麻野耕司著『NEWSALES―新時代の営業に必要な7つの原則』より
顧客は「決済者」「運用者」? 相手の質問に隠れた“本当の狙い”を理解するコツ
新R25編集部
無理矢理売り込んだり押し付けたりする営業に、そろそろ限界を感じている…そんな営業担当者もいるのではないでしょうか?
無理に営業しなくても、顧客から「会いたい」「買いたい」と言われて受注率を急伸させる方法があるなら、ぜひ知りたいですよね。
その方法が書かれているのが、株式会社ナレッジワーク代表取締役・麻野耕司(あさの・こうじ)さんの新著『NEWSALES―新時代の営業に必要な7つの原則』(ダイヤモンド社)。
これまでの古い売り方「OLD SALES」から、これからの新しい売り方「NEW SALES」へ生まれ変わる方法が書かれた同書より、顧客の共感を呼び起こす「シンパシー営業」について一部抜粋します。
この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・なかなか受注できない新米の営業担当者
・やり方をアップデートしたいベテラン営業担当者
・営業担当の成果をより上げたい責任者
顧客の「4つの役割」を知って、キャラを見定めよ
今、営業に求められるスキルは何でしょうか。
それは「自分のキャラクターを売り込む」ことではなく、「相手のキャラクターを見定める」こと。
そして相手のキャラクターに合わせて適切に対応する力です。
購買とは通常、複数の関係者の合意によって進みます。
複数の関係者は、それぞれの役割を持っており、その役割によって志向の特徴や傾向が異なります。
その役割とは、次の4つに分けられます。
NEWSALES―新時代の営業に必要な7つの原則①運用者
商品・サービスの導入・運用を進める
②利用者
商品・サービスを利用する
③管理者
商品・サービスの購買について必要事項を確認する
④決裁者
商品・サービスの購買の最終判断をする
企業の購買では、4つの異なる役割を持つ複数の部署の合意がなければ、決裁は通りません。
例えばITシステムの場合、その設定や運用を進める部署が「運用者」、ITシステムを実際に利用する現場が「利用者」、セキュリティなどを確認する情報システム部署が「管理者」、導入の最終判断をする役員が「決裁者」、となります。
営業担当者が商談を進める中で、前半では「運用者」や「利用者」への合意が必要となり、後半には「管理者」や「決裁者」の合意が必要になります。
個人の購買でも、一定以上の金額の商品やサービスになると、複数の関係者の合意によって進んでいきます。
例えば、子供の進学の場合、塾選びを主導し、送り迎えなどを担当する人が「運用者」、塾に通う子供が「利用者」、家計から月謝を捻出し、意思決定をする人が「決裁者」となります。
自分の顧客がどの役割を担っているのか。
また、それぞれの役割となる相手がどのような考え方をするのかを事前に把握できれば、顧客の共感を呼び起こす「シンパシー営業」が実践できます。
それぞれの役割の購買担当者が考えていることの傾向と営業担当者の対応ポイントを整理しました。
NEWSALES―新時代の営業に必要な7つの原則① 「運用者」が考えていることと対応ポイント
「導入や運用の工数や負担を最小限に抑えたい」
・商品やサービスの利便性を提示する
・導入や運用に向けたステップやタスクを提示する
・導入後のサポート内容を紹介する
「決裁者から評価されたい」
・組織の方針と合致している商品・サービスであることを伝える
・ほかの顧客の決裁者の評価を伝える
「利用者からの不満を避けたい」
・ほかの顧客の利用者の評価を伝える
② 「利用者」が考えていることと対応ポイント
「不便な状況を避けたい」
・商品やサービスの利便性を提示する
「自分の成果を高めたい」
・商品やサービスから生まれる効果や成果を提示する
「上司の指示に従いたい」
先に上司の合意を得る
③ 「管理者」が考えていることと対応ポイント
「リスクを避けたい」
・商品・サービスの導入に伴うリスクを提示する
「全体の整合性を取りたい」
・ほかに導入している商品・サービスと比較した位置付けを明示する
④ 「決裁者」が考えていることと対応ポイント
「組織全体の方針と合っており、競合に対する優位性を持ちたい」
・組織全体の方針と商品・サービスが合致していることを提示する
・業界の動向や競合の取り組みを紹介する
「最終成果を高めたい」
・商品やサービスの投資対効果を提示する
「商品やサービスの細かい機能や性能への関心は低い」
・商品やサービスの機能や性能を細かく説明しすぎない
