ビジネスパーソンインタビュー

「メルカリはど真ん中だった」小泉文明が早期から“ESG”を重視した本当の理由

市川祐子著『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』より

「メルカリはど真ん中だった」小泉文明が早期から“ESG”を重視した本当の理由

新R25編集部

2022/10/13

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「ESGの担い手は企業である」と言われても、実際に取り組んでいる企業がどこなのかピンとこない方も多いのではないでしょうか。

みなさんの身近な企業だと、フリマアプリを運営するメルカリがその一つです。

そんなメルカリの中でもESGに早期から取り組もうとされたのが、取締役プレジデント(会長)の小泉文明さん

そんな小泉さんへのインタビューが、上場・未上場の複数企業の社外役員を務めている市川祐子さんの著書『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』にて実現しています。

今回はそのインタビューの中から、メルカリがESGに取り組んだきっかけや社内で大切にしていることについて抜粋。

そこにはメルカリの戦略が隠されていました。

この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・メルカリのビジネスに興味がある人
・企業が行うESGについて知りたい人

メルカリは、ESGに最速で取り組んだ

市川さん

小泉さんはメルカリでESGに非常に早くから積極的に取り組んでいらっしゃいます。

どういう過程だったのかお聞きします。

小泉さん

まずESGを打ち出していこうというのは僕が言い出しっぺなんです。

社長室直下のプロジェクトとしてESGへの取り組みを始めたのは2018年のことで、マザーズ上場企業(当時)では、多分うちは一、二を争う早さだったと思います。

グローバルな資本市場の流れの中でESGの文脈が出始めたタイミングで、これはすごくメルカリと相性がいいぞと、ピンときたんです

市川さん

フリマアプリの運営というメルカリの事業は、まさにESG投資家が目指す循環型社会の実現のど真ん中にありますものね。

そのことにいち早く気づき、メルカリの「ミッション」と「バリュー」を言語化して、グローバルに発信した。そこが素晴らしいです。

小泉さん

日本は「もったいない」という言葉が示すように、ESG的な文化が元々あるのですが、投資家への説明のフォーマットがすごく日本ぽくて、グローバルに伝わりにくいんです。

でも僕が思うに、ESGの良さは、同じフォーマットで投資家が世界中の企業をすぐに比較できるっていうこと。だからそのフォーマットで発信したら、絶対に僕らは評価されるだろうと思っていました。

市川さん

ESGのフォーマットというのは、ESG投資家が使う評価基準のことですね。

ミッションを核に価値創造ストーリーをつくり、Eは二酸化炭素排出量削減とか、Sなら人的資本とか事業に重要性のあるものを彼らの見やすいように整理し、サステナビリティレポートとして開示する。

共感がメリットを生み出す

市川さん

私が驚いたのは、メルカリのミッションとバリューをつくったのは社員がまだ10人のときだということ。

ミッションは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」。

バリューが「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」の3つ。

創業時からはっきりしています。

小泉さん

ミッションとバリューは会社のカルチャーそのものについての発信ですから。

市川さん

そういった発信は、対投資家だけじゃなく、社員にもいい影響があったそうですね。

小泉さん

海外で働く社員から「メルカリのサービスを使ったことはなかったけど、プロダクトを通して世界をどう変えてきたかというところに共感したから入社したんだ」と言われたことがあって、ものすごくはっとしました。

それもメルカリのサービスが展開されていない国の社員が、あらためて感じてくれたようで。

市川さん

本当にいい話ですね。

言葉にしたことで、いろんなメリットが出る。

小泉さん

言葉にしなくてもプロダクトを見れば分かるよねって考えがちなんですけれど、僕は共感を生むには言語化がすごく重要だと思っています。

ESGへの取り組みもその文脈のひとつですね。

作って終わりのものは最初からいらない

市川さん

メルカリは、ミッションもバリューも、すごく“生きている”感じがあります。昔の社是みたいな、額に入った古い言葉じゃない。

なぜなんだと思います?

小泉さん

ひとつは実際の事業にしっかりひも付いているからだと思います。

「地球環境のために木を植えます。本業と関係ないけど」みたいなのじゃない。企業の社会貢献は、事業活動を通じてやっていくことが、すごく大事だと思います

人じゃなくてプロダクトとか事業とかミッションに向き合ってほしいんです。

あとは経営陣が、ミッションやバリューをどしどし社内に発信すること。社員に浸透するまでです。

ミッションやバリュー、パーパスは、つくって終わりなら、最初からつくらない方がいいくらいですよ

市川さん

ESGについても2021年にサステナビリティチームを発足、ESG委員会を設立してと、かなりスピーディに進化されています。

そんな動きにメルカリ社員の方から好意的な反応を聞いたこともありますし、御社の動きに、他のスタートアップも刺激を受けていると思います。

小泉さん

社会への影響力が上がったことは意識しています。ユーザーが日本で2000万人を超えて、メルカリは社会のひとつの機能としてのポジションを築き始めるところまできていますから。

ESGへの取り組みについても、僕らが実際にどうやっているかをブログなどでどんどん発信しています。

市川さん

mercan(メルカン)」ですね。私も読んでいますし、周りの人も見ています。

小泉さん

みんなが真似してくれたらいいなと思うことを出しています。

メルカリでは育成目的で副業を推奨する

市川さん

小泉さんが人を育てるという点で大切にしていることは何ですか?

小泉さん

ひとりひとりの強みを引き出すことです。

日本の学校教育って、弱みを克服して標準的なジェネラリストをつくるようにする。でも、これだけ変化が激しくて成長スピードを求められる社会では、その人の強みが何かをはっきりさせてあげることが大事だと思っています。

メルカリはプロフェッショナルを生んで、輝かせる組織でありたい。なので、若い人たちにどんどんチャレンジする場を与えています。

人は立場とか役割で学ぶことがすごく多いと思っているので、仕事を通じて成長機会を与えることをベースにしています。学びたいことがあれば金銭的なことも含めサポートします。

市川さん

成長機会を提供するって重要ですよね。

小泉さん

あと、創業時から副業を推奨しています。

多いのが、本を書くとか外で講演することですが、発生する印税や謝礼は、全部個人で受け取っていいことにしています。

市川さん

外でのアウトプット的な副業が多いのですね。

小泉さん

そうなんです。で、アウトプットはインプットがないとできない。

つまり、副業でアウトプットする機会が増えると、普段の仕事のインプットの質が高まり、成長もする。僕はそういう狙いで副業推奨の設計をしています。

若い人たちは、自分がメルカリでやっていることを外で話すことで仕事に対するプライドが上がります。

市川さん

なるほど。副業推奨の理由として、今まで聞いた中で一番腹落ちしました。

さらなるエンパワーメントを目指す

市川さん

小泉さんのこれからのパーパスは?

小泉さん

僕自身、やっぱりインターネット業界にずっと長いこといて、インターネットが大好きなので、インターネットで社会にいい変化が起きるようにしていきたいです。

インターネットというテクノロジーを使って、みんながもっとその人らしく生きられる、思いどおりに生きられるようエンパワーメントをしていきたい。今までミクシィで発信という形や、メルカリではモノの売買でエンパワーされた個人が生まれて、人々のライフスタイルが変わってきたと思うんです。

これからは、「メタバース」という新しいインターネット上の3D空間で、居心地の良さや表現できる楽しさを提供できる仕組みづくりを考えています。これはメルカリの事業の構想としても考えています。Web3やNFTの流れとか、その空間での人間の表現とかビジネスが面白いフィールドになると思います。

市川さん

それはめちゃめちゃ楽しみです。今日はありがとうございました!

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