ビジネスパーソンインタビュー
「あらゆる面で普通の人なんてこの世に存在しない。」
潰瘍性大腸炎患者の佐々木俊尚が「マイノリティは周囲に打ち明けなくてもいい」と語る理由
新R25編集部
突然ですが、「潰瘍性大腸炎」という言葉を聞いたことはありますか?
IBD(炎症性腸疾患)(※)のひとつであり、安倍前首相の持病として世間に広く知られるようになった疾患です。
※Inflammatory Bowel Disease(炎症性腸疾患)の略。腸に炎症が起こる疾患の総称。免疫の異常によって起こると考えられているクローン病と潰瘍性大腸炎の2つを総称することも多い
「持病による首相辞任」が公表されたことで、ネット上ではさまざまな声が飛び交いました。
ですが、「どんな症状なのか」「働くうえでどんな困難があるのか」までを正しく知ったうえで発言をしている人は、あまりいなかったのではないでしょうか?
今回はヤンセンファーマ株式会社が展開する「IBDとはたらくプロジェクト」と新R25のコラボ企画として「潰瘍性大腸炎」当事者である佐々木俊尚さんが、どのように病と向き合い、仕事と両立していったのかについて取材。
【佐々木俊尚(ささき・としなお)】1961年、兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活動。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。2001年、アスキー勤務時代に「潰瘍性大腸炎」を発症した
難病に限らず、社会的マイノリティを抱える人が“自分らしくはたらく”ためのヒントを探ります。
〈聞き手=宮内麻希(新R25編集部)〉
日常生活も難しくなる…潰瘍性大腸炎とは?
宮内
まず、「潰瘍性大腸炎」とはどんな症状なのかお伺いしたいです。
なんとなく、「お腹が痛くなる」というイメージはあるのですが…
佐々木さん
僕の場合、お腹の鈍痛がずっと続くんですが、それより辛いのは出血が止まらないことです。
僕が最初に異変に気がついたのも、便に血が混じっていたことから。痔だと思って病院に行ったら、潰瘍性大腸炎と診断されたんです。
診断された当時(2011年)は「潰瘍性大腸炎」という疾患自体知りませんでしたし、インターネット上での情報もあまりなかったんです。
佐々木さん
いざ生活してみると、お腹は常に重く、トイレに入るたびに血が滴り落ちてくる。
1日に20回以上はトイレに行かなくてはいけないので、街中でどこにトイレがあるのかを常に調べて移動するようになりました。
僕が発症したのは、出版社で会社員として働いていたころだったので、長い取材ができなかったり、出張が難しくなってしまったり…
宮内
痛みだけでなく、日常生活すらままならないとは知りませんでした。
佐々木さん
しかも、潰瘍性大腸炎には“完治”がないんですよ。
この病気と一生付き合っていかないといけないと知ったときは絶望でしたね。
“完治”はしないが“寛解”(かんかい)時は症状がない。グレーな領域が存在する
宮内
えっ、治らないんですか…?
佐々木さん
潰瘍性大腸炎って理解されづらい病気なんですよね。
というのも、“寛解”と“再燃”を繰り返すんですよ。
宮内
“寛解”と“再燃”…?
佐々木さん
“寛解”時は症状が治まっている状態のことで痛みも出血もないんですが、“再燃”するとまた出血や痛みが襲ってくる。僕の場合は発症して約20年で、5、6回再燃してます。
佐々木さん
ただ、診断されてすぐは、海外旅行にも行けないし、長期出張も難しいし…と悲観的に考えることも多かったんですけど、寛解と再燃を繰り返すうちにだんだん楽天的に考えられるようになったんです。
宮内
どうして潰瘍性大腸炎と前向きに向き合えるようになったんですか?
佐々木さん
2つあります。1つは、そもそも「再燃する原因なんて誰もわからない」ということを知ったこと。
僕は毎日運動もしていますし、栄養バランスを考えて食事も自炊している。病気ではない人よりも健康的な生活を送っている自信がありますが、この生活を続けていても必ずしも再燃しないでいられるとは限らないんですよね。
だったら、自分でできることは全部やって、あとは気にしないでおこうと。考えても原因のわからないことは、“人事尽くして天命を待つ”ですよ。
佐々木さん、毎日ジムで5km走るのが日課だそうです…恐るべし
佐々木さん
もう1つは、病人としてのレッテルを貼られることから逃げること。
たとえば僕は、職場では言わないで乗り切ることを考えましたね。
宮内
そうなんですか? なんとなく、周囲の人に助けてもらうほうが前向きになれるイメージがあるのですが…
佐々木さん
当時は潰瘍性大腸炎という病名そのものも広まっていなかったですし、“大腸炎”という言葉の響き自体に「下品なんじゃない?」という偏見もあった。
そして、潰瘍性大腸炎だと周囲に言った瞬間、無条件に「病気の人だ」というラベルが貼られるんですよ。
たとえば、寛解時に少しお酒を飲んだだけで、「病人なのに大丈夫なんですか?」と言われてしまうようになる。
それって、“心配”ではなく、“病気という烙印を押されてる”だけだなと思うようになったんです。
宮内
どういうことですか?
