ビジネスパーソンインタビュー

タイプが違うと、わかり合えない「恥」がある!? あなたは何に恥じらいを感じるのか

佐渡島庸平・石川善樹・羽賀翔一著『感情は、すぐに脳をジャックする』より

タイプが違うと、わかり合えない「恥」がある!? あなたは何に恥じらいを感じるのか

新R25編集部

2022/01/02

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2022年、あなたはどんな一年にしたいですか?

「今年は〇〇を頑張りたい」と答えられる方もいれば、その一方で「いきなり聞かれてもわかんないな…」と思う方も多いでしょう。

そんな方は、まずは自分の「感情」に目を向けてみてはいかがでしょう?

編集者の佐渡島庸平さん、予防医学研究者の石川善樹さん、漫画家の羽賀翔一さんの3人による書籍『感情は、すぐに脳をジャックする』には、あまり見つめることのない自分の感情を知覚するための方法が紹介されています。

今回は「」というテーマについて、3人が鼎談。「恥」というのは、どういうときに湧き上がる感情なのでしょうか?

「恥」とは、人が持ちうる高級な感情

石川さん

羽賀君の作品『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)で、主人公のコペル君は友達がいじめられているのを目撃したのにもかかわらず、助けることなく見捨ててしまい恥を感じていたよね、きっと。

羽賀さん

あのときのコペルは、「死んでしまいたい」と思うくらい、自分に失望していますね

石川さん

それは罪の感情なの? それとも恥?

羽賀さん

うーん…。罪かもしれない。

佐渡島さん

そうなんだ。羽賀君の考え方だと、「自分に失望する」のは、恥ではなく罪の感情によるものというニュアンスになるな。

石川さん

恥とは何かを知るためにも、まずは自分が恥ずかしいと感じた体験を話してもいい?

僕が最近恥ずかしいと感じたのは、買い物をしていたとき。研究室に向かう途中、コンビニでミルクティーに入れる牛乳を買ったのだけれど、ふと疑問が湧いたの。

「ちょっと待てよ。自分は40年近い人生で膨大な量の消費をしてきたにもかかわらず、〝消費とは何か〞を考えたことがあっただろうか?」と。

その瞬間、「消費とは何かを考えもせずに消費している自分」が、めちゃくちゃ恥ずかしくなった。

もうね、その場で「うわああああああ!」って(笑)

佐渡島さん

自分を恥じているってことか。羽賀君の恥ずかしい経験は?

羽賀さん

最近ではないですけど、数年前に佐渡島さんが焼き肉をご馳走してくれたとき、人前で号泣してしまったのは恥ずかしかったですね。

そのときは僕以外に、コルクのインターン初日の学生がいて。焼き肉を食べながら、佐渡島さんから「どんな作品を描きたいの?」とか「これからどうしていきたいの?」とか聞かれているうちに、自分のたまっていた感情が爆発しちゃったんです。

インターンの子がいる前で、嗚咽するくらい泣いてしまって。

佐渡島さん

羽賀君のあまりの号泣っぷりに、インターンの存在が影も形もなくなっちゃうというね(笑)

羽賀さん

むしろ、「こいつどうした!?」みたいな目で見られていましたよ。しかも、帰り道がその学生と一緒だったんです。

僕はマンガ家として「どんなに思い悩んでも、それを表では見せたくない」という気持ちがあったから、本当に恥ずかしかったですね。

今思い返しても恥ずかしい…

佐渡島さん

僕からすると、それは「気まずい」という印象なんだけど、羽賀君にとって「気まずい」と「恥ずかしい」は一緒の感情なの?

…なんだか、考えだしたらわかんなくなってきた。わりと難しいね、これ。

石川さん

感情の受け取り方や定義って、人によってこんなにも違うんだ。

羽賀君の号泣の要因には「不安」もあったのだろうけれど、それを人に見られたら、「恥」に変わってしまう

佐渡島さん

感情を言語化しようとすると、意外とあいまいになるね。

自分と他者、人はどちらに「恥」を感じるのか?

石川さん

そういう意味では、漢字ってよくできていると思う。「耳」に「心」があると書いて「恥」でしょ。

だから、耳が赤くなるような感情が恥なんじゃない?

僕、コンビニの一件では本当に耳が赤くなったもん。

でもさ、羽賀君が言っていた「自分はこうありたい、というイメージとの差を他人に見られる」ことが恥だとすると、それを恥だと感じない佐渡島君は、ずっと素の等身大で生きているということかもね。

佐渡島さん

なるほど! それいいヒントだよ。

善樹は誰に対して恥ずかしい?

