次にくるのは、あの業界…!
グローバルの先端を行く投資家たちが注目する“次のトレンド”は? スタートアップ専門家にこっそり教えてもらった
新R25編集部
これから起業や新規事業の立案といった新しいことを始めてみたいビジネスパーソンなら、次にくるビジネストレンドは、つねに先駆けて押さえておきたいもの。
そこで、世界の最新ビジネストレンドを聞くべく、株式会社デジタルガレージと大和証券グループの合弁会社であるベンチャーキャピタル(※)DG Daiwa Ventures(通称DGDV)のお三方にお集まりいただきました。
ベンチャーキャピタル(以下、VC)…未上場のスタートアップ企業に出資して株式を取得し、上場した際に株式を売却するなどして大きな値上がり益の獲得を目指す、投資会社や投資ファンド
左から、西川由真さん、渡辺大和さん、野島隆太郎さん
国内外問わず、世界を舞台に投資を重ねてきたDGDV。2016年の設立から6年ほどで、すでに3社がユニコーン企業(※)に成長したのだとか。
ユニコーン企業…評価額が10億ドル以上の未上場スタートアップ企業
最新のビジネストレンドへの審美眼を持つお三方に、「世界が注目する、次にくる3つのビジネストレンド」を教えてもらいました。
これは、知っておかなきゃマズそうです…!
〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉
次くるビジネストレンド① 世界有数の起業家育成プログラム「Yコンビネーター」の参加企業
福田
今日はお三方に、次にくるビジネストレンドを伺いたいと思っています。
渡辺さんは、どんな領域に注目していますか?
渡辺さん
私は、個人的には「脱炭素」に注目しています。
2015年採択のパリ協定で、「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」という世界各国の段階的な基準が定められました。
そこが起点となって、だんだんと経済にも影響が及び、昨今では環境に優しいサービスを提供する「グリーンテック」のスタートアップがどんどん増えているんです。
投資部長/マネージングディレクターの渡辺大和さん。大学在学中の起業経験を経て、電通でCVC投資、スタートアップと事業部の連携などに携わった後DGDVに入社。毎日が刺激的で、「なんでこんな優秀な人たちと働けているんだろう…」とふと我にかえる瞬間があるのだそう
福田
グリーンテック…最近よく聞きますね。
渡辺さん
わかりやすいのが自動車業界だと思うんですけど、二酸化炭素を排出しない「EV(電気自動車)」が開発されています。
世界的に知られるBMWなどの人気車も、もうすぐ半数がEVになると言われているんです。
福田
半数も…!?
まわりまわって、僕たちの生活に直結してくる領域でもあるんだな…
渡辺さん
また、「セキュリティ」分野にも注目が集まっています。
個人情報がどんどんクラウドに上がる前提の社会となっていることから、より強化されたサイバーセキュリティが求められていて。
すでに日本でも情報漏洩などの問題を未然に防げずに、たびたび事故が起こっていますよね。
福田
たしかに…
渡辺さん
この「脱炭素」「セキュリティ」という2つの領域は、社会のこれからの流れを踏まえて爆発的にニーズが増えていくはずです。
というのも、世界最大のアクセラレータープログラム(※)である「Yコンビネーター」でも投資が増加している領域なんですよ。
アクセラレータープログラム…VC・事業会社・団体が主催する、未上場のスタートアップ企業に対して事業成長、拡大を急速に促進するために、3カ月~6カ月程度の期限を設けて提供する育成プログラム
福田
Yコンビネーター…?
渡辺さん
過去にユニコーン企業への成長や大型の上場、売却を経験したような「投資家」と「事業家」の顔をあわせ持つ凄腕のメンターたちが、3カ月かけて若手起業家を育成するアメリカでも有数の経営者育成プログラムのことです。
過去にはここから、Airbnb(エアビーアンドビー)やDropbox(ドロップボックス)といった有名企業も輩出されました。
福田
すごい…めちゃくちゃ有名な企業じゃないですか。
渡辺さん
ただ、参加のハードルが非常に高いことでも知られていて。
世界中の有望なスタートアップが応募しますが、選ばれるのはたったの2%くらいなんですよ。
福田
2%…
渡辺さん
私たちDGDVは、Yコンビネーターから招待いただいて投資家として参加しています。
投資家の立場からしても、厳しい審査を勝ち抜いた優良なスタートアップと出会うための特別な場所になっているんですよね。
そんなYコンビネーターも、一層注力している「グリーンテック」と「セキュリティ」。今後起業などを考えられているなら、注目しておいたほうがいい領域だと思います。
世界有数の起業家育成プログラムが注目する領域…来ないわけがない
次くるビジネストレンド② 金融体験の摩擦をなくす「フィンテック」
福田
続いては野島さんに伺いたいと思います。
野島さんはどの領域に注目していますか?
