ビジネスパーソンインタビュー
森山大朗著『Work in Tech!(ワーク・イン・テック!) ユニコーン企業への招待』より
「良し悪し」ではなく「好き嫌い」。ユニコーン企業を支える3つの文化
新R25編集部
伝説の幻獣「ユニコーン」のように希少で、成長性の高いスタートアップベンチャー「ユニコーン企業」。
「転職するなら急成長企業一択」
そう言いきるのは、ビズリーチ→メルカリ→スマートニュースといった国内屈指のユニコーン企業を渡り歩き、現在は最先端のテック領域で活躍する「たいろー」こと森山大朗さんです。
たいろーさんの新著『Work in Tech!(ワーク・イン・テック!) ユニコーン企業への招待』から、「急成長企業の特長」や「見極め方」について一部抜粋してご紹介します。
急成長企業の特長① 「ルール」ではなく「カルチャー」で駆動する
最初に、「ルール」と「カルチャー」の違いを説明させてください。
ルールとは法律や規則であり「良し悪し」の問題です。
一方で、カルチャーは「正しいか正しくないか」の問題ではなく、文化や価値観、すなわち「好き嫌い」の問題です。
会社や組織には必ずルールや規則がありますが、組織としての「カルチャー=好き嫌い」を言葉として明確に表明している企業はそう多くはありません。
そして、僕が観察する範囲においては、この「ルールよりもカルチャーで駆動する」という点こそが、ユニコーン企業の共通点だったのです。
2016年に入社したメルカリは従業員が数百人と、すでにそれなりの規模でしたが、「ルールは最小限にとどめる」という企業カルチャーが根づいていました。
日々の細かい承認事項は原則として本人の判断かマネージャーに委ねられており、いちいちお伺いを立てずとも機動的にチームが動けるよう、大胆な権限移譲が行われていました。
また、「Go Bold(大胆にやろう)」という独特なバリュー(行動基準)があり、これも同社のカルチャーに強い影響を及ぼしていました。
限られた経営資源で成果を出すために「あえてルール化していない」のか、それとも「ルール化すべきなのに、できていない」のか、その線引きは難しいところです。
しかし、安易にルールづくりをしてしまうとルールを守ること自体が目的化してしまい、メンバーたちがルール以上のことを考えなくなるリスクがあるのは間違いありません。
また、ルールで組織を駆動すると、「ルールをつくり、守らせること」を仕事にする人たちが組織内に増えていきます。
その結果、ルール自体が自己増殖を始めてしまうという傾向や構造があることも理解しておくべきです。
そして当然ですが、ルールではなくカルチャーで組織を駆動するためには、企業カルチャーを明確化し、それにフィットした仲間を集めることが前提条件になります。
急成長企業の特長② 「OKR」と「心理的安全性」で挑戦を促す
目標設定や人事評価にも、カルチャーショックを受けました。
事業の急成長とともに求められる仕事のレベルも上がっていきますが、社員のパフォーマンスを最大化するために、人事制度にも最先端の工夫が凝らされています。
世界的企業を輩出するシリコンバレーでは、多くのテック企業が「OKR(Objectives and Key Results)」というフレームワークを使って目標と日々の活動をマネジメントしています。
それは僕が勤めた国内ユニコーン企業においても同様です。
OKRとは、現場で見てきた僕の目線で意訳させてもらうと、「Objectives=ワクワクできる状態目標の定義」と、「Key Results=計測可能な成果指標」という要素で成り立っています。
OKRを運用するポイントは、従業員の“目線”を上げさせて、「野心的だけれども実現すれば心からワクワクできる」という目標設定を促すことにあります。
今のやり方で売り上げ10%増を目指すのではなく、売り上げを3倍、5倍、10倍にするために、別のアプローチを考えるきっかけをつくるのです。
そのうえで「KR(成果指標)」を明確化します。
「O(目標)」を実現するためには、どの水準まで指標を達成できればいいのかを定義するのです。
そして、「経営者のKR」は「各部門のO」になり、「各部門のKR」は「部門内の各チームのO」になるという形でどんどんつながっていき、組織全体でピラミッド構造になるのが特徴です。
Work in Tech!(ワーク・イン・テック!) ユニコーン企業への招待
OKRで駆動する組織では、当然ながら目標達成の難易度は上がります。
しかし、大事なのは「結果よりプロセスを重視する評価制度」と「失敗を称賛するカルチャー」です。
OKRを使って組織をマネジメントする以上は、フルスイングで挑戦を促したなら成功と同等、あるいはそれ以上に失敗が称賛されるべきだからです。
紛らわしいのですが、OKRと従来の目標管理手法とでは、似ているようでいて思想が真逆なのです。
それを理解するカギとなるのが、「心理的安全性」という概念です。
