ときど著『努力2.0』より

ポリシーを掲げるだけじゃ勝つことはできない。自動的に成長を促す“目標設計法”

仕事
東大卒のプロゲーマーであり、国内のみならず海外で圧倒的な知名度を誇るときどさん

2019年には2つの世界大会で優勝しましたが、一時期まったくと言っていいほど勝てない時代があったそうです

eスポーツの市場がどんどん大きくなり、つねに新しい勝ち方が確立されていく環境に、対応しきれなかったと言います。

しかし、そこでは今までのやり方を見直し、復活を遂げたノウハウを、著書『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』にまとめました。

同書より、ときどさんが導き出した新しい「努力」の形を、3記事にわたって抜粋して紹介します。

「何が正解か」ではなく「どうなりたいか」

僕は幼いころからずっと「勝つための正解は何か」を追い求めて生きてきました。

麻布中学合格、東大合格、プロゲーマーになってからの初期の成功。どれも、誰かが決めたレールにそって努力をし、誰かが決めた「正解」がありました。

僕はこの「問題解答スキル」に長けていた自信があります。

しかし、僕が今戦っているトッププロの世界には、「これをやったら勝てる」という答えはありません。

格闘ゲームがeスポーツ化されてレベルが上がり、変化が激しくなったことで、最前線は、僅差の世界になりました。

実力にかかわらず勝ったり負けたりが当たり前なので、相対的な「勝敗」のみによって「強さ」を定義することは難しくなったのです。

EVOに勝った人が一番強いのか。

カプコンカップを制覇したら世界一なのか。

あるいはカプコンプロツアーで1位を維持すれば最強なのか

その答えは、誰も教えてくれません。

ここから先は「自分との戦い」。「勝ちたい」以外の、自らの思いをベースにした理想や目標が支えとなります。

これは、用意されたレールに乗っている間は、意識しなくてもいいものです。

問題はそれが途切れたとき。

そこから先は、自分で道を切り拓く必要があります。

どうやってもかまわないし、どうやれともいわれない。だから、自ら「どうなりたいか」という自分なりの「ポリシー」が必要になるのです。

与えられた問題に解答する「問題解答スキル」ではなく、自ら問いを立てる「問題発見スキル」です。

自分の向かうべき方向はどこなのか。僕は、行き詰まっているときにずいぶん迷いました。

自分にとって格闘ゲームとは何なのか?それを理解することが新しい自分の始まりになりました。

僕がたどり着いたのは「ときどを通して、『格闘ゲームっていいもんだな』と伝えたい」という思いでした。

僕は小さいころからずっと格闘ゲームへの情熱だけで生きてきて、友人やライバルはもちろん生きがいまで与えられました。

20年目で挫折したからこそわかった、格ゲーの面白さや奥深さ。どんなときも僕を支えてくれるコミュニティーのつながり…。

僕が感じているゲームの面白さやポテンシャルを、一人でも多くの人に知ってほしい。これが今の、僕のポリシーです。

ポリシーをそのまま「目標」にしない。数字の入った具体的な目標にする

自分が「こうありたい」というポリシーを持つことはプロとしてとても大事です。

ただし、ポリシーや思いを持っているだけでは、何も実現できません。思いを背景に、具体的な目標を立てる必要があります。ただ、ここでひとつ注意すべきことがあります。

それは、ポリシーをそのまま目標にしないこと。できるだけ具体的に、数字で表現できるかたちに変更することを意識してください。

例えば僕は、次のような目標を立てました。

【ポリシー】ときどを通して「格闘ゲームっていいもんだな」と伝えたい

【目標】2018年のカプコンプロツアー年間ポイント1位

ポリシーは抽象的なものなので、目標に落とし込むには段階を経る必要があります。
【ポリシー】ときどを通して「格闘ゲームっていいもんだな」と伝えたい

→思いを知ってもらうには、勝って注目される必要がある

→実況解説やYouTuber のようなタレント活動による啓蒙も可能だが、「格闘ゲームは真剣に向き合うのに値する」ことを僕は伝えたい

→自らがトッププレイヤーとして、最前線で戦う姿を見せる必要がある

→【目標】2018年のカプコンプロツアー年間ポイント1位

出典 『努力2.0』

2016年に、僕はプロツアーのポイントランキングで総合2位でした。1位は韓国のInfiltration選手。

プロツアーでは決勝で3度の直接対決がありました。1回目、2回目は負けて、3回目にようやく勝てたのですが、総合ポイントでは彼には結局及びませんでした。

そこで翌年の2017年はポイントランキング1位という目標を立てました。

ちょっと背伸びした目標ではあるものの、使用キャラの豪鬼がトップクラスの性能を維持していたこともあり「やってやれないことはない」と挑戦することにしました。

ところがこの年も2位。2017年はアメリカの新鋭Punk選手が猛威を奮った年で、ランキング1位は彼のものとなりました。

そして3年目の2018年、3度目の挑戦で、僕は1位を勝ち取りました

目標が具体的だと自動的にやることが決まる

例えばこれがポリシーそのままの「『格闘ゲームっていいもんだな』と伝えたい」という目標であったとします。

目指すところは素晴らしいのですが、何をもって格闘ゲームの面白さを知ってもらうのか、基準があいまいです。さらに、結果的に「伝わったかどうか」の評価も僕の一方的な主観に頼らざるを得ません。

ポイントランキング1位」という数字を入れた目標であれば、達成できたか達成できなかったかも明快です。

いうまでもなく、ランキング1位になるには、優勝回数を増やさなくてはなりません。優勝とそれ以外ではポイントも賞金も大きく異なるからです。

となればベスト8まで勝ち上がったからには、何が何でも勝ち切ることが大切になります。

ベスト8での勝率が5割を切っていては目標達成は難しくなるので、力を出し切るということは当たり前の感覚になります。

具体的な目標を追うことで自動的に「ここ一番で勝ち切る」「地力を上げる」ことに向き合わざるを得なくなるのです。

具体的な目標を立てるとそれを達成するための手段も具体的なものになるので、日々の過ごし方も決めやすくなります。

年間計画であればどれだけの大会に出て、どの時期にどのくらいのポイントが必要になるのか。それにはどのような練習スケジュールや内容が適当なのか。

シーズンの予定が月単位の予定となり、週単位、1日単位の具体的な予定となり、さらには「今」何をするのかが明確になるのです。

準備する内容も目的に合わせたものでなくてはなりません。本番のための練習ですから対戦は実戦を意識したものになります。

プレッシャーのかかった状態を常に意識しているということです。

東大卒で世界一のプロゲーマーのときどさんの努力法を学ぼう

世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0

世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0

ときどさんの努力は、地道な一面を持ちつつも、今までの「根性で歯をくいしばってやり抜く」的な努力とはまるで違います。

努力って、もっと柔軟で理性的で、かっこいいもの。同書には、これからの時代で磨くべき努力の方向性を、ひしひしと感じられました。

〈撮影=飯本貴子(@tako_i)〉