中野信子著『キレる!』より
我慢も、攻撃もしない。中野信子が語る、相手を傷つけずに主張を通す「上手いキレ方」
新R25編集部
東日本国際大学教授として研究をおこなうかたわら、書籍・テレビ等で情報を発信しつづけている脳科学者・中野信子さん。
そんな中野さんが今注目しているのは「キレるスキル」。
怒りの感情を出すことに抵抗があり、身勝手な人に振り回されたり、ストレスを抱え込んでしまったりする人が多いですが、自分を守るためには、上手にキレることもまた必要だそう。
相手と良好な関係を保ちながら、自分を大事にできる「上手いキレ方」とは、一体どんなものなのでしょうか?
中野さんの著書『キレる!』より、その方法を2記事ご紹介します!
フォローのひと言を入れる
成功している人は、“キレる”を上手にコントロールできています。
たとえば、マツコ・デラックスさんや有吉さんは、キレる達人です。
キレて相手を責めているようで、いい塩梅で止めるし、本当に誰かが傷ついてしまうことは言いません。
キレていても相手を救うフォローのひと言も忘れません。
20年も昔の話ですが、印象的に覚えているエピソードがあります。
新宿2丁目のゲイバーに行ったときのことです。
女性も入れるゲイバーだったのですが、おそらく私が調子に乗っているように見えたのかもしれません。
どういうタイミングだったのかは忘れてしまいましたが、突然そのゲイバーのママから、「自分のこと、頭がよくてきれいとか思ってんじゃないわよ」と言われたことがありました。
2丁目の雰囲気にも、そうしたツッコミにも慣れていなかった私は、一瞬度肝を抜かれてしまいました。
そして、たぶん私は悲しそうな顔をしていたのでしょう。
すると、すかさず「十人並みよ」と、極上の笑顔でフォローしてくれたのです。
“調子に乗っているような人にはイラッとするから、そこはちゃんと突っ込むわよ。でも、排除するわけじゃないし、傷つけるつもりはないのよ”
という意図がよく伝わりましたし、言葉の選び方、間合いの塩梅が絶妙でした。
「すごい。この人は言葉の達人だ」と羨望の念を抱きました。
嫌な気持になるどころか、ああ、この人は私を正当に見てくれる人なんだ、とホッとする気持ちにすらなりました。
上手にキレて、距離もとりつつ、最後にはすっと心の中に入ってくれて、親近感すら感じさせてくれるような話術。
ぜひ真似したいものです。
相手との間に線引きをする
自分に非があった場合、相手からの叱責を受けることがあります。
しかし悪意がある人は、人格までも否定するようなののしり方をすることがあります。
そういう場合は、「私にも非がありますが、それ以上の攻撃は困ります」とはっきりと線引きをする必要があります。
相手にはっきり言えない場合でも、正当な指摘ではなく、単なる個人攻撃だと思ったら、そこからの非難は聞き流してよいのだと自分に言い聞かせるとよいでしょう。
自分自身を守るために、境界線を引くのです。
やや上級編に感じられるかもしれませんが、自分の失敗を非難されて舌戦になりそうな場合に、言葉巧みに劣勢の立場を逆転させる達人の例を紹介します。
任俠の世界で交渉上手な人は、自分たちに非があった場合、とにかく相手にしゃべらせるのだそうです。
あえて相手にありったけの文句を言わせるのです。
言わせるだけ言わせて「お前はいつもそうだ」などと、人格攻撃が始まったときに、「確かにこちらにも非がありましたけど、そういう言い方はないんじゃないですかね」「そこまで言うっていうのは、どういうおつもりですか」と、反撃するそうです。
相手に人格攻撃したことを後ろめたく思わせて、劣勢から優勢の立場にひっくり返すのです。
お付き合いのない世界ではありますが、このように謝罪に行きながら得をして帰ってくるのが上手な人がいると聞き、そのノウハウをぜひ学習したいと思ったことがあります。
この手法は、格闘技で言うところの、相手に“攻め疲れさせる技”にも似ています。
格闘技は攻めているほうはすごいエネルギーを使うので長く続きません。
そこでふっと力が抜けたときに、強烈な逆襲をかますわけです。
ボクシングでガードを固めて、相手のパンチをかわし、相手が疲れて止まったときにガツッと強い一撃を打ち出すのです。
以前、友人がアルバイトしていた店の店長が、酔っ払って暴れようとした客に、「私を殴ってもいいですよ、でも、私も、ただじゃ殴られはしません」と言ったことがあったそうです。
その店長は見るからに怖そうな人だったこともありますが、その酔っぱらいの客は見事に黙り、暴れるのをやめてしまいました。
これもよい例かもしれません。
持ち上げてから、人格を責めず行動を責める
フランス系ユダヤ人のCさんという女性がいました。
大学院で音楽理論を学び、作曲家として活躍しています。
音楽業界では、プロデューサーや演奏家などたくさんの人と議論し作品をつくります。
Cさんは周囲の人の心をつかむ天才でした。
自分と意見の合わない人やキツイ言葉で攻撃するような一見敵のような人も、味方にしてしまうのです。
彼女は誰かにキレるとき、人格ではなく、行動だけを否定するよう心がけていました。
たとえば、協力し合うことが必要な場面で、ルールを守ろうとしない相手に対しては、相手を責めず、まずはとにかくほめて持ち上げるのです。
それも盛大に称賛の言葉をかけて持ち上げます。
相手がいい気分になったところで、ルールを守らないことに対して「あれはないよね~」とさらっと伝えるのです。
相手の人格や性格には触れず、直してほしい行動だけをきちんと、「あれはまずいよね」と伝えるのです。