「心理的安全性(Psychological Safety)」とは、自分の考えや感じていることを、組織内で安心して発言できる状態かどうかの指標です。
もともとは心理学用語でしたが、Googleが自社の組織パフォーマンスを分析するなかで「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」という研究結果を発表したことで、注目を集めました。
社員の主体的な挑戦と成長を促すうえで、心理的安全性を担保することが大前提になります。
例えば、システム運用の仕事で障害を起こしそうな問題を見つけたとしても、それを報告すると責任を追及されたり評価が下がるなら、誰も指摘しなくなりますよね。
こういった、心理的安全性の低い組織カルチャーとOKRは基本的に共存できず、無理に導入しても機能不全を起こしてしまいます。
したがって、急成長企業では心理的安全性をカルチャーとして担保したうえで、OKRで程よく頭のリミッターを外しつつ、思いっきりフルスイングできる環境を整えています。
急成長企業の特長③ すべての部門が「プロダクト志向」で動く
メルカリ在籍当時に驚いたのは、開発部門だけでなく、あらゆる部門がテクノロジーを活用しようと「プロダクト志向」で仕事をしていたことでした。
当時、コーポレート部門は経営上の課題である社内コミュニケーションやリファーラル採用(社員からの紹介で採用していく手法)に対し、「どうしたら活性化できるか」と、頭を悩ませていました。
そのための手段として、社員にランチや会食での交流を推奨していたものの、経費精算や承認の手間が心理的障壁になり、思うように利用が増えていなかったのです。
そこでコーポレート部門のメンバーは一計を案じました。
それはルールをつくって社員に課すようなやり方ではなく、「面倒くささを極限まで減らす」という、きわめてクリエイティブな方法で、この問題の解決に挑んだのです。
まず、社員の経費精算の手間を省くため、会社として請求書払いができる仕組みを整えていきました。
これによって社員たちは、一時的に自己負担をする必要も面倒な経費精算をする必要もなくなり、心理的負担が一気に減りました。
その結果、「採用したい」と思う候補者や、新しく入社したメンバー同士の交流が盛んに行われるようになったのです。
しかし、これではコーポレート部門が行う集計業務の負担を増やしてしまいます。
そこで今度は、各飲食店にお願いして回り、なんとスマホアプリを使ったバーコード決済ができる仕組みを導入していったのです。
社員は簡単な決済用アプリを自分のスマホにダウンロードして情報を入力しておくだけで、あとはお店のスマホやタブレットでQRコードを読み取ってもらえば経費精算が完了するプロセスに変わりました。
コーポレート部門も、集計作業をせずに経費がどこでどう使われたのかを自動で集計できるようになり、一時的に増えた業務が解消されました。
まさに、社員も近隣のお店もコーポレート部門もラクになる「三方良しの施策」で、大きな成果を出したのです。
このアプローチは、不便を解消することでユーザー行動の改善を促していくという「プロダクト志向」と完全に一致します。
しかも、当時の日本はまだキャッシュレス競争が始まっておらず、バーコード決済も広まっていない時期です。
そういう環境下で、開発系ではない部門の人までテクノロジーを活用して生産性を上げようと働いていたのですから頭が下がります。
今では、会社のあらゆる業務をテクノロジーで効率化する「コーポレートテック」が進んでおり、この領域でSaaSを提供する企業も成長しています。
しかし、次から次に新しいツールを導入しても、企業カルチャーが変わらなければその欠点を指摘するだけに終わり、現場の業務改善は進みません。
その意味でも、テクノロジーへの一定の理解を持ち、積極的に共存しようとするカルチャーが、あらゆる部門に求められる時代になっているのではないでしょうか。
たいろーさんの転職を追体験できる本『Work in Tech!』
「転職」や「キャリア」には明確な正解がなく、トレンドや社会情勢も常に変わっていきます。
そんななかでひとつの判断軸となるのは、「実際に転職した“実践者”によるリアルな情報」ではないでしょうか。
Work in Tech!(ワーク・イン・テック!) ユニコーン企業への招待メルカリとスマートニュースでの怒濤の日々は、まさに「異世界」でした。
時代に先んじて新たな働き方のルールに触れ、それを実践するなかで、僕の価値観はいい意味で破壊されていきました。
企業と個人、双方の成長を加速させるカルチャーと、そのメカニズムに触れたことで、僕は、かつて想像もしなかった自分に出会えたのです。
たいろーさんの価値観をいい意味で破壊した「日本を代表する急成長企業への転職のリアル」を、ぜひ同書で追体験してください!
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