ビジネスパーソンインタビュー
「自己開示が人から信用される第一歩」
孤独だったムロツヨシが気づいた「仕事で成功できない人」に欠けている3つの視点
新R25編集部
記事提供:Woman type
産業能率大学による「新入社員が選んだ理想の上司」(2017年度)では堂々9位にランクイン。確かに、側にいる人を和ませるほんわかした雰囲気と、サービス精神たっぷりのトークを聞いていたら、「うちの会社にもいてくれたら…!」なんてつい夢を見てしまう。俳優、ムロツヨシさん。
ムロツヨシ。1976年1月23日生まれ。神奈川県出身。99年、19歳で役者としての活動を開始。映画『サマータイムマシン・ブルース』をきっかけに映像作品へも足場を広げ、ドラマ『勇者ヨシヒコ シリーズ』や映画『銀魂』『斉木楠雄のΨ難』など福田雄一作品に欠かせない存在として広く人気を集めている。4月よりライフワークとして知られるmuro式.10『シキ』を全国6都市で上演
映画『ボス・ベイビー』では、アニメの吹き替えに初挑戦。本作では、見た目は可愛い赤ちゃん、中身はおっさんというボス・ベイビー役を演じている。
まさかの42歳で赤ちゃん役というのも、個性派俳優・ムロツヨシの魅力があってこそ。今や「人たらし」の異名を取るほど多くの人から愛されているムロさんだが、決して若い頃からそうだったわけではないのだとか。
では、一体何がムロさんを変えたのか。“愛されムロツヨシ”ができるまでを聞いた。
就職して活躍する同級生を横目に、バイトで食いつなぐ日々…「誰にも頼っちゃだめだと思っていた」
映画『ボス・ベイビー』は7歳の少年・ティムの前に、不敵な目つきのボス・ベイビーが現れるところから幕を開ける。ボス・ベイビーに反発するティムだが、ある目的のため、2人は力を合わせて巨大な組織に立ち向かっていく。
戦わなければいけない相手は大人。普通に考えれば子どもに勝ち目はない。だけど、ひとりではできないことも、ふたりならできる――。そんな強いメッセージを、『ボス・ベイビー』は届けてくれる。
ボス・ベイビーのストーリーを初めて見たとき、ムロさんは「自分の過去を思い出した」と話す。ムロさんと言えば多彩な交友関係で有名だが、根っからのコミュニケーション上手というわけではなく、かつては孤独だったという。
「皆さんは僕のことをすぐ人の懐に入っていけるタイプだと思うかもしれませんが、若い頃の僕は全然そんなことなくて。人の力を借りるのがすごく苦手なタイプ。誰にも頼っちゃだめだって思い込んで、何でもひとりでやろうとしていたんですよ」
ムロさんが役者の道を志したのは大学1年生のとき。ある舞台で俳優・段田安則さんの演技に感動し、大学入学からわずか3週間で学校を中退。演劇の世界へと飛び込んだ。
しかし、芽の出ない時期が続き、あっという間に20代半ばに。同級生たちが就職して華やかな生活を送っているのを横目に、自らはアルバイトの給料で何とか食いつなぐ日々。26歳を迎え、「このままじゃダメだ」とついに自分を変える決意を固める。
「ちょうどその頃、何もなくなっちゃったんです。次に出る芝居も、覚える台詞も。あの時の僕にあったのはバイトしながら淡々と過ぎていく毎日だけ。それが心底嫌になって、やっと気づいたんです。『ああ、ひとりじゃ何もできないんだ』って。
若いうちほど、自分はすごい人間だって思われたいものでしょ? でも、実際は何もできない。だから、仕事を通して何かを成し遂げたいと思うなら、なおさら誰かの力を借りることが必要です。人生のどん底を味わうまで、僕はそんな当たり前のことに気づけませんでした」
ひとりでできないことも、ふたりならできる。チームになれば、もっと大きなことができる。そう意識し出した途端、人生が変わり始めた。今では「周囲の人に甘え過ぎて、逆に皆から距離を置かれている」とムロさんは冗談っぽく笑う。
“一生懸命な想い”がない人に、周囲の人は手を差し伸べてくれない
仕事を成功させる、目標を達成する、夢を叶える…いち早くゴールに向かうためのカギは、周囲の協力を仰ぐことだ。
でも、かつてのムロさんのように、人に何かをお願いするのが苦手な人は多いのではないだろうか。後輩にひとつ仕事を頼むのでも気が引けてしまう、なんていう人もいるかもしれない。
では、周囲の人を自然と巻き込んでいくにはどうしたらいいのだろう?
