ビジネスパーソンインタビュー
葉石かおり著『名医が教える飲酒の科学』より
毎日ビールを3缶飲む人は、がんのリスクが上がる。お酒の“ほどほど”な適量とは
新R25編集部
会食・飲み会・イベント…コロナの規制が少しずつ緩和されるなか、久しぶりに外飲みの予定を入れた人も多いのではないでしょうか。
そこで再考したいのがお酒の飲み方。飲酒量が変わったコロナ禍で、久々に外飲みする際の適量は? 健康的に末長くお酒を楽しむには?
その答えを教えてくれる一冊がこちら。
8年にわたって“酒と健康”をテーマにコラムを執筆してきた酒ジャーナリスト・葉石かおりさんが、専門家の助言のもと“お酒が人体に与える影響”を明らかにした新著『名医が教える飲酒の科学』(日経BP)です。
同書から「飲酒寿命を伸ばすお酒の適量」について一部抜粋してお届けします。飲み会前にご一読ください!
この記事はこんな人におすすめ!(読了目安:5分)
・久々の飲み会、お酒で失敗したくない
・飲酒寿命を伸ばす「お酒の適量」が知りたい
・コロナ禍を機にお酒との付き合い方を変えたい
久しぶりに飲むと弱くなっているのはなぜ?
コロナ禍では、酒場が新型コロナウイルスの感染リスクの高い場所として名指しされ、飲食店でのアルコールの提供がなくなり、「外飲み」が一切できないときがあった。
自宅ではほとんど酒を飲まず、外飲みがメインだった人の多くは、コロナ禍によって飲酒量がガクンと減ることになった。
そして、緊急事態宣言が解除され、久しぶりに酒を口にしたとき、「あれ、弱くなっているな」と感じた人は少なくないだろう。
いつもより少ない量で酔いが回ったり、ビール1杯で顔が少し赤くなったり、すぐ陽気になったりするのだ。
なぜこのような現象が起きるのだろうか。
肝臓専門医・浅部伸一さんによると、「久しぶりに飲んだら酒に弱くなっていた」という経験をする人は、実は「酒を飲み続けるうちに、だんだんと強くなっていった」という経験もしているのだという。
どういうことだろうか。
もともとあまり酒に強くなく、すぐに顔が赤くなったり、少量で酔っぱらったりしていた人でも、飲み続けるうちにだんだんと酒に強くなり、量も多く飲めるようになる、ということがある。
実は私もそのタイプだ。
強くなることを「肝臓が鍛えられた」などと言ったりする。
そういうタイプの人は、しばらく飲まない、あるいは飲む量が減った日が続くと、今度は酒に弱くなってしまう。
というか、「元の強さに戻る」のである。
名医が教える飲酒の科学「コロナ禍でお酒を飲む機会が減った人が久しぶりに飲んだとき、以前のように飲めず、『弱くなっている』と感じたのであれば、鍛えて強くなった分がなくなり、元のお酒の強さに戻っている可能性が高いでしょう」(浅部さん)
お酒の適量は「ビールの中瓶(500ml)1本」
多くの酒飲みが知りたいと感じているのは、自分にとってどれぐらいの飲酒量が「適量」なのか、ということである。
酒に強いからといって、毎晩浴びるように飲んでいたら病気になるのは目に見えている。
また、「ほどほど」に飲めば健康にいいのではないか、という期待も多くの人にあるだろう。
長寿大国の日本では、100歳を超える長寿の方が晩酌をするシーンがニュースなどで流れたりもするので、「酒は百薬の長」という言葉が今なお多くの人に信じられている。
そこで、飲酒と健康についての研究を手がける医師の筑波大学准教授・吉本尚さんに聞いてみた。
先生、医学的な「適量」はあるのでしょうか?
