ジェイソン・R・カープ著『The inner runner』より

走る習慣で、新生児の脳と同じ現象が起こる。ランニングがアイデア脳をつくる理由

カラダ
健康のためにはランニングがいい」と言いますが、実際に走っているR25世代はどのくらいいるでしょうか?

どちらかと言うと、「日々働いていて、運動する時間がない」「やろうと思うけど、なんとなく腰が重い」という方のほうが多い気がします。

では、「ランニングがビジネスマンとしてのスキルをあげる」と聞いたら、実際にやってみようと思いませんか?

実はランニングには、クリエイティブ力を鍛えたり、抗うつ薬と同等の効果があると言われたりするなど、心身へ大きな効果があるんです。

アメリカ有数のランニング・エキスパートであり、運動生理学の博士号をもつジェイソン・R・カープ氏は著書『The inner runner』のなかで、「定期的なランニング習慣が持つ影響」について深く言及しています。

走ることで一体どんな変化が起きるのか?

ビジネスに活かせるランニングの力を、本書から2記事抜粋してお届けします!

ランニングで、自由な思考や発想を鍛えよう

ランニングは心と身体を調和させてくれる。だから、私たちは走っているときに考え、思考と一つになることができるのだ。

走っていないとき、人は今していること――職場の課題や学校の宿題、子どもをサッカー教室に連れて行くこと、夕食をつくること――について考えている。

走っているときは、心を自由にさまよわせ、さまざまな思考が交響楽団の楽器のように次々と現れては消えていくのを許し、必要のない思考を手放し、覚えておきたい思考を残しておくことができる。

ふとしたひらめき問題への解決策執筆したい素晴らしいアイデアが浮かぶ瞬間は、ランニングがくれる最高にエキサイティングな瞬間だ

私たちの思考やアイデアは見事なほど、自分の動きや周りの世界をどのように知覚して
いるかによって左右されている。

たとえば、アフリカの大平原を走るランナーは、アメリカの都会を走るランナーと同じ思考やアイデアを持つことは絶対にできないし、ある道路の片側を走るランナーは、その道路の反対側を走るランナーと同じ思考やアイデアを持つことはできない。

ランニング中に浮かんだその思考は、あなたの思考であって、ほかの誰かが経験することはできないものだ。経験も知覚も同じものは2つとないからだ。

ランニングは、アイデアが生まれ、姿を現し、育っていく場を提供し、知的自由を楽しめるユニークな空間を与えてくれる。

創造力を上げるには、定期的なランニングが必要

物書きで起業家でもある私の生活は、私の創造力(クリエイティビティ)にかかっている。

だが、クリエイティビティは私にとって、単なる生計の手段ではない。

ライフスタイルそのものだ。クリエイティブでいると、走っていても、本を書いていても、会議で話していても、ビジネスのアイデアを練っていても、心の底から満たされる。

クリエイティブになり、常識にとらわれない考え方をし、アイデアを練り、アイデアがコンセプトから目に見える何かに変わっていくさまを見ていると、自由な気持ちになれる。

だが、独創的に考えるのが難しいこともある。学校教育で学んだ枠の外で考えるのは、意外と難しいのだ。学校は考え方を教えてくれないから、クリエイティブに考える方法は自分で編み出さなくてはならないのだ。

私にとってランニングにはアイデアを顕在化してくれる何かがあるようだ。なぜって、デスクにかじりついて作業に集中しているときには、まるで浮かんでこないのだから。

オランダのライデン大学の研究によると、有酸素運動のあとにクリエイティブ・シンキングにまつわるテストを受けると、テスト前に運動をしていない場合に比べて、良い成績が取れる

また、運動を習慣にしている人はしていない人に比べて、そのテストで高得点を取ることも判明している。ただし、運動がクリエイティブな思考に影響を及ぼすのは、運動に慣れている場合だけである。

運動に慣れていないと、まるで運動自体が心身共に疲れる行為であるかのように、精神的な努力が必要になる。

よって、運動後にクリエイティブに考える力が損なわれるのだ。どうやら脳は運動によって鍛えられ、より柔軟になり、クリエイティブな解決策を見出せるようになるらしいが、それは身体が活発に動くことに慣れている場合に限られる。

ランニングは脳の容量を広げてくれる

なぜ定期的なランニングがクリエイティビティを高めるのだろう?

