ビジネスパーソンインタビュー
「謝罪アポはコントだ」ってどういう意味…!?
“危機”という言葉には2つの意味がある。田端信太郎が語る「チャンスを生み出す謝罪術」
新R25編集部
社会人たるもの、謝るべきときには謝らなければならない。
とくにビジネスの現場にいると発生するのが「謝罪アポ」という憂鬱なイベント…。
今回は、数々の修羅場を乗り越えてきた(に違いない)ビジネスパーソンの田端信太郎さんに、「謝罪」について教えてもらいます。
〈聞き手:天野俊吉(新R25編集部)〉
【田端信太郎(たばた・しんたろう)】株式会社ZOZO コミュニケーションデザイン室本部長。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン『R25』を立ち上げ、創刊後は広告営業の責任者を務める。その後ライブドア、コンデナスト・デジタル、NHN JAPANを経て、2018年3月から現職
天野
最近、田端さんのことを「謝罪の仕方をよく知っている」と評価する声を複数の人から聞きました。
やはり大企業で何年もビジネスの現場にいると、お詫び訪問の経験も多いんでしょうか?
田端さん
そりゃもう、何十回もあるよ。
たとえば『R25』(フリーマガジン時代。田端さんは広告営業を担当)のときなんて、まだ20代だったからわからないことだらけで、ミスばっかり。お詫びしまくりだよ。
天野
たとえばどんなことが?
田端さん
自分1人のミスってわけでもないけど、ある電器メーカーの広告が載っている向かいの記事ページに、「ライバルメーカーのHDDレコーダーがバカ売れ!」みたいな記事が載ってたと。
それで「クライアントへの配慮が足りない」「広告のマナーがわかってない」みたいなことで怒られるわけ。
そうなると、当時“三段活用”なんて言ってたんだけど、広告代理店の雑誌の部署、営業部署、そしてクライアントのところへ行って計3回謝らなきゃいけない(笑)。
天野
相手も大企業だから、20代には相当しんどそうですね…
田端さん
でもまあ、今思えば若いうちにそういう経験をできててよかったよ。
たくさん地雷を踏んでると、オッサンになってから謝罪にビビらなくなる(笑)。怒られるパターンを一通りやり尽くしてるからね。
今日はぜひそのあたりを教えてください! 酒飲みながらでいいので…!
「事故が起きるのは、チャレンジしているから」謝罪を怖がる必要はない
天野
謝罪アポというと、何はともあれ「怖そう」と思ってしまいます。
田端さん
それはわかるんだけど、まずは「謝罪やお詫び訪問を必要以上に恐れない」ことが大事かもね。
以前、新R25の取材で「いいマネージャーはDJ」って言ったじゃん。いいDJが盛り上げてるビジネスの組織は、いわばクラブで熱気ムンムンのパーティ状態なわけ。
そうしたら、トラブルが起きるのは当然だよね。酔っ払って潰れるヤツが出るとか、近隣住民からクレームがくるみたいなさ。それを完全に防ぐって無理なんですよ。
「盛り上がったら必ず、光と闇のような部分が発生する」
田端さん
たとえを変えようか?タクシー会社を経営すると考えてみてよ。
そしたら、年に何件かは一定の確率で交通事故は起きるでしょ。そりゃ事故はゼロなほうがいいですよ? でも自動車が走ってる以上、ゼロにはならない。
大事なのは、事故ったときの「落とし前のつけ方」って話なんだよね。
天野
ふむふむ。
田端さん
営業マンが何かやらかして謝罪する羽目になるのって、サボってるからではないじゃん。
「なんとか売上を立てよう」としてチャレンジしてるから、結果として事故っちゃうわけでしょ。意味のあるチャレンジをしたら、ある程度の失敗や事故は必ずあるんです。
だから、謝罪や謝罪アポが多い会社って別に悪い会社じゃないんだよ。逆にいえば、謝罪したことがないという人は、まだ大したチャレンジをしてないからだ…とも言える。
天野
そう言われると、今謝罪が必要な状況にいる人も救われそうです。
田端さん
そうでしょ? あとは、期待されるからこそ、謝罪しなきゃいけないって考えるべきですよ。
「御社ならこういう結果を出してくれるはずだ!」っていう相手からの期待があって、そこからの落胆があるから、感情のもつれを生む。
決して誉められることじゃないけど、ほとんどのビジネス上のトラブルや揉め事は、別に法に触れて刑事罰を受けるようなことでは全然ないわけです。
田端さん
おれが好きな野村(克也)監督の名言があって、「35歳をこえて敵がいないということは、人間的に見込みがないことである」という。
何かをやろうとしたら、衝突や摩擦は絶対に起こる。それを必要以上に恐れなくていい、とR25世代には言いたい。そのためにも、謝罪やお詫びの場数は早めに多く経験できればいいよね。
トラブルのパターン①「“ボクら悪くないんです”アピールに巻き込まれる」
田端さん
部下をマネージャークラスに昇進させるかどうか、あるいは中途採用するかどうかを判断するとき、おれは「コイツを1人で謝罪アポに行かせられるかどうか」をかなり見る。
今R25世代で、上司から「こいつなら、トラブルを収められる」って思われてたら昇進の可能性大だよ。
天野
たしかにそうでしょうね。でもハードル高そうだな~。
田端さん
そこの経験を積んでいくべきだよね。トラブル収拾は経験がモノを言う。
なぜかというとある程度のパターンに分類できるからなんだよね。
「あんまり詳しく言うと『それ前にいた会社であったんだろ』ってツッコまれるから控えるけどさ!(笑)」
天野
どんなパターンがあるんですか?