名医が教える飲酒の科学「厚生労働省は2000年に、21世紀における国民健康づくりを目的とした『健康日本21(第1次)』を発表しました。
その中で、『節度ある適度な飲酒』として1日平均純アルコール換算で約20g程度という数字が明文化されました。
これが日本におけるいわゆる『適量』であり、この数字が出たのは画期的なことでした」(吉本さん)
日平均純アルコール換算で約20g程度…。
これはつまり、飲んだ酒に含まれるアルコールの重さがだいたい20gになるという意味だ。
20gというと、ビールなら中瓶(500ml)1本、日本酒なら1合(180ml)、ワインならグラス2〜3杯だ。
正直、少ない。
しかも、女性はアルコールの影響をより受けやすいので、その半分から3分の2程度が適量だとされている。
あまりの少なさにがっくりしてしまう。
それでは、1日平均20g程度という適量は、どのように決まったのだろうか。
名医が教える飲酒の科学「日本人男性を7年間追跡した国内でのコホート研究の結果や、欧米人を対象とした海外の研究の結果などを基に、なるべく病気のリスクが上がらない飲酒量ということで決められました。
逆に、どれだけ多く飲むと体に悪いのかについては、毎日60g以上飲むとがんをはじめとするさまざまな病気のリスクが上がることが以前から知られていました」(吉本さん)
なるほど、1日で60g以上はキケン、せめて20gに抑えよう、ということか。
覆された「少し飲んだほうが長生き」説
さて、その海外の研究結果の中に、興味深いグラフがある。
名医が教える飲酒の科学
横軸を1日平均アルコール消費量、縦軸を死亡リスク(酒を飲まない人を1とした相対リスク)にすると、男性については1日当たりのアルコール量が10〜19gで、女性では1日9gまでが最も死亡リスクが低く、それ以降はアルコール量が増加するに従って死亡率が上昇することが示されている。
これを根拠に「まったく飲まない人よりもほどほどに飲んだほうが長生き」という説を信じている酒好きもいる。
なぜこのような形のグラフになるのかというと、心疾患や脳梗塞などの血管に関連した病気については、少し酒を飲んだほうが良い影響があるためだ。
しかし吉本さんは、
名医が教える飲酒の科学「このグラフについては、以前から研究者の間では『まったく飲まない人の死亡リスクがこんなに高くはならないのではないか』という指摘がありました。
飲酒が血管に対していい効果があるのは確かとはいえ、ほかの病気については少量の飲酒でもリスクが上がることから、トータルで見たら飲酒量は少なければ少ないほうがいいのではないか、と研究者の間では考えられてきたのです」
と話す。
そうして研究が続けられ、ついに2018年に世界的権威のある医学雑誌ランセットに画期的な論文が掲載される。
名医が教える飲酒の科学
名医が教える飲酒の科学「この論文は、1990〜2016年に195の国と地域におけるアルコールの消費量とアルコールに起因する死亡などの関係について分析したもので、健康への悪影響を最小化するアルコールの消費レベルは『ゼロ』であると結論づけています。
つまり、『まったく飲まないことが健康に最もよい』ということです」(吉本さん)
名医が教える飲酒の科学「1日の飲酒量が10gくらいまでは疾患リスクの上昇はあるものの緩やかで、それより多くなると明確に上昇傾向を示しています。
『飲むなら少量がいい、できたら飲まないほうがいい』ということですね」(吉本さん)
もちろん、論文ひとつで結論が下せるわけではない。
だが、「酒は百薬の長」とは言えなくなったのは間違いないだろう。
読むだけで“飲酒寿命”が延びるバイブル
著者の葉石さんは、ステイホーム中に自宅での飲酒量が増えた結果、「逆流性食道炎」(胃の中のものが食道に逆流して、胸やけなどを起こす病気)と診断を受けたのだそう…。
しかし同書の取材で専門家の助言を受けるうちに、刹那的にお酒を飲むことがなくなって、料理とともに時間をかけてお酒を楽しめるようになったといいます。
お酒好きにとっては耳の痛い話もあるかもしれませんが…コロナ禍でお酒との付き合い方が変わったタイミングに、読んでおきたい一冊です。
ビジネスパーソンインタビュー
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