会社にバレないための対策もチェック

副業の確定申告をしないとどうなる? 税理士に聞いた “20万円ルール”の落とし穴

お金
働き方が多様化してきたここ数年、サラリーマンの副業も珍しくなくなってきました。

しかしいざ副業を始めるとなると、気になるのが税金の話。

自分で「確定申告」をしなきゃいけないとは聞くけれど、「本当に必要なの?」「どうやってやるの?」など、疑問が次々と浮かんで来るのではないでしょうか。

そこで今回は、Twitterでも人気の税理士・大河内薫さんを直撃。副業の確定申告にまつわる疑問を、プロにぶつけてみました。

〈聞き手=森かおる〉
【大河内 薫(おおこうち・かおる)】税理士・株式会社ArtBiz/ArtBiz税理士事務所CEO。Twitterのフォロワー数は3万2千人を超えており、税理士としては日本一(2019年12月末時点)。YouTubeチャンネル「大河内薫の税金チャンネル」はチャンネル登録者数7万人を突破。著書『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください! 』(サンクチュアリ出版)は、6万部を超えるベストセラーに
森

「確定申告」って言葉は知っているものの、実際に何をしているのかがイマイチわかってない人が多いと思うんです。今回はぜひ、素人向けに解説をお願いします!
大河内さん

大河内さん

おまかせください!そもそも確定申告は、フリーランスなどの個人事業主が、1年間の所得を自分で計算・申告し、納税するまでの作業のことをいいます。

一般的に確定申告と呼ばれているのは、「所得税の確定申告」のことですね。
森

「所得税」についても教えていただけますか?
大河内さん

大河内さん

所得税は、その名の通り所得にかかる税金です。

言いかえると、個人の1年間の収入(給与と賞与の合計。フリーランスの場合は売上)から経費や控除(※)分を差し引いた金額に、定められた税率をかけて算出する税金。所得の多さに応じて 5%〜45%の範囲で7段階に分けられています。
※控除…収入から一定の金額を差し引く制度のこと。控除された金額は、課税対象から外れます。
大河内さん

大河内さん

会社員の場合は、所属している会社が勝手に作業をしてくれるので、特別な手続きは必要ありません。

しかし、会社以外からの収入がある人は、原則として確定申告をしなければなりません
森

ふむふむ。先ほど「一般的に確定申告と呼ばれているのは〜」とおっしゃってましたが、別のタイプのものがあるんでしょうか?
大河内さん

大河内さん

はい。収入に応じて支払う税金はおもに所得税と住民税の2種類ですので、原則「住民税の確定申告」も必要です。

ただし、所得税の確定申告をした場合は、その情報にもとづいて地方自治体が住民税を計算するので別途「住民税の確定申告」をする必要はありません。

副業の確定申告で得られる「意外なメリット」

森

私もフリーランスなので確定申告の経験があるんですが、正直なところスゴくめんどくさいです。本当にやらなきゃいけないんでしょうか…?
大河内さん

大河内さん

たしかに確定申告は、税理士の僕ですら面倒に感じます(笑)。

でも大前提として、確定申告は法律で定められている義務です。これをやらないと「脱税」という立派な犯罪になってしまいます。
森

それはわかるんですが、税理士さんですら面倒な作業をして、税金まで払わなきゃいけないなんて…
大河内さん

大河内さん

そういう方にお伝えしたいことがあります。実は確定申告をすると、得する可能性があるんですよ
森

え…!? どういうことでしょう?
大河内さん

大河内さん

ポイントは「源泉徴収」です。源泉徴収とは、暫定の所得税をあらかじめ差し引く制度のこと。

所得税は本来、1年間の所得に対して課税されますが、国からすれば早くお金を集められたほうがうれしいので、源泉徴収という形でこまめに所得税を徴収しています。

会社員の場合は、毎月の給与から徴収されています。ただし、あくまで“暫定”なので「だいたい、このくらいだろう」という金額なんです。
森

つまり後から調整が必要ってことですか?
大河内さん

大河内さん

はい。会社員なら「年末調整」がその作業にあたります。

これは1年間の給与・賞与(ボーナス)が確定した段階で、会社が正しい所得税額を再計算し、これまでに源泉徴収した合計金額との過不足をなくす作業。

よく聞く「年末調整でお金が戻ってきた!」というのは、余分に払っていた源泉徴収分が還付(払いすぎた税金の返還)されたケースですね。
森

うらやましい! でもそれは会社員としての収入の話で、副業やフリーランスだと関係ないんじゃ…?
大河内さん

大河内さん

いえ。副業などでも、企業から報酬をもらう場合は源泉徴収されていることがよくあります。でもその企業での年末調整はないので、源泉徴収額が多すぎたとしても気づけないんですよね。