野島さん
私は、金融とテクノロジーを掛けあわせた「フィンテック」に注目しています。
野島隆太郎さんはボストン大学で金融学を学び、SMBC日興証券での投資銀行業務やSBIグループでのVC経験などを経てDGDVに入社。成し遂げたいことは、投資家とスタートアップの架け橋となり日本のスタートアップエコシステムに寄与すること
野島さん
フィンテックの意義は、お金にかかわる面倒な体験や複雑な操作といった“金融体験の摩擦”を、テクノロジーで解消していくことにあって。
たとえば今って、わざわざ銀行の窓口に行かなくてもスマホひとつで送金できるじゃないですか? あれもフィンテックの技術です。
福田
そう考えると、すでに結構使ってる気がします。
お金をおろしにATMに行くことも、すっかりなくなったし…
野島さん
すでに使われていると思いますが、ここからさらにイノベーションが起きる領域だと思っています。
というのも最近、金融データの民主化が進んできているんですよ。
野島さん
これまでは「支出・収入」「お金の動き」といった個人の金融データは、口座を開いた特定の銀行にしか溜まっていかなかった。
でも今は、ほかの企業も活用できるように金融データがオープンになっているんです。もちろんユーザーの許可が必要ではあるのですが。
福田
もうすでに、個人の金融データが活用されているってことですか…?
野島さん
はい、活用されています。
たとえば、スマホの家計簿アプリに登録したら、自動的に銀行口座が同期するようになってますよね?
ほんとだ、しっかり活用されている
野島さん
金融データを解析してユーザーのお金の使い方の傾向がわかれば、使いすぎに「待った」をかけたり、ベストな保険商品や資産運用をアドバイスしたりできるようになります。
お金の管理が面倒な人からしたら、高額な決済が3カ月続いたときに「使いすぎだよ」って教えてくれたらうれしいじゃないですか?
福田
めちゃくちゃうれしいです。
野島さん
そうですよね。
イギリスのCleo(クレオ)という会社からは、個人に寄り添った金融アドバイスをチャットで気軽に受けられるスマホアプリも出てきています。
もうアプリまでできてた
野島さん
日本でも、2020年に「金融サービス仲介業(※)」ができて…
金融サービス仲介業…2020年の法改正で、1つの登録さえあれば、銀行・証券・保険や貸金すべての分野でのサービスの仲介業務が実施可能となった
野島さん
金融商品ごとに認可を取らなくても、ひとつのアプリでいくつかの金融商品を扱えるようになりました。
「金融データの民主化」「金融サービス仲介業の解禁」とインフラは整ったので、ここから新しいフィンテック企業がどんどん生まれてくることが予測されます。
欧米や中国ではすでに加熱しているとおり、世界的にもさらに注目される領域になるはずです。
なんでみんながフィンテックに夢中になるのかわかってきた
次くるビジネストレンド③ スタートアップ発の「ヘルスケア」
福田
西川さんはいかがでしょうか?
西川さん
私は「ヘルスケア」の領域に注目しています。
なかでも「フェムテック」が面白いんですよね。
西川由真さんは住友商事入社後、インフラ案件の投資・審査を担当。その後、ロンドン駐在でM&Aや経営サポートを経験。幼少期をタイで過ごした経験から、途上国開発・インパクト投資にも関心があり、世界全体が幸せに豊かになる未来を構想しているそう
福田
フェムテック…なんとなく聞いたことがあります。
西川さん
「生理」「更年期障害」「妊娠」といった女性が抱える健康の課題を、テクノロジーでサポートするサービスのことです。
2019年あたりからアメリカや欧州を中心に伸びてきて、同時期に男性の健康にかかわる「メンテック」もでてきました。
福田
そういう性特有の悩みって、いつの時代もあったと思うんですけど…
なんで今ようやく注目され始めたんですか?
西川さん
今までも潜在需要としてはずっと存在していましたが、領域的にもタブー視される傾向が大きく、商業化は避けられがちでした。
そんななかテクノロジーが進化してきて、周囲に知られずに誰でも安心にサポートを受けられるようになったことで、潜在需要をくみ取れるビジネスモデルが構築されてきたんです。
福田
そうか…オンライン受診などで気軽に相談できるようになったから広がってきたんですね。
西川さん
2019年頃には、これらが「フェムテック」と提唱されるようになり、ますます多くの人に身近になってきました。
ある意味、スタートアップが切り拓いてきた市場です。
西川さん
じつは「更年期障害」という言葉が世間に受け入れられてきたのも最近なんです。
「女性は年齢を重ねるとイライラしやすくなるもの」と思われてきたところから、「ホルモンバランスによって起こる症状」というのが医療の進化に伴いわかり、フェムテックの活動によって啓発が進んできました。
福田
そうなんですか!? 知らなかった…
西川さん
近年では、「D2C」と「遠隔医療」を掛け合わせたプラットフォームも出てきています。
アメリカのユニコーン企業Ro(ロー)のアプリでは、オンライン診療からダイエットサプリの購入までをスマホからワンストップで受けられるんです。
福田
それ、すごい便利ですね。
診療後にわざわざ薬局に処方箋をとりに行くの、正直めんどくさいですし…
西川さん
まさに、「体調が悪いのに病院・薬局に行かなきゃいけない」という通うハードルの高さとか、「まわりの目が気になる」という相談のしにくさを解消できるんですよ。
それに病院側も、オンライン診療なら遠隔地の患者なども受け入れられます。
課題にテクノロジーがようやく追いついてきたからこそ、伸びてきているんだと思いますね。
いいことづくしだ
西川さん
ほかにも、アメリカのAllara Health(アララヘルス)のように、医師・看護師・栄養士を自社で雇用してサービスを展開している企業もあります。
アプリ上で申し込むと医師・看護師が自宅まで診断をしにきてくれて、それ以降の治療もずっとスマホでおこなえるサービスです。
福田
医師のほうから診にきてくれるのか…便利ですね。
西川さん
コロナ禍でオンライン診療の規制緩和が進みましたし、私たち消費者側もそういった新しい診療の形を受け入れやすくなっていますよね。
よりパーソナライズされた診療が求められていくなかで、ようやく市場が生まれたフェムテック・メンテックはまだまだ伸びしろのある領域です。
ここからさらに加速していくと思いますね。
病院で診療を受けなくても、病気を治せる時代がくる…かも?
