ビジネスパーソンインタビュー
ブロガー、Web漫画家、会社役員…いったい何者?
「就活も働くのも嫌だった」というやしろあずきが月収500万超のWeb漫画家になるまでを聞いた
新R25編集部
あずきのような卵のような、喜怒哀楽を表情に出しながら動く謎のキャラクター。
読者の方も、一度はこの絵を目にしたことがあるのではないでしょうか?
描いているのはWeb漫画家のやしろあずきさん…って、あれ?
元ゲームプランナー? 執行役員?Web漫画家と一言で片づけるにはいかなそうだ…。
なんでも噂によるとかなり稼いでいるらしいし…。
というわけでご本人に、「いちサラリーマンが、人気Web漫画家やしろあずきになるまで」の半生を聞いてきました 。
〈聞き手=本山航大〉
【やしろあずき】1989年5月6日生まれ。東京工科大4年のとき、ゲームの企画コンテストで入賞。その後、ベンチャーや大手でゲームプランナーとして働く。2015年に描いた漫画「スタバで見た小学生達の話」が15万リツイートを記録し年間4位に。現在は独立し、Web漫画家のほか不動産会社「おたくのやどかり」(運営会社グランツアセット)や、漫画家・イラストレーターをマネジメントする「wwwaap(ワープ)」で役員を務める
本山
まずは“やしろあずき”になる前のことを教えてください!
ゲーム会社でふつうの会社員をされていたそうですね。もともとゲーム業界を志望されていたんですか?
取材はやしろさんのご自宅にて行われました
やしろさん
いや、別に。
本山
え? じゃあ、やっぱり漫画家志望…?
やしろさん
いえ、何もする気なかった。極論をいえば働きたくなかったです。だから、就活もまともにしなかったですもん。
本山
就活をしてない…?
やしろさん
一時期はしてたんですけど、根本的に、知らないジジイに上から目線で評価されるのが苦手だったんですよね(笑)。
ほかにもまわりに人がいるなかで自分のことを話すのが嫌で集団面接を辞退したり、最終面接とか大事なときに寝坊したり…
「あ、自分には無理だ」って思って、内定をもらう前に就活自体を辞めちゃったんです。
本山
(寝坊はたぶんやしろさんが悪い気がする…)
本山
卒業後の不安とかはなかったんですか?
やしろさん
まあ不安っちゃ不安でしたけど、最悪もう親に寄生しようって。本当にクズみたいな考えですけどね…
本山
そこから会社員になるまでの道筋が全然見えてこないんですが…
やしろさん
そうだ、その話でしたね(笑)。
そのころ、「ペラコン」という“A4用紙1枚のコンセプトシート”でゲームの企画を発表するコンテストに出たんです。
そこで「学生1位」、全体では2位を受賞して…
本山
すご! (さっきまでの話との落差よ…)
そのときから「面白いものをつくる」才能があったんですね。
やしろさん
どうなんでしょう?
友達に「やれば?」って言われて、当日飛び込みで参加して。会場の休憩スペースで、ペンタブとパソコンを使って20分で企画書を作りました。
本山
才能だ…!
やしろさん
その大会に来ていたゲーム関係の数社から「うちで働かない?」「ちょっとオフィスに遊びに来ない?」と誘ってもらって…
就活のときの経験もあって、「自分は人と同じように働けるのか」が不安ではあったんですけど、ゲームは好きでしたから。とあるベンチャー企業にゲームプランナーとして就職することになったんです。
ノリと勢いで参加したがゆえに、受賞時は「運がいい」「まぐれだ」とも言われたそうですが、翌年も受賞、初受賞から4年後には殿堂入りまで果たしたそう。まぎれもなく実力だ…
ゲームクリエイターとして就職するも、半年足らずで退職…
やしろさん
で、無事に就職したわけなんですけど、結局最初の会社は半年ぐらいで辞めてしまいました。
本山
もったいない! なんでまた…
やしろさん
悪い会社ではなかったですけど、僕の考えとは合わなかったというか、新卒の扱い方がマジでクソ。
そろそろ気付いてきました。やしろさんはめっちゃ口が悪い
やしろさん
たとえば「新卒の社員は会社に朝早く来て掃除しろ」って文化があったんですね。でも、別に僕は清掃員として入社してないわけですよ。だから、拒否しつづけて1回も掃除しなかったんです。
そうしたら社長から「なんでお前は掃除しないんだ。お前以外の同期はみんなやってるぞ」って言われて大ゲンカ。最終的に「もう来なくていいよ」って言われたから、「ああ、辞めてやるよ!」って言ってそのまま…
本山
すさまじい…僕だったら何も言えず従うだろうなあ…
やしろさん
別に僕が入社した会社に限らず、日本の会社って“新卒テーブル”なるものが存在するじゃないですか?
