー、新しいメディアが生まれて、受け手の受容の仕方も混乱しているってことなのかな…
佐渡島さん
そうだと思います。それに、基本的に新しいメディアだと、誰が作っても幼稚なものになるんですよ。
次第に洗練され、熟成したものが登場してくる。俳句とかね。
最近、作家の岸田奈美とディスカッションをしていたら、岸田さんが、「季語マジすごいです!」って興奮してたの。
「みんなが好きなハッシュタグの最強ワードだけを集めて歴史的に残ったものが季語なんです。マジすごい」って言っていて、たしかにと。
新しいメディアの登場で、興奮を誘うコンテンツが大量に生まれ、それを受け取る側もどう評価していいかわからず混乱している…そう理解しました。必死についていってますが…難しい
「エンタメを俯瞰して見ちゃう」という人、本当は俯瞰してないし感受性が衰えてるんでもない説
天野
昨日、Z世代のうちの内定者の子と箕輪さんに取材したんです。その子が「世の中を俯瞰しちゃって、仕事とかにも熱狂できない気がする」って言っていて、箕輪さんも「めちゃくちゃわかる」と。
僕も、いろんなエンタメを偉そうに俯瞰的に見てて「なんか乗れないんだよな~」とか言ってて。
佐渡島さんは、その俯瞰力と熱狂が相反していないと思うんです。なぜそれができるんですか?
佐渡島さん
本来的には、(俯瞰する)鳥の目って、上から見ていてヒューッと下りてきて虫をつかんで戻るわけじゃないですか。俯瞰してるようだけど、細かい解像度で小さな虫が見えている。箕輪さんはもちろん世の中を解像度高く見てる人だけど…
「俯瞰してるから冷めてて何も見られない」っていう人は…本当には大して俯瞰してないんだと思いますよ。
天野
!!!!
佐渡島さん
俯瞰しているふうな他人の意見を採用しているだけだと思いますね。
安全地帯にいるだけ。
天野
安全地帯というのは…?
佐渡島さん
自分の心が傷つかない場所ってこと。
「失敗した」とか「悔しい」とか、思わないような思考をしてるだけ。
天野
「俺は分かってるからな」とか言って、斜に構えてるだけ…?
佐渡島さん
うん(笑)。俯瞰しているというより、壁を作ってるだけ。
壁を作ってコンテンツや物事に接するのは、ある種、思春期的ですよね。
親とかに対して壁を作るじゃないですか。「俺の心を触るな!」って(笑)。
天野
ああ~~。
じゃあ「大人になって感受性が鈍くなった」と思ってたけど、むしろまだ幼さがあるっていう…
佐渡島さん
そうそう。そう思います。
天野
自分の心の形に向き合ってないだけ。
恥ずかしすぎ
佐渡島さん
昔は、会社に入ると先輩にイジってもらって、その壁を壊してもらうことがよくあったんです。
「お前はどんなやつなんだよ」みたいなね。今そういうこと、なかなか言えないけど…
天野
だとしたら、自分の心の形に向き合うことが以前より難しくなってますよね。
佐渡島さん
ただ、それを会社が担うことが必要だったの?っていう話もあるから。
今は、そのかわりにAIが存在していると思う。
昔だったら、それぞれのジャンルの詳しい先輩に進むべき道を教えてもらってたのが、Amazonで自分がハマるものを精度高くレコメンドしてもらえる。
天野
そこがAIなのか…なるほど…
心の形を見つめなおすきっかけをくれた佐渡島さん…ありがとうございます!!
…ということで、「トレンドのエンタメ作品にノれない」という悩みを相談したら、“必要なのは自分の心に向き合うこと”という結論が出ました。
よく「視点の高さが違う」という言葉を聞くことがありますが、取材しながら、自分と佐渡島さんの視点および解像度の違いをヒシヒシと感じました…。
自分は今どんな作品が見たくて、どんなマンガが読みたいんだろう。
皆さんはどうですか?
〈取材・編集=天野俊吉/文=吉河未布/編集協力=鳥山可南子〉
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