人格を否定せずにチクリと言いたいことを伝えて、相手に軽く後ろめたさを感じさせるよい方法ですし、取り入れやすい方法でしょう。
ニコニコしながら主張を通す
日本の某大手電気メーカーの役員を務めた敏腕ビジネスマンのDさん。
技術畑からアメリカやヨーロッパの営業、現地法人の立ち上げ、本社の重要な役職までこなしました。
Dさんは、本当に物腰の柔らかい、周囲の人に気をつかえる素敵な紳士なのですが、世界中の敏腕ビジネスマンを相手に、自社の技術を売り込んだ交渉上手でもあります。
NOと言えない日本人は、国際的にはときに“カモ”にされてしまうこともあります。
海外貿易のノウハウもあまり知られていないような時代に、カモにされることなく、貿易相手と良好な関係を築きながら、いかにして事業を成功に導いたのでしょうか。
Dさんは、交渉の場では、ニコニコ笑顔を絶やさない一方、決して自分の主張を曲げることがなかったそうです。
相手の話をよく聞き、相手に対する尊敬の念や気づかいを見せつつも、主張は譲らず、いつの間にか自分の主張が通るように相手を巻き込んでいったそうです。
相手のプライドを傷つけることなく、自分たちのやり方のほうがお互いに得であると思わせるような言い方をするのです。
松下幸之助さんも、切り返しの達人だと思う一人です。
商談で、「もう少しまかりませんか?」と値切られたとき、まけられない理由をはっきりと伝え、主張を曲げなかったそうです。
「これは、自分の社員が一生懸命考えて開発したものです。僕の取り分は減らしてもよいですが、それでもこの価格が精いっぱいです。なんとしても開発してくれた人に報いたいので、どうぞ、この値段で買ってくれませんか」
というような言い方で交渉するのだそうです。
商談相手も納得せざるをえない、正当な理由を出して上手に抵抗するのです。
こうした賢いやり方は凡人には無理だと思う方もいるかもしれませんが、身に付ける方法があります。
それが、“アサーション・トレーニング”です。
アサーションとは、英語で“自己主張”という意味で相手を尊重しながら、自分の感情や主張したいことを抑えることなく、お互いのためになる方法や結論を導き出すコミュニケーションスキルです。
アサーション・トレーニング
“アサーション・トレーニング”では、まずコミュニケーションの方法として“受け身的”“攻撃的”“アサーティブ”と三つに分けます。
たとえば、自分の意見を言うことが苦手な人は、相手の気持ちを優先して、相手が強い態度で出てくると、自己主張せずに我慢してしまいがちです。
これが“受け身的”です。
一方で、感情を爆発させて自分の言いたいことを言って、逆ギレをするのは“攻撃的”です。
言いたいことを言うと、そのときはすっきりするかもしれませんが、相手を傷つけるようなことを言ってしまうと、人間関係を築けず孤立してしまうこともあります。
“アサーティブ”なコミュニケーションは、相手も自分も大切に扱うのが特徴です。
自分の気持ちを正直に、その場にふさわしい表現方法で伝えようとします。
結果として意見がぶつかっても、すぐに自分の意見を曲げることはありません、相手にそれを強制することもありません。
お互いの意見を出し合いながら、双方にとって納得のいく結論を出そうとします。
ポイントは“私は”を主語にして伝えることです。
「私は~と思う」と言うことで、自分の感情を素直に表現でき、相手を責めているのではないという姿勢なので、相手からのリベンジを避けることができます。
たとえば、「なぜ(あなたは)○○なんてひどいことを言うの?」と言ってしまうと、責められていると感じて、「君だって同じこと言ったじゃないか」と、喧嘩になってしまうかもしれません。
「私は、○○なんて言われて辛い。もう言わないでほしい」という表現に変えるだけで、相手に対する伝わり方も変わりますし、「もう言わないでほしい」という目的を果たすための効果も絶大です。
我慢せず、相手も責めず、相手にどんな言い方をすると、自分の気持ちをキャッチしてくれるのかを考えながら、さわやかな主張を心がけていくことです。
それにより、誰かにカモにされて利用されることが減り、怒りに任せて暴言を吐いて信頼関係を失うということも避けることができるでしょう。
たとえば、約束を守ってくれないことでお互いに言い合いになった場合には、「私はあなたとの約束の時間に合わせて、いろいろと計画を立てていたんだよね。楽しみにしていたんだけど、全部無駄になってしまって悲しいな。何時だとよかったのかな?」などと、「私は」を主語にして話します。
「どうして、あなたは?」と相手を主語にして言うと、相手は責められていると感じて、反発してしまうかもしれません。
自分の計画が台なしになったという不満もちゃんと伝えます。
けれども「私は~」と言われると、反論しようという気持ちは起きにくくなります。
後ろめたさを感じ、自分が悪かったと素直に思ってくれるかもしれません。
「キレるテクニック」を学んで怒りの感情を上手く“利用”しよう
「キレることは、人間の脳に組み込まれた“必要なメカニズム”だ」というのが、中野さんの見解。
『キレる』には、怒りの感情を抑えるのではなく“利用する”ことで、コミュニケーションを円滑にする方法が書かれています。
「損するキレ方、得するキレ方」「キレる自分との付き合い方」など「キレるテクニック」を学んでみましょう!
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