ビジネスパーソンインタビュー
“一番嫌いな言葉は自己責任”家入一真が「ビジネスパーソンこそ他力本願になれ」と語る理由

「本当に果たすべき責任」とは

“一番嫌いな言葉は自己責任”家入一真が「ビジネスパーソンこそ他力本願になれ」と語る理由

新R25編集部

2020/07/22

X
FacebookLINE

この記事をシェア

リンクのコピー

今日、新R25に登場してくれるのは、クラウドファンディング・サービス「CAMPFIRE」の創設者・家入一真さん。

CAMPFIREは、コロナ禍でも飲食店やライブハウスなどの方々が事業を継続できるよう、今年2月にいち早く「新型コロナウイルスサポートプログラム」を立ち上げました。

その結果、現在プロジェクト数2850件、支援者数約59万人、総支援額は67.5億円! 多くの人々がクラウドファンディングを利用し、今回の苦難に立ち向かっています。

(※数字は7月16日現在)

一方で…「誰かに助けを求める」って、けっこう難しいことだと思いませんか?

仕事や育児、いろんな場面で「自分のことは自分でなんとかしなきゃ」と抱え込んでしまうことって、あるんじゃないでしょうか。

そこで今回は、「一番好きな言葉は他力本願、一番嫌いな言葉は自己責任」という哲学を持っている家入さんに、「一人で抱え込まないほうがいい理由」をお聞きしました。

〈聞き手=サノトモキ〉

【家入一真(いえいり・かずま)】株式会社CAMPFIRE代表取締役。2003年株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)創業、2008年JASDAQ市場最年少で上場。2011年クラウドファンディングサービス運営の株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役に就任。2012年Eコマースプラットフォーム運営のBASE株式会社を設立、共同創業取締役に就任、2019年東証マザーズ上場。その他ベンチャーキャピタル「NOW」代表、オンラインカウンセリングサービス運営の株式会社cotree顧問などを務める

サノ

あの…家入さん。

家入さん

はい。

サノ

そのZoom背景、どういった状況なんでしょうか…

謎アニマルたちが家入さんに向かってうなずきつづける謎空間

家入さん

僕、あんまり話すのが得意じゃないんですけど…ふと画面を見たときに、動物たちが「ウンウン」って頷いてくれてると、すごく励まされるんですよね。

他社との打ち合わせも、全部これで出てます。

サノ

なるほど…早く慣れるようにします…

クラウドファンディングに応募が殺到するも…「苦境に立つ人の叫びに聞こえた」

サノ

2月に開始して以降、CAMPFIREの「新型コロナウイルスサポートプログラム」には、総額60億円以上の支援金が集まっているんですよね。

すごい実績だと思うんですけど、家入さんはどんな気持ちで見ていたんですか?

家入さん

…手放しでは喜べないですよね。

プロジェクト数がぐんぐん増えていくのを見ていても、僕にはそれが苦境に立つ方の叫び」に思えたんです。

家入さん

大きな数字でくくってしまうと顔が見えなくなってしまいますけど、事業継続が難しくなった方々の「助けを求める声」が“60億円”という数字になっているわけですから。

結果出しててすごいでしょ!」なんて言えるはずもない。

サノ

…そうですよね。

家入さん

でも一つ言えるのは、「クラウドファンディングなんて日本じゃうまくいかないよ」と言われながらも、ここまでやってきてよかったなということ。

10年運営してきたからこそ、今回の事態でも迅速に対応できたと思うので。

家入さん

もともと、今回のようなサポートプログラムは災害が起きるたびに何度もやってきたんですね。

CAMPFIREの立ち上げは2011年6月。ローンチ直前に東日本大震災があったんですよ。

当時の日本ではクラウドファンディング自体まったく認知されていなかったんですけど、そこから少しずつ「新しいお金の集め方」として知ってもらえるようになってきて。

サノ

たしかに、クラウドファンディングって最初は「寄付」の一つみたいなイメージだったかも。

家入さん

それ以降も日本は熊本地震や豪雨が、海外でも台湾やインドネシアで震災がありましたけど、僕たちはそのたびにお金を集めて現地に送ってきたので、「支援が必要なときにすぐ動く」という体制ができていたんです。

一つひとつ成功事例を積み重ねてきたことで、今回苦しんでいる方たちに「お金を集める手段」の一つとして思い浮かべてもらえたのはうれしかったですね。

「自己責任に囚われると、“本当に果たすべき責任”を見失う」

サノ

今回のテーマは「他力本願と自己責任」。

クラファンに助けを求める人がいる一方で、「助けてほしい」と手を挙げられない人もたくさんいると思うんです。

家入さん

たしかに…いらっしゃるでしょうね。

サノ

家入さんが「他力本願になれ」と考える理由って何なんですか?

