ビジネスパーソンインタビュー
佐藤航陽著『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』より
メタバースと混同されがちな「NFT」「Web3.0」を解説。なぜバズワードと呼ばれるのか
新R25編集部
メタバース。
インターネット上に3次元の仮想空間を作ることができるテクノロジーで、自分の分身であるアバターがバーチャルの世界を自由自在に移動できる、話題のバズワードです。
メタバースの今後の可能性に早期から着目していたのが、著書『お金2.0』が20万部を超えるベストセラーとなり、2018年のビジネス書で売上日本一を記録した起業家・佐藤航陽さん。
そんな佐藤さんが解説する、「“今”メタバースに注目するべき理由」とは?
担当編集者・箕輪厚介さんも絶賛する新著『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』より、一部抜粋してご紹介します。
メタバースと「NFT」の関係性
メタバースの話が出てくると必ずといっていいほど出てくる言葉に、「NFT」があります。
メタバース=NFTのことだと誤解している方も多いのでここで触れておきたいと思います。
NFTとは簡単にいうとオンライン上の画像や動画や音声などのデジタルデータを、現実世界のトレーディングカードやグッズのように売買したり流通させたりするための技術と考えるとわかりやすいでしょう。
NFTは「デジタル所有権」とたとえられることもあります。
ネット上ではデジタルデータは無限にコピーすることができるので、物理世界のようにグッズやアイテムに希少価値を発揮させることが非常に難しいとされてきました。
そこで、ブロックチェーン技術の「改ざんが難しい」という特性を利用して、デジタルデータに対して現実世界のグッズのように唯一無二の希少性を与えて、バーチャル空間にも物質の有限性を再現しようとする技術がNFTです。
将来的にメタバースとNFTの技術が融合する可能性は高いですが、現段階においてはこの2つの技術は全く別物であり、「相性が良いかもしれない」という点だけが一人歩きして混同されていることが多いです。
メタバースはざっくりいえば、「相互交流できる3次元バーチャル空間」程度の定義ですが、それがブロックチェーン上で動く必然性は今のところありませんし、メタバース内の3DデータがNFT上で売買されたり流通したりする必要もありません。
つまりメタバース領域においてはNFTやブロックチェーンの要素は「あってもいいけど、なくても成り立つもの」という認識であり、実際にそれをサービスに必須と考えているコンテンツもプロデューサーやゲームクリエイターもほとんどいないです。
融合して普及する可能性
メタバース=NFTが混同して語られるようになった背景の一つは、仮想通貨は株式市場と同じように日々価値が変動する自由市場ですので、相場を盛り上げるために常にホットなテーマを取りこむ必要があることです。
上場企業が自社の株価を上げるためにバズワードを絡めたプレスリリースなどを打つことがありますが、あれと非常によく似た現象といえます。
仮想通貨界隈の関係者はブロックチェーン技術がさまざまな産業に応用できることをアピールすることで相場を盛り上げて価値を高めることができます。
そのため、メタバースなどの新しい技術との親和性が過剰に喧伝された結果、「メタバースはブロックチェーン技術に支えられている」「メタバース空間の構築にNFTは必須」といった言説が語られるようになり、そのイメージが一部で定着してしまったのです。
私はどちらの市場でも黎明期からサービスを立ち上げている国内でも数少ない人間だと思いますが、技術も人材も価値観も目指しているものも全く別で、2022年現在もこの2つの分野には未だに大きな隔たりがあります。
もう一つの背景としては、メタバースとNFTを融合させたプロジェクトが少数ながら登場して一定の実績を出し始めているということもあります。
実際に『Decentraland(ディセントラランド)』などのプロジェクトでは、3次元バーチャル空間内をアバターで動き回り、ゲーム内通貨が取引所で現実世界の価値と紐づいて売買され、デジタル空間上の土地やアイテムをNFTとして売買することができる生態系を実現しています。
ゲーム内での活動がそのまま現実世界の価値とリンクすることで、バーチャルの土地が投機性を帯び、仮想通貨界隈を中心に注目が集まっています。
かつて『セカンドライフ』もサービス内通貨「リンデンドル」とUSドルとの為替レートが用意されていて、サービス内でアイテムを作って販売したり、土地を売買して不動産業をして実際にお金を儲けたりしている人が世界中にいました。
『Decentraland』は『セカンドライフ』がやりたかったことをブロックチェーンとNFTの技術を応用することで実現しているといえます。
今後、ユーザー数が数億人単位のゲームを運営している企業が、ゲーム内通貨を仮想通貨として取引所に流通させたり、ゲーム内アイテムをNFTとして売買したり流通させたりする流れが加速してくると、この2つは本当に融合していく可能性があります。
しかし、ヒットタイトルはゲーム内課金だけでも莫大な収益を稼ぐことができるので、ブロックチェーンやNFTを組みこんで開発を複雑にするモチベーションが低いというのが実情です。
個人的な予想としては、『Decentraland』や『The Sandbox』などの既存プラットフォーム上で簡単な3Dモデルを配置してそれらをNFTとして販売して儲けようとする「お手軽メタバース」プロジェクトはこれからも雨後のタケノコのように世界中で生まれ続けるでしょうが、独立したエンタメとしても成立するようなプロジェクトがNFTと融合して数億人単位のユーザーを獲得して世界的に普及するには、あと数年を要すると見ています。
GAFAに対するアンチテーゼとして生まれた「Web3」
もう一つ混同されやすい話として「Web3」もしくは「Web3.0」という概念に触れておきたいと思います。
