南章行著『好きなことしか本気になれない。』より

人生100年時代に重要なのは、仕事に直結する技能より「人間としてのスタイル」だ

仕事
人生100年時代」となり、定年退職が80歳になるかもしれない。たとえ定年まで働いても、年金はもらえないかもしれない。

このような未来が予想されているなか、「将来大変になるかもしれないけど、具体的にどう対策すればいいのかわからない」という方も多いのではないでしょうか?

そんな不安を払拭するヒントになるのが、『好きなことしか本気になれない。人生100年時代のサバイバル仕事術』。

著者の南章行さんは、バブル崩壊後の住友銀行から企業買収ファンドへ転職後、オックスフォード大学でMBAを取得、現在はスキルマーケット「ココナラ」を経営しているという、まさに不安定な時代を生き延びてきた人物です。

南さんの考える「自分が将来進むべき道の考え方」を、同書より3つの記事でお届けします。

ハードスキルは常にアップデートが必要

目の前の仕事を本気でやっていると、「自分の強みになる可能性がある仕事」が、いくつか出てくる。これはスキルの卵といってもいいだろう。

そこから、比較優位が強いところだけに絞ってエネルギーを注ぎ込んで温め、スキルに育て上げるのだ。

スキルは複数あっていいし、「えっ、これってスキルにカウントしていいの?」というものが、スキルになったりするのが人生100年時代だ。

たとえば僕がファイナンスというスキルを獲得した後、それひとつでサバイブしていこうとしたら、勤めていた企業買収ファンドではやはり「辞めざるを得ない」という道が待っていたと思う。

なぜなら仕事のスキルの多くはハードスキルだから、どんどんアップデートしていく。10年前の最新型コンピュータより、今の格安スマホのほうが性能ははるかにいいだろう。

ありがたいことに、ファイナンスのスキルは結構長く役に立っていて、経営者になった今もある程度は使えてはいるが、最先端のファイナンスについてはまったく歯が立たないし、そのうちの一部はいつAIに取って代わられても不思議ではない。

ソロバンの達人も電卓に敗北してきた歴史があり、僕らはその流れの前ではあまりに無力だ。

だからこそ、最初はひとつのスキルの卵に絞ってしっかり孵化させ、それからいくつか身につけていくといいだろう。

複数のスキルがあることで初めてできることもある。

ソフトスキルは「人間としてのスタイル」で伸ばす

忘れてはならないのは、スキルには仕事に直結する技能的なハードスキルだけでなく、ソフトスキルもあること。

たとえば、どうやって人を動かすか、コミュニケーションをとるか、コミュニティやネットワークはどのようにつくるか。

これらは皆、ソフトスキルだ。

人生100年時代にはハードスキル以上にソフトスキルが重要になると僕は考えている。

なぜならここは、機械が苦手とする部分、人間の絶対優位の部分だからだ。

勤めていたAP(アドバンテッジパートナーズ)で初めて銀行交渉を担当させてもらったとき、いい条件を引き出すにはどうすればいいだろうかと考えた。

交渉のスタイルは千差万別、達人と言われる人でもやり方はみんな違う。

上から目線でゴリゴリの厳しいコミュニケーションをとる人、冴えた分析をもとに極めてロジカルに詰めていく人、いろいろある。

自分のスタイルを考えてみたら、「上から目線の厳しさ」や「極めてロジカル」とは対極にあるという結論が出た。

そう、銀行の支店時代、離婚を控えているサラリーマンや、40代バツイチ同士のカップルと一緒に住宅ローンの審査を通した、人なつこくて泥臭いやり方が僕らしい。

「心を開いて相手の懐に飛び込んでいく」、これが自分のスタイルだと思った。

「人をどう動かすか」というソフトスキル

ソフトスキルを用いる際、一番役に立ったのは、住友銀行の新人研修だった。

ほとんどが退屈だった多くの研修のうち、それだけが印象的で今でもよく覚えている。

「人には権力を持ちたいタイプの人もいれば、尊敬されたい人もいるし、何でも一番手になりたい人、みんなと一緒に同調するのが安心だという人もいる。それを見抜いて営業トークを変えなさい」

たとえば権力が欲しい人には、「このシステムを入れると多くの部署に影響を与えられますし、社内であなたの発言力が強くなりますよ」と漂わせるとテンションが上がる。

尊敬されたい人には、「このシステムはすごく難しくて、提案に行ってもなかなか本質を理解してもらえないんですけど、さすがです、この良さがわかるのはすごいですね」と感心してみせると効果がある。

