ビジネスパーソンインタビュー
ビジパの悩みインサイト
「実家のお店がなくなるのは悲しい… 家業を継ぐか迷ってます」実家のスーパーを全国区にした大山皓生さんに相談したら、感動的なアドバイスをいただきました
新R25編集部
「複雑なはずのビジパの悩みを、単純化して取材していた」 「本質的じゃない悩みをでっちあげていた」
という反省のうえ、「個人のリアルな悩みにひもづいた取材」を改めてしていくことを方針とした新R25編集部。
企画会議でそれぞれのリアルな悩みを言語化していきます。
今回は、アラサー編集部員・三宅の「家業を継ぐ・継がない問題」について。
継ぐ? 継がない? 家業を前に揺れるアラサーの本音
三宅
実家、どのくらいの頻度で帰ってる? 私はお盆と年末年始、最低年に2回は帰ろうと思ってるんだけど、それでもめっちゃ少ないと思ってて。
森久保
3年ぐらい帰ってないかも。
三宅
え、そんなに…!?
天野
今回は親孝行したいっていう悩み?
三宅
その気持ちもあるんですけど、実家が自営業なので、それを継ぐかどうかっていう。
私は三姉妹で、全員上京して働いているんですが、お父さん的には多分3人の誰かに継いでほしいと思ってるんじゃないかと。私もうっすら「どうにかしなきゃいけないな」と思いつつ、親とちゃんとした話はできてなくて。
天野
実家と事業問題ね。ちなみに家業は何をしてるの?
三宅
街の電気屋さんです。おじいちゃんの代からやってきて、今はお父さんとお母さんでやってます。
天野
お父さんから継いでほしいって言われてはいないの?
三宅
直接的には言われてないんですけど、私たちがいないところで親戚にそういうことをぼやいているのを、回り回って聞くみたいな。
天野
わかるー。うちは祖父が銭湯、父はアパレルのお店を経営していて。父からは「何でも好きなことをやればいいじゃん」って言われてるんだけど、まわりの大人たちが「お父さんは絶対継いでほしいと思ってるよ」って言ってくる。
三宅
わかります。とはいえ、私はずっと東京にいたい気持ちもあって。0か100かを選ぶのは無理なんだけど、なんとか家業を守るようなやり方がないかなって。
天野
どっちかをトレードオフで選べないよね。
三宅
選べないし、多分どっちも幸せにならない。親も責任を感じるだろうし。
森久保
ネオ銭湯とかネオ電器屋さんみたいに、家業を自分なりに今の時代にフィットさせたものにできたらいいのにね。
天野
このまま向き合わないという選択肢はある?
三宅
それはラクだけど…おじいちゃんの代から続いてきたお店をなくすっていうのは、シンプルに悲しいです。あと、私は地元の人たちに育ててもらった感があるので、何らかの形で地元に恩返ししたいなと。
天野
僕も別に諦めたい派ではないんだよね。ゼロになるのはやっぱ悲しいから、どうにかしたい。だけど難しい。
実際に、家業を継いだ方に話を聞いてみたらいいのかな。
親の家業を継ぎたい気持ちはあるものの、今の仕事と生活を捨てる勇気はない。そんな悩みを相談させていただいたのは、祖父が経営する八百屋を継いだら大赤字…というところから、「八百屋の作る本気のフルーツサンド」を立ち上げ全国的ヒットにまで導いた、ダイワスーパー3代目社長の大山皓生さんです。
大山さんは家業を継ぐことへの葛藤はなかったのか、そしてどのような思いで苦境を乗り越えたのか。三宅の悩みをぶつけつつ、話を伺いました。
“やりたいことがなかった底辺”だった大山さんが、家業の小さなスーパーを継いだ理由
三宅
大山さん、よろしくお願いします。
私は三姉妹で、両親が電気屋をやってるんです。祖父の代から続いていて、ちょうど先日60周年を迎えました。
【大山皓生(おおやま・こうき)】祖父が創業した八百屋を24歳で継ぐも、直後に3,000万円の借金があることが発覚。そこからオリジナルのフルーツサンドを全国的に大ヒットさせ、年商13億円の企業にまで成長させた、注目の若手経営者
三宅
周年イベントみたいなこともやってたんですけど、そのときにお父さんが「こういうことやるのもこれで最後かな」と言っていて。ちょっと心がチクっとしたんですよね。
大山さん
で、悩んでいるのが、三宅さんか妹さんのどちらかで継ごうか継ぐまいか、みたいなことですか?
