「ダム汁を浴びるのがたまらない」
地下鉄にも関係あるの!? 日本屈指のダムマニアがその魅力を熱弁「ダムは働く構造物だ」
新R25編集部
世の中には、ある一つの物事に「一点集中」で愛を注ぐ人がいます。「新R25」では、そんなニッチなものにどハマりしている人に、その魅力を存分に語ってもらう連載を始めました。
今回のテーマは、「ダム」。
…ちょっとピンとこないですよね。ちゃんと名前を知っているダムが「黒部ダム」くらいの情弱なので、「ダムってそもそもなんだ」「何がいいんだ」「ダム好きって言っている人がちょっと怖い」という思いが湧いてきてしまいます。
そこで今回は、実際に神奈川県津久井郡津久井町にある「宮ヶ瀬ダム」を訪れ、「ダムマニア」に話を聞いてみました!
左奥に見えているのがダムです
福田
デカっっ!!
山々の間から急に現れるコンクリートの壁。写真だとわかりづらいかもしれませんが、自然に囲まれているなかに、人工の建造物が突然出てくるとちょっと怖いです…。
さて、今回お話を伺ったのは、2000年からWebサイト「ダムマニア」を運営している宮島咲さん。これまでに回ったダムは約700基で、ダム業界ではかなり有名人。国土交通省から、ダムの識者として招集されることもあるんだとか!
【宮島咲(みやじま・さき)】1972年生まれ。東京都出身で、現在は老舗割烹料理店「割烹三州家」第5代目。ダムマニア・日本ダムカレー協会主宰
福田
宮島さんは日本屈指のダムマニアだそうですが、そもそもお仕事は何をされているんですか?
宮島さん
実家が老舗の割烹料理店をやっていて、私はその5代目になります。普段はお店の経営に携わっていますね。
福田
全然ダムと関係ない…。どうしてダムにハマったんです?
宮島さん
きっかけはデジカメですね。
もともと、夜中に峠道をドライブするのが趣味だったんですよ。2000年代前後はデジカメが普及してきたころで、ドライブしているときに何を撮ったらいいんだろう…って考えていて、峠道にあったダムを撮りはじめたんです。
それでいろんなダムの写真を撮っていってたら、よく見るとダムの形が違う。「なんで形が違うんだろう」「このダムの役割って何だろう」って考えるうちに、ズブズブとハマっていきました。
福田
なるほど、深みにハマっていくってことですか。お城が好きな人とかにちょっと似ている気がします。
宮島さん
そうかもしれないですね。
ダム好きは、洪水との“戦歴”が好きな人やレトロな外観に惹かれる人、ダムの歴史が好きな人など、さまざまなジャンルに分かれています。
福田
へええ。ダム好きにもいろんな種類があるんだなあ(小並感)。
宮島さん
AKBみたいなもので、アイドルの顔って興味がないと見わけがつかないけど、ファンはすぐわかるじゃないですか。
それと同じで、ダム好きはダムの写真を見るだけで、どこのダムだかわかるんですよ。(ドヤ)
福田
(ダムとアイドルってまったく別物だと思うけど…)
宮島さん
これから見学する「宮ヶ瀬ダム」は、「重力式コンクリートダム」といって、コンクリートをたっぷり使ってその重さで水をせき止めているダムです。
ほかにも、岩石や土砂を積み上げた「ロックフィルダム」や、黒部ダムのような「アーチ式ダム」などがあるんですよ!
今回は宮ヶ瀬ダムを実際に歩きながらお話を伺いました
「これを人が造ったのか…」初心者はまず大きさに圧倒されるべき
どんどん近づくダム。まだまだ全景までは見えません
福田
ボクは今回が初めてのダム見学なんですが、ぶっちゃけダムってちょっと見ただけで満足してしまう気がするんですよね…
宮島さん
最初は「デカいなあ!」って思う程度でいいと思います。
六本木ヒルズとか奈良の大仏を見るのと同じ感覚です。「こんなデカいものを人が造ったのか!!」って感動するだけで構いません。
そこで少しでも興味を持つことができたら、次は役割に注目してみてください。ダムのすごいところは“働く構造物”ってところなんですからね!