そこで役立つのが、確定申告。1年間で源泉徴収された金額が、確定申告で計算した所得税額より多かった場合、差額が戻ってきます
森

おお…! お金が還ってくるなら、ちょっと頑張れる気がします。
大河内さん

大河内さん

確定申告はいわば「税金を操る権利」を得る作業。もちろん嘘の申告はダメですが、「節税のチャンス」にもなるんですよ。
森

節税のチャンス…!
大河内さん

大河内さん

税務署は未払いがあれば指摘してきますが、払い過ぎた税金については基本的に教えてくれません

自分で申告してはじめて、節税のチャンスを得られるんです。このことを肝に命じておいてください。

確定申告をサボった場合の“真のペナルティ”は税負担の増加ではない

森

ちなみに、もし確定申告をサボった場合はどうなるんですか?
大河内さん

大河内さん

サボったのがバレた場合、所得税に加えて「延滞税」が発生します。

税額は滞納額と期間によって変わるので、国税庁のシミュレーション画面を使って計算してみてください。ここ数年の税金であれば、年3%〜9%程度の延滞税がかかります。
森

9%となると、けっこう多いですね…!

なんだかんだバレなさそうな気もしてしまうんですが、確定申告をサボると絶対にバレてしまうのでしょうか?
大河内さん

大河内さん

税務署は個人の口座をチェックできるため、怪しい入金があれば目をつけられるかもしれません。金額が大きい場合は、SNSまでチェックされることもあるんですよ。
森

それは怖い…!
大河内さん

大河内さん

また、「税務調査(税務署や国税局などによる調査)」が入った場合は原則3年、最大で5年、悪質なら7年までさかのぼってチェックされますので、「1年逃げきったからセーフ」というわけにもいきません。

バレるリスクは常にあると思ったほうがいいでしょう。
森

やっぱり悪いことはバレるものなんですね…
大河内さん

大河内さん

しかも、一番怖いのは延滞税ではありません。実はもっと怖いことがあります。
森

もっと怖いこと…?
怪談みたいになってきた
大河内さん

大河内さん

それは「社会的信用を失うこと」です。
森

…というと?
大河内さん

大河内さん

確定申告をしないと、公的に収入を証明できるものが何もない状態になります。

つまり、フリーランスであれば無収入として扱われます。そのせいで賃貸の契約や、車を買うときのローンの審査が通らないなんてことも…
森

頑張って稼いだのに、なかったことになるなんて!
大河内さん

大河内さん

なので、くれぐれも確定申告はお忘れなく
わかりました、ごめんなさい

「副業の稼ぎが20万円以下なら確定申告しなくてもいい」って本当?

森

あ! でも「副業収入が少ない場合は確定申告をしなくていい」って聞いたことがあります。さすがにこれは本当ですよね?
大河内さん

大河内さん

ああ、「副業の所得(売上から経費を引いた金額)が20万円以下なら確定申告をしなくていい」という“20万円ルール”のことですね。

実はそれ、都市伝説です
森

えっ…!
大河内さん

大河内さん

正確にいうと、所得税の確定申告はしなくても大丈夫。これは税務署と納税者双方にかかる無駄なコストを省くために、きちんと決められたルールです。

ただそれは所得税の確定申告に限った話。実は別途、「住民税の確定申告」が必要なんです。
森

ええ‥ややこしい…
大河内さん

大河内さん

ですよね。でも大事なことなので、もう少し説明します。

まず、住民税には“20万円ルール”のような免除制度はありません。極論、副業での稼ぎが1円でもあれば、きちんと申告して支払う必要があります

ただ、所得税の確定申告をしていれば、その情報をもとに地方自治体が住民税額を計算するので、わざわざ申告する必要はありません。
森

なるほど! ってことは、所得税の確定申告をしない場合は自分で住民税の申告・納税をしなきゃいけないってことですね。
大河内さん

大河内さん

そうなんです。ただ、実際は住民税の確定申告が必要だと知らず、悪気なくスルーしてしまう人がほとんどですね。

厳密に言えば、これも脱税にあたるので注意しましょう。
森

へえ〜!正直、ぜんぜん知りませんでした…
大河内さん

大河内さん

ほかにもあまり知られていないことがあります。副業所得が20万円以下でも、一般的な確定申告が必要なケースがあるんです。
森

どんなケースですか?
大河内さん

大河内さん

特別な控除を受けるときです。

副業をしていないサラリーマンでも、マイホームをローンで買った場合に所得税が減税される「住宅ローン控除」などを受けたい場合は自分で確定申告をすることになります。

その場合、副業を隠して申告するのはNG。たとえ1円であっても、副業の所得を書かないと脱税になってしまいます。
森

うっかり脱税しちゃうかもってことか…!

