中田敦彦著『独学の教科書』より

「社会について勉強しない大人」は、必ず搾取される。自分の身を守る“ニュースの読み方”

仕事
学ぶことは、死ぬほど面白い!

芸人でありながら、音楽アーティストのプロデュースやアパレルブランドの運営を手がける中田敦彦さんは、自身のYoutubeチャンネル「中田敦彦のYouTube大学」でいつも語ります。

彼が動画で紹介しているのは、明日から役立つ政治経済の話から、学校の授業で聞いたことのあるような思想、文学までさまざまです。

中田さんはなぜ、これだけ幅広いジャンルの知識を情熱的に学び、動画で伝えようとしているのか。

彼の新著『勉強が死ぬほど面白くなる 独学の教科書』には、彼の考えと大人だからこそ知るべき独学の重要性と、学びを加速させるアイディアが収録されていました。

同書より、中田さんの独学法やニュース・英語の学び方を3記事でお届けします。

「自分の身を守るため」に政治・経済を勉強する

僕が、YouTubeで政治をテーマにした動画をアップしたところ、「政治家になりなよ」という声をいただきました。

でも、僕は自分の政治的な主張をしたいからという理由で、消費税や原発、憲法などの動画をアップしたわけではありません。

前にもお話しした通り、理由は、「面白いから」という知的好奇心だけです。

今回、政治や経済について語り、「政治家になりなよ」という声をいただいたときに、「政治や経済について語るのは、政治家や政治的な主張を持つような特殊な人たちであって、一般の人には関係がないもの」と考えている人が多いのかもしれないな、と改めて感じました。

