「いらない気づかい」を勝手に判断するほうが危ない
多くの若手はチャンスを逃している。鈴木おさむが「気づかいを学んで損はしない」と語るワケ
新R25編集部
ビジネスパーソンとして日々必要になる「気づかい」。
仕事の場のみならず、飲み会や接待の場でも、多くの人がさまざまな「気づかい」をしています。
ただ、実際に気づかいを受ける側からは「それはむしろ迷惑だ」なんて思うこともあるんだとか。
「だったら何が正解なんだ!」と思う読者のために、新R25は新連載「カリスマのマナー」を立ち上げました。
業界の大物たちに、「正しい気づかい」について、その答えをはっきりと聞いてきます!
今回登場いただくのは、放送作家の鈴木おさむさん。礼儀やマナーに厳しそうな芸能界で、多くの若手に接しているおさむさんは「気づかい」についてどんな意見を持っているのでしょうか?
〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉
【鈴木おさむ(すずき・おさむ)】1972年生まれ。19歳で放送作家デビューし、バラエティを中心に多くのヒット番組の構成を担当。映画・ドラマの脚本・監督や舞台の作演出、小説や漫画原作の執筆など、さまざまなジャンルで活躍。2002年に「交際期間0日」でお笑いトリオ・森三中の大島美幸さんと結婚
若手が勝手に「いらない気づかい」を判断するのは危険
福田
社会人になると、いろんな気づかいを教わると思います。
ただ、そのなかには「本当に必要なのか?」と思うものもある気がしていて。
タレントや芸人などさまざまな若手と接するおさむさんが“不要だ”と感じる気づかいはありますか?
鈴木さん
僕はとくにないですね。
むしろ気づかいやマナーは、ちゃんと覚えておいたほうがいい派です。
福田
そうなんですか?
「ビールのラベルを上にしてお酌する」とかも?
鈴木さん
僕自身がそれをされたいとは思わないけど…
でも、初めて会った人がどんな気づかいを必要としているかどうかってわからないじゃないですか。
相手によっては失礼だと思われてしまう。
福田
相手のタイプはわからないから、覚えておいたほうがいいと。
鈴木さん
気づかいってスマホでいう“最初から入っているアプリ”みたいなもので、知っておいて損はしないと思います。
いらなくなったら削除していけばいいだけ。
それよりも、最初から「これはいらない気づかいだな」って勝手に判断しちゃうほうが危ないです。
気づかいはアプリ。妙にしっくりくるたとえ
福田
おさむさんは、若手のころからそんな「気づかい上手」だったんですか?
鈴木さん
僕は若いときに、先輩に徹底的に教えられました。
当時はバブルの終わりくらいの時代で、マナーにすごく厳しかったんです。
飲み会が終わったら10円玉を100枚くらい用意して公衆電話からタクシーを呼んだり、カラオケに行ったら上司が気に入っている年代の曲をみんなで覚えたりしてましたね。
福田
すごい時代だな…「なんでこんなことやらなきゃいけないんだ」って思うことはなかったんですか?
鈴木さん
当時は、それが大人の世界の常識だと思っていたんだよね。
今読者の方たちが上司として相対する40代後半~50代なんて、まさにバブル文化で気づかいを教育されてきた人だから、うるさい人が多いかもしれない。
「もちろん、今どき気づかいを強要しない人もいるとは思うけどね」
「相手が何を気づかっているのか」気付ける若手は優秀
福田
おさむさんがこれまで接してきた若手で、「気づかいができるな」って思ったのはどんな人ですか?
鈴木さん
「気づかっている相手が何を気づかっているか」見抜ける人は優秀だなと思います。
福田
…? どういうことでしょう?
鈴木さん
僕がよく飲みに行く、すごく気づかえる後輩がいるんです。
彼といつも行っていた飲み屋が中目黒にあるんですけど、ずっと通っていたから店員の人ともすごく仲良くなって。
あるときそこで飲んでたら、その後輩が飲んでいるハイボールが減っていることに気づいたのか、お店の人が次のハイボールを持ってきたんですよ。
福田
へえ! 「あの人いつもハイボールだから」って気づかってくれたんですね。
鈴木さん
そうでしょうね。
でも、その行動が後輩にとってはむしろ迷惑、「気づかいができてない行動」だったんです。
福田
え、ハイボール出してくれたのにですか?