「確定申告をすると会社に副業がバレる」って本当?

森

いまだに副業禁止の会社が多いなか、副業をしている人が気になるのは「確定申告で会社に副業がバレるのか」だと思うんですよね。実際どうなんでしょう?
大河内さん

大河内さん

厳密に言うと、それも都市伝説ですね
都市伝説ばっかりだった…
大河内さん

大河内さん

会社に副業がバレる大きな原因は「住民税の金額」です。これが決まるまでの流れは次のとおり。
① 年末調整後、会社が各従業員の年収情報を地方自治体に報告
② 地方自治体がその報告をもとに住民税を計算し、6月までに会社に納付書を送る
大河内さん

大河内さん

この間に副業の確定申告をおこなうと、自治体は副業分の住民税を加算したうえで会社に通知をおこないます。
森

そこで会社にバレる…ということ?
大河内さん

大河内さん

そうなんです。たとえば会社の所得が500万円として、副業での所得が1000万円だったとすると、会社には1500万円分にかかる住民税の納付書が届きます。

それを見て会社は「あれ? 所得500万円のはずなのに、住民税が異様に高くない?」と気づいてしまうわけです。

だから厳密に言えば「確定申告をしたら即バレる」わけではないんですよね。
森

逃れる方法はあるんでしょうか?
大河内さん

大河内さん

なるべくバレないようにする方法ならお教えできますよ。

確定申告書に、「住民税の納付書を“会社の分”と“副業の分”で分けて発行する」という欄があるので、そこにチェックを入れておきましょう。

これで理論上は副業の分の住民税が分けられたことになりますが…役所で見落とされ、うっかり会社に通知されてしまうこともあります。
森

それはツラい…
大河内さん

大河内さん

確実なのは、確定申告書にチェックを入れたうえで、住んでいる地方自治体に電話して「絶対に分けて発行してください!」とお願いすることです。
「あとはもう、祈るしかないですね」
大河内さん

大河内さん

はいえ、よっぽど副業の所得が多くない限り、違和感を持たれることはないと思いますよ。

それに「副業禁止」はあくまで会社の就業規則で、法律違反ではありません(公務員の場合は法律違反にあたります)。

バレたとしても、裁判などのおおごとになった話は聞いたことがありません。

バレそうだからといって確定申告をしないという選択肢はありませんので、腹をくくって確定申告に向き合いましょう。

確定申告の具体的なやり方

というわけで、いよいよ実践編。初心者がつまずきがちな確定申告のノウハウを教えていただきましょう!

白色申告と青色申告の違いは節税効果

大河内さん

大河内さん

確定申告は「白色申告」と「青色申告10万円控除」「青色申告65万円控除」の3種類から選べます。

主な違いは「届出がいるかどうか」「控除額」「帳簿の付け方」です。
白色申告青色申告10万円控除青色申告65万円控除
税務署への届出なしありあり
控除なし10万円65万円
帳簿の付け方簡易(単式)簿記簡易(単式)簿記複式簿記
大河内さん

