
ビジパの悩みインサイト
【全身全霊 vs 半身】入社直前のZ世代が「これからの時代に必要な仕事観」を三宅香帆さんと議論してみた
新R25編集部
「複雑なはずのビジパの悩みを、単純化して取材していた」「本質的じゃない悩みをでっちあげていた」
という反省のうえ、「個人のリアルな悩みにひもづいた取材」を改めてしていくことを方針とした新R25編集部。
今回は、新R25インターン・りんたろうの「競争社会で生きてきた結果、仕事に対するモチベーションがわからない」という悩みです。
就活Z世代は、“とあるジレンマ”を抱えている

りんたろう
最近、同世代から「これから就職するけど、本当に仕事で自己実現したいのかわかんない」という悩みを聞くことが多くて。
ハードに働いて、お金も稼いで自己実現しようみたいな業界に行く子たちが言ってるんですよ。


りんたろう
その道を選んで就活して、内定ももらってうれしいんだけど、本当にそれが自分の自己実現につながるのかどうか、わからなくなってきたと。
以前、僕が幻冬舎・箕輪厚介さんに取材した動画で、「達成と快楽じゃ幸福になれない」みたいなことを言われてたのが刺さってるみたいで。

三宅
すごいタイミングで気づいてしまったね。

森久保
受験とか就活とか、ずっとレースに勝つことを目標に人生頑張ってきたけど、就活終わったらいったん決着して、次のゲームなんだっけ? ってなってるパターンがありそう。

りんたろう
僕のまわりの慶應生は、受験でも就活でも、競争で勝てば評価されるなかで生きてきて。
でも、社会のトレンドは“脱競争”。生き方がわからなくなっちゃってるのかなという。
なるほどねえ…

りんたろう
この前、三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)という本を読んだんですけど、「仕事に全身を向けるのがこれまでの生き方だったけど、自分の好きなことをやるためには、全身じゃなくて半身で生きましょう」と書いてあって。
それで自己実現する社会をつくろうよ、と提言しているんです。
その通りだなと思いつつ、僕はすでに全身全霊で生きる道を選んできていて。だから「半身で生きる」って、もっとわからなくなっちゃって…

森久保
頑張ってレースに勝ってきた人が、はたと気づくむなしさみたいな。
急に「人生を自分でデザインして、好きに生きてください」って言われたときに「えっ…」っていう。

というわけで、今回は「半身で生きる」を提唱しているご本人、三宅香帆さんに取材を敢行。
りんたろうのモヤモヤを相談したところ…想像とは異なる答えが返ってきました。
これからの働き方に対する考え方は、全ビジネスパーソン必読です…!
「半身のほうが生産性は上がる」…? 三宅さんが提案する生き方の新解釈

りんたろう
三宅さん、今日はよろしくお願いします。
僕、三宅さんの本をボロボロになるくらい読ませていただいて。

三宅さん
うれしいー。ありがとうございます。
【三宅香帆(みやけ・かほ)】文芸評論家、書評家、作家。京都大学大学院を中退後、リクルートに入社するも「本が読めなくなり」退社。代表作に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)、『好きを言語化する技術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』では「半身で生きる」を提唱し、話題に

りんたろう
僕は競争社会に全身全霊で挑んで、勝つことを目指してきて。そんな自分にとって、「半身で生きる」っていうのが衝撃でした。そういう生き方もあるのかって。
これまで、いろんな方に働き方をテーマにお話を伺ってきたんですけど、「本気でやれ」「もっと傷つけ」みたいなことを言われて、その通りだなと思ってたんです。
つまり、2つのイデオロギーがあるなと思っていて。

三宅さん
たしかに。

りんたろう
全身全霊で、本気で「傷がつくまで働いて突き抜けろ」というのと、半身で、「やりたいことも仕事も半分半分でやろう」っていうのと。
この2つのイデオロギーを、入社する前の僕はどう考えたらいいのか…
まずは、「半身で生きる」っていう言葉の意味をあらためて教えてもらってもいいですか?