かつて、私があるITシステム企業の営業変革プロジェクトでインタビューをした営業のハイパフォーマーは、顧客の名刺にある肩書を見た瞬間に、その担当者の役職がどのような特徴を持ち、商談を進めるには何がポイントになるのかが、大枠でイメージができると言っていました。
顧客の質問や要望を受けてそれに対応するのではなく、役職や立場から相手の役割を察知し、対応ポイントを見定めておく。
そうすれば的確な営業が可能になります。
どのような役割を持った関係者が意思決定を下していくのか。
顧客のそれぞれの役割と考えていること、さらには対応ポイントをまとめておくことで、「シンパシー営業」はより進めやすくなります。
顧客の深層を理解するためのアクション
ただ、ある程度まではタイプ分類で顧客を把握できたとしても、現実はもっと複雑です。
また顧客の状況は時間と共に変化もします。
ですから営業担当者はその都度、顧客の言動や行動をより微細に観察すること。
その上で、顧客の深層レベルの状況や心情を把握することが、相手の共感を生み出すためには重要です。
相手の表層的な言動や行動に対応するだけでは、深い共感は生み出せません。
例えば、顧客から「御社の顧客は、どのような規模や業種の企業が多いのですか?」と問われたとします。
「弊社の顧客はIT業界の中堅企業が多いです」と答えるのは、表層レベルの回答です。
一方、質問を通して「自社と商品・サービスが合致するかを確認するために、同規模・同業種の導入実績があるかを知りたいと望んでいるのだろう」と、質問の狙いが理解できれば、次のように回答するでしょう。
「弊社の顧客で多いのは、IT業界の中堅企業です。ただ直近では○○社や△△社など、御社と同じ規模の大手製造業での導入が増えています」
こう聞けば、顧客は少し安心するのではないでしょうか。
顧客の表面的な言動ではなく、深層レベルの状況や心情を把握するには、時には質問や意見にすぐ答えるのではなく、質問の意図を確認してみましょう。
「よろしければ、その部分が気になった理由を教えていただけますか」
「差し支えなければ、そのようなご意見に至った背景をうかがえないでしょうか」
この際、相手が質問や意見を否定されたと感じないよう、次のような言葉を添えるのも効果的です。
「ご質問くださり、ありがとうございます」
「そうしたご質問は、ほかのお客さまからもしばしばいただきます」
「○○さんのご意見が非常によく分かりました」
もちろん、相手のあらゆる質問や意見に対して、こうした質問を返していては商談が進みません。
大切なポイントでは、相手の状況や心情を把握するために質問し、それ以外の場面では相手の様子を観察しながら商談を進めることです。
この見極めも重要なポイントです。
多くの場合、顧客の質問や意見の背景には、同じような心情があるものです。
これらのパターンを営業担当者がまとめておくことも有効です。
例えば、「他社はどのような体制でこのITシステムを運用しているのですか」という質問をもらった場合。
この質問の裏側には、「自分たちの会社は人員にあまり余裕がない。このITシステムを導入したとしても、人手不足で運用できないかもしれない」という不安が隠れていたりします。
その場合、営業担当者は相手の質問の裏側にある意図を理解した上で、こう回答するといいでしょう。
「他社さまは、様々な体制で運用されています。ある企業では担当者を1人決め、その方が0.2人月を使って運用しています。またある企業では担当者が複数人おり、役割分担をしながら運用されています。運用は非常に重要なので、弊社からは最小工数で最大の効果を上げられる体制をご提案いたします」
こう言われると、きっと顧客の不安も解消され、受注の確率は高まるでしょう。
“ダサくてウサンくさい営業”から脱却できる一冊
NEWSALES―新時代の営業に必要な7つの原則これまでの営業「OLD SALES」には、「精神論重視でダサい」「お金の話ばかりでキタない」「口八丁手八丁でウサンくさい」といったネガティブなイメージがつきまとっています。
しかし、これからの時代に求められる「NEW SALES」は、こうした既存のイメージとはまったく異なります。
真逆と言ってもいいでしょう。
麻野さんが「企業に成長を、個人にやりがいを届けたい」という想いで書いた同書は、古い価値観から脱却した、これからの時代の営業メソッドを学べる一冊。
成果ややりがいにつながらずモヤモヤしている営業担当者は、ぜひお読みください。
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