ビジネスパーソンインタビュー
個展「どうやら私は数字らしい」を開催
「政治や社会は、私たちの日常」ラブリが発信を続ける理由
新R25編集部
世間を騒がす事件が起こると、テレビではもちろんSNSでも多くの意見が交わされますよね。でも、討論の中心になっているのはだいたいR25世代よりうえの人たち。
R25世代のあいだでは、多少思うことはあっても、なんとなく「時事問題については何も意見を言わないほうがいい」という考えがあるように思います。
政治や選挙が議題になっている場合は、とくに。
そんなとき、モデル・タレントとして活躍しているラブリ(白濱イズミ)さんのTwitterを見て、「ラブリさんって、多くの人が言及を避けるトピックに対しても自分の意見を伝えつづけているよなぁ…」と思ったのです。
ラブリさんは何を思い発信をつづけているのか? お話を伺いました。
〈聞き手=ほしゆき〉
【ラブリ/白濱イズミ(しらはま・いずみ)】2012年に朝の情報番組『PON!』のお天気お姉さんとして毎日テレビに出演。同年ファッション誌『JJ』の専属モデルとして抜擢され、2015年にJJモデルを卒業。2017年に本名「白濱愛(しらはま・いずみ)」を公開し、白濱イズミとして執筆や個展開催など表現活動を本格的に開始した。著書に『愛は愛に愛で愛を』『私が私のことを明日少しだけ、好きになれる101のこと』がある
ほし
ラブリさん、最近テレビなどのメディア露出よりも、表現活動のほうに注力されていますよね。本名を公開し、本の執筆や個展開催にシフトしたのはどうしてですか?
ラブリさん
「メディアに出る自分」と、「自己表現する自分」を分けたかったんです。
自分の考えや思いを積極的に発信したら急に、叩かれたことがあったんですよね。「芸能人なんだからおとなしくしとけ」みたいな。
ラブリさん
そのとき、メディアを見てる人とリアルな自分との距離が離れすぎていていることを痛感して…もう「ラブリ」として伝えたいことはないって思っちゃったんです。
ほし
そんな経緯があったんですね…
ラブリさん
本を執筆するなどの表現活動をしても、「営業の一環」と表面的にしかとらえてもらえないように思えて。すごくコンプレックスでした。
タレントをキャスティングするときにも、「最近はフォロワーの数が基準にされている」って話を聞いたんですけど、Instagramが人気になってからは、さらに「表面」だけを見て人を判断する傾向が強いように思います。
ほし
そういう危機感があって、「デジタルとの向き合い方」をテーマにした個展を企画したんですね。
ラブリさん
はい。
個展のタイトルを「どうやら私は数字らしい」にしたのも、私がインスタに投稿した画像とそれについた「いいね数」を床面に表示させて、来場者がそれを踏んで歩く仕様にしたのも、「数字との付き合い方」を考えるキッカケをつくりたかったからなんです。
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2019年7月13日~20日までの7日間限定で開催された個展『“デジタル”と“私”との関係 どうやら私は数字らしい
ラブリさん
最近は、人を数字で判断することが多くなっているように感じます。価値を数字で比べたりとか…
ほし
でも、仕事をしていたら誰しも数字からは逃れられないですよね? 売り上げ額や目標達成率とか…
ラブリさん
数字から逃れられないからこそ、上手に付き合わないととらわれてしまう。数字って依存性が高いから、落ち込んでいるときに触れると危険なんです。
ほし
数字にとらわれすぎないように、なにを気をつければいいのでしょう?
ラブリさん
一番大事なのは、「ブレない軸を持つこと」だと思います。
メンタルが弱っていると、すぐに他人の数字と自分を比較してしまう。そして「数字を持っている人が優れている」という価値基準になってしまいやすいんです。これは一番よくないループです。
自分に自信を持てる「軸」のような場所をつくることで「数字=自分の価値」という思考から自分を守ってあげることが必要です。
伝える人や伝え方が変わらなければ、世の中を「自分ごと化」できない
ほし
先日「1000人フォロワーが減った」とツイートされていましたが、どうして政治や選挙について発信するんですか?
