ビジネスパーソンインタビュー
独自のコロナウイルスワクチン接種施策をすすめた辣腕市長
「ツイッターのハッシュタグで本当に世の中が動く?」福岡市長が若者世代の“政治参加”に檄
新R25編集部
コロナ禍が続く5月末、福岡市の、コロナウイルスワクチン接種への取り組みが大きく報道されました。
・750カ所もの会場で接種が可能
・高齢者にくわえ、介護、保育、教育従事者も優先的に接種可能
という施策に、称賛の声が上がっています。
推進したのは、現職の福岡市長である、高島宗一郎さん。もともとは九州朝日放送のアナウンサーで、2010年に史上最年少の36歳(若いな~…)で福岡市長に当選したという、若手政治家です。
5月に発売された市長の新刊『日本を最速で変える方法』では、「ビジネスパーソンは政治と距離を取るな」と強く主張されています。
そんな高島市長に取材の機会をいただいたところ…
「R25世代は本当に危機感を持ったほうがいい」
と激論されてしまいました。
Zoomで展開された市長のアツい想いとは…? お楽しみください。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
「コロナの協力金、誰が払うの?」若者世代は構造的にどんどん不利になっている
天野
市長は著書のなかで「ビジネスパーソンは政治と距離を取るな」と書かれていますよね。基本的には“政治の話はするな”という教えも根強いと思うんですが…
「政治と距離を取らない」ことで、どんなメリットがあるんでしょうか?
高島市長
R25世代の若者は、政治と距離を取るなんてデメリットしかないよ。
本当に危機感を持ったほうがいい。“シルバー民主主義”ってよく言われるけど、若者世代にどんどん負担がのしかかってるんです。
今コロナで「協力金」がたくさん出てるけど、あれ、結局誰が払うのかって。
そうですよね…税金で取られるんだろうなとは思ってましたが…
天野
「若者世代の投票率を上げることが大事」とよく言うので、一応選挙はちゃんと行くようにしてるんですけど…
高島市長
投票率とか、そんな悠長なこと言ってられる状況はもう終わってるんだよね。
天野
えっ。
高島市長
すでに若い世代よりも高齢者の人口が多いから、仮に若い人が全員選挙に行ってもムリ、もう変えられないというところまで少子高齢化が進んでいる。
若者は構造的な弱者なんです。明確な加害者がいるわけじゃないから、弱者ということに気付かされない。“気付けば熱湯”っていう茹でガエル状態になるのよ。
市長…めちゃくちゃ脅してくるやん
天野
でも、投票に行ってもダメなら何をしたらいいんですか?
高島市長
もっと直接的な政治参加だよね。
起業してるような人はわかってると思うんだけど、世の中、仕組みを作る人が勝ってるんだよね。ルールを作る側が勝つ。
自分が政治に対して「なぜ?」って思うことがあるなら、その感覚が合う人を政治の現場に送り込む。もしくは現場にいる人たちに訴えかけていくことだね。
政治の現場に送り込む…ハードル高いな…
高島市長
天野さんは選挙運動に行ったことある?
天野
ないですね。
高島市長
じゃあ、選挙のときビラ配ったことは?
天野
いや、ないです。
高島市長
そういうことは自分にフィットする社会を作るためにやるんだよ。
何もしてないのに政治に対して不満があったり、「理想の社会になってない」って思ったりするのって意味わからなくない?
ええ…そうなのかな…
高島市長
選挙運動は難しくても、近所にある政治家の事務所に行って、相談するとかね。
天野
ハードル高すぎません?
政治家の事務所にいきなり行って話ができるんですか?
高島市長
「こんにちは、相談があるんですけど」って言ったら、それは政治家は無視できない。
国会議員もいれば市議会議員、区議会議員とかいろいろいるから、どこに行けばいいか悩むだろうけど、いったんはどこでもいいよ。
天野
ヘンな人扱いされないですか?
高島市長
されないされない(笑)。
もっと気軽に議員を使ったほうがいいのよ。
そうなんだ…でもやっぱ1人だとヘンな人扱いされそうだから、友人たちと行ってみるのはありなのかも
ツイッターの「政治系ハッシュタグ」投稿やリツイートじゃダメなんですか?