三宅
どっちかが継ぐ、継がないというより…私は今、東京ですごく楽しく仕事をしているので、0か100かではなく、うまく両立させられる方法を考えたいんです。
あと、田舎の電気屋さんなので、今までのやり方でこの先何十年も商売ができるのかという不安もあります。
大山さん
それ、やっぱり大事なのは話し合うことだと思うんですよ。
ご両親は、三宅さんがそんなに考えてることはたぶん知らないんじゃないかな。そこにまず温度差があると思うので、まずは今自分が感じていること、悩んでいること、思っていることをダイレクトにぶつけてみたらどうですか?
大山さん
もしかしてお父さんが「ありがとう。でもオレは終わりでいい」って言うかもしれませんよね。そしたら三宅さんも気持ちよく東京での仕事に集中できると思うし、逆に継ぐという覚悟が決まったなら全力投球したらいい。
今、自分一人で考えていることが多すぎる気がします。
三宅
そうですよね…
大山さん
僕の実家は、愛知県岡崎市にある「ダイワスーパー」っていう、本当に小さな街のスーパーで、もともと継ぐつもりはなかったんです。継いでほしいとも言われてなかった。
ただ何となく、じいちゃんは潰したくないと思っているような感じはあって。
三宅
同じです。それがなぜ、継ぐことに?
大山さん
僕は4年半ぐらい家出をしてたんですが、あるきっかけで実家に帰ったときに、そういう話になって。
僕は当時やりたいことが本当になくて、底辺オブ底辺を生きてたんですよね。ただ、じいちゃんのことはとにかく好きだったんです。
三宅
おじいちゃんっ子だったんですね。
大山さん
でも久しぶりに会ったらかなり年老いていて、体の半分がリウマチで、動くのも大変そうでした。
そんな体で重たい段ボールを運んだりしている姿を見て思ったんです。10代後半から20代前半は自分がやりたいようにやってきたけど、このままでは、いつか後悔するときがくるなって。
そのときに家業を継ぐことを決心しました。
近くのスーパーに「何も勝てない」。苦境のなか手に取った“ある商品”
大山さん
でも、最初はほうれん草と小松菜の違いもわからなかったんです。
そんな状態でスタートしたはいいものの、直後に累計3000万円の赤字があるのを知って、「じいちゃん、何これ!?」みたいな。
三宅
聞いているだけで、心がくじけそうになります。
大山さん
それで、とりあえず近隣の繁盛している大手スーパーを偵察しに行ったんですが…
正直、何も勝てないな、と思いました。
大山さん
たとえば、郊外のスーパーでは駐車場の数が大事といわれてるんですけど、うちは12、3台しかない。カートも古くて、まっすぐ進まないんです。
建物も築何十年も経ってるから劣化もすごくて、決してピカピカのスーパーとはいえない。
さらには、じゃがりこもうちは100円で売っているのに、大きいスーパーでは1個78円で売ってるんですよ。でも、うちの仕入れは85円。もうよくわからないし、何をしても勝てないなと。
三宅
たしかにそれだと大手スーパーに行ってしまいそうです…
大山さん
そういう日々のなかで、ふと大手スーパーで働いている“人”にフォーカスしてみたら、めちゃくちゃやる気なさそうに豆腐の品出しをしているおっちゃんがいたんです。
なんでこんな接客態度が悪いんだと思うのと同時に、なんでこのスーパーはこんなに流行ってるんだと。
こんなおっちゃんにうちは負けてんのかと思ったら、すごい悔しかったんですよ。
そんな苦労話を聞いたら、継がないほうがいいと思えてきました…
大山さん
スーパーでまっとうにやっても勝てない。野菜の栄養や保存の仕方、料理なんかも、毎日食卓で料理をされている主婦の皆さんのほうが詳しいし、僕が今さら勉強したとて、たかが知れている。
だからせめて、「人」で負けたくないと思ったんです。
三宅
「人」というのは、たとえば…?
大山さん
お客さんが喜んでくれることを全部やる。
とはいえお金もないから、1円もかけずに今よりお客さんが喜ぶことを考えて、ひたすらやりまくりました。名前を覚えたりとかね。
そうやって目の前の人を喜ばせていたら、だんだんお客さんが来てくれるようになりました。
三宅
しかし…そこからどうやって巻き返しを?
