ビジネスパーソンインタビュー
「欲望を自覚しないと、人生はつまらない」
“オカズにされる状況”に逆に燃えた。TENGA広報・工藤まおりが選んだ「欲望に忠実な人生」
新R25編集部
さまざまな新しい価値観が登場する現代だが、それでも世間体を気にして、いわゆる「レールの上」を歩く人がほとんどだ。
そんななかでも、「自分の欲望」に忠実に生きている人々がいる。そして、そんな人たちの生き様は多くのR25世代を勇気付けるはず。
今回お話を伺ったのは、株式会社TENGAの広報・工藤まおりさん。今や知らぬ人はいない「TENGA」や、女性向けセルフプレジャーアイテムの「iroha」の魅力を伝えるべく、日夜活躍しているビジネスウーマンだ。
「エロい話をしてる時が一番目が輝いている」と上司に言われTENGAへの入社を決めたという工藤さんは、いかに欲望に忠実に生きているのか!?
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〈聞き手:天野俊吉(新R25編集部)〉
「美女にTENGAをすすめられて動揺している自分」は見抜かれていました
【工藤まおり(くどう・まおり)】東京都出身。津田塾大学数学科を卒業後、リクルートグループの派遣事業に入社。2015年に株式会社TENGAに入社し、現在広報を担当している
前『R25』時代に、何度か編集部にTENGAのPRに来てくれていた工藤さん。
天野
お久しぶりです! 以前も編集部にTENGAを持ってきてくれてましたよね。
工藤さん
はい! 今日はよろしくお願いします!
天野
今だから白状しますけど、TENGAの説明されてるときは、平静を装いつつもぶっちゃけ結構リアクションに困ってました。「性を表通りに」という御社のコンセプトも理解してるんですが、工藤さんのような美女を目の前にすると動揺が…
やっぱり僕みたいに男が平静を装っているのはバレてるんですか?
工藤さん
あ、ハイ。まあ男性の半分ぐらいは平静を装いますね。
残りの半分は、明らかにいやらしい目でガッツいてくる人が3割、マジメに話に乗ってくる人が2割って感じです。
私たちの職場だと感覚がマヒしがちなので、ちょっと動揺してくれるぐらい新鮮な反応のほうがうれしいです(笑)。
天野
ちなみに、下心があってガッツいてくる人もバレバレ…?
工藤さん
もちろん!表情からしてそういう顔になってますから。
天野
表情か、なるほどですね!(今日は絶対に終始ポーカーフェイスを貫こう)
「TENGAの美人広報」は、男性からどんな言葉をかけられているのか
天野
TENGAの広報ということで、男性から下ネタやイヤなことを言われることはあるんでしょうか?
工藤さん
SNSで、そこまで仲良くない男性から「しよう」って誘われることはよくありますね。
なんか「その道のプロ」だと思われるんですよ(笑)。セクシャルなネタを発信する女性=イケるみたいに思われるのはイヤですね。
あとは仕事関係の飲み会の席でアダルトな話をしていると、飲み会にいた仕事相手からも誘われてしまうという…
天野
ご自身のTwitterでやっている「質問箱」(Twitterユーザーに匿名で質問できるサービス)にも、かなりエグい下ネタが殺到してますよね…
工藤まおりの質問箱です
何でも質問してください
工藤まおりさんの質問箱(※下ネタがいっぱいなので自己責任でご覧ください!)
工藤さん
あれは本当に面白いですよ。「TENGAの広報というと、こういうふうに見る人がいるのか」と分かるので。
いつか、エグすぎて非表示(自分以外のユーザーから見られない状態)にした「質問」を同人誌とか「note」にまとめて公表したいなと思ってます(笑)。
有料noteでも買います!
数学教師志望だったが、大学1年のときに「正解のない性の世界」に興味が湧いた
天野
今回は工藤さんの“人生の決断”にフォーカスしたいです。まずはこれまでの経歴をお伺いできますか?
