ビジネスパーソンインタビュー
元No.1ホストの転落と復活
排水溝を舐めて土下座を練習。通販バイヤーとして再起した城咲仁の「虚勢を捨てた人生」
新R25編集部
新宿・歌舞伎町にあるホストクラブで5年間ナンバーワンに君臨し、元ホストタレントとして2005年ごろ、一斉を風靡した城咲仁さん。
先日、ふと目に入った通販番組に城咲さんが出演されているのを見かけ、筆者は衝撃を受けました。「見ない間に何があったの?」と。
ホストからタレントへ、そして通販バイヤーetc.…。転身を続ける城咲さんの“今”についてお話を聞きました!
〈聞き手:ライター・文 希紀〉
【城咲仁(しろさき・じん)】1977年9月23日生まれ。タレント・役者。新宿・歌舞伎町のホストクラブで5年間No.1の座に。その後、芸能界へ。近年は、料理研究家や通販バイヤーとしても活躍している
ナンバーワンになるために、まわりと違うことをやった
ライター・文
ホストの特集番組で、城咲さんが後輩ホストを連れて大名行列のように闊歩していた姿を今でも覚えています。
5年間ナンバーワンって本当にすごいと思うんですけど、どんな努力をされていたのか気になります。
城咲さん
最初はとにかく必死でしたね。
たとえば、歌舞伎町中を練り歩いて、毎日名刺を配って歩いてました。
ライター・文
え? 街中でですか?
城咲さん
そう。夕方ぐらいから歌舞伎町を歩いて、毎日4時間半、知らない人相手に配りつづけました。
電車のなかでも配ってましたね。
ライター・文
そんなに!
城咲さん
それをずっと続けてるとね、名刺を渡したときに「仁くんでしょ。名刺もうもらったよ」って言ってもらえるようになるんですよ。
“歌舞伎町が僕を覚えてくれた”と思いましたね。そういうところから自分の名前を売って、お客さんを呼んでくる。
そうしてナンバーワンになったら、城咲仁が絶対に「やるべきこと」と「やっちゃいけないこと」のルールを作りました。
ライター・文
気になる…やるべきことから教えてください!
城咲さん
基本は「ウーロンハイを作ること」。
ライター・文
どういうことでしょうか…?
城咲さん
お客さんの前では、どんな仕事でもやるってことです。
売れてくると、僕の代わりにお客さんのお酒を作ったり、灰皿を変えてくれたりする“ヘルプ”と呼ばれる子がつくようになるんですよ。だけど、僕はほぼ全部自分でやる。
盛り上げるためにガンガン喋るし、一番安い値段のウーロンハイだって作る。その姿をちゃんと“お客さんに見せる”んです。ナンバーワンが入れたウーロンハイには、何十万の価値が出るんです。
ライター・文
なるほど。逆にやっちゃいけないルールは何だったんですか?
城咲さん
お客さんを抱かない、お店以外で会わない、お小遣いをもらわない、スーツ姿以外見せちゃいけない。
すべて、お客さんと自分との距離が近くなるからNGなんですよ。だってお店で何百万円使う女性が、普通のお兄ちゃんの素顔を見たいと思います?
ジャニーズだってそうでしょ、カッコイイ衣装を着てステージに立ってる彼らに、ファンはお金を払うわけじゃないですか。
ライター・文
なるほど! 徹底してますね。
城咲さん
あとは肌を焼かない、ピアスはつけない、足を組まない。
当時のホストって全体的にチャラかったんですよ。だから僕は「全部まわりの逆をやろう」と意識してました。
ほかにも城咲さんは、「ライターを2つ持っていた」そう。なぜなら、男性のお客さんがいる席ではお客さんのプライドを傷つけないために、100均ライターで火をつけるから
ライター・文
城咲さんが5年以上ナンバーワンでいられた理由がわかりました。
しかしそこから、ホスト引退を考えたきっかけは何だったんですか?
城咲さん
2005年ぐらいに、「ホストを極めたな」と思ったんですよ。
きっかけは、バックヤードに貼られた売上表でした。店から、1位の僕の売上が高すぎるからもう売上表を貼るのをやめたいって言われて。
そのとき、ああもうここに僕がいちゃダメだなって。
葛藤しつつもタレントに転身。ホスト時代の携帯は捨てた
ライター・文
引退を決意した後、何がきっかけで芸能界に入ろうと思ったんですか?