田端さん
たとえばよくあるのが、取引先の社内の責任のなすりつけパターン。
トラブルが起きて社内で「誰が悪いんだ」となって、責任がこっちに来ちゃうみたいなときだね。もちろん、こっちにも非があるから来るんだけど…
天野
一方的にどちらかが悪いということはあまりないと。
田端さん
こういうときは特に、現場の発注担当が、仕事を請けているこっちに頭下げさせることで、間接的に自分たちの上司に「ほら、ボクら悪くないんですよ!」とアピールしたいという思惑が強かったりする。
大体、型通りの「経緯報告書」を持参して、そこに社判でも押せば「免罪符」がもらえたということで手打ちになりますね。
トラブルのパターン②「“逸失利益”について責められる」
田端さん
あと、自動車事故の損保でよくいわれる言葉なんですけど、「逸失利益」の話をされるパターンはつらいね。
天野
いっしつ…?
田端さん
つまり、「プロジェクトがうまくいっていれば将来的にも利益が見込めたのに、そのチャンスを逸してしまった」と。
自動車事故でいえば「女の子とドライブ行くはずだった愛車のBMWを破損させられた!」「BMWでドライブしてれば付き合えたはずなのに、フラれたらどう責任とってくれんだよ!?」みたいな話なんだよね。
たとえがいちいちコミカルな田端さん
田端さん
売上金を返却して謝罪すればいいという話だけじゃなく、その「見込めてた利益まで保障しろ」って大変なのよ。
これ言われだしたら青天井になる。
天野
やっぱり大変な交渉だな…そんなときはどう対処すればいいんでしょうか?
田端さん
だからあらかじめ、「そういうことを言われるかもしれない」と頭の片隅で考えておくことが大事だよね。
具体的にいえば、謝罪はしつつも「何でもお詫びいたします」という約束をしないこと。
「お好きな金額をご記入ください」とばかりに“白紙小切手”置いてくるようなマネはしないように動くべき。
天野
全面的に頭を下げてその場を収めないと、と思ってしまいそうですが…
田端さん
頭は下げてもいいけど、その一方で相手に必要以上に攻め込まれないように、「何をどこまで謝るのか」を事前に明確に決めておかなきゃいけないんだよ。
普段から上司に「バッドニュース」を言える関係性をつくるべき
天野
社内で上司に謝る…という場面もありますよね。R25世代としては、トラブル発生時に社内でどのように行動すべきですか?
田端さん
まず、ファクトと自分の解釈を混ぜて上司に話すヤツはダメだね。
「クライアントの××部長が怒ってます!」とかさ。
怒ってるなんて言われても、根拠がわからない。「おれは怒ってるぞー!」なんて言うおじさんいないじゃないですか(笑)。
天野
そりゃそうだ。
田端さん
「このキャンペーンについては、このままでは請求書の受け取りを拒否すると言っている」とか、誰が何を言ったか、ファクトを伝えてほしい。
田端さん
常々思うのは、グッドニュースから話したいのはわかるんだけど、バッドニュースこそすぐに上司に話すべき。
なぜなら、上司として一番恥ずかしいのは、部下がトラブルを起こしたときに「あれっ、おれは聞いてないけど…」ってなっちゃうことだから。
天野
事態を把握できてないと。
田端さん
そうなのよ。取引先から「オタクんとこの営業がやらかしてんだよ!」って言われても、「えっ、そうなんですか…至急確認します」みたいに言われっぱなしになっちゃう。
おれはよく「部下のケツをふくのが上司の仕事」って言ってるんだけど、その「上司の仕事」が何もできなくなっちゃうからね。
まあ、普段バッドニュースを言うと怒られるから部下も言えなくなるんだよね。だから、上司はバッドニュースに怒らないクセをつけとくのが大事だとも言える。
「謝罪アポこそチャンス」ってどういう意味…!?