三宅さん
「半身」っていうのは、仕事と仕事以外の文脈と、どっちも自分のなかに持っておくっていうぐらいの意味なんですよ。
「人生全部、半身で生きろ!」みたいな感じではなくて、人生のなかで全身全霊で生きる時期があってもいい。若手で頑張りどきっていうときに全身全霊になるのはいいと思います。
ただ、そこにフルコミットしすぎるとしんどいのでは? どっかで疲れちゃわない? と思っていて。それで“半身”という言葉を使っています。

りんたろう
ちょっと勘違いしてたかも。
仕事に一生懸命打ち込むことは肯定したうえで、ほかの文脈を残しておこうよっていうことなのか。

三宅さん
まさに。私、全身全霊で働くことに対して否定派だと思われがちなんですけど、そんなことなくて、仕事を頑張る時期は頑張ったらいいと思ってるんですよ。
でも、仕事以外の人間関係がゼロになっていくと、しんどいんじゃないかなって。
あまりにも仕事の人間関係がすべてになってしまうと見失うものがあるんじゃない? 本読めなくなるんじゃない? っていう。

りんたろう
でも、仕事以外の文脈の自分を担保するのって、めっちゃ難しくないですか?
ましてや僕は、社会人になったら仕事に支配されちゃうんじゃないかなって思うんですけど…

三宅さん
「フルコミットしたほうが何かを手に入れられるのでは」というくらい仕事に熱意があるうちは、フルコミットしたほうがいいと思います。
でも一方で、波があるから、仕事に疲れたり「私は何をやってるんだ」ってハッとなるタイミングがあったりする。そういうときに、仕事をさらに頑張ろうではなく、別の文脈を自分のなかでつくれないかなと。

りんたろう
なるほど…もうワンサイドの自分を残しておくっていう感じなんですね。

三宅さん
スタンダードって、時代によって変わるじゃないですか。
今のスタンダードはけっこう全身全霊寄りな気がしていて。でももうちょっと半身寄りにしたほうが、全員の生産性が上がるんじゃないかと思ってます。
「半身寄り」…

三宅さん
仕事にはタイミングもあるから、フルコミットしたいときに頑張るのはいいけど、やる気がない時期に「やる気ないです」とか言えないじゃないですか。
そういうときに、会社ではやる気があるふりをしつつ、裏ではほかの余暇を楽しむみたいな、分裂した自分を持てるといいんじゃないかなと。

りんたろう
二面性というか…表には見せられないような自分もちゃんと守ってあげるような。

三宅さん
本当にそんな感じです。仕事以外の自分を持っておく。

りんたろう
いわゆる「脱競争しよう」、ということではないんですか?

三宅さん
私はとくに脱競争せよとは思ってなくて。どちらかというと、めちゃめちゃ競争側の人間ですし(笑)。
けど、競争社会に全員がフルコミットで乗り続けていると、日本は競争から遅れてしまうのではと。

りんたろう
逆に?

三宅さん
みんなが消費を楽しむ時間や本を読む時間、子育てする時間があったほうが、全体の競争性って上がるんじゃないかと思ってるんです。
今って競争性を上げるには、「全員フルコミット」が前提で、落ちこぼれた人はもう労働市場に来るな、みたいな感じじゃないですか。
「0か100か」の状態で、生産性って本当に高いのか? って疑問で。
いろんなものがあったほうが長期的な競争に勝てるのではと思っているんですけど…まあ、そういう視点で見るのは難しいですよね。

「半身で生きる」を選べるか?