大河内さん

ちなみに帳簿とは、事業の取引を記録しておくためのもの。単式簿記は収支だけを付けるシンプルなものですが、複式簿記は書き方が少し複雑です。

ただ、今は「freee」などの会計ソフトを使えば複式簿記も自動でつけられるので、心配いりませんよ。

かつては「白色申告=申請がラク」というメリットがありましたが、平成26年からは「白色申告」「青色申告10万円控除」の手間がほぼ同じになりました。

今はもう白色申告のメリットはありませんので、個人的には、節税効果の高い青色申告が圧倒的にオススメです。

青色申告の準備に必要なものと提出先

森

では、青色申告について聞かせてください。申告をするにあたって、必要なものはありますか?
大河内さん

大河内さん

まず、開業2ヶ月以内かその年の3月15日までに「開業届」と「青色申告承認申請書」を提出しましょう。

この期限が過ぎると、青色申告ができないので注意してください。後からでも届出はできますが、青色申告ができるのは翌年からになってしまいます。
森

へえ〜。忘れないようにしないとですね!
大河内さん

大河内さん

そして、先ほど説明した帳簿と、経費の証明になる領収書が必要です。

確定申告の際、帳簿や領収書の提出は不要ですが、確定申告後、7年間(ものによっては5年間)の保存が義務付けられています。
森

7年…! 長い。
大河内さん

大河内さん

申告の際に提出するのは、下記の3つです。
①青色申告決算書
②確定申告書B
③控除証明書や源泉徴収票 
大河内さん

大河内さん

翌年2月16日から3月15日までが確定申告の期間ですので、遅れずに提出しましょうね。
森

提出はどうやってすればいいですか?
大河内さん

大河内さん

3種類から選べます。
①税務署に持参 
②郵送で提出 
③e-Taxで提出(電子申告)
大河内さん

大河内さん

ただし2020年分の確定申告(2021年3月15日期限の提出)からは、③のe-Taxでないと控除額が65万から55万に下がってしまうので気をつけましょう。

電子申告をするにはマイナンバーカードもしくはe-Taxの利用者識別番号が必要になるので、先に準備しておくといいですね。

経費を分類する「勘定科目」の決め方

大河内さん

大河内さん

確定申告にあたり、はじめて帳簿をつけるときに戸惑うのが「勘定科目」だと思います。

たとえば接待の飲食代は「交際費」、wi-fiの通信料は「通信費」など、かかった経費を細かく分類する項目のことです。
森

1つひとつ経費を振り分けるのが面倒なんですよね…。どのように決めればいいのでしょう?
大河内さん

大河内さん

ぶっちゃけ、勘定科目は間違えていたとしても問題ありません。わかりやすい科目名を自分で作っても構いませんよ。
森

極論を言えば、すべてを1つにまとめるのもOK…?
大河内さん

大河内さん

いえ、すべてを「雑費」としてまとめるのは避けたほうがいいですね。経費を何にどう使ったのかわからず、税務署に目をつけられやすくなるからです。

また、昨年と収入や経費の額はほぼ変わらないのに、科目の比率が大きく変わっている場合も怪しまれやすいので気をつけましょう。

経費に“できるもの”と“できないもの”はどう見分ける?

森

あと、確定申告をする人って、経費としてあらゆる領収書を集めてますよね。どこまで経費として認めてもらえるものなんでしょう
大河内さん

大河内さん

基本的に、仕事に必要なものだと説明できるのなら、経費にしてOK

「旅費交通費」「交際費」「お土産代」などでも、説明は可能でしょう。逆にいうと、自分でうまく説明できないものはアウトです。
森

自宅を仕事場にしている場合、家賃は経費にできますか?
大河内さん

大河内さん

自宅は基本的に事業の本店所在地として認められます。

ただし、お風呂やベッドなど生活のみに使っている部分もあるので、家賃をすべて経費にするのは無理がありますね。

仕事場として使っていると証明できる面積などから算出し、家賃の30~60%くらいを申告するのが一般的です。

確定申告の期限に間に合わなかったらどうなるの?

森

万が一、期限までに申告が間に合わなかった場合、どうなってしまうのでしょうか?
大河内さん

大河内さん

もちろん、ペナルティとして延滞税は課せられます。

そもそも確定申告をしないという選択肢はありませんし、期限後の申告になったとしても、逃げずに確定申告をしたほうがメリットがありますよ
森

そうなんですか?
大河内さん

大河内さん

はい。源泉徴収された税金の還付は5年間有効なので、期限後に申告したとしても、5年以内だったら払いすぎたお金が戻ってきます。

期限の3月15日を過ぎてしまっても、諦めずに提出してくださいね。
確定申告は、「面倒くさい」「会社に副業がバレる」といったデメリットばかりの印象でしたが、場合によっては払いすぎた税金が還付されるなど、メリットもあるよう。

ここまで教わったら、あとは実際にやってみるのみ! “うっかり脱税”には気をつけて、充実した副業ライフを送りましょう。

迷ったときは、大河内さんの著書『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』も参考にしてみてくださいね。

〈取材・文=森かおる(@orca_tweet1) 編集=石川みく(@newfang298)〉

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