「Web3」は「Web2.0」に続く新しいインターネットの潮流として語られることがあります。ここでいう3.0や2.0という言い回しは、ソフトウェアのバージョン管理のときに使われる表現です。
1.0→2.0→3.0のように数字を上げていくごとに新しいバージョンになっていくことにちなんで、全く新しい概念が世の中に登場したときに使われることが多いです。
お気づきかと思いますが、本書のタイトル『世界2.0』の2.0もこれまでと全く違う世界が始まるという意味で使っています。
Web3とは「ブロックチェーン技術などを基盤とした非中央集権的なインターネット」を指すことが多いです。
この概念を理解するためにはWeb1.0とWeb2.0などのインターネットの歴史をある程度理解しておく必要があります。
1990年代後半にインターネットが普及しはじめたころは、WEBの情報の流れは一方通行でした。
まだネットにつながっているコンピュータの台数も少なく、通信環境も今とは比べ物にならないほどお粗末でした。
当時は新聞やテレビのように、個人がホームページを開設して情報を発信するということだけでも十分に革新的でした。
それまでは情報発信とは力のあるメディアだけに許されていた特権でしたが、それが個人にも開放された時代でした。
情報発信の民主化がWeb1.0の時代の大きな変化でした。
その後2000年代の前半に、PCが多くの家庭に普及して、ネットを利用する人口も世界中で爆発的に増加し、通信速度も改善していきます。
そうすると、一方通行だったネット上の情報発信はリアルタイム性と双方向性をもつようになっていきます。
つまり、ネット上で情報発信をすると世界中の誰かからリアルタイムでコメントをもらえたりリアクションをもらえたりするようになったのです。
今では当たり前すぎるこのことは、当時は革新的な変化でした。
この流れをネット業界では過去のWEBと区別して「Web2.0」と呼び、ちょっとしたバブルになりました。
この流れの中でコンテンツは運営者が作っていくのではなくユーザーが作っていくという「CGM(Consumer Generated Media)」という考え方が生まれて、クチコミメディアやSNSなどのサービスが世界中で立ち上がりました。
現在の巨大WEBサービスであるFacebook、Twitter、YouTubeなどはこのあたりに誕生して、その後も成長を続けていきました。
それより前に存在していたGoogleやAmazonもこのネットの双方向性という流れを味方につけて、サービスを拡充したり他社を買収したりして現在のような帝国を着々と築いていきます。
現在では当たり前になった「プラットフォーム戦略」という考え方もこの時代の覇者の成功モデルを参考にして提唱されたものでした。
Web2.0の覇者たちはその後も成長を続けてGAFAやBATと呼ばれるようになり、ネットのあらゆる領域に進出して支配的なシェアを占めていきます。
彼らは世界中のユーザーを低コストでかき集めてそのデータを解析することで製品を改善していき、ユーザーが集まれば集まるほど製品の価値が高まっていくという「ネットワーク効果」を武器に、加速度的な成長を実現することができました。
今回のWeb3.0はそうしたWeb2.0の覇者であるGAFAに対するアンチテーゼとして提唱された概念です。
ブロックチェーン技術活用のメリット
GAFAなどのプラットフォーム企業はユーザーのデータを中央集権的に管理し、そのデータの力をフル活用することで成長を加速させてきました。
実際に世の中の多くのサービスや企業は彼らのインフラに依存していて、彼らのサービスに障害が起きるとそれに引きずられてサービスが停止することが度々あります。
また大企業の社内データもクラウドで管理されることが一般的になりましたが、機密情報もGAFAのインフラで管理されて、もしそれらのデータが消失したら凄まじい損失が発生してしまいます。
一般ユーザーの立場からすれば気軽に無料でSNSを通して情報発信できることは便利ですが、もしTwitterやInstagram、YouTubeのアカウントがいきなり停止された場合、今まで投稿したデータはすべて使えなくなってしまいますし、フォロワーやチャンネル登録者などの「資産」も一気に消失してしまいます。
ネット上での情報発信を生業としているクリエイターからすれば恐怖でしかありません。
Web3はこれまでGAFAなどのプラットフォーマーが中央集権的に支配していたデータの主導権をユーザーの手に戻し、非中央集権的・分散的なインターネットを実現していこうという流れを指しています。
そしてそれをブロックチェーン技術を活用して実現していこうと考えているわけです。
これが実現できればプラットフォーマーに自分のデータを預けることもないので、プライバシーを侵害されることもないし、アカウントがバンされて活動が停止になるリスクもないし、企業がGAFAなどのプラットフォーマーに支配されることもなくなるということがメリットとして挙げられています。
実際にインターネットは成熟と共にどんどん分散性が高まっていっており、情報発信の担い手も大企業から個人に変わっていき、テレビでよく見る芸能人よりもSNS上で活動するインフルエンサーやYouTuberのほうが人々に与える影響力は大きくなってきています。
中央集権的だったものは成熟と共にどんどん分散していくという、熱力学におけるエントロピー(entropy=乱雑さ)のような流れは今後も続いていくと考えると、Web3で提唱されていることが実現していく確率はかなり高いと個人的に考えています。
新しいテクノロジーに触れてみたくなる一冊
『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』は、メタバースを中心とした新たなテクノロジーを丁寧に噛み砕き、理解しやすくまとめられた一冊。
そして、それらが「人格」や「価値観」といった「個」と密接に関わっていることを学べます。
最新技術に抵抗感を覚える人も少なくないと思いますが、人生観にきっとよい影響をもたらしてくれるはず。ぜひ読んでみてくださいね。
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