城咲さん
もともと興味があったんですよ。ホスト時代にラジオ出演したとき、この放送を何千人、何万人の人が聞いてると思ったら、それってすごいなと。
ホストクラブだと、どんなに多くても1日100人ぐらいだったので…。そのとき、メディアの可能性を感じました。
ライター・文
ホスト時代、年収は軽く1億を超えていたとか…
正直、芸能界に入られた後は、年収下がったんじゃないですか?
城咲さん
下がりましたよ(笑)。
大御所の前であんなに冷や汗かいて頑張った仕事のギャラがこれか…と。給与明細見て現実を知った瞬間はありました。
ライター・文
引退を後悔したり、もう1回ホストやろう…と思ったりはしなかったんですか?
城咲さん
葛藤はあって、半年ぐらいリアルに毎晩同じ夢を見てうなされてました。脂汗かきながらお客さんを接客してるんですけど、起きたら夢だって気づくみたいな。
でも、戻るのはダサいなって。
ライター・文
そうなんですね。
城咲さん
もう戻らないって決めてたから。
ホストを引退する日にドコモショップへ行って携帯を変えたんですよ。それで店員さんに「入っている電話帳データを移しますか?」って言われたんですけど、「いいです、古い携帯は捨ててください!」って。
すべてのエピソードがドラマチックである
「仕事ねえじゃん…」まわりが敵ばかりに見えて、嫉妬していた低迷期
ライター・文
これは言いづらいんですが、タレントに転身して3~4年経ったぐらいから、あまりテレビでお見かけしなくなった記憶があります。
ご自身でもそれは感じてましたか?
城咲さん
そうですね…
バラエティ番組でホスト時代の話をし尽くしたあたりから、だんだん落ちていってる感覚がありました。だけどそれを自分で認めたくなかった。
ライター・文
なかなか現実を受け止めるのは難しいですよね。
城咲さん
でも嫌でも認識するんですよ。「仕事ねえじゃん」って。
出演するテレビ番組がないから、ブログに書くことがなくなるでしょ。ブログを更新しなくなって、話題にならなくなって、ますますテレビに呼ばれなくなる。
そういう悪循環に完全にハマってました。
ライター・文
切ない…
城咲さん
ネットでは見事に“消えたタレント”扱いでしたね。億単位で稼いでた男が落ちぶれた姿は、叩くのには最高のネタですからね。
まあ楽しかったでしょうね、ネットの住人は。
城咲さん
そうなると、まわりが敵ばかりに見えてくるんですよ。
バラエティ番組を観ていても、自分がそこにいたであろうポジションに違うタレントが座ってるのを見て、嫉妬してました。もともと、嫉妬とかあまりしない人間だったんですけどね。
「売れてないことを認めろ」変われたきっかけは坂上忍さんのひと言だった
城咲さん
そんなとき、坂上忍さん演出の舞台に出ることになったんです。
ライター・文
坂上さん。
城咲さん
稽古に入ってみると、もう怒られっぱなしで。
とくに土下座するシーンがあったんですけど、それが全然うまくいかなくて、坂上さんに「てめえ、いつまでカッコつけてるんだよ」って怒鳴られたんですよ。
ライター・文
ひ~!! 坂上さん、怖そうですもんね…
城咲さん
その日稽古後に下北沢の居酒屋で、坂上さんから2時間お説教されました。開口一番「もう売れてないことを認めろよ」って。
城咲さん
土下座がうまくできない原因は、そこにあると。
「お前のうしろに、まだ“売れっ子タレント城咲仁”のプライドがチラついてて、土下座しているように見えない」って言われたんですよ。
ライター・文
なるほど。
城咲さん
舞台のパンフレットで、坂上さんが出演者を他己紹介する、というところがあったんですけど、そこには“生きていくのがしんどいオス”って書かれてました。
ライター・文
しんどかったんですね。
城咲さん
そう、当時ほんとに生きてるのがしんどかった。虚勢を張って生きていたので。
そんな自分を坂上さんは解放してくれた。居酒屋で説教されたあと、帰宅後すぐに風呂場に行って、土下座の練習をしました。
真冬だったんですけど、排水溝を土下座相手の靴に見立てて舐めながら…
ライター・文
すごい…
城咲さん
そしたら翌日の稽古で、坂上さんが「お前、できてるじゃねえか」って。
その場では「ありがとうございます」ってさらっと言いましたけど、タバコ吸わないのに小走りで喫煙ルーム行って、泣きましたね。
想像するだけで泣きそうです
城咲さん
そのとき自分が演じてた役柄、どんな役だと思います?