工藤さん
ずっと数学の先生になるつもりだったんですよ。中学から数学が好きで、大学も数学科。
で、大学1年生のときにバーでアルバイトしてたんですけど、そこで働いてたキレイな女性の先輩が、ものすごくオープンにアダルトな話をしてたんですね。「セルフプレジャー」も「週に○回するよ!」って。
天野
あ~、たまにそういうオープンな女子いますよね。
工藤さん
私はそれを見てめちゃくちゃカッコイイ!と思ったんです。
自分の欲望を認めて、公言しているのに憧れて。それを真似して自分も「グッズ使ってますよ!」とか公言するようになったんです。
天野
大学1年生で(動揺)。
工藤さん
そうです。数学はいろんな定義が決まっていて、答えもひとつなのが美しくて好きだったんです。
でも性の世界は対照的に、定義も正解もまったくない。そこにどんどん興味が出てきてしまって。
工藤さん
それと同時に、「(セルフプレジャーを)してます!」って言うと、「エロい」「ビッチ」みたいな偏見で見られることがすごい増えて、そういう価値観をひっくり返したいと思ったところからさらに興味が加速しました。
今年1月に、『広辞苑』に載っている「LGBT」や「フェミニスト」という項目の文が訂正されたってニュースがあったじゃないですか。そういうセクシャルな物事が議論されて、世の中の価値観が変わっていくときにすごいカタルシスを感じるんですよ。
工藤さん
ネットで「マンネリ気味の彼にはコレ!」とか書いてある記事ありますけど、それ読んだって全然正解じゃないですよね?
そういう記事ってPV数はめっちゃあるらしいんですよ。でもSNSじゃ誰もシェアしないじゃないですか。みんなが興味を持っているのに、それを隠して生きている。これは可能性があるジャンルだと思って。
身を乗り出してきた工藤さん
天野
すごい興奮が伝わる…。熱弁ありがとうございます。
上司から「エロ話してるときが一番楽しそう」と言われ、転職を決意
天野
そんな大学時代を経て、リクルートに就職したんですね。
工藤さん
はい! リクルートの派遣事業という会社で、派遣社員を企業に提案する法人営業をしてました。結構頑張ってて、表彰されたこともあるんですよ。
「ビル倒し」といって、オフィスビルに入ってる企業に上から下まで全部飛び込み営業をかけたりしてました。
このビジュアルで「ビル倒し」
天野
そこからなぜTENGAへ?
工藤さん
上司に言われたんですよ。「お前、エロ話してるときが一番楽しそうだな」って。
それでハッとしたんです。自分の本当にやりたいことはやっぱりそれなんだと。マスターベーションに対する価値観を変えるために、セルフプレジャーアイテムを扱っていたTENGAでどうしても働きたい…と思ったんです。
天野
…会社でどんな話してたんですか?(笑)
工藤さん
飲み会では「セルフプレジャー」を週何回するか、とかバンバン話してましたから。
当時会社の同僚が仲良くて、皆でディズニーランドに行ったときは、ビッグサンダーマウンテンの待ち時間中ずっと「私が初任給で買った『iroha』の写真見てください!」って上司や先輩に“パートナー紹介”してました。
天野
(周りのお子様へ配慮はあってくれ)
工藤さん
その上司は、普段は厳格で、下ネタのひとつも言わない人だったんです。
でも私がそんなに楽しそうに話してるのを見て、見抜いてくれたんですね。本当に人生の恩人だと思ってます。
「親の気持ちは引っかかったが、やっぱりそれは言い訳だと思った」
天野
TENGAへ転職することで、周りからの反対はなかったんでしょうか?
工藤さん
上司からは、部署にもっと貢献してくれという意味で「辞めるの認めないよ」とは言われました。ただ、TENGAだから反対というわけではなかったです。
でも、両親はビックリしたみたいですね。父母ともに公務員のおマジメ家系だったので…。母は「お父さんが許せばいいよ」って感じだったんですけど、父はやっぱりイヤだったんじゃないですかね。
天野
お父さんには何か言われたんですか?
工藤さん
最終的には「イヤだけど、やりたいならいい」とだけ言われました。
ただ、いい大学を出て大きい企業に入って…。父からすれば「頑張ってる娘」として、同僚にも紹介できてたと思うんですけど、やっぱり偏見がすごい業界だから…
自慢の娘だったはずなのに、「人に自慢できない娘」になってしまうのかなっていうことは考えましたね。
天野
ご両親のことも含めて、いわゆる「世間体」を気にせずに、最終的に決断できたのはなぜなんでしょうか?
工藤さん
正直「親の理想とする娘になれない」っていうのは少し引っかかりましたよ。でも、やっぱりそれって言い訳だと思ったんです。
結局自分は自分のために生きてるのは間違いないので、自分の思うように生きるしかないと。
天野
ちなみに、ほかの人からも何か言われましたか?恋人とか。
工藤さん
広報として活動することも伝えましたけど、彼氏からは反対されなかったですね。
「リクルートの私とTENGAの私、どっちが好き?」って聞いたら「TENGAのお前」って即答されました(笑)。
天野
彼氏スゲエ!