なぜ世界のビジネストレンドをキャッチできるの? DGDVが見据える未来
福田
技術開発がすごいスピードで進んでいることにビックリしているんですが…
そもそもみなさんは、そういう情報をどうやってキャッチしているんですか?
渡辺さん
DGDVは、ほかの日本企業にはない独自のネットワークを持っていると自負しています。
大和証券グループとデジタルガレージグループが、過去から綿々と築いてきたグローバルなネットワーク資産を活用したり、先ほどお話した「Yコンビネーター」にも積極的に参加したりして投資実行していて。
投資実績を積んでネットワークを広げるなかで出会った世界中のトップVCや事業会社と、地道に何度もアポイントを取ることで信頼関係を深めて、ギブアンドテイクでさまざまな情報を開示してもらっているんです。
「世界中のVCの方と話すので、深夜から朝8時までリモート対峙することもありますよ」とのこと。意外と泥臭いこともやってるんだな…
福田
世界のトップVCとの関係構築とか、一筋縄ではいかなさそうですけど…
どうしたら信頼してもらえるんですか?
渡辺さん
具体的には、日本の投資先を紹介しています。
海外のVCにとっては、日本語圏だけに埋まっているスタートアップのビジネスや技術が目新しい情報となります。こちらからもそういった情報を開示することで、信頼関係を築いていけるんです。
よく思うんですけど、日本って、“言語の壁”で損している国で。
渡辺さん
じつは脱炭素の「グリーンテック」も、国連で温暖化対策のルールができる前から日本では関連する技術の開発が進んでいたし、国民のエコの意識ももともと高い。
にもかかわらず世界でのルールメイクで主導しきれなかった理由の一つは、言語の壁にあると思うんです。
福田
言語の壁か…
渡辺さん
だから私たちは、まずグローバルで戦えるチームをつくったんです。
メンバーはみんな、海外大学・大学院卒や海外勤務など、なにかしらのグローバルな経験を実践的に積んできている。
なので、言語の壁を超えて生の情報を世界中のステークホルダーと自由に交換できます。
福田
そんなスペシャリストたちが集まっているんですか…僕とあまり年齢が変わらなさそうなのに…
渡辺さん
DGDVはポテンシャルのある20代と経験豊富な30代〜40代のメンバーを中心に成り立っています。
このチームで、日本の技術が世界のイニシアチブを取り戻すための“グローバルな橋渡し”がしたいんです。
渡辺さん
そのためには、アメリカのSpaceX(スペースエックス)みたいな、国家の枠組みをも越えて利活用される事業が日本からもどんどん誕生しないといけない。
でも、国家レベルの事業を任される企業になったスタートアップはまだほとんどありません。
だから、私たち自身でもユニコーン企業を育てていきたいと思っています。
福田
そうか…投資して終わりじゃなくて、ユニコーンに育てなきゃいけないんですね。
渡辺さん
そうです。幸い、私たちが投資したうちの3社がすでにユニコーン企業になっていて、彼らが日々何に悩みどう解決してきているか目の当たりにしているので、その辺りの知見が溜まってきています。
この知見を国内の起業家や新規事業を立案している方々にもフィードバックして、日本から立ち上がるスタートアップや新事業の価値を上げていきたいんです。
こういった思想や文化を保ちながら、世界の有力VCたちと並び立つべく、2030年には“1兆円規模のファンド”をつくりたい。これが私たちの目標です。
世界の最新ビジネストレンドを聞いて、SFの世界観が現実で起こり始めていることにビックリしてしまいましたが…
日本の優れたスタートアップ技術を世界と結びつけるDGDVのみなさんが、日本から世界を変えてくれるような気がしました。
「新規事業を任せられたけど、どこから情報をとればいいかわからない」「ゆくゆくは会社をグローバル化していきたいけど、知見がない」…そんなときにDGDVからアドバイスをもらうことで、新しい選択肢が見つかるかもしれません。
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