天野
そういえば、最近ツイッターとかで、署名を集めるハッシュタグがよくまわってくるんですよ。おかしいと思う法案に反対を表明するような。たまにリツイートしたりしてるんですが…
ああいうのって実際にどれぐらい効果があるんですかね?
高島市長
あのね、、、
あっ、これ怒られる空気だ
高島市長
何か世の中を動かしたい、変えたいと思うときに、指一本での「リツイート」とか署名の力で大きな物事が動くかね?
天野
でも、SNSでトレンド入りしたり話題になったりしますよね…?
高島市長
もちろんそれで何かが動いた事例もあると思う。でも、本当に変えたいことがあるなら考えが甘すぎる。
繰り返すけど、物事を決める側、ルールを作る側が一番強いの。
署名とかは、物事を決めるプロセスに入ってない。あくまで“周辺”でやっていることなんだよ。
それで政治参加してるつもりになっていても、ちょっとレベル低いと思わん?
天野
うっ…
市長、170kmぐらいの豪速球投げてくる
高島市長
“問題意識を持つ人や、興味を持つ人を拡げる”という意味で大事だとは思うよ。
でも、そこで終わってほしくないからこういう言い方してるの。
天野
たしかに…それだけじゃ「なんで変わんないんだよ」って言ってても当事者意識が弱いのかもしれない…
市長の言う通り、自分たちの世代の代表をつくらなきゃダメな気がしてきました…そんなこと考えたことなかった
市長がやろうとしてる具体案は…「若者の投票は3倍にカウント」!?
天野
さっきから言われっぱなしですが…
市長は、若者が不利な状況をどう解決しようと考えてるんでしょうか? 具体策とかあるんです?
ないとは言わせませんよ
高島市長
そこはやはり、大きく“構造を変える”必要があるよね。
たとえば、「R25世代の投票は、1票を3倍にしてカウントする」とか…
天野
そんなことできるんですか!?
高島市長
「1票の格差」ってよく言うでしょ。地域によって人口が違うことで投票の重みに不平等が生じるっていう…
それを平準化しようという動きがあるなら、世代間の人口格差を平準化する動きがあってもいいと思うんだよね。
たとえば今、議論されてるのは「世代ごとに代表を選ぶ」っていう方式。20代、30代、40代…と、それぞれの世代ごとの代表を選ぶ選挙をする。
天野
そんな話があるんだ…
高島市長
ほかにも、“子どもがいる人は、その人数分投票できる”という「ドメイン方式」という制度も提唱されたことがある。
これも、未来を担う世代を意識した政治にしようっていう意図から生まれたものなんだよ。
天野
でも、そんな制度が実現したら今までの選挙からだいぶ変わりますよね…そんなことできるんですか?
高島市長
「今までやったことがないからできない」って言ってたら、それは思考停止。チャレンジしてみるべきだと思うよ。
だって、こんな少子高齢化になったのは、人類史上で初のことなんだから。
もちろん人類が巨人に記憶を消されてなければの話だけど…あ、笑って?
『進撃の巨人』が元ネタの市長ギャグ。急すぎてまったく反応できない
高島市長
平均余命が長い人、つまり若い人の投票を重くカウントしてみると、アメリカの大統領選挙で、トランプ氏じゃなくクリントン氏が勝ってたっていう調査もある。
ブレグジット(※イギリスがEUを離脱すること。2016年の国民投票によって決定し、2020年に離脱した)も、結果が逆になっていたらしい。
それぐらい、世界の意思決定が大きく変わる可能性があることなんだよ。
新R25の企画でやった「若者を選挙に行かせるアイデア」を市長に聞いてもらった
天野
ちなみに…以前新R25で、「アイデアマンであるキングコング西野さんに、若者の投票率を上げる方法を考えてもらおう」って企画があったんですよ。
高島市長
西野さん…ああ、『プペル』の!
