ビジネスパーソンインタビュー
大物と接触するときは「サードドア」を探そう
「ネットに電話番号を晒したらひろゆきさんと出会えた」けんすうが語る大物アプローチ法
新R25編集部
「仕事に活きる人脈がほしい」。そう思う一方で、どうやって広げればいいかわからない、広げすぎても“浅く”になってしまう気がするし…そんな悩みを抱いているR25世代も多いはず。
そこで、連載「私の人脈論」では、ビジネス賢者たちに「人脈」をテーマに取材! それぞれの個性あふれる“人脈論”を通して、人との向き合い方について改めて見直すきっかけをお届けします。
今回は、起業家として活動されているけんすうさん。起業家の世界では、人脈がとても大事なように感じるのですが…?
〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉
大学生のときひろゆきさんに会いたかったけんすうさんが取った行動とは…
福田
今回は、けんすうさんが意識している人付き合いのルールをききにきました!
けんすうさん
ビジネスの人付き合いって、明確な目的がないとダメだと思うんです。
今マンガサービス「アル」の経営をしているので、作家や編集者の方とつながることはありますが、それはお互いに必要だからつながるわけで。
「いつか将来につながるかも」って考えで“人脈を広げる”ことってあまり意味がないと思うんですよねえ…
福田
でも、「大物とのつながり」ってビジネスパーソンなら憧れると思うのですが…
けんすうさん
厳しい言い方をすると、よく“大物と知り合えたら自分の人生を引き上げてもらえるかも”と期待する人がいますが、相手にメリットのない関係を求めることはビジネスではありえないんです。
人に対して「先生」とか「お父さん」的な役割を求めても、それに応えてくれる人なんてほとんどいないですよね。
ハッキリとおっしゃる
福田
で…でも、けんすうさんも昔は「この人に会いたい!」ってアプローチしたことはあるんじゃないですか?
けんすうさん
あ〜それはありますね。
大学生のとき、ネットですごいサービスをつくっている人たちとつながりたいと思っていて、「2ちゃんねる」の管理人だったひろゆきさんにお会いしました。
福田
おお! 日本のネット史の1ページだ…
どうやってアプローチしたんですか?
けんすうさん
どうやったら自分に興味を持ってもらえるのか、を徹底してして考え抜きました。
当時ひろゆきさんに会いたいと思う人ってたくさんいたと思うんですよ。
でも僕は、ひろゆきさんにつながるツテもないし、どうやって連絡するのかわからなかったのでいろいろやりました。
メールしてみたり、はじまったばかりのJBBSというレンタル掲示板の上で交流してみたりと。
福田
当時のけんすうさんは、まだ大学生ですもんね。
けんすうさん
そのひとつとして、ネット上に僕の住所と電話番号を公開したら、たまたま連絡がきました。
あっ、これは今マネするのは難しいやつだな
福田
ええ! それでひろゆきさんから連絡がきたと。
けんすうさん
そうです。きっとそんな人はいなかったから面白がってくれたんでしょうね。
福田
ちなみにひろゆきさんからはどんな電話がきたんですか?
けんすうさん
「今病院にいて、友達が怪我をして尿道に管が刺さってて超面白いんだけど見に来ない?」って。
なんだその連絡
福田
ちょっと意味がわからないですね。
けんすうさん
それで尿道に管が刺さった知らないおじさんを見たりしたことで、ひろゆきさんと仲良くなり、よく人の家に集まってみんなでゲームするようになったんですよ。
当時の僕は「大人ってみんなちゃんと働いている」と思っていたんですけど、ひろゆきさんを見て、働かないでダラダラ楽しそうに暮らしている大人ってたくさんいるんだなって知ったんです。
ひろゆきさんたちと出会わなかったら、真面目に就職して生きていたかもしれません。
福田
(そこから起業家が生まれるんだからすごい話だな…)
けんすうさん
あと、ずっと糸井重里さんに会いたいなと思っていたので、大学生のころの名刺に「夢は糸井重里さんと会うことです」とか書いて、会う人全員に「なんとか会えないですかねえ」と言っていました。
福田
めちゃくちゃピュアな大学生。
けんすうさん
そんなことを日々言っていたら、ロフトで「ほぼ日手帳」を販売しているところに糸井さんが来ている!と聞きつけて。
すぐに駆けつけて握手しました。
数年前にちゃんと会って話したときに、糸井さんは僕のことを覚えていて、すごいな…と思いました。
出会うならライバルがいない「サードドア」を探せ
福田
ただ…すみません、今のお話はかなり実現が難しそうなので…
もう少し僕らでも実践できそうなアプローチ方法ってありませんか?
