鈴木祐著『無(最高の状態)』より

頭の中だけで100から7ずつ引き算すると安定する。数分で気持ちが楽になる3つの処置法

カラダ
他人に言われた何気ない言葉が頭から離れない
幸せな環境なのに、なぜか幸せを感じない
未来に明るい展望が抱けず、すべてから逃げたい

こんな状況に、心当たりないですか?

心配事の97%は起こらない」という研究結果が出ているにもかかわらず、私たちの“心配事”や“苦しみ”が絶えないのは、一体なぜなのでしょうか。

サイエンスライター・鈴木祐(すずきゆう)さんの著書『無(最高の状態)』から、「苦しみの正体」と「苦しみから解放される対策法」について抜粋してお届け。

精神機能を“最高の状態”に整える方法に迫ります!

なぜアフリカ人は幻聴に苦しまないのか?

統合失調症は、「お前には居場所がない」「この嘘つき野郎」「本当にダメな人間だ」のような声がいきなり耳もとに響く病気です。

いくら幻聴だと言い聞かせても声は止まず、何時間も嘲笑の言葉が続くケースもあります。

いまだ明確な原因はわからず、現在はおもにドーパミン神経の活動を抑える薬と心理療法を組み合わせた治療が行われています。

そんな状況下、2014年にスタンフォード大学の人類学者ターニャ・ラーマンが、興味深い研究を発表しました。

統合失調を発症したあとでも、症状に苦しまない人たちが存在するというのです

ラーマンはアメリカ、ガーナ、インドで統合失調症の患者にインタビューを行い、「頭の“声”は何を言ってくるか?」や「話しかけてくるのは誰か?」などを確認。

すべての回答をまとめ、国ごとによる幻聴の差を明らかにしました。

まずアメリカ人を襲う幻聴は、日本と同じくネガティブな言葉がほとんどです。

「最悪の人間だ」のように、暴力と憎しみに溢れたフレーズが大半を占めていました。

一方、ガーナやインドの農村部に住む者が聞く幻聴は、「正しく生きよ」や「良い日が来る」といったポジティブな内容が混ざり、声の調子もおだやかなものがほとんどだったそうです。

先進国では大半が幻聴を「異常なもの」「病気のひとつ」とみなし、修正しなければならない問題のひとつだと考えます。

これに対して、アフリカやインドの田舎町では幻聴を神の言葉先祖の伝言として解釈することが多く、おかげで幻聴がポジティブに変換されるわけです。

ネガティブな感情を整える「セット」と「セッティング」

統合失調症の事例からわかるのは、私たちのメンタルにおいて、「セット」と「セッティング」がいかに重要かというポイントです。

両者とも薬物治療の世界で使われる言葉で、おおよそ次の意味になります。
・セット=個人の性格、感情、期待、意図などの状態

・セッティング=物理的、社会的、文化的な環境の状態

出典 無(最高の状態)

たとえば、あなたが医師から抗鬱剤を処方されたとしましょう。

このときに「この薬は最新の成分だから効くだろう」と期待したり、「薬に頼るのはなんだか怖い」という感情を抱いた場合は、どちらも「セット」の問題に分類されます。

もしあなたが「薬を家で飲むか、病院で飲むか?」という環境の違いや、「両親が投薬治療に反対している」といった周囲の意見に悩んだなら、それは「セッティング」の問題です。

どちらも違法薬物の研究から生まれた言葉ですが、その後の調査により、抗鬱薬・向精神薬・かぜ薬などの一般薬の効果も左右することがわかってきました

セットとセッティングがポジティブであるほど薬の効き目は上がり、もし本人が「こんな成分が効くわけない」と思ったり、周囲の同意が得られないままであれば、そのメリットは20~100%の範囲で下がってしまうのです。

「セット」を整える方法:感情の粒度を上げる

感情の粒度を上げる」ことで、セットを整える方法をご紹介します。

あなたの内面の動きを正しく認識し、自分の脳に安心感を与えてやるのが大きな目標になります。

「感情の粒度」は心理学の概念で、あいまいな感情をくわしい言葉で表現できるスキルのことです。

このスキルが高い人と低い人の違いはこうなります。
・感情の粒度が低い
何か嫌なことがあった際に、すべてを「むかつく」や「気持ち悪い」など

・感情の粒度が高い
気分が悪いことに対して、「癇にさわる」「憤る」「いらつく」といった複数の表現を思いつき、その中から一番しっくりくる言葉を選ぶことができる

出典 無(最高の状態)