天野
そのなかで、「人間は正しさじゃ動かない。下心をデザインしよう」ということで、「20代は18~19時に投票、と時間を決める」ってアイデアが出たんです。
成人式と同様に、同じ年代の友だちと会えたり、男女の出会いもあったりするから行きたくなるだろうという。
こういうアイデアって、現職の政治家の方から見るとどうなのかなと、意見を聞きたいんですが…
高島市長
へえ~!
「人の行動をデザインする」ってすごく大事だし、下心っていうフレーズもいいね。さすが西野さん。率直にさすがだなと思いました。
おお~
高島市長
ただ…そのうえで俺が言いたいのは「フィジビリティをどう考えるか?」ってことなのよ。
つまり実現可能性。
天野
実際にどうやるのかと。
高島市長
アイデアを出すのはすごくいいけど、みんなそこで止まっちゃうのよ。
「いい話だったね! 盛り上がったね! さようなら!」で終わっちゃう。
大事なのは、それをどうやって実装するか。社会を変えていく力学は、「アイデア」だけじゃまだ弱いんだよね。
「盛り上がったね! さようなら!」を全力でやっていた新R25編集部。反省
高島市長
実際にやろうとしたら「ナンパされて怖かったという被害が出たらどうするのか」っていう反対意見も出るだろうし、「若い人に投票に行かれたら困る」っていう人もいる。
そういう声があるなかで、社会を動かすにはどうすればいいのか?
新R25って若いんだから、アイデアで止まってちゃいけんよ!もっと社会を動かすところまで考えてもらえたら、よりうれしいと思いますね。
福岡市が独自のワクチン施策をすすめられた理由をきいてみた
天野
最後に…
福岡市のコロナウイルスワクチンの接種に関する施策が話題になってましたよね。とくに「介護、教育関係者に優先して接種させる」ってすごいなと…
スピーディーに独自の動きができる理由をぜひ教えてほしいです。
高島市長
そうね、これはビジネスと同じ感覚なのかもしれないけど…
ひとつは「目的と手段を混同しないこと」こと。
高島市長
ワクチン接種はあくまで新規陽性者を増やさないための手段。
たとえば、高齢者にだけ接種しても、その近くで働く介護従事者からウイルスが入る。
ウイルスを止めるという目的のためには、介護従事者に優先的に接種をすすめるべきだとなった。
天野
なるほど。
高島市長
それから、子どもはワクチンを打てないので、幼稚園、保育園、学校などでは一気に感染が広がるリスクが高い。なおかつ、休園や学級閉鎖になると、親も仕事に行けなくなって社会的負担が大きい…
このように、ワクチン接種の目的からシンプルに考えたんです。
天野
関係者もたくさんいるはずなのに、意思統一できたのがすごいですよね。
高島市長
そこは、「最初から巻き込む」ことを考えてました。
最初の時点で、市内の病院の院長とかワクチンの専門家…みんな入れてZoom会議をやったのよ。
「新R25のみんなからすればジジイかもしれないけど、連絡すれば1時間Zoomしようってことぐらいはすぐできるわけだから」
高島市長
当初福岡市では、お医者さんにワクチン接種の会場に来てもらう方法を中心に考えていたんだけど、会議で、クリニックを閉めて接種に駆り出されると、通常医療を止めてしまうし、負担になる。それぞれのクリニックで接種できたら協力しやすいという声が出た。
それで、個別のクリニックを中心とした接種を進めていくことにしたんです。
このあたりは、スタート時点からみんなを巻き込んで動けたのが大きいなと。
天野
巻き込み力だ…
高島市長
そう。クリニックは行政機関じゃないから、一方的に決めて押し付けたら、当然「なんでそんなことせないけんの」って反感を買います。
はやい段階から当事者として入ってもらい、気持ちよく協力してもらうのが、お互いにとって一番いいよね。
ビジネス的な感覚にもすぐれた高島市長。いろいろと勉強になるお話をありがとうございました!
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)〉
高島市長の新刊『日本を最速で変える方法』
5月に発売された市長の新刊『日本を最速で変える方法』。
新型コロナウイルス感染症対策の話から、「実用的なDX戦略」まで、高島市長の展望が語られています。
「政治」の話題から目を背けるべきではない新R25世代のビジネスパーソンの皆さんも、ぜひ手に取ってみてください。
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