天野
よく「謝罪アポこそチャンスだ」みたいな話を聞くんですが、あれってどういう意味なんですかね?
うまく切り抜けられても、別にチャンスではない気が…
田端さん
こういう言い方をすることがあるんです。
「危機」という言葉って「デンジャー(危険)」と「オポチュニティ(機会)」がセットになってるものなんですよ。
よくこんなウマい話が次々と出てくるなあ…
田端さん
それなりの規模の謝罪の場だったら、普段会わないようなエライ人が出てくるのは想像つくでしょ?
普段なら、営業マンが「この企画、○○部長にぜひ提案したいんです!」って言っても、その部下のヤツに「はい、僕が預かっておくんで」「伝えておきますから」とか言われて終わりじゃん。
それが、お詫びとなると“親玉”が急に出てくるわけだから、まずはその時点で大チャンスだよね。
天野
普段会えない人に会える機会ととらえるのか…
田端さん
そして、「謝罪の場」って“熱量”があるんですよ。
奥さんや彼女とケンカしたときと同じだよ。人間って、怒ってるタイミングだと、その人が普段から不満に思っていることがダダ漏れになるものなんだよね。
怒りと本音ってセットで出てくるもの。だから、エライ人の本音が聞ける。
天野
それはたしかに!
田端さん
たとえばある仕事を受注してて、思うような結果が出なかった。
本来は売上だとか数字のデータについて責任があってお詫びするところで、「この広告クリエイティブ(表現、ビジュアルのこと)では全然ダメだよ!」と指摘されたとする。
そしたらそこで、「待てよ?」と。
田端さん
内心「あ、売上が悪かったっていうより、怒りの本音はそこなんですね」と。
本来は「nice to have(あると便利、あるといい)」に過ぎない範囲に相手が執着して怒ってたら、本音では「それがほしい」と思っている可能性が高い。
そこにビジネスチャンスがありそうなんですよ。
天野
ほう…!
田端さん
そこから「おっしゃる通りですよね!今後はぜひその部分に関して、有償のコンサルティングもご提案させてください」とかいう話に持っていける。
相手の期待や落胆から、「御社が求めてるものって本当は何なんでしたっけ?」というところに立ち戻れば、チャンスにつながるのは当然ですよね。
サラリーマンは「謝罪」というコントをやっているにすぎない
天野
ちなみに、「謝罪のときはどういう服装で行け」とかもあるんですか?
田端さん
あんまり高そうなスーツは着ていかないで、地味なネクタイするとか。手には「とらや」のようかんだよね。
リクルートのときは、「銀座ウエスト」のリーフパイと相場が決まってた(笑)。
手みやげはすぐ出しちゃいけなくて、「まあ、今後気をつけてくださいよ」みたいに話が収まりかけた絶妙のタイミングで「これ…」みたいな感じで出す。
田端さん
これ、もはやある種のコントの域ですよ。刑事が「カツ丼食うか?」って言うみたいな(笑)。
天野
謝罪はコント…!
田端さん
サラリーマンの謝罪アポって、自分の“役割”を演じてるという意味ではコント芸人か役者みたいなもんですよ。
「お詫び訪問俳優」になったような気分。
天野
一応ききますが、「やっぱりマジメな気持ちで謝罪しないと不謹慎かな」みたいな考えは…
田端さん
不謹慎っていう人もいるかもしれないけどね。
たとえば、交通機関とかインフラ企業で重大な被害を出してしまった、とかだったら話は別ですよ?
でも、そうじゃないほとんどの企業の場合「自分の命をかけて…」なんて大げさに考えすぎないほうがいい。最初に言ったように、あまりビビりすぎず誠実に、「役割を演じる」と思うぐらいでいいと思うんだよね。
そういう冷静なマインドが、適切にトラブルを収拾できたり、次の仕事へのチャンスをつかんだりってことにつながるわけです。
今回の「魁! 田端塾」(と勝手に呼んでいる)は、不謹慎とハードネゴシエイトのギリギリを行く、まさに田端さんらしい教えが満載でした。
これ、45分ぐらいの取材時間で毎回ドドドドッとお話しされるので、頭フル回転でめちゃくちゃ疲れます…。
何か田端さんに「教えを乞いたい」内容がある方は、新R25編集部のツイッターアカウントまで、連絡くださいませ。
次回もお楽しみに!
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=中山駿(@nk_shun)〉
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