福田
働く構造物! そう聞くとかっこいいですね。
ダムの役割というと、貯水とかでしょうか? なんとなく水不足の時には役立つんだろうなって思ってるんですが…
宮島さん
ダムの役割は、大きく分けて8つほどあります。この宮ケ瀬ダムは洪水を防いだり、河川の水量を調整したり、発電に使われたりしていますね。
あと、神奈川県では宮ヶ瀬ダムから飲み水を供給されている地域も多いんですよ。
福田
思った以上に生活を支えられていますね! てっきり緊急時だけかと思いました。
宮島さん
そうなんですよ!みなさん当たり前に捉えすぎていて、ダムのすごさに気が付いていないんです! 宮ヶ瀬ダムがなかったら、神奈川県は今ごろ水不足ですからね!!
福田
(徐々にスイッチが入りはじめたな…)
「ダム汁を浴びるのが気持ちいい」
宮島さん
さあ、ダムの全体像が見えてきました。
福田
おお! 近くで見ると、さらに大きさに圧倒されますね!!
宮島さん
宮ケ瀬ダムの高さは156m。これは、東京タワーの大展望台と同じくらいの高さです。
福田
そんなに! 『進撃の巨人』で壁の中で生きている人の気持ちがちょっとわかった気がします…
写真だとわかりづらいかもしれないですが、めちゃくちゃデカい
福田
上に3つの穴があって、その下に2つ穴がありますね。あそこから水が放水されているんですか?
宮島さん
いま「放水」って言いましたか!?
福田
えっ!? はい…
宮島さん
ダムから水が流れ出ることは、「放水」ではなく、「放流」と言います!! そこを間違えないでください。
福田
(そこっ!?)すみません。以後気をつけます…
宮島さん
わかってくれればいいんです。
さて、ダムの上のほうに3つの穴は確かに放流するところですが、あそこは緊急用です。ダムがあふれそうなときに、あそこから放流されます。
普段は真ん中あたりにある小さい2つの穴から放流されるんですよ。
福田
へえー、意外と小さいんですね。
宮島さん
って思うじゃないですか? これは実際に見てみたほうがいいですね。
宮ヶ瀬ダムでは、4月~11月の毎週水曜日・毎月第2日曜日・第2第4金曜日に「観光放流」というイベントを行っています。今日はちょうどその放流日です。まもなく始まりますよ!
福田
うおっ!!! 想像以上にすごい勢い!風も強いし、雨みたいですねっ!!
水の勢いがすごくて一気に体温が下がりました
宮島さん
そうでしょう!ダム好きは放流された水を「ダム汁」と呼んでいます! これを浴びるのがたまらないんですよね!
福田
(それはちょっと気持ち悪いな…)
「ああ~、いいダム汁が出てますね~」
ダムは奥ゆかしい!? 外観からわかるダムの特徴とは
宮島さん
放流はいかがでしたか?
福田
滝みたいでしたね!とにかく迫力がありました。
宮島さん
そうでしょう? では、今度はダムの側面を見てみましょう。
宮島さん
ほら、カーブを描いているじゃないですか。あれは、バブル期に作られたダムだから成せる技なんですよ。
福田
どういうことですか?
宮島さん
ダムの接合部は、直角になっているのが普通です。でもあそこは、デザイン的に滑らかに仕上げられているでしょう?
これは予算が潤っていたバブル期に工事がすすめられていたからなんですよ。ダム好きは、宮ヶ瀬ダムのことを“バブルダム”とも呼んでいます。
宮島さん
あとはここを見てください。ダムの点検時に使われる「フーチング階段」というのですが、幾何学的で美しいでしょう。
福田
確かに!
デザインといえば、ダムって隈研吾さんみたいな有名な建築士とかいないんですか?
宮島さん
いないんです。なぜかと言うと、ダムは建築業ではなく、建設業だからです。
建物ではなく、道路や橋のように土木作業で作られるジャンルなので、ダムの建設者の名前は明かされないんですよ。
そこがダムのいいところの一つですよね…。奥ゆかしさがあります…
福田
(魅力を感じるところがマニアック)
宮島さん
それでは、エレベーターに乗ってダムの上に行きましょう!
いよいよダムの上に!
ダム好きは、湖には興味がないらしい
宮島さん
ダムの上の橋のようなところを、「天端(てんば)」と言います。ここから見えるのが…
福田
うおお! 湖がめちゃくちゃきれいですね!!