ささいなスキルのように思えるかもしれませんが、ここ数年の研究で、「感情の粒度」がメンタルの安定に大きく関わることがわかってきました。

「感情の粒度」が高い人たちを調べたジョージ・メイソン大学などのチームは、感情の言語化がうまい人たちは総じてセルフコントロールがうまく、アルコールやドラッグに依存しにくいうえに病気にもかかりにくいと報告しています。

その理由は、感情の粒度が高いほど脳が混乱しづらくなるからです。

「セッティング」を整える方法:グラウンディングで“現在”に集中する

続いて「グラウンディング」で、セッティングを整える方法に移ります。

あなたを取り巻く環境をフィックスしていきましょう。

「グラウンディング」は心理療法の世界で使われるテクニックで、“現在”に心を引き戻すノウハウの総称です。

私たちが苦しみをこじらせるのは、脳が「自己」を起点に未来または過去へとイメージを広げたせいで、ネガティブな感情が増すのが大きな原因です。

人類の悩みが尽きないのは、あなたの意識が“現在”からそれてしまうからです。

そこで「グラウンディング」では、未来と過去に向かった意識を引き戻すことで、苦しみの減少を試みます。

それでは、代表的な「グラウンディング」の手法を紹介しましょう。

自分の中にネガティブな感覚がわいてきたら、次のテクニックを試してください。

① 自己解説法

いまの自分の名前、年齢、いまいる場所、いましていること、次に何をするつもりかを口に出して説明する手法です。

「私の名前は◯◯、40歳。いまはオフィスにいて、プレゼンの資料を作っている。このあとは、いつものカフェでランチを食べて…」

といった具合で、いまの状況を淡々と実況しましょう。

すぐに脳が現在に意識を向け、数分で気持ちが楽になるはずです。

② 54321法

五感を駆使して行うグラウンディングです。
いま目に見えるものを5つピックアップします
「カーペットのシミの色」や「壁の傷」など、まわりを見渡して普段は気づかないものを選んでください。

触覚で感じられるものを4つピックアップします
服の肌触り、テーブルの表面の滑らかさなどに意識を向けましょう。

耳で聞くことができるものを3つピックアップします
外を走る車のエンジン音、鳥のさえずりなど、普段は気づかないものを選んでください。

鼻で嗅ぐことができるものを2つピックアップします
室内の香り、松の木の匂い、調理中の食べ物の匂いなどを意識的に味わいましょう。

最後に、いま味わうことができるものを1つピックアップします
飲み物を口にしたり、ガムを噛んでみたりと、舌の上に起きる感覚を味わってみてください。

出典 無(最高の状態)

グラウンディングの途中で意識がそれても、慌てず五感に戻る作業をくり返しましょう。

意識を戻す度にあなたの脳は安心感を覚え、ストレス反応が下がります。

③ 暗算法

頭の中だけで100から7ずつ引き算を行い、0になるまでくり返します

100、93、86、79…のように、できるだけスピーディに計算を続けてください。

暗算は脳の負荷が高い行為なので、何度も続けるうちに頭の中が計算に占有され、自然と未来や過去から意識をそらしやすくなります

以上のテクニックは、何か嫌なことがあったときの応急処置としても使えますし、感情コントロールの手法としても効果的です。

あなたの意識を“現在”に置き続けるトレーニングとして、1日10~15分を目安に行ってください。

不安・ストレス・怒り・孤独・虚無・自責...自らを解放する科学的メソッド

無(最高の状態)

無(最高の状態)

『無(最高の状態)』は、あらゆる苦しみの根源を掘り下げて、包括的で普遍的なアプローチを試みる一冊。
『無(最高の状態)』の2ステップ

人生において「苦しい」とはどのような現象なのかを考える

あらゆる「苦しみ」の共通項を見極めて普遍的な対策を立てる

出典 無(最高の状態)

「自分は精神的に弱いからダメなんだ...」と落ち込んでしまいそうなときに読むことで、ものごとを客観視できたり、苦しみと対峙する方法がみつかったりして、負のループから抜け出せるはずです。