大山さん
隣の三重県には「赤福」っていう名物があるけど、ああいう看板商品が必要だと思ってたんですよね。
で、当時、コピー機を買うお金もなかったので、ポスティング用のチラシをコンビニで印刷してたんです。でもそれ、全部印刷するのに1時間半とか2時間とかかって…
それを待っている間に小腹が空いて、たまたま手に取ったのがフルーツサンドで。そこでひらめいたんです、「これだ!」って。
大山さん
コンビニのフルーツは缶詰由来だし、 生クリームじゃなくてホイップだからギトギトな感じが苦手だと思ったんだけど、これを生のフルーツでおいしくつくったらどうだろうと。
母が無類のパン好きなので、パンは母に任せて、相棒が調理師の専門学校を出ていたから、生クリームは相棒に任せて。果物は僕が市場で仕入れてくるっていうチーム戦で、あのフルーツサンドが誕生したんです。
そこで実感したのは、一生懸命やってると、本当に道が切り開けてくるんだなってことですね。
こうして、あの有名なフルーツサンドが誕生した…
「実家のお店がなくなっても、地元の誰も困らない」ではどうすれば…?
大山さん
三宅さんはこのまま今の会社にいても、絶対悩みがなくならないと思いますよ。
だから僕は、悩んでるんだったらやってみてもいいんじゃないかなと思います。
三宅
でも、家族仲はいいんですけどそういう話ってなかなかできないというか…
だから、余計に決めきれないんです。
大山さん
グサッとくるかもしれないんですけど、実家のお店がなくなっても、地元の人は困らないと思うんです。もちろん困る人はいるけど、それって、なんとかなるんですよ。
もしうちのスーパーがなくなったとしても、今の時代ならなんとかなる。車の移動スーパーが走ってるし、ネットでも買えるし。
だから、自分が本当にそれをしたいのか、ということだけを考えてみるといいです。
大山さん
地元の人にどう喜ばれるかを考えるのは、その次のステージで今じゃない。
まずは本当に電気屋をやりたいのかどうかを、自問したらいいと思います。
三宅
たしかに…親のためとか地域のためとか、変に義務感を感じてやらなきゃいけないって思ってた気がします。
大山さん
それで本当に継いで苦しくなったときに、誰も地元の人は助けてくれないですからね。だからこそ、大切なのは覚悟です。
三宅
大山さんは、覚悟が揺らいだことはないですか?
大山さん
今のところはないですね。
もちろん、思いどおりにいかないことのほうが多いし、失敗のほうが多いです。
ただ、これは経営者になったらわかると思うんですけど、人生で仕事ほど面白いものはないと思うんですよ。結局自分が頭に思い描いたことって、自分にしかできないので。
三宅
なるほど…
大山さん
たとえば、どこかに旅行に行きたいとか、あのかばん欲しいなとか思うとしますよね。一回やりたい、欲しいって思っちゃったら、それを手に入れるまで、ずっと心のなかでモヤモヤしてません?
仕事では、何かを一回達成してもそこで満足することって絶対ない。商売って「商い」っていうぐらいで、本当に「飽きない」んですよね。ただそれは、一生懸命やらないと感じられないです。
大山さん
自分でやるって本当に大変なことです。給料は下がるし、努力は何倍もしなくちゃいけないし。
でもそれでも、血が湧き肉が躍るような、何か騒ぐものが胸にあるんだとしたら、やった方がいいと思います。
でも、給料は下がって休みも減って労働時間も延びて…というのが嫌だと思うなら、はっきり言ってやめたほうがいいです。
三宅
なんだか自分、きれいごとを言ってるなって思えてきました…
親のためとか地元のためって、言い訳に使ってるだけだなって。本当に自分がやりたいのかっていうところが大事ですよね。
大山さん
僕、人生は2分の2だと思ってて。
今、現状の仕事をとるのか家業をとるのかで悩んでるじゃないですか。でも、どっちでもいいんですよ。どっちも正解。
三宅
えっ、どういうことですか?
大山さん
自分が選んだものを正解にしちゃえばいいんです。
やると決めたらやる。失敗もするしうまくいかないし、たぶんいっぱい泣くし、寝れないしってあると思うんですけど、一回決めたんだったら、そっちを正解の道にするしかないから。
だから、どっちを選んでもいいと思いますよ。
三宅
ちょっと、自分に問いかけてみます。親のこととか気にせず、本当にやりたいのかどうか。
大山さん
がんばれー!
三宅
ありがとうございます。励まされて、ちょっとうるっときました…
大山さん
それを見て、僕もうるっときそうになりました(笑)。
大山さんの言葉で、一番必要なことに気づかされた三宅でした。
「親と対話してみる」「自分がどうしたいのか向き合う」「どっちを選んでも、それを正解の道にする」など、“家業”を継いだ先輩からいただいた言葉の数々は、どれも「自分の芯をしっかりもて」といったエールに聞こえました。
家業がある人はもちろん、何らかの事情で実家に戻ったほうがいいのか悩んでいる皆さん、まずは「自分がどうしたいのか」を考えてみませんか?
〈編集=天野俊吉/古川裕子/文=吉河未布〉
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