家入さん

「他力本願」って本来、何もかも「自力」でやれると思うことのおこがましさを戒める言葉なんですよ。

家入さん

なんでも自分ひとりでできると抱え込むな、なんでも自分ひとりでやれると過信するな、なんでも自分ひとりでやってきたと驕るな…

そう自分を戒める言葉が「他力」なんです。

「俺は自力でこれまでやってきた」と言う人もいるけど、実際、どれだけまわりに助けられてきたか? を考えることはすごく大切だと思うんです。

サノ

なるほど。

でも、「自分のことは自分で責任を持つ」人のほうが信頼されませんか…?

家入さん

もちろん自分自身の行動や発言に責任を持つことは大事です。

ですが、それ以上に自分に何が出来ないのかを知り、他人を頼ることができる力が必要だと思うんですよね。

家入さん

例えば組織でも、誰にも頼ることができずに全部自分一人で抱え込んでしまって、結局自分も周囲も辛くなってしまうことってありますよね。

どんどんタスクが溜まって回らなくなってしまったり、その人で全部仕事が止まっちゃったり…そういう光景、目にしたことありません?

サノ

あ、ありますし、僕自身めちゃくちゃ心当たりがあります…

家入さん

「自己責任」の意識が強い人って、「自分でなんとか頑張ること」にこだわってしまうので、「本当に果たすべき責任」を見失ってしまいがちなんですよね。

家入さん

たとえば現在のコロナ禍でも、お店のオーナーが“本当に果たすべき責任”を考えたら、他力本願になってまわりに迷惑をかけまくってもいいはずなんです。

友人やお客さんからお金を借りてでも店を守る」みたいに、手法にこだわらずどんなことだってやると思うんですよ。

「自己責任」にこだわるあまり、誰にも頼らず、頼れず、一人で奮闘した結果お店が閉じてしまうのであれば、従業員や常連さんに対する責任感はどこにいっちゃったのってことになりますよね。

サノ

たしかに。

「責任=自分でなんとかすること」ではないと。

家入さん

そうそう。何に対する責任感なのかがあいまいなまま自分を追い込んでしまって、本質的に果たすべき責任が置いてきぼりになってしまうことが多い。

会社を経営していても、自分が持っている仕事を手放せず頭打ちになってしまう若いリーダーってたくさんいるんですよね。誰かを頼ることができると取れる選択肢の数がまったく変わるので、成長して次のステージに行けるようになる。

「他力」の精神を持っている人のほうが、ビジネスパーソンとしても強いんですよ。

自己責任を他人に押しつけてしまう人は、「誰かに助けてほしかった人」

サノ

今、日本で「人に頼るな」「他力本願はダメ」という考え方のほうがメジャーになっているのって、どうしてなんでしょう?

家入さん

うーん…他人や自分自身に「自己責任論」を押しつけてしまう人って、「助けてほしかったときに助けてもらえなかった人」だと思うんですよ。

家入さん

「自分が辛かったとき誰も助けてくれなかったから、自分でなんとか乗り越えてきた」という感覚が強い人は、自分に厳しく頑張ったぶん、それを他者に押しつけてしまうと思うんですよね。

心のどこかで「自分も助けてほしかった」という傷を抱えてるだけに、他者に対してもそれを求めてしまう。

サノ

「自分も大変な想いをしたんだから、お前も大変な想いをしろ」と。

そういう循環って、たくさんあるよな…

家入さん

「自己責任」を求める人が多いということは、そういう人たちを多く作ってしまう社会でもあるということです。

同調圧力によって、「自分で頑張らなきゃ」と思い込んでしまってる人たちもたくさんいると思う。

家入さん

僕は、熊谷晋一郎さんっていう難病を抱えたお医者さんの「自立とは依存先を増やすことである」という言葉が好きで。

熊谷さんは車いす生活でずっと親の世話になってたんですけど、大学生で自立するんだという想いで一人暮らしをはじめたと。

家のなかで転んで起き上がれなくなってしまっても、「自立するんだ、自分でなんとかしなきゃ」と一人で頑張ろうとしたらしいんですね。

サノ

ふむふむ。

家入さん

でも結局どうにもならなくて、電話で友達を呼んで助けてもらって「申し訳ない」と謝ったら、「これくらい大したことじゃないからいつでも呼んでくれ」と言われたらしくて。

そのとき熊谷さんは、「自立って一人で生きていくことではなくて、一人で立てないときに支えてくれる仲間を増やして生きていくことなんだ」と思ったそうなんです。

「適切なときに適切な人に頼れる人間になること」を、自立と呼ぶと。

「自立とは、一人で立てないときに支えてもらえる環境を作ること」。すごく納得感ある

家入さん

「自立と依存」って相反するものだと思われがちだけど、本当の意味で一人で生きてる人間なんていない。

僕も中2で引きこもりになってから、新聞配達店に住み込みでお世話になりながら、「新聞奨学生」という制度を利用して、絵の学校に行ったんですけど…

誰もがそうやって人に迷惑をかけて、支えられてなんとか生きてきたと思うんですよね。「自己責任」でなんでも切り抜けられた人なんて、ほとんどいないんじゃないかな。

「“全世界で長期化する”コロナは、今までの災害とは違う」

サノ

そんな「他力本願」を大切にしてきた家入さんは、今とくにどんな方に感謝をしているんでしょうか?