「業界初の導入となります!」と言って乗り気になるのは、最先端であることがモチベーションになる人だし、逆に「もうみんなやっています、やっていないのは御社だけですよ」と言うと慌てて契約してくれるのは、多数派を好む安定志向の人だ。

つまり銀行の新人研修は、「営業は相手のタイプを見極めて行え」という目新しくない話だったのだが、目新しくないからこそ、営業の本質だと思った。

僕はAPで、住友の研修で学んだことの進化系を用いてみた。

銀行などを相手に新たに契約してほしいと交渉する際に、組織と個人のロジックを分けてコミュニケーションをとるのだ。

まずは組織のロジック

たとえば「この事業戦略を導入することが、御社にとってどれだけメリットがあるか」を説明する。

ここはその会社を分析して理屈で攻めることになるから、バリエーションはそれほどいらない。

次に個人のロジック

企業相手の仕事でも銀行相手の仕事でも、「組織」に交渉することはない。実際は会社の担当者、代表者という「人」を相手に交渉するのだ。

その「人」のモチベーションは、必ずしも組織のメリットだけではない。

片側に組織のメリット、片側に個人のメリット、両輪があるものだ。

相手側と自分で「チーム」をつくる

交渉する相手が複数の場合は、意思決定者が誰で、その人が何を求めているかも考えた。

相手は同じ会社から来ているといっても一枚岩でなく、立場によって利害は変わる。

たとえば僕がファンド側として銀行に融資してくれるようにオファーするなら、自社内でまとめた契約条件を見た段階で、「この条件は儲かるかどうかに関係するから営業マター、この条件はリスクに関連するから審査マターだ」と頭のなかで仕分けする。

営業は数字をあげるのが基本的な仕事だから、契約を成立させたいという点で、オファーするファンド側と利害が一致している。

一方、審査は「契約してリスクはないか?デメリットは?」と検討するのが仕事だから、ファンド側にとっては関所となる。

それなら、銀行の営業を味方につけるのがいいと考えた。

「これ、もはや『AP対銀行さん』の交渉じゃないですよね?『新しいプロジェクトをやりたい僕と営業さん対審査さん』の話ですよね?営業さんが社内審査をとおすための資料も僕が準備するんで、一緒に頑張りましょうよ」

こんな具合に巻き込んで、取引先の営業担当者と僕とでチームになってしまう。

そして「社内審査で今、何が問題になっています?」と連絡を入れて、チームとして行動する。

僕は、ぜひあなたと一緒にやりたいんです」と個人的に気持ちを寄り添わせるのだ。

相手の人事図も意識するようにした。

「この人は出向で来ているから保身が大事だろうな」とか「出世レースに食い込めるか勝負のときで、一発大きな案件を当てたいはず」などと、その人の状況意思決定の志向を探る。

そうやってコミュニケーションプランを変えていくと、うまくいった。

こうしてひとつの案件について、複数の銀行にきめ細かく交渉していく。

ひとつの銀行にオファーするのではなく、数行にオファーしたなかで一番条件よく折り合えるところと契約するわけだから、A銀行の営業ともB銀行の営業ともC銀行の担当とも個別にチームをつくる。

二股、三股をかける悪い男みたいだが、交渉はそういうものだ。

契約に至らなかった銀行とは、「チームでやろうと言っていたのに。南さんは裏切り者だ」となりそうだが、とことん寄り添って付き合ったら、そうはならなかった。

逆に、営業担当者が「社内を説得できずにすみませんでした。次は南さんの期待にこたえます」と言ってくれたりした。

相手の懐に飛び込み、人間関係を築きながら仕事をしていく。

これが僕の「人間としてのスタイル」から生まれたソフトスキルで、今も大切にしている。

あなたにもきっと、あなたのスタイルがある。

それはかなりプライベートに近い、あなたらしさと結びついたものであるはずだ。

ソフトスキルは極めて人間臭い部分に直結しているから、「人間としてのスタイル」で伸ばしていくといいだろう。

人生100年時代の働き方をもっと学ぼう

好きなことしか本気になれない。 人生100年時代のサバイバル仕事術

好きなことしか本気になれない。 人生100年時代のサバイバル仕事術

好きなことしか本気になれない。人生100年時代のサバイバル仕事術』は、今の仕事に違和感を抱いている方に読んでほしい一冊。

80歳まで働く未来を見据えたとき、今考えるべきは職場での競争目の前の成長ではないかもしれません。

一生安泰な仕事が存在しないなか、私たちはどのように行動していけばいいのか、同書を通して学んでいきましょう!