こんなこと言っては失礼かもしれませんが、自分の彼女がTENGAの広報になったら嫌がる男性は多いと思います…
工藤さん
そりゃ嫌がりますよね! だって本当に性的対象として見られるんですから。私も「工藤さんオカズにしてます」とか質問箱で報告されてるんで。
一番抵抗があったのは、私が入社する以前に当時の女性の広報さんが3人いたんですけど、2ちゃんねるで、「ヤレる女」って言われたり「どの女が一番ヤリたいか」って議論されたりしてたんですよ。それを見て「私も議論されるのかあ…」と。
天野
そこに飛び込むというのもスゴイですよね…
工藤さん
でも、そういう「性的な話をするイコール卑猥な女だ」という偏見を変えたいと思って転職したんだから、これも含めて変えていかなきゃダメなんだ!と、逆に燃えてきたんです。
「オカズ議論」を見て、「社会の価値観を変える」という志がハッキリしたんですよね。
欲望に忠実に生きるためには、欲望をコントロールすることも必要
天野
逆にこれまで、自分の欲望を抑えてしまったことってありますか?
工藤さん
私、実はかなり欲望を抑えてるんですよ。
天野
え?(意外)
工藤さん
私は欲望が強いので、その通りに生きてると死ぬなと思って。
欲望はとても大事だけど、自覚してコントロールできるように「ルール化」しています。
天野
ルール? どういうルールですか?
工藤さん
ひとつは、たとえ「したい」と思ってもその日会った人とは絶対しないこと。
お酒が入ると判断力が鈍くなるので、お酒を飲んだ自分は信用しないようにしてます(笑)。
飲酒中の自分を信用していないという工藤さん
工藤さん
もうひとつは、自分から恋人をフッたら半年間は彼氏を作らないこと。
これは中学生から徹底してます。別れた彼女がすぐ次の恋人見つけてたらイヤじゃないですか?
天野
え、エライ。
完全に勝手なイメージですが、女性の性の解放をモットーとしている方なので、「もっと自分の欲望に任せて行動していい!」というタイプなのかと思ってました。
工藤さん
欲望に忠実に生きるためには、逆のことを言うようですが「後悔しないようにコントロールする」ほうがいいと思うんですよね。
「欲望を自覚しないと、人生はつまらない」
天野
最後になりますが、「欲望に忠実に生きる」ことのメリットを改めて教えてください。
工藤さん
私のやってることって、普通の女子からしてみたら超恥ずかしいと思うんですよ。
でも、「自分はこれが好きだ」と恥ずかしいことを公言してから恥がなくなってきたので(笑)。シンプルに生きやすいなって思います。
天野
工藤さんのようにやりたいことがあるけど、「世間体」を理由に迷っているR25世代はどうしたらいいと思いますか?
工藤さん
期限を切ったらいいんじゃないですか。レールから外れたくなったら、「何歳までにこうなれなかったらレールに戻る」とかルールを決める。
さっきも言ったように、欲望に従って生きるなら、欲望をコントロールできるようにルール化しちゃうといいですよ。
天野
お話を伺って思うんですが、すごい芯の強さがありますよね。
工藤さん
取材が決まってから、「何を話そうかな?」って自分の人生についていろいろ考えてたんです。
それで思ったのは、結局、欲望を自覚しないと人生はつまらないと。今の私の核みたいな部分とか、語れるような面白いことはすべてその欲望から始まったわけですからね。
取材が終わったあとに工藤さんと雑談して出てきたのは、「自分が何をやりたいのか、今も自分自身に問うようにしてますね」という言葉。
それはまるで、自分自身の欲望に向き合う「セルフプレジャー」のような…ってそこまでウマいオチは付かなくてもいいですが、R25世代の皆さんも、この機会に自分の内なる欲望を見つめてみてはいかがでしょうか。
工藤まおり(@maori212)さん | Twitter
工藤まおり (@maori212)さんの最新ツイート 津田塾大学数学科→リクルートグループ→TENGAで現在働いてます。 TENGAとiro
工藤さんのTwitterはこちら
〈取材・文=天野俊吉(新R25編集部)/撮影=飯本貴子〉
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