ビジネスパーソンインタビュー
期待を超えるのは、“1点分”でいい。
「『オレの番』が回ってきたのは…アノ時です(笑)」俳優・袴田吉彦が逃さなかった“どん底の転機”
新R25編集部
2019年、予想を裏切る展開の連続でSNSの話題を席巻したドラマ『あなたの番です』。(企画原案を秋元康氏、脚本は福原充則氏、監督は佐久間紀佳氏が担当)
12月10日、「もしドラマの1話で違う展開になったら」というifの世界を描いた映画、『あなたの番です 劇場版』が公開されます。
今回新R25は、『あなたの番です』とコラボ企画「ここからが、“オレの番”です」を実施。ご自身のキャリアを振り返っていただき「オレの番が来た!」と思えるようなタイミングについてお話を伺います。
1本目にご登場いただいたのは、作中で「俳優・袴田吉彦役」&「俳優・袴田吉彦に似ていることでイジられ袴田吉彦を殺したいと思っている一般人・久住譲役」の2役を演じた袴田吉彦さん。
人生で明確に「“オレの番”が回ってきた瞬間がある」と言う袴田さん、まさかの“アノお話”でした…
〈聞き手=サノトモキ〉
【袴田吉彦(はかまだ・よしひこ)】1991年、第4回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞し、翌年映画『二十才の微熱』で主役に抜擢されデビュー。映画・ドラマなど役者として活躍しつつ、CMや映画『ダイナソー』(00)『猫の恩返し』(02)などでは声優としても才能を発揮。近年はバラエティ番組でも活躍
オレの番が回ってきたのは…「やっぱり、“アノ事件”ですね」
サノ
今日は、『あなたの番です 劇場版』とのコラボ企画として、袴田さんの「オレの番が来た」と感じた人生のターニングポイントについてお聞きしたいんです。
これまでのキャリアで「ここで流れが変わったな」と思ったのは、どのタイミングでしたか?
袴田さん
「流れが変わったタイミング」…
うーん、正直にお答えするなら、やっぱりあの“スキャンダル”ですね…
えっ
サノ
ス、スキャンダルって…あ、あの、「アパ不倫」の…!?
今日ってその話、普通にしてくれちゃうんですか!?
※2017年、週刊誌が当時妻帯者だった袴田さんの不倫を報道。約10回ホテルに行ったうちの7回はアパホテルで、袴田さんがアパホテルのメンバーズカードでポイントを貯めていたこともわかり、「アパ不倫」としてワイドショーなどで話題になりました。
袴田さん
袴田吉彦が「オレの番がきた」ってテーマにお応えするなら、そこに触れずにお話するのは嘘になっちゃいますからね…
12年、13年ほど停滞期から抜け出せずにいた僕にとって、転換期は明確にあの瞬間だったので。
すごく誠実に取材に応えてくださる覚悟…それでは今日は、存分に深堀させていただきます
絶頂期で逃した「オレの番」。トッププレイヤーと走り切れなかった20代
サノ
12、13年停滞期から抜けられずにいたというと、具体的にどのような状況だったのでしょうか?
袴田さん
20代のころの僕って、言わばずっと「オレの番」みたいな状態だったんですよ。
25歳くらいまでは、「この役をやりたい」って言えばその役が回ってくるぐらい。
ほう…!?
袴田さん
まわりから見れば、まさに絶頂期だったと思います。
ただ一方で、絶頂期の最中にいる僕はどんどん“絶望期”に突入していったんですよ。
サノ
どういうことですか?
袴田さん
キャパオーバーになったんです。
忙しすぎて、心の限界が身体にわかるかたちで現れはじめちゃって。
袴田さん
本当のトップにいる人たちの共通点って、“バケモノ級の体力と精神力”なんですよ。
異常な仕事量がドバッと入ってきても、それを全部こなしつづけられちゃう「キャパが異次元な人」。そんな人たちがトップに行くんです。
でも僕は、そういう人間になれなかった。
サノ
…ちなみに、異次元のキャパでトップに駆け上がった同年代ってどなただったんですか?
袴田さん
反町隆史。
彼のような同世代がバンバン上にいくのを横目で見て…「悔しいな」と思いつつ諦めてる自分もいるんですよね。自分には同じようにできないって。
それで、「やりたい」と思える仕事だけ選ぶようになった。それが停滞期の始まりでした。
サノ
絶頂期からの停滞期。具体的にどんな変化が?
