ビジネスパーソンインタビュー
「アートにお金を使っても、何も減らないんです」
若いうちほど、お金を使うと得をする。“価格自由”の本を出した光本勇介の「実験的お金論」
新R25編集部
最近話題になっている『実験思考』という本を知っていますか?
この本、電子版は0円! 紙の書籍版は原価のみの390円。つまり、儲けゼロの“タダ”で本をバラまいているんです。
本を読んで楽しめたら、自由に金額を支払ってもよい…というシステム(※5月20日15時時点のスクリーンショットです)
著者は、株式会社バンクCEOの光本勇介さん。
2017年には、“目の前のアイテムが一瞬でキャッシュに変わるアプリ”「CASH」をリリースして注目を集めるなど、気鋭の起業家です。
【光本勇介(みつもと・ゆうすけ)】2008年、株式会社ブラケットを設立。2012年、“最短2分で、誰にでも簡単にオンラインストアが作れる”「STORES.jp」リリース。2017年には株式会社バンクを設立し、代表取締役兼CEOに。“目の前のアイテムが一瞬でキャッシュに変わるアプリ”「CASH」をリリースするも、予想以上の反響でリリース後16時間でサービスが一時停止となる。同年8月には「CASH」を再リリース
BANKのコーポレートサイトを見てみると「私たちは、お金に関する問題を今までにない新しい方法で解決し、すべての人の可能性を広げるお手伝いがしたいと考えています」と書かれており、“お金”に関する意欲を感じます。
新R25では、これまで、さまざまな経営者のお金の哲学を聞いてきました。それを踏まえても、この方の“お金哲学”はかなり独特かつ最先端なのでは…?
今日は、「最近はメディアの取材をあまり受けない」という光本さんに、ガッツリとその哲学を語っていただきましょう!
取材後、僕はお金に対する価値観がグラグラになりました…。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
本をタダで出すメリットって何ですか?
天野
『実験思考』、すごい話題になってますね。
タダで本を売る(?)というアイデアは、光本さんが考えたんですか?
光本さん
そうです。以前から「本を書かないか」という話はもらってたんですが、酔っ払ったタイミングで「好きなように売らせてくれるなら」ってOKしてしまったんですよ。
それで電子版は0円にできました。本当は紙の書籍もタダにしたかったんですけど、書店で販売する以上0円では販売できないので、印刷代の原価390円だけいただくことになりました。
なんと「お金」が貼ってある会議室で取材スタートです。部屋の名前は「HIDEYO」
天野
「タダで出す」というのを知って、どんなメリットがあるか考えたんです。
たとえば昔の『R25』のようなフリーペーパーは、広告が載っていて、クライアントからお金が出てるから読者はタダで読める。民放のテレビもそうですよね。
つまり、会社のプロモーションとして出しているからタダなんですか?
「……」
光本さん
ちがいますね…
まさに『実験思考』というタイトルの通りなんですが、自分は「ビジネスにおいて、いろんな実験をしてみたい」というのが原動力なんですよ。
天野
な、なるほど…
タダのものはだいたい「広告が絡んでるからじゃ?」と思って生きてきた“浅さ”を反省します…
光本さん
「実験」のなかでも、お金にまつわるものって面白い。
世の中ではモノや情報を手にするのに「お金」というハードルがありますよね。そこで、「お金を払わないでそれを提供しちゃったら、世の中どうなるのか?」。今回実験したのはそれなんです。
たとえば“出版ビジネス”って、もう数十年ビジネスモデルが変わってない。そこで「本来1500円ほどするビジネス書を0円で提供したらどうなるのか?」「本の価格を読者の自由に委ねたら、定価で売った場合より儲かるのか?」という実験をしてみたかったんです。
天野
「お金を払わないで読める本」を出したことで、どんな実験結果が出てるんですか?