石川さん

自分だね。人って、抽象度が高い人もいれば、具体的に考えるのが好きな人もいる。

抽象的なことが好きな人って、抽象的なことを抽象的なまま処理できるの。

哲学者とか、まさにそれだと思う。

佐渡島さん

僕も具体的な言動より事象への本質的な理解度に対してのほうが、すごく恥ずかしい。

自分はそんなことさえも、わかっていなかったのか!」という気持ちになる。

羽賀さん

僕はどちらかというと他者に対して恥を感じるほうで、しかも世間一般の、不特定な他者のイメージですね。

たとえば、電車のドア付近に立っていて、ドアが開いたときに誰かが降りると思ってホームによけたら誰も降りなかった、みたいな。

恥ずかしい!」と思いながら、また乗ります。

石川さん

じゃあ、ホームで乗ろうとした電車のドアが目の前で閉まってしまったときに、その場で立ち尽くす人と恥ずかしそうに立ち去る人、どっちのタイプ?

羽賀さん

急に歩き出すタイプです。できるだけ周囲の目から離れたい。

佐渡島さん

善樹はそういうの、気にならないでしょ?

石川さん

ならない。もうね、「威風堂々とはこのことなり!」というくらい、ドーンと立っているよね(笑)

そういえば先日、ヒートテックタイツの上にズボンを履くのを忘れて家を出ちゃってさ。しばらくのあいだ、ステテコみたいなヒートテックだけで歩いていたの(笑)。

それに気づいたとき笑っちゃって。

でも恥ずかしさを感じるより、人に「いやあ、実は今日さ〜」って話したくなる気持ちのほうが強かった。

佐渡島さん

羽賀君、しゃべれないでしょ、そういうの。

羽賀さん

絶対にしゃべれないですね。そのまま帰って自宅で作業します(笑)

佐渡島さん

羽賀君にとっての「恥」は他人の目があってこそで、善樹にとっての「恥」は、自分に向けての情けなさなんだね

僕は、善樹の「恥」の感覚にかなり近い。

石川さん

人の目は本当、気にならないんだよね…

羽賀さん

僕、ティッシュ配りも恥ずかしくて無理です。

無視されたときのリアクションが、いちいち心に突き刺さるので。

石川さん

そうなんだ!?

僕は学生時代、ティッシュ配りのバイトをしていた友人の手伝いを、ボランティアでしたことあるよ。「暇だから俺もまぜてくれ!」って。

そのときは、「どうやれば受け取ってもらえる確率を上げられるか?」というゲーム的な感覚になった。

…それにしても思わぬことができないんだね、羽賀君は(笑)。

佐渡島さん

羽賀君はマンガ家を目指す前、教員になることも考えていたんでしょう?

羽賀さん

それがですね、教育実習のときに、緊張と恥ずかしさでじっとしていられなくて、ぐるぐる動き回っちゃうんですよ。指導官からも「落ち着きがない」と言われるくらい。

授業の終わりに生徒へのアンケートがあって、それを読むのもしんどかったですね。

先生の声は、ずっと聞いていると眠くなります」とか書かれて。

「そんなの直しようがないじゃん!」と思って、教員にはなりませんでした。

石川さん

そこは直せるでしょう!(笑)

佐渡島さん

自分の姿を写真とか雑誌で見るのはどう?

僕は、自分の録音した声を聞くのも恥ずかしい。羽賀君、恥ずかしがるくせに自分を見るのは大丈夫だよね。出演したテレビ番組とか。

羽賀さん

見ます。

石川さん

いや無理無理無理〜!!

普段、鏡とかも見ない。たぶん、「人からどう見られているか」より、「自分というものを見る」ことのほうが恥ずかしいのだろうなあ。

僕、たまにクイズ番組に出させていただくことがあるのだけれど、オンエアを見たことがない…というか出演した番組自体、まだ一度も見たことない。

佐渡島さん

なんで出演を承諾したの(笑)?

石川さん

クイズって、簡単だと思えるような基本的なことが、意外にわからなかったりするから。

あと、間違えたときに自分はどんな感情になるのかに興味があって。

佐渡島さん

僕も日常で何かを間違えること自体は恥ずかしくないけれど、「クイズ番組ともなると、間違えるのを恥ずかしがるかもしれない」と思う自分は恥ずかしい。意味わかる?(笑)

そういう場で気取るかもしれないと思うと、なかなか行けないというのはあるなあ。

高校時代、テニス部に所属していて団体戦の主将を務めたことがあるのね。

で、自分がゲームに負けるとその団体戦での負けが決まる試合で、プレーしながら「これは負ける…」と思いはじめていたのだけれど、「なんかここ、足が滑るな〜」みたいなアクションを、随所に盛り込んだりして(笑)。

負けたときの言い訳をいっぱい用意して負けたの。あの晩は、そんな自分が恥ずかしいという思いで眠れなかった。

タイプが違うと、わかり合えない「恥」がある!?