ラブリさん
多くの若い世代が「これからもずっと、日本で普通に暮らしていける」と思っている危機的状況で、少しでも影響を持っている芸能人が伝えつづけるしかないんですよ。
ラブリさん
いろいろな情報が「本当のこと」のように流されているから、自分から興味を持って知りに行かなきゃ、流されてばっかりになってしまうじゃないですか。
でも今まで社会に無関心だった若者は、自分の生活となにか接点がないと動きはじめないと思うんです。
ほし
そうですね。
前回の選挙でも「選挙行ったらタピオカが半額になる」イベントがありましたが、若い層がたくさん投票証明書を持って買いに行ってましたもんね。
ラブリさん
そう! そういうことです。
大好きなイケメン俳優が「選挙行こうね」って言うだけで、簡単に“関係のないこと”じゃなくなる。お堅いニュースと関係ないところで、政治へのタッチポイントが増えていかないと変わらないと思うんです。
「動く母数が増えるなら、動機なんて不純でいい」
ラブリさん
どうしたら少しでも世の中がよくなるのか、どうしたら選挙に行く若者が増えるのかを考えたときに、タッチポイントを増やしていくことが、芸能人やインフルエンサーの責任だって思いました。
ほし
だけど、自分も責任を持って勉強しつづけなきゃいけないし、注目されるほど「間違った情報を発信してはいけない」とハードルが高くなるじゃないですか。
だからなにも言わない人も多いと思うのですが…どうしてそこまで社会問題に真剣になれるんですか?
ラブリさん
そんなに「社会」とか「政治」を、重いものとして見てないからですかね。
社会や政治って日常のこと。私たちの生活、そのままのことだよねって思ってるんです。
ラブリさん
野菜が高いっていう不満とか、保育園が足りない危機感とか、給料に対する愚痴とか。そういうことが全部政治とつながっていて、切っても切れないこと。
私たちのことだから、気負わずに意見を発信していいと思うんです。
ほし
そっか…声を上げないと、ただ不満を言うだけで何も次につながらないですもんね。
つくられたものを「自分のアイデンティティ」だと思わないほうがいい
ほし
ラブリさんは詩集も出していますし、自分の言葉に対してすごく思い入れがあると思うのですが、どうしてあえて賛否が分かれるような強い言葉を使って発信するんですか?
ラブリさん
きれいごとを言ってられないからです。
ラブリさん
流行がこんなに簡単に広まって、すぐに消費されていくことや、「インスタ映え」なんて言葉が生まれること。「ただ楽しいからいい」じゃなくて、流行の裏にある社会問題に無自覚で加担してしてない?って考えてみるとか。
日本はもう、このままなんとなく平和に生きていけるような国じゃないから、世の中のことをもっと疑わなきゃいけない。
ほし
その思いが強いから、怒りやもどかしさを隠さず言葉として伝えている、と。
ラブリさん
そうです。
つくられたものを、「自分のアイデンティティ」だなんて思っちゃダメだよ。
ほし
つくられたもの…
ラブリさん
私もみんなも、自分のアイデンティティから、社会とのつながりを考えていかなきゃいけないと思うんです。
ほし
難しい…具体的には、どんなことから?
ラブリさん
自分の仕事はどう世の中の役に立っているのか? もらったお給料は、誰になにを与えた価値でできているのか? 今、どのくらい日本のことを理解できているか? これからの日本のために、自分がするべきことは?
考えられることはいろいろありますよね。
ほし
「どのくらい日本のことを理解できているか」か…
ラブリさん
他国から日本がどう見られているのか全然わからない、外交のことを何も知らない、日本の政治家が何をしていたか検討もつかない。
起こってからパニックになって、急いで情報収集しても遅すぎるんです。備えがないと、大切なものは守れない。
ラブリさん
「自分と社会のつながり」を身近なところから考えることで、世の中は変化していくと思っています。
「意見を言わず静観する」って、ときには正しい選択でもある。だけど、自分ごと化せずに、物事からうまく目を背けるための言い訳にもなる。
難しく見えたり、考えるのが面倒に感じたりすることと出会ったとき、スクロールして「飛ばす=社会とのつながりを放棄すること」は、結局、自分自身の首をしめているのでは?と問い直さなければいけないと痛感しました。
〈取材・文=ほしゆき(@yknk_st)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉
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