「マッサージアイテムとして売れば…」

「18禁を隠すべきか」の葛藤。TENGAが百貨店に常設店をオープンするまでの戦い

ライフスタイル
百貨店「阪急メンズ東京」が、3月15日にリニューアルを果たしました。

そのなかで、ひときわ注目を集めたのが、「TENGA」初の直営店が、6Fに常設店としてオープンしたこと。
写真を見れば、オシャレなフロアにマッチした、ファッショナブルなお店。

しかし、TENGAがいわゆる“百貨店”にお店をオープンできるようになるまでは、大きな苦難の歴史があったのです…。今回は、TENGAで広報として活躍する、工藤まおりさんに、これまでの秘話を執筆いただきました。

TENGA発売から5000日! ついにオープンした直営店

2019年3月15日。有楽町にある阪急メンズ東京にて、TENGAが初の直営店を出店しました。

日陰の存在であったアダルトグッズ。2005年のTENGA発売から、5000日(13年8カ月9日)の月日を経て、老若男女が訪れる、安心感のある場所で堂々と店を構えることができました。

オープン時からさまざまなお客様が足を運んでくださり、初日は1日で300人がご来店

初日に皆さんが楽しげに製品を選んでいる姿を見て、我々が掲げているビジョンは間違っていなかったと改めて感じ、ついつい笑みがこぼれました。

性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」という言葉を、あえて会社のビジョンとして掲げるほど、以前は「性を楽しむ」と公言できる人が少なかったように感じます。

TENGAの広報として活動している私もその1人。ある日ふと入ったバラエティーショップの18禁コーナーで見つけたTENGAから感じた、「性をもっと楽しんでもいい」というメッセージに共感し、転職に至りました。

入社当時と今を比較すると、世間のTENGAに対するイメージがだいぶ変わってきたように感じます。

しかし、ここまでの道のりは、簡単なものではありませんでした…

「18禁商材」というレッテルを貼られると、日本では流通自体が難しい

ヨーロッパでは、“街中の路面店”というかたちで日常的にセックスショップがあるのに対し、日本では、多くの人が出入りし人目につく場所には、そのような店を構えることが難しい。

店を構えるとまでいかなくても、TENGAを商品としてお店に置いていただくことにだって、ハードルがたくさんあります。

「性=触れちゃいけないもの」という固定観念はもちろんのこと、「18禁商材」となると一気に流通が難しくなるのです。

売り場の担当者がTENGAのビジョンに共感して「販売したい」という声を上げてくれたとしても、前例がないチャレンジに、上層部から承認をいただくことが難しいのです。

進んでいた案件が、「現場のスタッフはやりたいのですが、上層部から意見があり難しかったです」という声が出てストップしたことが何度もありました。

2013年に発売を開始した女性向けプレジャーアイテム「iroha」も、同じような壁にぶつかりました。
しかしあるとき、そんな状況を打破するアイデアが出されます。それは、「18禁商材」としてではなく、「マッサージアイテム」として売るというものでした。

「18禁商材をマッサージアイテムとして売る」ことのジレンマ

内容がどんなものであれ、「18禁商材」となると流通させにくくなる日本の小売業界…。

反面、新しく商品企画を行い、「マッサージアイテムです!」というテイで売り出せば、一般のお店でも取り扱ってもらいやすくなるのです。

このアイデアには、社内では賛否両論ありました。

商品としては当然販路を広げるべきですが、「性を表通りに」というビジョンを掲げているなかで、「アダルトグッズを、本来の目的を隠して流通させる」ことが果たして正しいのか

それをやってしまうと、我々が実現したい目標に背いているのではないか…というジレンマに陥ってしまったのです。

TENGAの発売時のキャッチコピーは「オナニーの未来がやってきた」というもの。これも、「オ●ニー」などと一部を隠す表現を使うのではなく、あえて堂々と書くことによって「マスターベーションは恥ずかしい行為ではない」ということを表現したのです。

結局、やはり「伝えたいメッセージに背いてしまうと意味がない」ということで、TENGAのセクシュアルアイテムは「18禁商材」のまま、販路拡大を目指すことになりました。

大丸梅田店での「iroha」ポップアップストアで感じた確かな手応え

そんななか、リアル店舗で初めて実施できた大きな取り組みが、昨年大阪で行ったirohaポップアップストアでした。

2018年8月22日~9月4日の間、大丸梅田店で、女性向けプレジャーアイテム「iroha(イロハ)」のポップアップストアをオープンし、20代から70代までの幅広い年代の女性やご夫婦、約1500名にご来店いただきました。売上は389万円。目標金額の3倍を上回る結果です。新聞やテレビにも取り上げられ、大きな話題となりました。

実現に至ったのは、大丸の担当者の方が「出産や親との同居などのタイミングで置き去りにされがちな夫婦愛」に問題意識を感じ、“夫婦愛最大化をサポートする企画”をやりたいという強い意思をお持ちだったからでした。

最初にご提案いただいてから、約2年の間営業スタッフとの打ち合わせを重ね、やっとの思いで実現に至りました。
淡いピンク色ののれんと、ナチュラルな色合いの木を組み合わせたパーテーションを作り、女性が外からの視線を気にせずに商品を見られるよう、細部まで意識しました。

売り場で「今まで性を楽しむことははしたないことだと思っていたけど、こんなショップができて安心した」という声も聞けて、入りやすいお店で展開する意義みたいなものが実感できました。

店員に、性に関する悩み相談をするお客様も多く、“性について安心して相談できる場所がない”という社会課題も感じました。恋愛話は友人に相談しやすいけれど、性に関する相談はしづらいのです。

安心感のある場所でスタッフに相談しながらアイテムを選ぶ場所“はやっぱり必要なんです。

初の常設店スタート。「ストリートカルチャーのフロアにTENGAを置くことは必然」

そして、阪急メンズ東京のリニューアルに合わせ、TENGA常設店の話が出ます。今まで何度もリアル店舗での企画がなくなった経験から、正直不安はありました。

しかし、阪急メンズ東京のご担当者様には「裏原ストリートカルチャーがコンセプトの6Fに、TENGAを置くことは必然である」とおっしゃっていただき、堂々のオープン。

この日に合わせ46点の新商品を取りそろえ、今後も続々と展開予定。「一般商材としてのセクシュアルアイテム」を目指すTENGAとしての、大きな一歩だと感じます。

「性=話してはいけないもの」という固定観念をなくし、真面目に製品を作っていること、販売していることを伝えつづけ、今回の常設店オープンにつながりました。
TENGAはこれからも変わらず、「誰もが性を楽しめるものにかえていく」というビジョン実現に向け、ブランドとしてのメッセージを発信していきます。

“性”には色んな側面があります。「SEX」「マスターベーション」はもちろんですが、「性教育」「妊活」といったトピックスもまた性にまつわること。

プレジャーアイテムが、その名の通りさまざまな人の「喜び」のためのアイテムになりますように

〈文=工藤まおり(@maori212)/編集=天野俊吉(@amanop)/トップ画像撮影=飯本貴子(@tako_i)〉

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