政治や経済なんて、自分たちの生活と関係がない」と思うのは、完全な誤りです。

社会の勉強は、自分の身を守るための手段でもあります。

「社会について勉強しない大人」は、必ず搾取されます。これは歴史が証明している事実です。

たとえば、僕が所属している吉本興業で、所属しているタレントが契約書を交わしていないことが大きな問題となりました。

そういった世論の声も受けて、吉本興業は、すべての芸人・タレントと「共同確認書」を交わす方針を発表しました。

こういった事態が起きてから、慌てて勉強したり、考えたりしようとするのでは遅すぎるのです。

「あーだ、こーだ」と右往左往して、結局、「よくわからないまま」対応するということになりがちです。

基礎的な法律の知識を身につけておけば、少なくとも、「よくわからないまま」対応という事態だけは避けられます。

日本史や世界史には、たくさんの条約が登場します。中には、日米和親条約や日米修好通商条約など、「不平等」条約もあります。

歴史を学べば、世の中の「取り決め」や「約束事」には、時に「理不尽」な内容が含まれることもあります。

自分の身を危険にさらす可能性があるものについて、無頓着なままでいるのはマズイと思えるはずです。

知識は、生々しい現実に対処する術にもなるのです。

吉本興業をめぐる一連の問題では、僕の先輩芸人が顧問弁護士を間に入れたことで、会社との亀裂が深まったという報道もありました。

それを聞いて、本当に涙が出そうになりました。自分の身を守るためには、法律の知識を持つ弁護士の力を借りたほうがいいに決まっています。

たとえば、離婚を巡って裁判に発展したときも、弁護士をつけている配偶者を相手に、個人で訴訟を優位に進めるのは至難の業です。

弁護士をつけるのは、自分の身を守るための知識の補完を意味しているのです。

知識がなくても誰かが守ってくれるとか、世界は平和であると思うのは、お気楽というより、根本的に間違っています。

法律の知識がないと法律に縛られるのと同じように、お金の知識がないとお金持ちになれませんし、経営の知識がないと経営者になれません

僕がテレビの仕事で地方のロケなどに行くと、ときどき僕の目から見ると疑問に思うような経営をしている飲食店を見つけることがあります。

経営の勉強をせずに飲食店で修行し、そこそこの開業資金ができたというだけで独立してしまう。これでは、経営がうまくいかずに失敗するのも当然です。

知識は、「自分を守り、この世の中を生き抜くための武器」にほかなりません。あらゆる仕事は、知識をベースにして成立しています。

たとえば、デザイナーはデザインの知識があるからこそ、新しいデザインを生み出せます。芸術家も過去の作品を知ることでクリエイティブな作品を手がけることができます。

世の中の人全員が、知識に目覚めるというのは現実的に難しいかもしれません。

でも、せめてこの本を読む人たちは、自分の身を守るために知識を身につけてほしいと思います。

身につけた知識は、必ず自分にとってアドバンテージとなる。日常的に勉強している人は、その事実を十分に理解しているのです。

ニュースは「点」ではなく「線」で読む

ニュースの時事問題で、「○○という国と○○という国がモメている」という内容をよく見かけます。

こういうニュースを現在という「」だけの視点で見てしまうと、内容の本質がよくつかめません。

「点」ではなく、歴史の流れという「線」の視点で見ることで、「なんで、この国とこの国がモメているのか?」がよくわかるようになります。

ここで、歴史の勉強が役立つのです。

たとえば、アメリカ、中国、ロシア、韓国などについてのニュースは、世界史の現代史の流れを学んでおくことで、内容がよくわかるようになります。

第二次世界大戦後の世界は、戦勝国であるイギリス、フランス、アメリカ、ソ連、中国に主導されてきました。

日本人には意外に知られていない事実ですが、国連(United Nations)は、戦勝国側である「連合国」をそのまま移植した組織です。

戦勝国は「一枚岩」というわけではなく、アメリカとソ連の対立に代表される東西の冷戦構造が生まれました。

西ドイツはアメリカが支援し、東ドイツはソ連が支援する。朝鮮半島も、韓国はアメリカ、北朝鮮はソ連と、北と南に分かれて分割統治されました。

朝鮮半島が自らの意図で分裂したのではなく、背景に冷戦があったことを理解しておく必要があります。

この2つの国の間で争ったのが朝鮮戦争であり、現在も休戦状態が続いています。けっして戦争が終結したわけではないのです。

アメリカとソ連の対立は「キューバ危機」(ソ連がキューバにミサイル基地を建設し、両者が一触即発になった出来事)で頂点に達しますが、その後、ベトナム戦争によってアメリカはパワーを失い、ソ連はプラハの春(チェコの民主化運動)を弾圧したことで世界中の非難を浴び、冷戦構造は崩壊へと向かっていきます。

さらにソ連はチェルノブイリの原発事故で信頼が失墜し、連邦解体へと向かいます。

現在の僕たちが知っているアメリカ一強体制は、このときから始まっているのです。その間の世界は、未だに解決のつかない大きな問題を抱えていました。

大きなものを挙げるとすれば、次の3つになります。

①中東パレスチナ問題

②インド・パキスタン問題

③中国・台湾問題

①中東パレスチナ問題は、なんとなく、ずっともめごとが続いているイメージがあります。

これは、もともとは第一次世界大戦中にイギリスが協力の見返りに、ユダヤ教徒とイスラム教徒の両者に、聖地であるパレスチナの「エルサレム」での建国を約束した「二枚舌外交」に端を発しています。

その結果、両者の争いは第1次〜第4次中東戦争へと長期化してしまうのです。

②インド・パキスタン問題も、じつはイギリスがらみで起きています。

もともとイギリスはインドの独立を阻止するために、インド国内のヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立をあおりました。

結局、インドの独立は認められましたが、「インド連邦(ヒンドゥー教徒)」と「パキスタン(イスラム教徒)」に分離され、両者の遺恨が今日まで続いています。

③中国では、日本と戦争している間に共産党と国民党が手を結んでいましたが、戦後は、内戦が再燃。

共産党の毛沢東が勝利し中華人民共和国を建国、敗れた国民党は台湾に逃れ、中華民国政府を樹立します。

そして、両者ともに自分たちが正統な中国であることを主張しました。中国と台湾の仲が悪いのは、こういう背景を抱えているからです。

中華人民共和国は毛沢東を中心に国力を高めようとしたものの失敗。鄧小平によって経済自由化へと舵を切ります。

このとき、政治の自由化を求めた人々を弾圧したのが天安門事件です。

こうして中国では、経済は自由化、政治は共産党の独裁体制が今でも続いているということです。

このように、歴史の流れを勉強すると、ニュースがよくわかるようになるので、ニュースを読むのがさらに楽しくなるはずです

新時代の「独学」の仕方を教える中田さん渾身の一冊

勉強が死ぬほど面白くなる独学の教科書

勉強が死ぬほど面白くなる独学の教科書

知的好奇心を満たすことは、実はとても楽しいこと。『独学の教科書』には、そんな中田さん自身の情熱に満ちています。

学生時代の記憶から、勉強に苦手意識を覚える人も少なくありません。

本書を手に取り、勉強がもたらす「学びの喜び」を一緒に再発見してみませんか?