鈴木さん
彼は、お酒を注文するとき、いつも僕に「次飲んでもいいですか?」って確認する人なんですよ。
それは、お会計は僕がするってこともあるし、飲むテンポを僕に合わせてくれてるのもあるんですけど…
福田
なるほど。おさむさんのことをすごく気づかってる後輩なんだな。
鈴木さん
あとで彼にきいたら、ハイボールが出てきたことで「せっかくおさむさんのペースに合わせてたのに。もしかしたら『そろそろ帰ろうか』って言われるかもしれないのに…って思ってしまいました」って。
店員さんの気づかいが、かえってその後輩の気持ちを無視してしまっていた。
人の気持ちっていろいろだから、そういうこともあるんだよね。
福田
な、なるほど~…そこまで考えられませんでした。
鈴木さん
たとえば、取引先の人複数を接待するようなときは、「誰がトップか」とか把握しておいたほうがいいですね。
上司Aさんと部下のBさんがいたとしたら、それは“BさんからAさんへの接待の場”でもあるんです。
こっちがBさんによかれと思って気づかいしたとき、AさんとBさんの関係性のなかで、それぞれがどんな思いを抱くのか。
そういうところまで考えてみてほしいです。
イチローとのインタビューで感じた、“相手のスピード”の重要さ
福田
ちなみに、とくに“大物”と対峙するときは、どんな気づかいが必要になってきますか?
鈴木さん
相手の“所作のスピード”にすごく注意することですね。
先日仕事で元メジャーリーガーのイチローさんにインタビューする機会があったんですよ。
そのインタビュー動画はYouTubeに上がるから、たくさんの人が見る。
だから、すごく基本的な質問も含めてたくさん用意していったんです。
福田
イチローさんってかなりインタビューに厳しい印象がありますよね。
「それ、答えなきゃいけないかな」とか言うこともありましたし…
鈴木さん
イチローさんはどんな質問に対しても真面目に向き合ってくれました。
そんな質問のやり取りのなかで、数秒間くらいイチローさんが沈黙することがあったんですよ。
僕は、彼が考えている時間や空気感もすごく大事だなと思って、口を開くまでずっと待つようにしていました。
鈴木さん
そうしたら、後日イチローさんのスタッフの方から、「彼が答えるのを待ってくれたので、とても話しやすかったようです」って言われたんです。
普通の人は、イチローさんの沈黙が怖くて、次々と質問を投げかけてくるんですって。
そんな沈黙が怖かった経験ないですか?
福田
あります。
「あっ、これは僕の質問が悪かったな…」と思って、焦って違う話をしてしまいがちです…
鈴木さん
もちろんそういう場を修復するスキルも必要かもしれないけど…
イチローさんと接してみて、相手のスピードにしっかり注意を払って合わせるっていうのがすごく大事だなって思いましたね。
おさむさんがインタビュアーになってイチローさんにお話を聞いた動画はこちら!!
相手に対する想像力を持つことでチャンスをつかめる
鈴木さん
最後に言っておきたいんですけど、気づかいを学ぶことって、「仕事のチャンスを増やす」ことになるんです。
特に若手の人にこそ意識してみてほしいですね。
福田
そうなんですか? もちろん上司やクライアントに気に入られることはありそうですけど…
鈴木さん
21歳のとき、あるラジオ番組の一番若手の放送作家としてお仕事をしていたんですが、その番組に出演しているアーティストのマネージャーさんが僕のことを面白がってくれていて。
そのマネージャーさんが「次の週にみんなで飲み会をしましょう」って提案したんですよ。
そして、なぜか僕に「飲み会のとき、辺見マリさんのヘアヌード写真集を買ってきて」って言ったんです。
福田
よくわからないですね…
鈴木さん
でしょう? その写真集は当時話題になってたんだけど。
僕は忙しいことを理由にして、買っていかなかったんですよ。「まあいいか」くらいに思ってて。
そしたら、その飲み会のあとで番組のディレクターさんにめちゃくちゃ叱られたんです。
辺見マリさんの写真集が気になった方は調べてみてください
鈴木さん
「お前は、マネージャーさんが本当にヘアヌード写真集を見たいと思ったのか?お前のためを思って頼んでたんだよ?」って。
福田
どういうことですか?
鈴木さん
当時の僕は番組スタッフのなかの一番下っ端で、飲み会で目上の人と話すチャンスなんてなかった。
だからそのマネージャーさんは、「コイツ、辺見マリの写真集買ってきたぞ!」って、みんなと話すきっかけをくれてたんです。
僕がその場で写真集についてプレゼンする時間があれば、自然とみんなから注目してもらえるはずだと。
当時の僕は、そんな優しさに気づくことができなかったんですよね。
鈴木さん
若い人って意外とチャンスをもらっているのに、多くの人はそれに気づくことができない。
だから、日ごろから気づかいを意識することで、自然と相手の意図を察してチャンスをつかめるようになるんじゃないかな。
そういうことか…日々のチャンスを見逃さないようにしていきます…!
気づかいってめんどくさい慣習のように感じてしまいがちですが、相手の気持ちをどのくらい想像できるか、ということは仕事のチャンスにつながる。
そう考えると、成長したい若手にとって気づかいは避けて通れない道な気がします。
気づかいを意識してみようと思った方は、おさむさんが教えてくれた以下の3つの心構えから始めてみてください!
・「いらない気づかい」を勝手に判断するのは危険
・相手が何に気づかっているかを把握する
・大物を相手にしたときは、焦らず相手のスピードに合わせる
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/撮影=三浦希衣子〉
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