

「共感」と「誹謗中傷」も関係している
「わかる~!と共感されるたび、ヤバイと思っていた」“プロ無職”るってぃがSNSを離れた理由
新R25編集部
最近のSNS、しんどくないですか。
いつも誰かが怒っていたり、誰かを批判していたり、殺伐とした雰囲気が続き、筆者はすっかりSNS疲れをしています。
改めて「SNSとの距離感」を、自分のなかでアップデートしなければいけないのかなと思います。
そんなときに、ある「インフルエンサー」のことを思い出しました。
「プロ無職」るってぃさんです。
無職なのにフォロワー3万人。SNSでの情報発信には年間300万円のスポンサーがつき、家までもらった…という彼ですが、昨年「インターネットと言葉への不信、そして抽象世界」という意味深なnoteを書くなど、どうやら「インフルエンサー」という地位を捨ててしまったようなのです。
いったいるってぃさんは、何を思い、どのようにSNSから離れたのか…!?
2020年6月、今まさに読んでいただきたい内容になっています。
〈聞き手=ほしゆき〉

ほし
今日はよろしくお願いします。

るってぃさん
以前『新R25』に取材していただいたのは2018年か…
一番イケイケのときでしたね(笑)。
たしかにこれはイケイケ

るってぃさん
あれからいろいろあって…
SNSで自分を“ブランディング”していく生活をやめたんです。
たぶん今全然目立ってないと思うんで、まさか取材オファーが来るとは思ってなかったです(笑)。
今は「近所の優しいお兄ちゃん感」がありますね

ほし
まさにそこが気になっていて…
あんなにSNSを駆使して生きていたるってぃさんが、どうしてSNSと距離を置くようになったんですか?

るってぃさん
それは…
「共感される」ことによって、SNSの解像度の低さに気付いてしまったからです。
…何があったんです?
「わかる~!」と共感されるたび、「SNSから離れなきゃヤバイ」と思っていた

ほし
「解像度が低い」とは…?

るってぃさん
SNSって「共感される力」が大事ですよね。
みんなに共感される内容を、共感される言葉で発信すればするほどフォロワーが増える。
共感されるために、わかりやすい言葉や数字が並んでいる。

ほし
たしかに、自分がなんとなく抱いていた感情を誰かが言語化しているのをみると「それだ! わかる!」って共感してリツイートしちゃいます。

るってぃさん
でも、人の感情なんて、本来はそんなに簡単に理解できるものじゃないでしょ。
自分にしか理解できない感情や思考を、簡単に「わかる~!」って言われるたびに、僕はどんどん虚しくなっていきました。
誰にでもわかるようにレイヤーを落として、思考を分解していって、それで何が残るんだろうと。

るってぃさん
生きていると、言葉にできない感情とか、数値化できないもののほうが圧倒的に多いじゃないですか。
でもSNSには、わかりやすい言葉と数字で表現できるものしかない。
解像度がすごく低いんです。

ほし
その感覚に耐えられなくなっていった…ということですか?

るってぃさん
耐えられないというよりも、「離れなきゃヤバイ」って危機感と言ったほうが近いです。
バズればバズるほど“フォロワーに称賛されるだけの、それっぽい自分”ができあがっていきました。
SNSの「解像度」が低いのには、誹謗中傷も関係している

ほし
今、「SNSでの誹謗中傷」についても議論されていますよね。
多くの人たちが、深く考えないまま誹謗中傷していたり、その被害にあっていたり…

るってぃさん
SNSの解像度が低くなってしまうことには、誹謗中傷も関係していると思うんです。

ほし
そうなんですか?

るってぃさん
あんなに治安が悪い場所で、「叩かれたくはないけど、注目されたい」と思えば、伝えたいことより「多くの人に求められている発信」を選んでしまうのが普通です。
“バッシング”と“安易な共感”は、表裏一体のものだと思いますね。

ほし
なるほど。

るってぃさん
一部のYouTuberが、フォロワーの「もっともっと」っていう声に応えて大衆に迎合していったじゃないですか。
それが過激化して、行き過ぎたネタ動画がバッシングされたりしましたよね。

ほし
そうやってつながっているんですね…

るってぃさん
なので僕は、自分の考えを発信する場を「note」に移して、有料化しました。

ほし
どうして有料に?

るってぃさん
誹謗中傷を避けるためでもありますし、安易に共感されないようにするためでもあります。
僕が設定しているのは、1カ月150円。
“ペットボトル1本分のハードルを超えても、僕の言葉を読みたいと思ってくれる人”に届けたいし、自分もそういう読者の言葉なら、受け入れられると思ったからです。

ほし
なるほど。無法地帯のTwitterと比べるとかなりフィルターがかかるんですね。
世界的大企業がハックしているSNSからは、簡単に抜けられない。ではどうすれば…?

ほし
ひとつ聞きたいんですけど…
「SNSというもの」をそこまで分析して対策するなら、やめたらいいんじゃないですか?

るってぃさん
いや、SNSの悪影響を体感していても、R25世代がSNSと絶縁するのは難しいはずです。
僕も頻度が減っただけで、続けてますし…

ほし
本気でやめたいと思ったら、アプリを消して触れる時間を短くしていけばいいのでは?