「一生懸命想いを伝えること。それは絶対必要ですね。『自分のやりたいことはこうです!』って、下手な言葉でもいいからありったけの想いを伝える。これがないと、何も始まらない」
小賢しいテクニックなんて一切不要。相手が上司や先輩であれ、後輩であれ、“一生懸命な人”に、人は手を差し伸べたくなるものだ。
「あとは、人にいっぱい相談して、助けを求めてみてください。自分の悩みを打ち明けるという行為は、相談相手に『僕はあなたを信用していますよ』と伝えることと同義。だから、相談された側の人は絶対悪い気がしないし、『そこまで本気なら』とひと肌脱いでくれる。
若いうちは強がってしまうことが多いけど、何もできない自分を認めて人に助けてもらうことも大事です。弱いところを隠さず自己開示していくことが、人から信用される第一歩かなと思います」
ちっぽけな虚栄心は捨てること。何でもひとりでやろうとせず、周囲の人を信頼して頼ること。人が手を差し伸べたくなるような“熱い人”でい続けること。20代でこの3つの視点に気づき、日々の仕事の中に落としこむことができるようになってから、ムロさんの躍進は始まった。
「野心はずっと持っている」夢を叶えた男が次に見据えるもの
周囲からの信頼も厚く、プロフェッショナルとして安定した地位を築いたように見えるムロさん。10代から追いかけ続けてきた夢を叶えたとも言える今、仕事への原動力となっているものは何なのだろうか。
「芝居が好きという気持ちですね。僕が出ていない面白い作品に触れると、どんな役でもいいから携わりたかったなという想いが湧いてくる。もっと良い芝居がしたい、演技がしたいという気持ちは、何歳になっても変わらない」
飄々としたイメージが強いムロさんだが、野心はずっと持ち続けているという。
「ただ、僕がいま持っている野心は、20代の頃のそれとは違う種類のもの。以前は『食える役者になりたい』という強いエネルギーが全てでした。ありがたいことに今はいろいろなお仕事をいただけて、生活はできています。
ただ、ここから継続していくというのがまた難しいんです。新しい挑戦を続けて、皆さんのイメージを打ち破っていくようなムロツヨシを見せていかないといけないな、と」
将来への想いを語ってくれたムロさんに、最後にひとつ質問をしてみた。あなたにとって理想のボス像は?
「僕にはいわゆる上司っていないから、そう聞かれて思い浮かぶのは尊敬する役者の先輩たちですね。特にカッコイイと思うのは、仕事仲間と一緒においしくお酒が呑める人たち。酒の場で人の悪口は言わない、愚痴も吐かない、自分の武勇伝も語らない。『お酒を呑むときくらいは皆で楽しくいようよ』っていうスタンスを貫いている人に憧れます。そういう意味で僕は全然かっこよくないですよ! 好きな後輩と呑むと、つい説教しちゃって、気づいたら2時間経ってたこともあるし(笑)」
そう最後は自虐ネタで笑わせて、インタビューを締めくくった。こんなところも、ムロさんのチャーミングなところだ。
ああ、やっぱりムロツヨシは愛おしい。こんな上司がほしかったと、つい無い物ねだりしたくなる。時にはお説教されてしまうかもしれないけれど、熱く仕事に向き合う醍醐味を教えてくれる憧れのプロフェッショナルだ。
〈取材・文=横川良明/撮影=赤松洋太/ヘアメイク=灯(ROOSTER)/スタイリスト=森川雅代(FACTORY1994)〉
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