光本さん
『実験思考』は特設サイトを通じて、「好きな金額を支払える」ようにしたんです。そうしたら、発売してたった10日で約6000万円も集まってるんですよ。
最高クラスの価格だと「1000万円払う」ことができるようになってるんですが…すでに3人ぐらい、1000万円払ってくださってる人がいるんです。正直、これは想像もしてなかった。
※5月20日15時現在、約
5800万円
集まっています…!
天野
タダで読める本に1000万円…!ちょっとワケがわからなくなってきました。
光本さん
僕は、「お金に関して人間は性善説なんじゃないか」という仮説を持っていて。
今回、その仮説にもとづいて「あと払い」で本の代金をいただく販売方法を実験してみた結果、多数の方にお支払いいただいている…という状況です。
天野
払った金額によって、いろんな特典をもらうことができるんですよね? 1000万円払うと「光本勇介と一緒に会社を立ち上げましょう。 アイディアがなければ光本が提供します」と書かれてますね。
これも光本さんの発案なんですか?
光本さん
そうですね。全部自分で考えました。
先日、大学生の子が1000万円持ってきたんですよ。いろんなところからお金をかきあつめて現金で。
このあいだ1回目の打ち合わせをしました。
天野
「一緒に会社を立ち上げる」というのは、どういう意図の特典なんですか?
光本さん
上からエラそうに言うつもりはないですけど、自分みたいに実験する人が増えたらいいな、面白いなと思ってるからですね。
やばい…「実験思考」にさっそく全然思考が追いつかないぞ…
「仮説を立てて、つくってみる」。実験思考でさまざまなビジネスを立ち上げる
天野
光本さんは本業のビジネスでも、「実験」をしてるんですか?
光本さん
そうですね。たとえば、“あと払い専用の旅行代理店アプリ”「TRAVEL Now(トラベルナウ)」を2018年にリリースしました。
天野
あ! 「支払いは2カ月後」でいいのに、旅行のチケットや航空券が取れるということでかなり話題になりましたね。
光本さん
OTA(Online Travel Agentの略)という、ネット上での旅行会社の市場が注目されてるんですが、すでに3兆円ぐらい市場があるんですね。
そういうデータを見てて、ふと「これって、お金がある人が旅行に行ってる市場だよな」って思ったんです。
それ以外に「お金がないから旅行してない」っていう人がめちゃめちゃいるんじゃないかなと。
天野
自分も、「○万円かかるな…」と思うと、旅行が億劫になってしまうタイプです…
光本さん
だから、いま手元にそんなにお金がないという人向けに、「お金という制約」をとっぱらえば、新しい旅行市場ができるんじゃないかと。
仮説としては、「お金を持ってる人向けの旅行市場」より、「お金がそこまでない人向けの旅行市場」のほうが規模が大きくなる可能性があると思ったんです。
天野
たしかに! 学生とか、若者とかそうですよね。サラリーマンだってそうか。
光本さん
でも、わかんないんですよ。データも何もないから。
だったら、1回それをつくってみるべきなんじゃないかと。それが「実験思考」ですよね。
天野
光本さんは、その思考をどこで身につけたんでしょうか?
光本さん
高校生の夏休み、毎朝5時に起きて原宿に行ってたんです。
裏原系のブランドが人気だったんで、ショップに並んで5000円のTシャツを買ってくる。
それを、ネットで売ってたんですよ。ヤフオクもない時代だから掲示板でほそぼそと…
天野
転売ヤーのはしりだったと(笑)。
光本さん
だいたい2万円で売って、月に150万円ぐらい稼げたんです。
それが面白いなと。誰でも自由に買えるものなのに、ネットを通して価値が上がる。
「キムタクがTVで着たやつを買えば、さらに高く売れそう」とか、実験的な思考が養われたと言えそうですね(笑)。
16時間で3億6000万円が動いた「CASH」。労働や道徳観と結びつく「お金の価値観」は変わるのか?
