ビジネスパーソンインタビュー

理想を下げることが、むしろ理想への近道になる。僕がたどり着いた「ふつうの人」のリーダー論

藤村能光著『未来のチームの作り方』より

理想を下げることが、むしろ理想への近道になる。僕がたどり着いた「ふつうの人」のリーダー論

新R25編集部

2019/07/17

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リーダーはその名の通り、チームを導いていく人

ただ、人を引っ張ることが苦手な人がリーダーになったらどうすればいいのでしょうか?

そんな悩みに直面したのは、大企業向けのグループウェアを提供するサイボウズのオウンドメディア「サイボウズ式」編集長・藤村能光さん。

新著『未来のチームの作り方』のなかでは、藤村さんが経験から学んだチームづくりや、新しいリーダーのあり方について語られています。

今回は、同書の内容から一部を抜粋してご紹介。自身を「エースで四番」タイプではなく、「六番で得点圏打率高め」タイプと分析する藤村さんのリーダー論とは?

「ビジョン」を作れないリーダーの開き直り

サイボウズ式の編集長になって最初に苦労したのは、チームとしての新しい理想を掲げることでした。

メディアの立ち上げ時に掲げた「新しい価値を生み出すチームのための、コラボレーションとITの情報サイト」というタグラインは初代編集長が作ったものだったので、自分なりのサイボウズ式を作っていくためにはチームの新しい理想が必要だと考えたのです。

しかし、いくら頭をひねっても、自分の言葉として新しい理想が思い浮かびません。「編集長が代わったからには、新しい理想やビジョンを示す必要がある」。そんなことを思いながらひたすら悶々とする日々。そういうなかで、ある考えが頭をよぎりました。

僕は、理想やビジョンを考えるのに向いてないんじゃないか?

初代編集長は、とにかく大きな理想を掲げるのを得意とするビジョナリーな人でした。ゼロから1を作り出せるタイプです。

一方、僕が得意なのは、1を10にするような仕事。枠組み自体をつくることよりも、枠組みのなかでいかに成果を上げ、その枠を広げていくことを考えるのが得意なタイプです。

そのことを自分自身がはっきり認められたとき、「無理に自分の理想を掲げる必要はない」という考えに至りました。

いい意味で諦めがついたのです。

編集長になるにあたってリーダー論のような本をたくさん読みましたが、そこに書かれているリーダー像は、ことごとく僕には当てはまりませんでした。読めば読むほど「こんなの自分には絶対に無理」という思いが募るばかり…。

しかし、同時に「エースで四番」みたいな人間だけがリーダーに相応しいわけではないとも思うようになりました。

たしかに、そういうタイプの人は実力があって目立つのでリーダーに任命されやすいのですが、普通の人とはかけ離れているだけに共感されにくいという側面があります。

僕は、野球チームでいえば「エースで四番」を担えるようなタイプではありません。どちらかといえば、六番で得点圏打率はそこそこ高いようなプレーヤーです。

しかし、チームで戦うことを考えるならば、ホームランを狙うばかりではなく、味方を進塁させるようなプレーも必要になります。

だから、僕は自分の役割をしっかりこなして、かつチームに貢献できるようなリーダーを目指そうと思いました。

その結果、僕は自分の理想を掲げるのではなく、チーム内で出てくるアウトプットを見ながら自分たちなりの方向性を定めていくメディアをつくろうと開き直ったのです。

最初に理想やビジョンを掲げて邁進していく「トップダウン」的な発想ではなく、メンバーから出てきたものを積み重ねて目標達成を目指すという「ボトムアップ」型の方針です。

雑誌などでは、編集長の交代によって誌面のテイストが大きく変わり、売り上げを左右するということもありますが、サイボウズ式は自分たちの主張よりも、読者が何を求めているかを第一に考えて作り続けていくというスタンスのメディアです。

だから僕は、編集長として自分の理想を掲げるよりも、サイボウズの理想をもとに、読者に喜んでもらえる記事を作ることをサイボウズ式の主軸に据えました。

「仕事の状況」ではなく「人の状況」を見る

編集長になりたての僕は、「自分にしか作れないビジョン」を立てようとしたのと同時に、「自分が一番頑張って、編集部を引っぱっていこう」とも思っていました。

だから自分がチーム内で誰よりも仕事をしようとしていましたし、その背中を見て、チームがいい方向に進んでくれるはずだと期待をしていました。

しかし、そのスタンスではどうにもうまくいかないのです。

結局は自分の仕事が増えるばかりで、チームが動いているという実感がありませんでした。むしろ「編集長になる前の自分の働き方とどこが違うんだろう」と、悩みばかりが増えていくのです。

これは、僕の理想とサイボウズ式というチームの理想の擦り合わせを怠っていたのが原因です。仲間たちがどのように働いて、どんな結果を生みだしたいのかを理解せず、自分の理想だけが先行していたのです。

その結果、当時のメンバーからも「藤村さんは単独で何かをやろうとしている」と思われてしまった。僕が「みんなで仕事をしたい」といくら思っていても、それは言葉にしなければ伝わらないのです。

なかでも最も苦労したのは、「チームで成果を出す」というスタンスが合わないメンバーとの付き合い方です。

サイボウズは「チームワークあふれる社会を創る」という経営理念を掲げているとはいえ、やはり長年かけて築いてきた自分の考えに強いこだわりがあり、スタンドプレーを好む人もいます。

編集長になったばかりの頃はそういうメンバーに対してもチームに貢献してもらおうと躍起になり、それが原因で衝突することもありました。ただ今にして思うのは、僕のアプローチがまずかったということです。

その頃の僕は、いわゆるマイクロマネジメントをしていました。仕事の進捗状況を細かく管理しながら、うまく進んでいないメンバーには「こうしてください」と指示を伝え、無理やりタスクを進行するといったマネジメントです。