僕、あれが納得できないんですよね。
やしろさん
当時、僕の同期が5人ぐらいいたんですけど、みんなすごい優秀だったんですよ。今では業界内でちょっとした有名人になっている人ばかりで。
入社してすぐ先輩のプログラマーの実力を追い抜いて、どんどん実績を残していった人もいたんですね。でも、新卒だから給料は上がらないんです。おかしくないですか?
本山
たしかに、“新卒だから”ってよく考えたら何の理由にもなってませんね。
やしろさん
そうなんです。
「納得できないことに耐える必要があるのだろうか?」「仮に耐えたところでなにも生まれない」と思ってしまったので、さっさと辞めることにしました。
本山
それが、やしろさんの名言、「『石の上にも3年』って言葉があるけど、『会社が辛いなら3日で辞めろ』」につながったわけですね。
“エア出勤”を繰り返すニートから、大手ゲーム会社へ再就職。やしろあずきが誕生
本山
勢いで会社を辞めてしまったようですけど、次に行く会社の目星はついていたんでしょうか?
やしろさん
いえ、まったく。
そもそも働く意欲も薄かったし、やっぱり毎朝起きなきゃいけないって苦手で…
そうだ。そういう方でしたね…
やしろさん
会社を辞めたことを親に隠して、毎日出社してるフリを続けたんですよ。就職したときに親がすごく喜んでくれましたし、心配させたくなくて…
「いってきます」ってウソついて図書館とか公園に通ってました。
本山
ドラマとかでよく見る、リストラされたお父さんがやるやつじゃないですか…
やしろさん
結局バレて、めちゃくちゃブチギレられました。
そんなふうにふらふらと過ごしていたときに、僕が2位を取った「ペラコン」で1位を受賞したSEGAの方と話す機会があったんです。
僕が前職の社長とケンカして辞めたことも知っているうえで「お前は人としてはちょっとアレだけど、天才だと思ってる」って面と向かって言ってくれたんです。それで「楽しそうだし」とSEGAに入社しました。
本山
そんな超大手に…つくづく強運な人だ…
「スタバで見た小学生達の話」が10万リツイート超えの大バズ!
やしろさん
Web漫画を描きはじめたのも、そのころです
本山
おお! そこで「やしろあずき」が誕生したわけですね…!
今でこそ、やしろさんといえばTwitterで定期的にバズる漫画を出している方というイメージなのですが、最初にバズったのは『スタバで見た小学生達の話』ですかね?
やしろさん
そうですね。当時10万を超えるリツイートは珍しかったので、この漫画をきっかけにお仕事を依頼してくださる方も増えました。
たしか、2015年の年間リツイート数4位だったんですけど、僕の上がきゃりーぱみゅぱみゅさんとダウンタウンの浜田さん扮する浜田ばみゅばみゅさんのツーショットだったことを覚えています。
本山
きゃりーさんレベルはやばすぎる…!
漫画をアップしたとき、「これはいくぞ!」って感覚はあったんですか?
やしろさん
いや、まったく。そこまで読まれるなんて予想もできませんでした(笑)。
それが今日までに18万リツイート…
やしろさん
よく分かんないもんですよね。予期せぬバズを見て「そうか、こういうのがおもしろいのか」って思いましたね。
本山
そこから何度もバズを経験していると思うんですけど、バズらせるコツってあるんですか?
やしろさん
まず、トレンドに乗れば、確率は上がります。
たとえばTwitterのトレンド欄の一番上にあるハッシュタグに合わせて発信するとか、時事ネタぶち込むとか…
やしろさん
でも、「バズ」って本当はもっと複雑に生まれてるものなんですよね。
1つの要因とか小手先のテクニックだけでなく、いろんな要因が絡んで生まれてる。“有名人がリツイートしてくれる”とかは、完全に運ですもん。
だから「1万RT出すものを書いてください」って依頼が来たら内心めっちゃキレてます。
本山
(企業の皆様、お気をつけて…)
企業の執行役員も務めているというやしろさん。どんだけ稼いでるの?