りんたろう
とはいえ、「半身で生きる」って、選ばれし者にしか選べないライフスタイルな気がしてるんですけど。
映画『花束みたいな恋をした』の話がこの本のなかに出てきますよね。
(主人公の)麦くんは地方からやって来て、東京の競争社会に揉まれて“何者でもない自分”みたいなものを突きつけられ、そこを打破する…いわば競争社会のなかで自分を証明するために仕事に打ち込み、文化的な側面を失っていく、みたいな流れがあったと思うんですよ。
成功してる方って、1回競争のなかで戦って勝ち抜いて、そのうえで「半身」という生活を選択されてるんじゃないかなと。

三宅さん
すごく思うのは「全身全霊」よりも「半身」のほうが厳しかったりするということなんですよね。
全身全霊で働くためには環境やいくつかの条件が必要で、全身全霊になれる期間ってそんなに長くない。
なので、頑張りどころだと思っているときも、実は「半身のままで頑張る」みたいなコマンドを持っていたほうが、後々いいというか。
だから、「半身は訓練」ぐらいの気持ちでやってみるといいと思うんですよね。


りんたろう
なんか腑に落ちました。
最近よく聞くのが、28、29歳ぐらいになって、仕事しかしてこなかったからパートナー探しが難航するみたいな話や、40歳ぐらいまで走りきって、その後何したらいいのかわからなくなってる、みたいなことなんですよね。
仕事以外の自分のアイデンティティがない状態で走っちゃってると、いつか壁にぶつかるんじゃないかということは、うすうす僕も感じていて。
そうならないためにも、「半身」の自分もちゃんと残しておくことが後々効いてくるよっていう。

三宅さん
そうなんですよ。それって「全身全霊」と「半身」を両方やらなきゃいけないので、全身全霊だけより、多分キツい。
でも「半身」の生き方を訓練していると、どっちも頑張れる自分になる気がする。
だから忙しいときでも友達との予定を入れるとか、習い事の予定を入れるとか、そういうことをやったほうが、みんなハッピーになるのではと思ってます。

りんたろう
なるほど、ハードモードなんですね、どちらかというと。

三宅さん
けっこうゴリラなことを言ってるような気がする(笑)。
でも、なんかそのくらいやったほうが楽しいのでは、と思ってますね。

1回は、自分を追い込み切るべきなのでは?

りんたろう
本には「全身全霊」によるバーンアウトを危惧してる、といった話も書いてありましたが…
突き抜けている方って、1回自分を追い込みきって、立ち直ったことで新しい境地が開けた、みたいなことを言ってる方が多いじゃないですか。
僕も燃え尽きるぐらい働いてしまう可能性がありそうなんですけど、そういう自分とはどう向き合ったらいいですか?

三宅さん
ひとつ思うんですけど、ビジネス書の「物語」っていうのがあることを知ったほうがいいですね。

りんたろう
物語…?

三宅さん
ビジネス書とか自己啓発書とか、社長の挫折談をとにかく掘り出したがるっていう“ビジネス書編集者あるある”があって(笑)。
そんなに大したことのない挫折でも、そう言わせるようなビジネスがあるんですよ。ストーリーとしては、挫折があったほうが人間としてかわいらしいじゃないですか。
もちろんめっちゃつらい体験をした人もいると思うんですけど…

りんたろう
えぇぇ…

三宅さん
「燃え尽き症候群」ってかっこよく言っているだけで、実はけっこうしんどいことだと思うんですよね。
燃えつきにもいろんな段階があって、心のバランスを崩しちゃうと、だいぶしんどい。心のバランスって1回崩れたら立ち直るのが難しいから、そこまでいかないほうがいい。
心のバランスが崩れる直前で、いったん違う自分を取り戻すコマンドを選んだほうがいいと思うんです。


三宅さん
私だったら「本が読めないっていうことは、疲れすぎてるのかも」っていう、疲れてるかどうかのサインをくれるものだったり。
疲れているときって、「好きな音楽ですら聴けない」みたいになったりするじゃないですか。そうなると、だいぶキてるなというサインなわけで。