けんすうさん
最近読んだ自己啓発書『サードドア』(東洋経済新報社)の話になるんですけど、物事には「ファーストドア」「セカンドドア」「サードドア」という3つの扉があって、「ファーストドア」という正面玄関には、たくさんの人が並んでいるんです。
「セカンドドア」はコネとかお金を使ったいわゆる裏口で、ここも人が多少並んでいる。
だから誰も並んでいない「サードドア」を探しましょう、という話なんです。
大物の方と接触するときは、誰も並んでいない「サードドア」を探しましょう。
去年読んだなかでかなりお気に入りの1冊だそう
けんすうさん
たとえば編集者の箕輪厚介さんがオンラインサロン内で「カバン持ち」の募集をしたときの話なんですけど…
箕輪さんが「カバン持ちを募集します」と言ったとき、みんな「やりたいです!」って返事をするんですよ。
これだとダメなんです。
福田
そうなんですか?
なるべくすぐに返事をしたほうがいいような気もするのですが…
けんすうさん
そこは箕輪さん目線に立って考えないとダメだと思っていて…
たとえば、知らない人が大量に「やりたいです」ってコメントしても、誰を選べばいいのかわからないですよね。
僕はそのやりとりを見ていたので、「たとえば自分がどういう人で、どういう状況で、スキルとしては○○ができます、とか選ぶ目線にたって書いたほうがいいですよ」ってみんなに伝えたんです。
福田
そしたら…?
けんすうさん
今度はそういうコメントが大量につきました。
しかし、そうすると箕輪さんはそのコメントを全部見ないといけないからさらに大変になりますよね。
けんすうさん
そもそも、箕輪さんは「雑用とかを人に頼んで、自分しかできない仕事に集中したいから募集」しているわけなんですよ。
そこでさらに僕が「箕輪さんがその全部を見るのが大変だから、スキルや年齢などが一覧でわかるようなスプレットシートをつくればいいんじゃないか」という提案をしたら、ようやくそういう雑用的な動きができる人が出てきました。
…という感じで、「単に応募がある窓口にいかずに、相手のニーズをくみ取って、そこを狙うことで、目立つ方法ってあるよね」と思っています。
福田
まるで教訓のような話ですね。
けんすうさん
ようは、相手目線に立って「相手が要求していることをそのまま出すのではなく、相手のためになるよりよい提案をする」という感じですね。
みんなが考えることのまったく違う手段を見つける。
「サードドア」って後出しができるし、すごく有利な考え方なんです。
能力がない人でも、大物の役に立てる!「比較優位の法則」とは
福田
ただ、「カバン持ち」の話だと、何か自分に秀でた部分がある前提ですよね。
僕らがいくら頑張って「○○ができます」と言っても、大物のほうが自分以上にできる人だったら難しいんじゃないですか?
けんすうさん
ああ、それは完全に論破できますね。
へえ…論破していただこうじゃありませんか…!
けんすうさん
経済学で「比較優位」という考えがあります。
自由貿易体制で、ほかの国よりも優位な財の生産に集中することで、労働生産性が増え、高品位の財やサービスの提供を受けられるという現象のことを指すのですが…
福田
初めて聞く言葉です。
けんすうさん
これを応用して、人生にも当てはめているんです。
めちゃくちゃ簡単にいうと「他人と自分を比較して、優位なポジションを探せ」という考え方です。
福田
まだ難しいですね…
もっと噛み砕いて教えてください!