佐々木さん
安倍さんに対してSNS上で「病気のくせに首相というポジションにつくな」という声も出ていましたよね。
もっと言えば、「病人なのになんで元気なの?」と思っている人もいたはず。
本人は病気と向き合って前向きに生きようとしても、一度烙印を押されると、周囲からは「病気の人」としての振る舞いを求められてしまうんですよ。
宮内
たしかに…
潰瘍性大腸炎への理解が浅いまま打ち明けられたら、私も無意識にラベルを貼ってしまうかもしれません。
佐々木さん
そう。「難病患者だけど普通の人と同じ生活ができる」というグレーな状態があることって、想像以上に周囲に理解してもらえないんです。
だから僕は、妻にだけ話していました。病気について知っている人がそばにいるのは安心できるので、本当に信頼している人にだけ伝えればいいと思っています。
周りにいる人全員に無理に言う必要もないし、そのほうが健全に過ごせるんじゃないかなと。
佐々木さん
これは病気に限らず、あらゆるマイノリティに共通しますけど、社会が“言わないほうが面倒がない”という状態になっていては、いつまでたっても言えないですよね。
当事者やまわりの人がどうすべきかではなく、社会全体のリテラシーが上がっていくことが一番大事。
「IBDとはたらくプロジェクト」のような活動を通して病気に関する理解を広めることは、当事者にとっても、周囲にとっても、社会的にも素晴らしいことだと思いますよ。
佐々木さん
僕も、働く人の3分の1は病気と付き合いながら働いている(厚生労働省「平成25年度国民生活基礎調査」より)ということを知りませんでした。
そう考えると、健康/不健康と区別するのではなく、グレーな領域が存在しているというのが実は本質なのかもしれない。
「IBDとはたらくプロジェクト」が掲げている「ワークシックバランス」はそれをうまく表現しているいい言葉だなと思いました。
「病気」だって、誰もが抱える弱さのひとつである
宮内
病気に限らず、いろいろなマイノリティは「カミングアウトして周囲の理解を得ること」が大事なんじゃないかなと思っていたんです。
でも、今日お話を聞いてまずは周囲がカミングアウトできる雰囲気をつくることが大事だったんだと気がつきました。
佐々木さん
なぜかみんな、弱者という箱に入れてカテゴライズしたがるんですよね。
でも本当は、あらゆる面で普通の人なんてこの世に存在しないじゃないですか。
佐々木さん
たとえば、会社ではしっかりしている人だって、家に帰ればだらしない面があったり…360度どこからみても“弱さのない完璧な人間”なんて存在しないと思うんですよ。
宮内
そうか。病気だって、誰もが抱えている弱さのひとつってことですよね。
佐々木さん
そうそう。「みんな何かが足りないのは当たり前」くらいの感覚で生きたほうが楽なんじゃないかなと思うんです。
病気やマイノリティ性を持っている、持っていないに限らず、“誰もが弱い部分を抱えた人間なんだ”という前提に立って、打ち明けられたときは正しく理解する優しさを持つことが大切なんじゃないですかね。
正直、「病気は打ち明けたほうが、本人にも周囲の人にとってもいいのでは」と考えていた取材前の筆者。
でも、この考えこそが“病気の人なんだから”というレッテルを無意識に貼っている可能性があると気付いて、まずは社会が打ち明けられる雰囲気をつくらなければいけないんだと感じました。
「自分にとっての弱さとはなんだろう」…きっとみんななにかしら思い浮かぶはず。
一人ひとりが「誰もが弱い部分を抱えた人間である」と認識することから、社会を変えていけるかもしれません。
12月4日(金)公開の第2弾では「ワークシックバランス」についての対談記事を公開!
佐々木さんが潰瘍性大腸炎を抱えながら、病気と仕事を両立してきたように、多くの人が病気を抱えながら「自分らしく働く」ために、周囲や社会はどのように変化すれば良いのでしょうか?
12月4日(金)公開の記事では、聞き手にサイバーエージェント常務執行役員 人事統括の曽山哲人さんを迎え、「ワークシックバランス」を実現する方法について考えていきます。
「IBDとはたらくプロジェクト」とは?
ヤンセンファーマ株式会社では、革新的な薬剤の提供のみならず、患者さんに寄り添い、より充実した生活を送るための課題に向き合う「Beyond the Pills(薬剤を超えて)」という概念を大切にしています。
その一環として、IBD領域では、職場の理解や配慮を得ながら働き続けることが困難な状況に一石を投じるべく立ち上げたのが、「IBDとはたらくプロジェクト」です。
IBDを抱えながらも「自分らしくはたらく」ことが社会の中でもっと当たり前になることをミッションに、さまざまな取り組みを展開しています。
※ここで話された内容は、佐々木さんの個人的な経験に基づいたコメントです。すべての潰瘍性大腸炎の方にあてはまるわけではありません
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