宮島さん
あっ、そっちじゃないです。
福田
えっ?
宮島さん
ダム好きは、湖にあまり興味がないんですよ。だってただの水でしょう?
ダム好きが注目するのはその反対側です!ここから流れる河川を眺めるのが魅力的じゃないですか?
福田
おおー、こっちはさっきの放流口を上から見られるんですね。広い湖もいいですが、こっちもまた見晴らしがよくて気持ちがいいですね。
紅葉の季節とか、さらによさそう。
宮島さん
そうですね。観光客が増えるのは、その時期です。
…ただ、ダム好きは紅葉の季節や桜の季節には行きませんね。人が多くて邪魔だから。私たちは人気のないダムに惹かれているんですよ。
福田
ええ…
宮ヶ瀬ダム見学の際は「ダムカレー」を食べて帰ろう
お腹がすいた我々は、ダムに併設されている「水とエネルギー館」を訪れることに。
宮島さん
宮ヶ瀬ダムに来たら、絶対に食べたほうがいいものがあります。ダムカレーってご存じですか?
福田
知ってます! ご飯をダムに見立てて、カレーをせき止めているやつですよね。
宮島さん
ここのダムカレーはちょっと変わっているんですよ。その名も「宮ヶ瀬ダム放流カレー」。
福田
あっ、真ん中にソーセージが刺さってます。これを抜いたらカレーが出てくるんですね!
宮島さん
そうです。そのバルブ(ソーセージ)を抜いてみると…
放流〜!
福田
おお、面白い! こういった遊び心のあるメニューは大好きです!
味もフルーツが使われていて、奥行きがありますね。
反対運動もあるけど…ダムは僕らの生活を根本から支えている
福田
実際にダムを見学してみて、その大きさやデザインなど知らないことがたくさんありました。
ただ、ダムってよく建設に対して反対運動が行われている印象もありますよね。それに対してはどうお考えですか?
宮島さん
ダムは人間の生活を守るために造られているんですよ。不必要なものなんてありません。
ダムは“水の貯金箱”なんですよ。貯金があって無駄なことなんてないでしょう?いざというときに絶対に助かりますから。
福田
まさに、備えあれば憂いなしってことですね。
宮島さん
宮ヶ瀬ダムにも反対運動は確かにありました。
ただ、もしその反対運動で宮ケ瀬ダムが建設されなかったとしたら、2年前の渇水のとき、神奈川県は深刻な水不足になっていたはずですよ。
福田
そう聞くと、簡単に反対って言えないですね…
宮島さん
これで最後になりますが、R25世代でまだダムに興味がない人にお伝えしたいことがあります。
ダムはみなさんの生活を根本から支えているものです。「蛇口をひねったら出てくる水が、どこのダムから来ているのか」を知っていても損はないと思います。
東京だったら、群馬県(利根川水系)や埼玉県(荒川水系)にあるダムたちの水がメインです。
あとは西多摩にある「小河内ダム」ですね。ここで発電された電気で、都営地下鉄が動いています。こんなに生活に密着しているのに、知らなかったでしょう?
それってすごく怖いことだと思うんですよ。
福田
地下鉄まで…! 確かにダムがなかったら、僕らは生活できないですね。
宮島さん
まあ最初はデカさに感動するだけでもいいんですよ。絶対に行けとも言いません。
ただ、休日にどこか旅行にいったとき、時間が余ったらちょっと寄ってみたらいいと思います。ダムの非日常感というものは、どんな人もびっくりするはずですから!
「宮ヶ瀬ダム」のちょっと下流には「石小屋ダム」という小さなダムもありました
およそ半日におよぶ宮ケ瀬ダムロケ。「ダムとかちょっとマニアックすぎるだろ…」と思ってましたが、コンクリートの壁のデカさ、大迫力の放流、圧倒的なスケールのダム湖など、都会では見られない非日常を体験できました。
正直、読者の大半の方は、これまでダムについてまともに考えることはなかったでしょう(もちろんボクも)。
ただ、ボクらの生活の根本を支えているのは、ダムだったんです。これから水道を使うときや、トイレを流すときは心の中でダムに感謝したいと思います…。
ダム…いつもありがとな!!
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/撮影=森カズシゲ〉
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