天野
光本さんのビジネスで、一番注目を集めたと言っていいのが「CASH」だと思うんです。
※洋服やサイフの写真を送ればその場で査定され、すぐにキャッシュを受け取ることができる画期的サービス。2週間ほどで集荷が来て、アイテムを送ればOK。リリース時は「アイテムを送るか、キャッシュを返金するか」を選べたため、“質屋と同じような仕組み”と理解した人も多かった。
リリースからわずか16時間で、3億6000万円以上のキャッシュが動いたという。
天野
これも「お金にまつわる実験」のひとつなんですか?
光本さん
そうですね。
人がお金を手に入れる手段っていくつかあるじゃないですか。労働の対価としてもらう、誰かに借金する、自分がすでに持っているものを売る…
この“手段”の共通点ってなんだと思いますか?
天野
すいません、わかりません。
もう、思考についていけないときは素直に言うことにしました
光本さん
僕が思ってたのは「どれを選んでもめんどくさい」「時間がかかる」ということなんですよ。
労働は大変だし、会社員だと労働の対価をもらうまで1カ月はかかる。消費者金融でお金を借りようと思ったって、“無人ボックスでかんたんに…”とか宣伝してますけど、身分と収入の証明書出して、とかめちゃくちゃ大変じゃないですか。
そこで、「めんどくさくなく、今すぐお金がもらえる」というサービスを出したらどうなるのか?と考えたんです。
天野
お金があまりない若者をターゲットにしている、と「貧テック」のような言い方で批判されることもあったようですが…それについてはどう思いますか?
ネガティブなツッコミをしてしまい申し訳ありません
光本さん
時代ってどんどん便利になってくべきだし、世の中を進化させていくことは悪くないはず。
こういうことを言うと、言葉を抜き出されて批判される気もするんですが…
ほしいと思ってる人に正当な方法で何かを提供するサービスが批判されるのは、率直に言って、僕は理解できないですね。
天野
おそらくなんですが、めんどくささをガマンしたことの対価としてお金を得ることが“道徳的に正しい”と思う価値観があるんですかね…
光本さん
それを覆すサービスが出たことによって、アンハッピーになってる人がどれだけいるのかなあ?と思ってしまいます。むりやり“貧しい若者”をフィーチャーしているような気もしますけどね…
お金って、道徳観と結びつけて語られすぎて、実態がよくわからなくなっているところはあると思うんですよね。そこも僕が“実験”で解き明かしていきたいところです。
ああ、お金って何なのか、どんどんわからなくなってきた…
「お金は使うほど増える」って結局どういう意味なの…?
天野
ここからは、「お金の使い方」について聞きたいです。
本のなかで「お金は使うほど増える」って書かれてたじゃないですか。
以前、新R25の取材でZOZOの前澤さんもおっしゃってたんですが、正直いまだに意味がわからないんですよね…
光本さん
「お金を使う」ことを、圧倒的多数の人は「消費」として捉えていると思うんですよね。
でも、よく考えると単にお金を失っているわけではなくて、得ているものが必ずあるじゃないですか。
この得(え)が大事なんですよ!
穏やかだった光本さんの声が少し大きくなりはじめました
光本さん
去年、今まで買ったなかで一番高い「絵」を買ったんです。
XXX円したんですけど。
天野
ええ…! すごい…
「具体的な金額は公にしないようにしてる」とのことで、金額は非公表です…。想像してお読みください
光本さん
オークションで買ったんですけど、ほとんどの人はその行為を「消費」「浪費」として見るじゃないですか。
でも、XXX円という現金を、XXX円の価値のあるモノと交換しただけ。引き続き手元にXXX円分の価値のモノがあるから、何も減ってない。
円とドルを交換してるみたいなものなんです。
天野
ふむ…(そうかな…?)
光本さん
それを家に飾って、毎日豊かな気持ちで生活できるんですよ。XXX円を1ミリも失わずに豊かになっている。
“得てる”んですよ!