けんすうさん
たとえば僕とビル・ゲイツで、企画を出す数と資料の作成枚数を比較してみましょう。
ビル・ゲイツは1時間あったら、企画を12個思いついて、資料は6枚つくれるとします。
一方僕は、1時間あったら、企画は8個思いつき、資料は1枚しかつくれないとする。
どっちもビル・ゲイツのほうが優秀ですよね。
福田
どちらもビル・ゲイツのほうが圧倒的ですね。
けんすうさん
ただ、これ見方をかえると、僕は資料を1枚つくる時間に、企画を8個思いつきます。
一方でビル・ゲイツは資料を1枚つくる時間に、企画を2個思いつく。
つまり比較すると、僕はビル・ゲイツよりも、「企画のほうが得意な人」ということです。
福田
…?
けんすうさん
もし2人とも企画と資料作成を2時間やったら、企画は40個、資料は14枚になりますよね。
話をわかりやすくするために足し算しちゃうと、計54のアウトプットが出せる。
けんすうさん
でも、僕が2時間、企画だけに専念したら32個思いつくことができます。
ビル・ゲイツには1時間で企画と資料作成、もう1時間で資料作成だけに専念すると、企画が12個思いつき、資料は15枚つくれる。
合計で企画が44個、資料が15枚。計59のアウトプットが出せるようになっている。
福田
合計が多くなってる!
けんすうさん
つまり、優秀な人と比べてすべての能力が劣っていても、チームとしては、そのほうが最大の成果をあげられるんです。
福田
能力が低い人でも、優秀な人と組み合わさればプラスになるんだ…!
けんすうさん
さっきのカバン持ちの話で考えると、箕輪さんはめちゃくちゃ忙しい人だから、雑用はほかの人がやったほうがいいんです。
でも、「デザインができます!」とか「文章が書けます!」といった優秀な方には、別の仕事をさせたほうがいいから、箕輪さんは雑用を任せられないんですよ。
ってことは、「何もできない、超生産性が低い人」がいた場合、その人ってほかの仕事ができる人よりも、雑用をするうえでは有利な立場になることもあるわけです。
福田
雑用をしたことで、箕輪さんの生産効率が大幅にあがるので、社会全体には適している、ということですからね。
けんすうさん
優秀な人ほど、自分ができることに集中したほうがいいわけなので、何もできない、というのが武器になるシーンもあります。
これが「すごくデザインができる」人であれば、その人はデザインの仕事をやったほうがいいので、雑用は任せられない…みたいな感じです。
なので、いわゆる「大物」と仕事するときは、何もできない人だからこそ、その人がやるのが一番合理的な仕事がある、ということはよくあるのかなあと。
みなさんわかりましたか? わからなかった人はけんすうさんにツイッターで絡んでみてくださいね!
相手が望むものを埋めてあげることがビジネスの人間関係の最適解
けんすうさん
結局のところ、人とつながりたいと思ったら、その人が一番望むものを自分のできることで埋めてあげるというのが最適な答えだと思うんですよね。
けんすうさん
僕が今やっている「アル」では、漫画の編集者の方にたくさん会いに行きます。
マンガの編集者って日本に1000人位しかいなんですよ。
だから編集作業だけでもかなり忙しいのに、今ってマンガのSNSマーケティングとかもやらないといけないじゃないですか。
そんな忙しい人が、よく知らないベンチャーの社長とかに会おうって言われても、普通は嫌ですよね。
福田
会う時間があったら、作業に集中したいですもんね。
けんすうさん
だから、僕が彼らと出会おうとするときは、「SNSマーケティングなどでお力添えできるので、お会いしていただけませんか?」という提案をしています。
それだけのものを用意できないと、ビジネスで人とつながる意味がないんですよ。
福田
むやみやたらに人脈を広げようとすることが間違っていたということですね。
けんすうさん
人脈を広げたいって思っている時点で、課題の解像度がめちゃくちゃ粗いんでしょうね。
そもそも「なんで人脈を広げたいのか」という目的が定まってないなら、人間関係を広げても何の意味もないと思いますよ。
最後にチクっと刺されました
はじめは「人付き合いのルールなんてない」とおっしゃっていましたが、その根底には「相手にとってメリットのある付き合い」「相手の視点に立つことが前提」など、僕らが見落としてしまうような大事なお話が聞けました。
「人脈を広げる」ことを意識しすぎていたけど、まずは相手に何を与えられているのかを前提に、人付き合いを見直していこうと思います。
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉
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