るってぃさん
無理無理!
そんな簡単にSNSからは抜けられないですよ。
TwitterもInstagramもYouTubeも、世界的大企業が離脱させないように相当作り込んでいるので、煩悩がかなうわけない相手なんです。
「アプリ消しても、ブラウザからアクセスするでしょ」

るってぃさん
でも正直、「大好きだから、やめない」っていう部分もあって。

ほし
えっ。今あんなに否定してたのに。

るってぃさん
僕は今までSNSでたくさんのチャンスと出会いをもらってきたし、SNSがあったから「プロ無職」になれた。やっぱり世界中とつながれる素晴らしいツールだと思います。
だからこそ、SNSで自分の心を奪われたくないし、依存しすぎて脳をバグらせたくもないんです。
そのために、禅を始めたんですよ。

ほし
禅…?

るってぃさん
禅というと宗教的なイメージが強いと思いますが、「無自覚を自覚するため」に生まれた手法のひとつで。
「無自覚的にSNSに取り込まれていることを自覚する」のに向いていると思います。

ほし
るってぃさんは、どれぐらいの頻度で禅に取り組んでいるんですか?

るってぃさん
毎朝、6時から座禅を組んでいます。
今僕は、地元の金沢にいるんですが、地元にある「鈴木大拙(だいせつ)館」という施設で行っています。
普段は意識していない呼吸に集中する、体の変化に気づく、何かにとらわれていた心に気づく…といった流れですね。
るってぃさんの地元・石川県金沢市は、禅の思想を英語翻訳し世界的な「ZENブーム」を巻き起こした鈴木大拙の出生地。「鈴木大拙館」という文化施設があります
他人の言葉に触れたら、自分の内側に触れる。バランスが大事

るってぃさん
もうひとつ、SNSに依存しすぎないように始めたのは、アートでした。
具体的な「共感」が広がるSNSの世界で楽しく遊ぶには、自分の感性が爆発する「抽象化された世界」も知っておくべきだと思ったんです。

ほし
どうしてアートだったんですか?

るってぃさん
単純に「アートの価値って何なん?」って興味があったんです。
前澤(友作)社長が、123億円でジャン=ミシェル・バスキアの絵を落札したじゃないですか。成功している経営者ほどすごい高額でアート作品を買う人が多くて…何にそんな価値があるのか疑問でした。
だから知りたいし勉強したい、自分でも描いてみたいと思ったんです。

ほし
実際に絵を描くようになって変化はありましたか?

るってぃさん
めちゃくちゃ心が満たされました。
「自分にこんなエネルギーがあったんだ」「自分はこんな色が好きだったんだ」って自己理解が深まっていきます。
美術館とか行って、「何この作品全然わかんねぇ…!」ってなることも面白いし、読み取ろうと考えることで、自分自身の内面に触れる感覚があるんです。
見るのも描くのも超楽しいですよ、アート。
るってぃさんが描いた油絵「This Summer」。2019年9月には渋谷で展示会も開かれました

ほし
やっぱり、SNSで情報を摂取するより、アートで自分の心を見つめたほうが幸福度が高いってことなんですかね?

るってぃさん
どちらかが極端に悪いとかではないです!
SNSで「他人の言葉」に触れる時間は十分すぎるほどあるから、「自分の内面」にも触れて、バランスを取るといいんだなと気付きました。
バランスが崩れると不幸になるから、共生させること。
「矛盾しているものを織り交ぜてもっと高い次元でものをつくるのが人生なんだ」と思うようになりました。

るってぃさん
でも物事って深く向き合えば向き合うほど、矛盾が生まれるものだと思います。恋人関係も、仕事もそうでしょう。
矛盾を受け入れて、うまく付き合っていくスキルが必要なんです。
ちなみに、ラテン語からきたアートという言葉は「芸術」と和訳されていますが、原義は「スキル」なんですよ。
「“そういうこと”なんだと思います」
「好きなことで、生きていく」よりも「嫌いなことで、生きていかない」

ほし
改めて、何かにとらわれないで生きていくって難しいな…
SNSって、「何者かになりたい」っていう欲求とも関係してるし…

るってぃさん
わかるわ~!
「好きなことで、生きていく」っていうキャッチコピーとかね。
「とらわれるもん、ああいう強い言葉って」

るってぃさん
もちろんそういう言葉で頑張れることだってあるから否定はしたくない。
でも、好きなことを仕事にするのが一番幸せ、それを実現した人が勝ち組って風潮は、一部の人には「生きづらさ」になっていると思いますよ。

ほし
そうですね。
「好きなことがわからない」「やりたいことがない」という自分を、肯定しにくい雰囲気になりましたね…

るってぃさん
好きなことにフォーカスして苦しくなるより、嫌いなことを排除して生きやすい環境を整えることが大事だと思います。
満員電車に乗りたくないとか、対人コミュニケーションが苦手とか…やりたくないことを排除していく方向に行けばいい。
キャッチコピー的に言えば、「嫌いなことで、生きていかない」です。
東京から離れたるってぃさんが、地元で「嫌いを排除した」図

ほし
「嫌いなことで、生きていかない」…!

るってぃさん
僕も、めちゃくちゃやりたいことなんてないです。
しいて言うなら、「やりたくないことをやらない人生」が一番やりたいことですね。
今はそれでいいじゃんって思いますし、そう思える自分でいたいです。
正直、「ただSNSを楽しむこと」が、こんなに難しくなるとは思いませんでした。
生活の一部となっているSNSだからこそ、良くも悪くも人生への影響が大きい。
るってぃさんがアートと禅で整えていたように、「心を自分の内側へ戻す時間」が大切ですね。
筆者と同じように、最近ポジティブにSNSを楽しめないな…と思っていたみなさん、少しオフラインの時間を増やして、正しく距離を取っていきましょう!

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