しかも時間が経てば経つほど、価値が高まっていくんですね。来年はもっと上がってるかもしれない。再来年にはXXXXX円に上がってるかもしれないですよね。
@yusuke_tokyoがシェア
光本さんのインスタでは、さまざまなアート作品の写真がアップされています。これはいくらぐらいなんだろうな…
天野
ちょっと理解できてきたんですが…読者がみんな思ってるであろうツッコミをしていいでしょうか。
それって逆の可能性もありませんか?価値が下がってしまうという。
あと、その絵の価値は必ず全員が認めるものとは限らないのでは…?
光本さん
でも、お金だってそうじゃないですか?
天野
あっ。
光本さん
現金だって日々価値が変わってるし、人によって重要度は変わりますよね。
光本さん
「お金を使うと増える」という話で理解してもらいやすいのは、「学校」です。
学校は、お金を払って自分を成長させる場所じゃないですか。学費を払って名のある大学に行って「学歴」を手に入れてもいいし、専門的な学校で技術を身につけてもいい。
“自分の価値”を上げれば、その後もらえるお金が増えるわけですよね。これは多くの人が自然にやっているんですよ。
天野
たしかに学校にお金を払うことを、浪費とは思わないな…
だんだん光本さんの言うことが理解できるようになってきたかもしれません
若いうちほど「お金を使うべき」な理由とは?
天野
では、R25世代がどういうお金の使い方をすべきかを教えてほしいです。
光本さん
これも共感してもらえなそうですが、25歳ぐらいでできる貯金額なんてたかがしれてるので、全部使いきったほうがいい。
僕も当時、服とかPCとかバンバン買ってましたね。
天野
服とか買って「また散財しちゃった(泣)」って後悔することがけっこうあるんですけど…それでもいいんでしょうか。
光本さん
「買っちゃった!」となることによって、新しい可能性を得てると思ったほうがいい。
自分も高校生のころ、2万円しか持ってないのに2万円の服を買っちゃって、「お金がない!」というところから、「じゃあこっちの服を売って…」という発想が出てきたんですよ。
そのときなんとなく3000円の服を買ってたら、今につながる思考は何も生まれてなかったと思うんです。
光本さん
それと、同じ「お金を使う」のでも、若いうちに使うほうが効果が大きいんです。
天野
年齢も関係あるんですか?
光本さん
僕、今年のゴールデンウィークはバハマに行って、その前の三連休はドバイの砂漠に旅行に行ったんです。そうすると視野が広がったり、価値観の変化がありますよね。
僕があと40年生きるとして、視野が広がった状態で40年も生きられる。それを日割り計算したら“スーパー安い”じゃないですか?
若いうちほどお金を使うべきだというのは、そういうことです。その後の人生が長ければ長いほど、お得になる。
天野
たしかに! お金を使った効果が出る期間が長くなるのか。
最後に聞かせてください。藤田晋(サイバーエージェント代表取締役社長)は「ほしいものもほとんどない」と、物欲がない境地に達しているそうなんですが、光本さんはそういう気持ちになることはないんですか?
光本さん
…ないですね。
「満足」はない気がしますよ。もっとやりたいことや、ほしいモノがありすぎます。
だからこそ、もっとお金を稼がないといけないし頑張らなきゃいけないと思います。
天野
満足はない…!
光本さん
これ、文字にするとすごい欲深い人間みたいになっちゃうからイヤなんですよね(笑)。読者にちゃんと伝わりますかね?
光本さんの話の本質が「欲深さ」なんかじゃないのはちゃんと伝わってるはずです。ありがとうございました!
「貯金○○○円はないとヤバくない?」
20代半ば以降、まわりの友だちからそんな声を聞くことが増えました。
そのたびに、「それって何のために貯めるんだろう?」「世間並みに貯金して安心するためなのか…?」と、ちょっと疑問を持っていたのを思い出しました。
光本さんの哲学を聞いて、「お金を使えなんて、お金持ちだから言えるんだろ」と考えるか、これまでの常識を疑ってみるか。
僕らもそろそろ、いろんな「実験」を楽しんでみてもいいのかもしれません。
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=池田博美(@hiromi_ike)〉
光本さんの『実験思考』はこちらをチェック!
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