家入さん

そうだなあ…

沈黙すら肯定するアニマル

家入さん

でもやっぱり、CAMPFIREのみんなかなあ

本音を言えば、今って「誰かの支援をしてる場合じゃない」というメンバーもいると思うんですよ。

今回のコロナウイルス感染拡大って、「全世界で災害が長期化する」という点で、これまでの災害とは明らかに毛色が違うんですよね。

サノ

「全世界で災害が長期化する」…たしかにそんな災害なかったですね。

家入さん

世界規模で影響が出ていて、会社や経済がどうなるのか、自分も無事生きていけるのかという不安は一人ひとりが感じているはず。

そうなると、それぞれの心に「誰かの応援をしてる場合なのか」っていう気持ちが絶対出てくると思うんですよ。

今は影響を受けていない人もこの先どうなるかわからないわけで、これまでの災害以上に他人のことを考えられない心理状態になっても仕方ないだろうなと。

家入さん

そんななかでも、メンバーのみんながCAMPFIREの取り組みに向き合ってくれてるのは、本当にありがたいなあと思うんですね。

最初は僕も、「国家予算のレベルでしか救済できない」みたいな状況を目の当たりにしたときに、スタートアップの限界を感じて絶望してしまったんですよ。

調子がいいときは「既存の権力をぶち壊す」みたいな威勢のいいことを言ったり思ったりしても、いざこういう局面に出くわしたらとことん無力なんだな…と。

サノ

そうだったんですね…

家入さん

でも、「すべての人を支えることはできなくても、せめて手の届く範囲の人のためにできることをやるしかない」と覚悟を決めて、並走してくれるメンバーたちとなんとかやってこれている。

今はとにかく、僕らのサービスが「今を乗り切る選択肢」として広がって、一人でも多くの人が助けの声を上げやすくなったらいいなと思っています。

「持ちつ持たれつ」こそが、本当の自立だと思うので。

サノ

…恥ずかしながら、「一人でなんとかできるビジネスパーソン」を目指そうとしていたので、ものすごく響きました。

今日はありがとうございました!

最終的に自分も家入さんにうなずくアニマルの一員になってた気がする

本当に果たすべき責任」。

「自己責任」の美学にこだわりすぎて、本来こだわるべき部分を見失ってしまうことって、日常のなかにもたくさんある気がします。

「ピンチのときこそ自分一人で乗り越えて成長してやるぞ!」と思う気概も大切かもしれないけれど、「本当に果たすべき責任」からズレていないか、常に考えつづけていかなきゃなと思いました。

みなさんもぜひ、持ちつ持たれつの「他力」の精神を身に着けてみてはいかがでしょうか!

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)〉

ビジネスパーソンインタビュー

「人間関係が深まらないし、長続きしない」新R25編集長“最大の悩み”を人生相談1万件超のレジェンド・加藤諦三さんに相談

「人間関係が深まらないし、長続きしない」新R25編集長“最大の悩み”を人生相談1万件超のレジェンド・加藤諦三さんに相談

新R25編集部

「それ、嫌われてるに決まってるじゃん(笑)」Z世代慶應生がプロ奢ラレヤーに“友達がいない”悩みを相談したら、思わぬ事実が発覚

「それ、嫌われてるに決まってるじゃん(笑)」Z世代慶應生がプロ奢ラレヤーに“友達がいない”悩みを相談したら、思わぬ事実が発覚

新R25編集部

「ビジネス書を読んでも頭に入らない…」インプットの専門家・樺沢紫苑先生に相談したら、さまざまな“間違い”を指摘されました

「ビジネス書を読んでも頭に入らない…」インプットの専門家・樺沢紫苑先生に相談したら、さまざまな“間違い”を指摘されました

新R25編集部

【老害おじさん化回避】若者と絡むな、パーカー着るな。“いいおじさん”のすべて【イケオジへの道】

【老害おじさん化回避】若者と絡むな、パーカー着るな。“いいおじさん”のすべて【イケオジへの道】

新R25編集部

「仕事と家庭で“顔”を変えろ」本音が話せない28歳にコミュニケーションのプロ・安達裕哉さんが“シーン別の戦い方”を教えてくれました

「仕事と家庭で“顔”を変えろ」本音が話せない28歳にコミュニケーションのプロ・安達裕哉さんが“シーン別の戦い方”を教えてくれました

新R25編集部

またスゴいことを始めた前澤さんに「スケールの大きい人になる方法」を聞いたら、重たい宿題を出されてしまいました

またスゴいことを始めた前澤さんに「スケールの大きい人になる方法」を聞いたら、重たい宿題を出されてしまいました

新R25編集部