ビジネスパーソンインタビュー

現代人は電子レンジで1分も待てない。英ジャーナリストが警鐘を鳴らす「忙しさ依存症」の深刻さ

オリバー・バークマン著『限りある時間の使い方』より

現代人は電子レンジで1分も待てない。英ジャーナリストが警鐘を鳴らす「忙しさ依存症」の深刻さ

新R25編集部

2022/09/17

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「集中して読書ができない」「電子レンジで1分待つのを長く感じる」といった経験はありませんか?

イギリスの全国紙ガーディアンの記者として、外国人記者クラブ(FPA)の若手ジャーナリスト賞などを受賞した気鋭のライターであるオリバー・バークマンさんによると、これには「現代人が短気になっていることが関係している」そうです。

もともとの個人の性格に関係なく、現代人全般が短気になっているとはどういうことなのでしょうか?

今回は、同者の著書『限りある時間の使い方』より、現代人が陥りがちな状態について一部抜粋してお届け。

われわれはもう引き返すことができないのかもしれないです…。

この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・一つのことに集中できない人
・時間はあるのに物事に取り組めない人
・忙しさに依存しているビジネスパーソン

現代人は、読書ができない

ここ10年ほど、本を読もうとするたびに「没頭できない」「気が散って仕方ない」と強く感じる人が増えてきた

この感覚は、実は一種の焦燥感だ。

読書という時間がかかる行為に対して、「もっと早く終わればいいのに」という不満をどこかで感じているのだ。

オーディオブックサービス「LibriVox」の創設者ヒュー・マクガイアは、小説を読むのが生きがいだった。

ところが、最近は読書に集中できないと嘆く。

「ひとつの段落、文、単語に集中するのが、どんどん難しくなってきました。1章なんて長すぎる。ひとつの章には段落が何ページも続いているんですよ」

以前は本を片手にベッドに潜り込むのが大好きだったという彼は、いまや文章を読み通すことさえできなくなった。

「1行か2行、頑張って3行読んで、そうしたらもう何か別のことをやりたくなるんです。何でもいいから、気をまぎらわせたい。ちょっとだけスマホを見て、ウィリアム・ギブスンの笑えるツイートにリプライを書いては消して、何か有意義な記事はないかとニュースのリンクをたどって……」

本を読む時間なんかない、と人は言う。

けれど、小説家のティム・パークスも指摘するように、1日のうち30分の空き時間を見つけるのがそんなに難しいわけではない。

実際には、時間はあっても、読書に気持ちを集中できないだけだ

「単に邪魔が入るのではない。人は邪魔をみずから望んでいる」とパークスは言う。

忙しすぎるとか、注意散漫だというのは言い訳にすぎない

本当はただ、読書には時間がかかるという事実を受け入れたくないのだ。

時間をコントロールしたいという僕たちの傲慢さを、読書は許してくれない。

何かをきちんと読むためには、それに必要なだけの時間がかかる。

それは読書だけでなく、嫌になるほど多くのことに当てはまる事実だ。

現代人はどんどん短気になっている

人々の読書体験には、現実のスピードをどんどん速めたいという欲望がはっきりと現れている。

科学的に証明するのは難しいかもしれないけれど、僕たちが昔よりもずっと短気になっていることは確かだと思う

待つことに対する耐性の低下は、あらゆるところに現れている。

渋滞のクラクション、政治家のキャッチコピー、ウェブページの読み込みをユーザーが待てる時間(計算によると、アマゾンのトップページの読み込みが1秒遅れるだけで、年間16億ドルの売上が失われる)。

蒸気機関からブロードバンドに至るまで、ありとあらゆる新技術が高速化をどんどん推し進めてきた。

本当なら、僕たちの時間には余裕が生まれ、焦らずにゆっくり生活できるはずではないのか。

ところが人々は、もっともっと速く動くことに夢中で、これまでに節約できた時間をありがたく思う暇もないみたいだ。

なぜそうなってしまうのか。

この謎を解く鍵は、限界に抵抗しようという人間の傾向にある。

現代人がどんどん短気になっているのは、技術が進歩するたびに、人間の限界を超える地点に近づいている気がするからだ。

今度こそ、新技術のスピードで、時間を完全に思いのままにできるのではないか、と。

その期待が裏切られると、結果的にそれまでよりも不快感が増すことになる

たとえば電子レンジで1分で夕食を温められるようになると、今度はその1分が長く感じられ、1秒で温まるべきではないかと思うようになる。

仮にあなたがうまく焦りをコントロールして、心の平穏を保つことに成功したとしても、世の中のみんなはそれほど呑気に待ってくれない。

1時間以内に40通のメールに返信することが世の中のスタンダードになったなら、好むと好まざるとにかかわらず、そのペースに合わせなければ仕事を失うことになる。

忙しさ依存≒アルコール依存症

1990年代後半、カリフォルニアの心理療法家ステファニー・ブラウンは、治療を求めるクライアントのあいだに奇妙なパターンが見られることに気がついた。

高収入で役職も高い有能な人たちが相談に来るのだが、あまりに忙しい生活に慣れきっているため、50分間のセラピーのあいだじっと座っていられない。

つねに動いていないと、ほとんど肉体的な苦痛を感じるようなのだ。

他の何かを感じないために、まるで薬を飲むように、忙しさで脳を満たしているのだ

「少しでもペースを落としたら、不安が湧き上がってきます。とにかく何かをして、不安を取り除かなければと感じるんです」とあるクライアントは語った。

このシリコンバレーの優秀なビジネスマンたちの訴えは、アルコール依存症だった頃の自分そのものだった

アルコール依存症者の自助グループであるアルコホーリクス・アノニマス(AA)によると、アルコール依存の原因は、コントロールできない感情をコントロールしようとすることにある。

現代人の忙しさ依存を、アルコール依存と並べて語るのは大げさだと思うかもしれない。

でも彼女が言いたいのは、忙しさがアルコールと同じような害悪だということではない。

そうではなく、基本的なメカニズムが共通しているということだ。

世界はどんどん加速し、僕たちは超人的なスピードで動くことを期待されている。

その速度に追いつけなければ、幸せもお金もけっして手に入らない気がする。

自分が置いていかれないかと怖くなり、安心感が欲しくてもっと速く動こうとする。

ところが不安は消えず、依存のスパイラルが加速していくだけだ。

忙しさ依存症の僕たちも、まずは地上に墜落する必要がある、とブラウンは言う。

あきらめて、現実を受け入れるのだ

そうすることで、困難で時間のかかる仕事に取りかかることは、もはやストレスの引き金ではなく、すがすがしい選択になる。

難解な長編小説を読むことは、苦行ではなく、楽しい時間に変わる。

「耐えること、じっと持ちこたえて、次の一歩を踏みだすこと。そうしたことに価値を見いだしましょう」とブラウンは言う。

「手っ取り早い解決策はありません。不快や痛みからすぐに解放されようとしないでください。魔法の解決策は存在しないという現実を、まずは認めるのです」

幻想を捨ててほっと息をつき、ありのままの現実を醒めた目で見つめよう。

そのときあなたは、ちょっと古くさいけれど何よりも重要な能力を獲得しはじめるだろう。

「忍耐」という力だ

全米ベストセラーから学ぶ“時間の使い方”

「現代の、いわゆるタイムマネジメントというやつは、あまりにも偏狭すぎて役に立たない」と話すオリバー・バークマンさん。

同書は、世間に広がっているタイムマネジメント術に一石を投じる内容です。

全米ベストセラーとなっている同書より、時間の使い方について学んでみてはいかがでしょうか。

〈撮影=ⒸJeff Mikkelson〉

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