この問いに答えるには、「人がクリエイティブになるとき何が起こっているのか」を理解する必要がある。

そのためには、心血管系や筋系以外にも目を向けなくてはならない。運動が影響を与えるのは、心臓と筋肉だけではない。脳にも影響を及ぼしている。とくに「神経可塑性」というのは、とても興味深い分野だ。それは、脳の変化する能力のことだ。

では、どう変化をするのか、ランニングを通して見てみよう。

ランニングをすると、脳内に形態学(訳注:生物学の一分野で、生物の構造と形態に関する学問)的・神経化学的な適応が起きる。

具体的に言うと、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、海馬など脳のあらゆる領域の容量が増えるのだ。またこの変化は、加齢に伴って起こりがちな脳萎縮の予防にもつながる。一方、活動的でない生活をすると、脳委縮、とくに前頭葉が萎縮するリスクが増える。

前頭葉は、感情、問題解決、論理的思考、計画立案などをつかさどっている部位だ。

今の行動が将来どんな結果を生むかを認識する力や、善い行いや悪い行いを選択する力、社会的に許されない反応を抑制する力、物事や出来事の類似点と相違点を見極める力に影響を及ぼしている。

今挙げた事柄はどれも、加齢と共に運動不足の悪影響を受けるのだが、活動的でいる(あるいは活動的になる)ことで、プラスの影響を受けられる。

また、ランニングによって前頭前皮質と偏桃体の相互作用が促されるので、偏桃体が出す恐れや不安のシグナルを前頭前皮質が抑制してくれる

恐れや不安という制約が少なくなれば、人はより明瞭に、自由に考えることができるようになる。つまり、よりクリエイティブになれるということだ。

ランニングによって発想力が豊かになる理由

ランニングは、脳の特定の領域で「ニューロン新生(新しい神経細胞の形成)」を行うのだ。ニューロン新生は、かつては胎児や新生児の発達中の脳でしか起こらないと考えられていたが、今では成熟した大人の脳でも起こると認められている。

ニューロン新生が主に起こるのは、側頭葉内側部の大脳皮質の下にある海馬だ。海馬は短期記憶、長期記憶、空間ナビゲーション、感情の調整などに重要な働きをしている。

興味深いことに、海馬はアルツハイマー病の人が、最初にダメージを受ける領域である。また海馬には、高濃度の糖質コルチコイド受容体が含まれているので、脳のほかの領域よりも長期的なストレスに弱い。

だが調査によると、運動する動物は、しない動物に比べて、海馬のニューロン新生が持続的に増えるというのだ。たとえば、数カ月間マウスに回し車を自由に使わせると、脳内に形成された新しい細胞の数は、回し車を使えないマウスの2倍以上になる。

ニューロンの新生はまた、ランニングによって頭がよくなる、発想力が豊かになることを示している。

神経細胞同士の相互作用が増えれば、脳のより多くの領域が互いにコミュニケーションを取り合うようになる。

それによって、科学者が「拡散的思考」と呼ぶ、「既成概念を打ち破って考える力」が養われるのだ。

20代こそ走って、自分の能力を上げろ

ランニングは、問題解決能力、記憶力、学習、パターン認識能力といった流動性知能を高めてくれる。

こうした認知機能の向上は年齢を重ねるほど顕著に見られるが、高齢者の運動不足にはその機能を損なうリスクがある。

だから、年を重ねても切れ者でいたいなら、走ったほうが良い

あるいは、少なくとも何らかの運動をしたほうが良いのだ。運動が、脳の可塑性を保つ分子や細胞の変化をもたらすからだ。

そして、運動は脳の血流量を保ち、脳への栄養供給量を増やし、神経伝達物質の代謝を促してくれる。

そんなすべてが、より良い思考に役立つのだ。運動と認知能力には相関関係があるようだ。運動量を増やせば認知機能も高まるし、実際、頭の切れる人ほどたくさん運動をしている。

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The inner runner 博士が教える運動と成功の切れない関係

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走ることは単調に思いがちですが、実は人間にとって一番手軽で心身にいい影響を与えてくれる運動。

仕事でいいアイデアが出ない」「気持ちが落ち込んでしまう」という人は、思いきってランニングを始めてみませんか?

同書には「運動習慣で収入が上がる」という内容にも触れています。自分の能力を上げたい、もっと活躍したいと思うビジネスマンの参考になるはずです!

〈撮影画像=(C)Jody Lynn Photography〉