石川さん

今さらだけどグーグルで「恥」を調べてみた。

【恥】

1 世の人に対し面目・名誉を失うこと。

2 恥ずべき事柄を恥ずかしいと思う人間らしい心。「─を知れ」

Oxford Languages

石川さん

…こうして普通に書いてあるけど、「面目」と「名誉」って、全然違うじゃん! この2つの差って大きいよ?

でもまあ我々は一応、一番目の定義にはたどり着いていたということだね。「2」はすごいな〜。「恥ずべき事柄を恥ずかしいと思う人間らしい心」って?

佐渡島さん

恥ずかしがらないと人間じゃない、みたいな(笑)

ということは、羽賀君のように恥ずかしがる人たちは、善樹や僕みたいに鈍感で恥ずかしがらないやつのことを、人間らしくないと思っていることになるの?

「自分たちのほうが繊細よ!」みたいな感じになりやすいのかな?

羽賀さん

いやいや(笑)。

石川さん

この定義でいうと、我々はもはや人間ではないな(笑)。

この「恥ずべき事柄」が自分にとってなんなのかは、感情を日頃から観察していないとわからないだろうね。

僕らだって、今日やっと「ああ、これって恥ずかしかったんだ」と思えたくらいで。

お、検索していたらこんなのも出た。「欠点、または罪の意識から生ずる苦しい感情」「不名誉な状態、もしくは自尊心の喪失」だって。

佐渡島さん

誰かの自尊心を奪うということ? それとも、自尊心がなくなっているということかな…

何かに失敗して自己肯定感が下がっている人は、周りの目を気にする傾向があるのかもしれない。

そもそも、「何を恥と感じるか」については、国や育った環境、自分たちに植え付けられている文化・習慣にも関係するよね

たとえば公共の場で、男女問わずハグやキスで挨拶をすることをごく自然な慣習とする文化もあれば、それを恥ずかしいと感じる人や文化もある。

だから、常識的であろうとすることをやめると、恥も感じなくなるんじゃないかな。

石川さん

常識と照らし合わせて、そこから外れるようなことが恥ずかしいと思うのは、羽賀君タイプ。

自分にとってよいと思っているものから、外れたときの恥ずかしさが我々のようなタイプ。

この両者のあいだの溝は深いよね。

佐渡島さん

羽賀君は協調や和を大切にする「保全」で、僕らは我が道を突き進む「拡散」とも受け取れるね。基本的に、保全と拡散はわかり合わないよ。

石川さん

じゃあ羽賀君と佐渡島君は、すごいコンビで仕事しているんだ(笑)。

佐渡島さん

羽賀君にかぎらず、マンガ家はわりと「保全」じゃないかな。

編集者やプロデューサーは「拡散」。反発するのではなく、補完の関係だから

石川さん

なるほどね。話しているうちに、どうやら僕の中の「恥」には、2つのタイプがあることに気づいた。

経験したくない恥」と、「経験してよかったなと思う恥」。

テレビや写真で自分の姿を見るというのは、経験したくない恥。経験してよかったなと思える恥は、実はまだ恥じゃない。

…おお、なんか少しだけ進展した気がする!

佐渡島さん

そうなると僕や善樹のようなタイプは、まだ本当の意味での「恥」を知らないのかもしれないね

石川さん

うわあ……。恥を知った気になっていたことが、もうすでに恥ずかしいわ!

「経験したくない恥」が無意識に避けていたエリアなら、恥を知るためにもあえて行ったほうがいいね。

これからは自分の出演したクイズ番組、ちゃんと見ます(笑)。

感情は、すぐに脳をジャックする

2022年は、感情を知覚する

この記事を読み終わったあなたのなかには、どんな感情が浮かび上がったでしょうか?

日々、意識することが少ない感情。「じつは、そのひとつひとつを分解して捉えていくことで人は幸せになれる」と、石川善樹さんは言います。

感情を深く知ることは、仕事にも、人生にも、大きな影響が与えられるはず。ぜひ、少しでもいいので自分の感情を振り返る時間をとってみてください。

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