ビジネスパーソンインタビュー
働きやすい仕事環境の作り方
「モンブランを100個落として、社会不適合者かもと…」ADHD当事者・医師と探る“働きやすい環境”
新R25編集部
突然ですが、仕事でこんなことに困っていませんか?
・忘れ物やケアレスミスをよくする
・マルチタスクが苦手
・優先順位の通りに動けない
・締め切りに間に合わない
・興味のある仕事しか集中できない
…これらにつねに悩まされていて仕事や生活が困難なレベルになるなら、ADHD(※)と診断されるかもしれません。
ADHD…「Attention Deficit(注意欠如)」と「Hyperactivity Disorder(多動症)」の略称で、発達障害の一種
もしも自分がADHDと診断されたり、職場の人にADHDの人がいたりしたら、どうすればいいの…?
そんな疑問を解消するべく、新R25は沢井製薬株式会社の協賛のもと、「市民公開講座 今知っておきたい、ADHDとの上手な付き合い方」のイベントを開催。
司会進行の古坂大魔王さんと、発達障害の専門医・岡田俊先生、ADHDの当事者であるフリーライター・いしかわゆきさんのお三方で、「ADHDが生きやすくなる方法」をとことん考えました。
今回は本イベントのなかから、「ADHDの弱みを強みに変える仕事環境」について一部ピックアップしてご紹介。
後半では岡田先生から、まわりに理解してもらうための“とあるアクション”も教えてもらいました…!
モンブランを100個落としたりして「社会不適合者かも」と思った
古坂さん
さて、今回のテーマは「ADHD」。
当事者やまわりの人たちがADHDの症状とどう対峙するべきなのかを、わかりやすくお伝えしていきます。
【古坂大魔王(こさかだいまおう)】青森県出身、1973年生まれ。1992年お笑い芸人「 底ぬけAIR-LINE」 でデビュー。ピコ太郎プロデューサー。文部科学省・CCC大使、総務省・異能vation推進大使。現在は、バラエティ番組をはじめ、コメンテーターとして情報番組への出演、世界のトップランナーと音楽、エンターテインメント等についてトークセッションをおこなうなど、幅広い分野で活躍中。
古坂さん
さっそくですが岡田先生、ADHDというのはどういった状況で悩まされるものなのでしょうか?
岡田さん
一言でいうと、環境との不調和ですね。
【岡田俊(おかだ・たかし)】国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長、医師(精神科・児童精神科)、博士(医学)。京都大学医学部附属病院精神科・神経科、光愛病院での勤務を経て京都大学大学院医学研究科博士課程(精神医学)入学。その後、同病院精神科・神経科助教、デイケア診療部院内講師、京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)講師、名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師、准教授を経て現職。特別支援学校学校医、児童相談所協力医師、知的障害者施設医師なども務める
岡田さん
たとえば「計画的に行動できない」というような特徴を持っている人が“時間管理を徹底している組織”にいると、「なんで時間を守れないんだろう…」と悩んでしまうと思います。
いろいろなことに興味を持てたり、作業に人一倍集中して取り組めたりする強みがあったとしても、なかなか活かせない。
でも逆に“時間管理を徹底しなくてもいい組織”に身を置けば、その強みを発揮しやすいとも言えるんですね。
古坂さん
なるほど…置かれる環境によって浮き彫りになるんですね。
ADHDを公表されているいしかわさんも、環境の変化で悩みはじめたのでしょうか?
いしかわさん
やっぱり働きはじめてから悩みだしましたね。
学生のころにケーキ工場でバイトをしたことがあったんですけど、そこでモンブランを100個落としてしまったことがあって…
【いしかわゆき】ADHD、HSPを公表するフリーライター。2021年9月に上梓した『書く習慣〜自分と人生が変わるいちばん大切な文章力〜』(株式会社クロスメディア・パブリッシング)は2.2万部突破でAmazonベストセラー1位を獲得。2022年8月には『ポンコツなわたしで、生きていく。 〜ゆるふわ思考で、ほどよく働きほどよく暮らす〜』(技術評論社)が3刷を記録
いしかわさん
私、子どものころからそういうことをよくやらかすほうだったんです。
でもお母さんもまんま私みたいな人だったので、それまでは「私ってお母さんに似てドジだよな」くらいに思っていて。
古坂さん
漫画だったら愛らしいドジっ子キャラですもんね。
いしかわさん
はい(笑)。
でも仕事となると、私のミスでチーム全体に迷惑をかけてしまうし、怒られたりクビになったりする制裁も待っているわけじゃないですか。
だんだんドジっ子では片付けられなくなってきて、「自分は社会不適合者なんじゃないか」って思うようになりました。
働きやすい環境に変えるにはどうしたらいい?
古坂さん
今の環境で苦しんでいる人は、環境やコミュニティを変えてみるのも一つの手なのかもしれないということですが…
いしかわさんも、環境を変えてこられたんですか?
いしかわさん
じつは私、けっこう転職を繰り返してまして…
最初の会社を1年半で辞めて、次の会社も1年半で辞めて、次の会社は8カ月で辞めて…って感じで、自分の得意を伸ばせる環境がないかずっと模索してきたんです。
その結果、一番合っていたのがクリエイティブ職でした。
いしかわさん
私の場合、不眠と過眠の睡眠障害があって朝が苦手なんですけど…
その原因って、おそらく過集中と多動症なんですよ。
寝る前に本を読みだしたら絶対に読みきってから寝たいし、日中は考えまくったり動きまくったりしているから人よりも疲れて寝すぎちゃうんじゃないかなと。
古坂さん
それを解決できるのが、クリエイターという生き方だったと。
いしかわさん
はい。
お昼ごろにのっそりと出社されるクリエイターさんもいたから、その性質が浮き彫りにならなかったし、朝の“ゆっくり出社”が容認されている環境だったんですよ。
最終的に今はフリーランスに行きついて、自分の苦手なことは徹底的に排除するようになりました。
古坂さん
なるほど。たとえばどんな?