りんたろう
仕事に打ち込むにしても、緊急脱出装置をちゃんと用意しておくということですね。
半身を“キープ”するために大事なこと

三宅さん
仕事も推し活も、フルコミットしているときの快楽は絶対あるので、一時期はいいと思うんですけど、ずっとそれだとキツい。
1年ごとに、自分の生活を振り返ってみるといいんじゃないかなと思いますよ。

りんたろう
ビジネスに偏っている年もあってもいいし、推しに偏ってる時期があってもいいけど、常にチューニングしていくというか、両サイドをちゃんとキープするっていう。

三宅さん
二元論になっちゃうのが今の働き方のよくないところなんですよね。
本来、人生は推し活もあり仕事もあり、プライベートもありなのに、仕事の場にいると「フルコミットしないやつは悪」みたいな。
お母さんが子育て以外のことをしていると悪とか、推し活でも推しにフルコミットをしないやつが悪みたいになりがちで、なんかどの場でも全身全霊を求められがちだなと思ってて。
私は仕事しながら本を読むみたいな、両立してるほうがいいっていう価値観を広めていきたいんです。

りんたろう
いい意味で玉虫色の人生というか。いろんなものが混在していていいっていうことなんですね…

「この取材、ケンカになるんじゃないかと思ってました(笑)」

りんたろう
「半身」の生き方を実践していくためには、最初の一歩として何をしたらいいですかね?

三宅さん
とりあえず、仕事に関係ない本を一冊カバンのなかに忍ばせる。そういうことをする方が増えるといいなと思ってます。
単純に自分が興味あるテーマの本を持っておく、くらいが“ちょうどいい半身”かなと。

りんたろう
なるほど…アウトプットありきの本ではなく。

三宅さん
もちろん自分の業界や仕事に関係のある本でもいいんですけど…
自分の興味を掘っていくというか、「自分ってこういうもの好きだったよな」とか、「こういうものを面白いと思う」っていうことを確認できるような本が一冊でもあると、社会人生活が楽しくなるんじゃないかなと思ってます。


りんたろう
僕も含めて、日本人はシリアスになりすぎちゃってるんですかね。
なんかもっと気軽でいいじゃん、みたいなメッセージ性があるのかなと思いました。

三宅さん
そうですね。あとは、トータルでハッピーならよくない? くらいに思ってます。
仕事も趣味もあって人生。いまは「9:1」で仕事だなとか、今年はちょっと趣味多めで、とか、常にバランスを変えていくスタイルがいいんじゃないかな。
『花束みたいな』の麦くんも、仕事のせいでパズドラしかできなくなったけど、仕事が落ち着いたらまた『ゴールデンカムイ』の続きを読んだらいいじゃんって思ってるんですよね(笑)。

りんたろう
再開のコマンドを選択するためには、頭のどこかに「半身で生きる」という選択肢がないと、できないですよね。

三宅さん
そうなんです。

りんたろう
実は三宅さんの本って、「頑張るな」って言われてるのかなって思ってたんですよ。

三宅さん
いや、頑張りたいときは頑張ったほうが絶対楽しいと思うんです。
でも頑張りすぎるだけだと心が潰れちゃう人もいっぱいいるので…そうならないほうがハッピーでは? って感じですね。

りんたろう
やっと完全に腑に落ちました…!
この取材、ヘタしたらケンカになるんじゃないかって思ってたんですけど、よかったです(笑)。
2カ月後には社会人ってことで、「半身に生きる」ということを頭の片隅に置きながらやってみます。

三宅さん
そうですね。あと、書店に行くことも忘れずにいてくれたらうれしいです。
りんたろうさんの進む道、応援しています…!

いっぱいいっぱいになって、心がつぶれてしまいそうなとき、自分を救ってくれるのは「もう“半身”の自分」ということなんですね。
自分にはそういう「半身の自分=緊急脱出装置」があると考えると、心強い気持ちになりました。
「思えば仕事しかしていない…」という方は、ぜひ自分なりの“半身”を見つけてみてください!

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