本山
今は、会社を辞めてフリーで活躍しているんですよね?
やしろさん
はい。法人化はしてますけど、フリーランスのようなものですね。
Web漫画家としての収入が会社員としての収入よりも上回れば、会社を辞めてもいいかなあと思ってたんで、漫画がバズってから約1年後くらいに退職しました。
本山
Twitterのプロフィールを見ると、ほかにもいろいろ活動されてますよね?
やしろさん
収益を生んでいるものでいうと、メインはブログです。
それに加えて、依頼があれば企業のPR案件の漫画を書いたり、講演に行ったり…
あとは「株式会社グランツアセット(おたくのやどかり)」と「株式会社wwwaap」で執行役員をしています。
本山
人気Web漫画家なだけじゃなく、企業の執行役員…!?!?
やしろさん
「株式会社グランツアセット(おたくのやどかり)」は、不動産の仲介をしている会社。僕自身が家探しをしたときに、すごくていねいな対応をしてもらったこともあって、自社サイトで定期的に漫画を描くなどしています。
「wwwaap」は、漫画家・イラストレーターのエージェント、マネジメント業をしている会社です。
本山
すごすぎる…相当稼がれているのでは?
やしろさん
え~!ド直球に聞いてくるんすね!そんなのググれば出てきますよ(笑)。
「そうですね~」
やしろさん
ブログからの収益が大体250~300万円ぐらい、企業から依頼をもらって漫画を描く案件が1件100万円ぐらい。
役員をしている会社の収入が100万円ぐらい、このほかに講演やセミナーの出演料…って感じですかね。
本山
あの、確認なんですけど、1カ月の収入…?
やしろさん
そうです! いつまで続くか分かんないんで、ほとんど貯めてますけど。
本山
ざっと月収500万ってとこですか…漫画家って、もっとシビアなのかと思ってたのですが夢がありますね…
ぶっちゃけてくれてありがとうございます!
やしろさん
“稼げない”ってイメージが先行しちゃうと、「Web漫画家を目指したい」って人が生まれずに、業界が盛り上がらない一因になりそうなので、お金の話は隠さず言っていこうと思ってます!
本山
そこまで稼いでいるとなると、これ以上何を望むんだろうって思ってしまうのですが、これからやってみたいことはありますか?
やしろさん
あえて言うなら、Web漫画を廃れさせたくないので、後発がやりやすい環境を整えていくために、お仕事の単価を上げていきたいですね。
本山
後発がやりやすい環境と単価を上げるって、何の関係が?
やしろさん
アマチュアの漫画家は、SNSでの拡散力があっても、搾取されている方が多いんですよ。
だから、自分が役員をしている会社、wwwaapではSNSで拡散力を持つ漫画家・イラストレーターのエージェント、マネジメント業をしていて、将来的には、YouTuberぐらい稼げるようにしたいなと思っています。
本山
Web漫画業界、これからどんどん盛り上がっていきそうですね。
やしろさん
そうなるといいですね。
まずは僕自身が、人に夢を与えるくらい“稼ぎたい”なと。結局、お金が稼げる仕組みがないと業界全体がつぶれてしまいますし、いい人が入ってこなくなっちゃいますから。
本山
なるほど…。ちゃんと考えてるじゃないですか…
やしろさん
あと、やりたいことっていうか、僕自身のゴールはというと、やしろあずきを辞めることだと思っています。
本山
やしろさんを引退!? それはなぜ?
やしろさん
今は“やしろあずき”というキャラを持ちつつわりと自由にやれてますけど、名前が大きくなりすぎると、つらくなる瞬間もあるのではないかと思っていて。
どこかしらで、自分を壊さないといけない気がするんです。
だから、もしかしたら全然違う名前で、僕とめっちゃ似た絵の漫画が雑誌に載っている日が来るかもしれません(笑)。
無理して就活しなかったり、会社の言いなりにならなかったりと異色の経歴をたどった末、“やしろあずき”が生まれたと話すやしろさん。他の人から見たら、「大丈夫?」と不安になるような過去も、単なる通過点だったのだと思わせてくれました。
ちなみに、ペンネームの由来は「甘いものが好きだから」ではあるものの、キャラクターのモチーフはあずきでも何でもなく、絵を簡略化した結果なのだそう(笑)。
いつの日か「やしろあずき」を卒業したやしろさんも見てみたいですね。
〈取材=本山航大(@motoyamcfly)/編集=於ありさ(@okiarichan27)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉
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