いしかわさん
「得意な仕事しか受けない」「午前中に仕事を入れない」「執筆モードのときには会議に参加しない」みたいな、仕事のマイルールを設けているんです。
そうすることで、それまで弱みだった過集中という特性を強みとして存分に活かせるようになって、短時間でいい原稿を仕上げる環境をつくれたんですよね。
古坂さん
弱点が強みに変わる環境を自らつくったんですね。
それってすごい理想的ですけど、ライターの腕があったからできている部分も大きいと思うんです。
岡田先生、いしかわさんのように個人で戦える武器がない人はどうすればいいんでしょう?
岡田さん
現状の環境のままでも、いろいろと工夫はできますよ。
「苦手なことはほかの人に協力してもらう」「TODOを考えられるメモの取り方をする」とか方法はいろいろあるので、そのなかから自分に合ったものを探っていけばいいと思うんです。
ただやっぱり、当事者だけでそれが最適かどうかを見極めていくのは難しいので…
まわりの人の理解や専門家の助言といった、伴走者の存在は必要だと思いますね。
まわりが「個性」を尊重すれば、ADHDは減っていく?→「個性という言葉を使わないでほしい」
古坂さん
岡田先生。
ここまでお話を聞いてきた感じだと、まわりがADHDをひとつの個性として認めあえる世の中になれば、きっとこの障害って減りますよね?
岡田さん
そうですね。
大人のADHDの割合は2.5%(40人に1人)と言われていますから、決して他人事ではないはずなんです。
今は「ニューロダイバーシティ(脳・神経の多様性尊重)」なんて言葉もありますけど、ADHDも多様性のなかの一角なので。
まわりの人が特性を理解して歩み寄れれば、徐々に減っていくと思います。
岡田さん
ただ難しいのが…
じつは、当事者側が「“個性”という言葉を使わないでほしい」って思うこともあるんですよ。
古坂さん
どういうことですか?
岡田さん
ADHDと診断されているということは、“障害”と言われるレベルの困難を抱えていることの証明にもなるので。
「個性ではなく“障害”であることをまわりに正しく理解してほしい」という声もあるんです。
当事者は長年そのことで悩んで生きてきたわけですから、その原因や対処法を切実に知りたいと思っているし、まわりにも知っておいてほしいと思っているんですね。
「そうか…これ難しい問題ですね」
古坂さん
いしかわさんも、そういう瞬間ってありますか?
いしかわさん
症状が軽く見られてしまって苦しいことは結構あります。
たとえば「遅刻しちゃうなら、1時間前に家を出れば?」みたいにアドバイスをくれる人もいるんですけど、何度やってもできないんですよ。
まわりから「ちょっと努力すればできそうなのに」って思われると自分までそう思っちゃうから、「何でちょっとの努力すらできないんだろう…」ってどんどん自己肯定感が下がっちゃうんです。
古坂さん
程度をわかってない人からのアドバイスは、むしろ苦しいと。
まわりにどう接してもらえたらうれしいですか?
いしかわさん
苦手なことをサポートしてくれる人には、思う存分甘えさせてもらいたいです。
実際今は、私の性質をわかったうえで「それでも好きだからサポートしたい」って言ってくれる人しか周りに残っていなくて。
そういう人たちのサポートがあるから、なんとか生きられてるなって思いますね。
古坂さん
岡田先生、まわりの人が「困ってそうだな」って気づいてサポートするためには、どうしたらいいんでしょう?
岡田さん
当事者からまわりの人に対して、「自分はどんな特性を持っていてまわりにどんなふうにしてほしいのか」ということを明文化した“トリセツ”を渡すのもいいと思いますね。
まわりの人はそれをもとに「苦手を補うようにサポートする」とか、あるいは「苦手な部分だけ他に外注する」みたいな手段を考えていくといいかなと。
古坂さん
なるほど。
それで言うと、いしかわさんはもうガッツリ“トリセツ”がありそうですね。
いしかわさん
はい。はじめからADHDってことを公表して活動してるのもそうで。
苦手なことは苦手って最初に伝えないと「これは当然できるよね?」って思われちゃうから、お互いに齟齬をきたしたまま仕事が進んでしまうんですよ。
いしかわさん
そうならないように、最初に「これは得意なんですけどこれは苦手なので、こういうふうに依頼してくれると助かります」って正直に伝えたり…
締め切りも設定しないと永遠にやらないので、「嘘の締め切りを教えてください」ってお願いして、3日早めに締め切りを設定してもらったりしてますね。
そうすることで、自分もまわりも幸せに働けています。
岡田さん
すばらしいと思います。
いしかわさんのように、まずは当事者が自分のことを知っておく。
それが次の解決につながっていくはずです。
ADHDの人が生きいきと働ける環境をつくるには、まわりの人の歩み寄りが必要不可欠。
その第一歩が、当事者による“トリセツ”づくり。勇気を出して自己開示することで、いしかわさんのように働きやすい居場所を見つけられるかもしれません。
本イベント「市民公開講座 今知っておきたい、ADHDとの上手な付き合い方」では、仕事だけでなく私生活や恋愛のお悩みなど、さらに深いところまで言及しています。
より深く知りたい方はこちらの動画からご覧ください!
主催・協賛
主催:株式会社CAM
協賛:沢井製薬株式会社
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