「全財産を失った男の役」だったんですよ。今思えば、坂上さんが僕にあの役をオファーしてくれた理由がわかる気がします。
6万8000円のアパートに引っ越し。自分のルールをアップデート
城咲さん
仕事がない自分を認めたら、意外と楽になれた。俺いつまで売れっ子気取りでいるんだろう、ダサくない?って。
虚勢を張って生きるのはもうやめようと思って、家賃40万円のマンションを引き払って、下町の6万8000円のアパートに引っ越したんです。
ライター・文
6万8000円! 元ナンバーワンホストが住むにはかなりリーズナブルですね。
城咲さん
立地が悪くてね~。梅雨時はソファの裏側にカビが生えちゃうような物件だったんですけど、もういいやと(笑)。
引っ越したとき、「城咲仁が終わったらしい」って言いふらしてるヤツもいたんですよ。
ライター・文
悔しかったんじゃないですか?
城咲さん
見とけよって。もう1回歌舞伎町に飛び込んだ時みたいな感覚が蘇ってくるのを感じました。
同時に、時代や職業が変わっているんだから、もう一度「城咲仁のルール」を作らなきゃダメだと思ったんです。
それで、ずっとつけていた何百万する時計をぜんぶ金庫に封印しました。今の自分には見合ってないなと。「高級時計で自分を飾らない」というルールにアップデートしたんです。
「商品のストーリーを語れるようになろう」新たなルールで売れっ子通販バイヤーに
ライター・文
そこから復活が始まったんですね。
最近では、通販バイヤーとして大活躍ですよね。1日に1億7000万円売り上げたという噂も…
城咲さん
本当ですよ!
やってみたらすごい奥が深いというか、これちゃんとやらないとメーカーさんに失礼だなと思って。もうひとつ、「台本を読まない」というルールを自分に課したんです。
ライター・文
どういうことですか?
城咲さん
通販バイヤーをやるって決まったとき、ありとあらゆる通販番組を録画して研究したんですよ。そしたら、台本で喋るタレントさんのうさんくささに気づいたんですよね。
商品を見て台本通りに「わ~すごい! 絶対私もこれ買う」みたいな(笑)。
そんなの絶対売れないだろうって思ったんですよ。
ライター・文
でもよくそういう番組見ます(笑)。何がいけないんですかね…?
城咲さん
結局、人は「ストーリー」にお金を払うんですよ。ホストだって自分の夢や生い立ちのストーリーに共感してもらわなきゃいけないし、タレントだってそうです。
だから僕は台本なしで喋れるように、メーカーさんと同じぐらい商品知識を身に付けようって決めました。必要な資格も全部取って、製造工程をチェックするために工場に足も運んだ。それぐらいしないと商品のストーリーを語ることはできないから。
おかげで今は毎回売上好調ですよ。
ライター・文
すばらしいですね! さすがのプロ意識です。
城咲さん
正直、通販バイヤーを始めたばかりのころは迷いがあったんです。でもそんなとき、カンニングの竹山さんが「仁さ、通販の世界でナンバーワンになるのもカッコいいよ」って言ってくれたんですよ。それで吹っ切れたところもある。
こうやって思い返してみると、つくづく自分は人との出会いに救われてるなと思いますね。
苦しい過去も、清々しく語ってくれた城咲さん。
現在は、芸能活動をしながら飲食店のコンサルティングも行っているとのこと。
「今後、城咲仁はどうなっていきますか?」と聞いてみると、「今年はお店が絶対伸びる感じがしてるんだよね…。俺の嗅覚がそう言ってる!」とニヤリ。
2019年はどんな城咲仁が見られるのか、楽しみにしています!
〈取材・文=文希紀(@gigi_kikifumi)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉
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