この方法はタスクの進捗自体はよくなっていくのですが、対照的にチームの雰囲気が悪くなっていきます。特に、自分の仕事のやり方に強いこだわりのある人にとっては、ストレス以外の何ものでもなかったと思います。

空気の悪化を感じてからようやく、僕がメンバーのことを「タスクの進捗の度合い」でしか見ていなかったことに気づきました。

僕からすると「このタスクは5分で終わる仕事量だから、今すぐ取り組んでほしい」と思っても、その人にとってはなかなか着手できなかったり、進められない理由があったりします。

例えば、「このタスクを進めるために別の部署のメンバーに相談をしないといけないけど、その人と面識がないのでなかなかフランクな相談をしにくい」といったように。

人のことをタスクの進捗でしか見ず、感情や気持ちをないがしろにした進捗管理やマイクロマネジメントをすることは、受ける側にとっては嫌な気持ちしか残りません。

仕事の先にある、人の感情に目を配れなくなることで、チームが立ちゆかなくなっていく様子を、まざまざと感じたのです。

ただし、マイクロマネジメント自体は「使いよう」によってはいい面をもたらします。

特に事業やチームの立ち上げ時など、なすべきことが不明瞭でメンバーの習熟度やチームの成熟度が低い場合は、「チームで誰が何をやるべきか」が見えなくなりがちです。

こういった場合には、マイクロマネジメントを通じて事業やチームの進むべき方向性を明らかにしながら、タスクに落とし込む仕事の進め方も必要になってきます。

ただ、どんなフェーズにおいても、人の気持ちをないがしろにした仕事の進め方は絶対によくありません。大切なのは「仕事の状況」ではなく、「人の状況」を見ること。

人の「感情」をすくい上げることができずに、ただ単純にタスクの状況だけを見ているのでは、メンバーから信頼されるはずがないんです。

そう気づいてからは、細かなタスク管理をやめました。そもそも人を管理しようとすることなんて無理だし、高慢な考えだということに気づいたのです。

だから煮詰まっている仕事があれば、まずは「どうしたんですか?」と聞いてみる。そこから会話が始まり、タスクが進まない理由が明らかになってくるわけです。

お互いの状態を理解したうえで、「では、こうすればいいと思うのですが、どうですか?」と聞いてみたり、僕が最終判断をするのではなく、その人にやってもらうようにする。そういうスタンスが僕には合っていました。

結果、マイクロマネジメントをしていたときよりもタスク進捗のスピードは落ちました。ですが、メンバーには明らかに「納得感」をもって仕事に取り組んでもらえている実感が出てきたのです。

そして、クリエイティブないい仕事は、そういった心理状況から生まれます。多様な個性を尊重し、その人が納得するやり方で仕事を進めてもらう。

それがチームにとっては一番いいのだと感じた瞬間でした。

理想を下げて「小さな成功体験」を積む

今の世の中は、1を10にする仕事よりも、0から1を作り出す仕事に大きな価値が見いだされる風潮にあります。

しかし、本当に「1→ 10」よりも、「0→1」のほうが価値ある仕事なのでしょうか? 

僕は、「0→1」よりも「1→10」の仕事が得意なタイプですが、この2つに優劣はなく、どちらにも同じ価値があると考えています。

確かに、「0→1」という仕事は誰にでもできることではありません。

しかし、目の前にあることを少しずつ改善し、「1→10」や、時には「10→100」にする作業も誰にでもできるわけではない重要な仕事だと捉えています。

特に僕のような「ふつうの人」がリーダーとしてのポジションを任された場合には、無理に身の丈に合わない理想を掲げて組織を改革する必要はないと考えています。

それよりも、自分にできることをチームに伝えて、全体で少しずつ理想を形作っていくほうが着実に前進できるはず。そう考えて僕はサイボウズ式をボトムアップ型のチームへと切り替えたのです。

今よりもよくしたい」というのは誰もが考えることですが、理想が高すぎると現実を変えようと思っても変えられないことが大きなストレスになります。

このストレスとは、「理想と現実のギャップ」からくるものです。それならば、実現可能なところまで理想を下げるのもひとつの手です。

ただし勘違いしてもらいたくないのは、理想を下げるのは妥協ではないということです。いきなり高い理想を掲げて、頂点を目指そうとするとチームは息切れを起こします。

息切れを防ぐためには、すぐに到達可能なところまで理想を下げ、小さな成功を積み重ねる。

この繰り返しにより高い理想を実現するほうが有効ですし、むしろ理想を達成する近道になるのではないでしょうか

サイボウズ式で記事を作る編集部のメンバーは、記者や編集者の経験がある人ばかりではありません。その場合、最初から100点を求めることは当然できません。

ですが、一般的に人は理想を高いところに設定しがちです。目標をクリアできればいいのですが、達成できずに落ち込むという悪循環に陥ることもあります。

だから僕は、まず合格点を55点に設定し、最初の目標を達成したうえで次は60点を目指そうという考え方をするようにします。

理想を下げることで、「何かを達成できた」と、認識しやすくするのです。

そうやって成長の差分を感じられるようなマネジメントを意識して、メンバーに“小さな成功体験”を重ねてもらうのが僕の役割だと考えるようになりました。

これからの次代に向けた「新しいチームづくり」を学びたい方はこちら

みんなが自由に働けて、成果も出せるチーム」という理想を追いつづけた藤村さん。

「サイボウズ式」の編集部は、社員の勤務時間や働く場所がバラバラにもかかわらず、一体感を持ったチームワークを醸成していました。

その秘訣を知りたい方は、ぜひこの一冊を手にとってみてください!

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