袴田さん
仕事自体はつねにあったんですよ。別に生活に困ることもなかった。
でも、「“この役やりたい”が叶わないポジション」にどんどん下がっていったんです。
それこそ、「オレの番」が回ってこない感覚。それがめちゃくちゃ苦しかった。
サノ
「食ってはいけるけど、ずるずると下がっていく感覚」みたいな…
絶頂期を経験してるだけに、葛藤しそうですね…
袴田さん
そこから、12、13年は続きましたね。
「辞めよう」とまでは思わないものの、向上心みたいなものは間違いなく消えていました。
停滞期を一転させた“スキャンダル”ネタ。はじめは「断りまくっていた」
サノ
その12、13年の停滞期に区切りをつけたのが…
袴田さん
スキャンダル。
当時はもう、仕事も家庭もうまくいってなかったですし、お酒に逃げることもすごいあった。
そんななかで、僕が犯してしまった過ちが明るみになって。これまでのキャリアがリセットされたような状態になりました。
袴田さん
もちろん自分が招いた状況なので、全部僕の責任なんですけど。
もともとうまくいってない状況だっただけに、何の当てもなくなってしまった…
でも、そこで助けてくださったのが、ダウンタウンさん。
年末の、『笑ってはいけない』で。
袴田さんは2017年、『ガキ使』の年末特番「笑ってはいけないシリーズ」で初めて“アパ不倫”をネタにバラエティに出演しました
サノ
取り調べコントで、「お前はいったい何をしたかわかってるのか?」「アパ不倫です」「深酒して眠くなると女の子になんと言う?」「“アパ予約して”…」と言っていた、例のあれですね…
「これ、笑っていいのか?」と思いつつ、振り切りすぎてて笑ってしまいました。
袴田さん
あんなに反響があるとはまったく思ってなかったですが…そこからすべてが変わりました。
ガンガンバラエティに呼んでいただくようになって、「袴田はいじっていいんだ!!」みたいな。
「いや、ダメなんですけど…」みたいなやりとりをしながら(笑)。
サノ
そこですべてが好転したと。
でも、けっこう大きな賭けというか、「本当にやっちゃって大丈夫かな」という不安はなかったんでしょうか?
袴田さん
むしろそれしかないですよ。あの出演も、最初はメチャメチャ断ってましたから。
もう離婚したとはいえ、元嫁や向こうのご両親…子どももいるわけですし。
サノ
そうですよね…
袴田さん
でも、番組側の熱意も、とにかくすごかった。
1か月半〜2か月くらい毎日のようにアプローチが来るし、最終的には全員が会議室に集まって「お願いします」と言われて。
サノ
そこまで…! 番組側も本気だったんだ。
袴田さん
その場に、僕が若手時代のときから知り合いの番組のディレクターが出てきて。
散々お世話になってたこともあって…家族にもOKをもらって、「じゃあ、やってみようか」って。
サノ
そこからはまさに「オレの番」が回ってきたという感じですか?
袴田さん
もはや“第二の俳優人生”みたいになってますね。やり直しのチャンスをくれたんだなと思ってます。
なので僕は今、1回目の「オレの番」をモノにできなかった20代のころと、真逆のことをやってるんです。
ここから、袴田さんの「分析と対策」が始まります
20代の反省を胸に。選んだのは「200点じゃなく、101点を目指す戦い方」
サノ
「20代と真逆のこと」というと…具体的にどういうことをしたんでしょうか?
袴田さん
声をかけていただいた仕事は、全部やる。
「やりたい仕事」だけを選んでしまった停滞期の失敗を経て、これまでだったら「NG」を出すような仕事も全力で打ち返すようになりました。
サノ
どんな仕事でも…
たしかに『あなたの番です』の配役も、「俳優・袴田吉彦役」&「俳優・袴田吉彦に似ていることでイジられ袴田吉彦を殺したいと思っている一般人・久住譲役」の2役を演じるという…
改めて考えるとすごいお仕事ですよね。
袴田さん
そうなんですよ。「袴田吉彦に似ていると言われて...」みたいなセリフが何回もあって、まわりもみんな台本を見て爆笑してるという。
普通に「ポイントカードが…」みたいなセリフもありますからね…
いやもう、福原さん(脚本家)とか秋元さんとか「よくやるな〜〜」と思って(笑)。
袴田さん
でも蓋を開けてみれば、すごい反響があった。
本当にありがたかったです。この作品に挑戦したことで、またお仕事たくさんいただけているので。
サノ
でもそれも、どんな仕事でも引き受けるというスタンスに切り替えたことで得られた結果だと。
袴田さん
まあ『あな番』の場合は、仕事を引き受けたあとで知らされたことも多かったですけどね…
衣装合わせにいったら、「ちなみに本作、袴田吉彦が死にます」って言われたり。
「袴田吉彦が死ぬドラマ」って何!?
そりゃそうなるわ
袴田さん
ただ、「オレの番」が2度回ってきて、ひとつわかったことがあるんです。
それは、「チャンスが来るのを待つ人間」の勝ち筋。
サノ
「チャンスを待つ人間」?
袴田さん
「チャンスを自分から掴みとりに行く人間」なのか、「チャンスが回ってくるのを待ってる人間」なのか。
これでいったら、正直僕は後者なんです。自分からはあんまり動き出せない。
サノ
待ってるだけ…それで「オレの番」は回ってくるんですか?
袴田さん
いやおっしゃる通り、待っているだけじゃダメ。
僕みたいな待つタイプは、チャンスが回ってきたとき絶対に逃さないよう「どんな仕事でも絶対に成果を出せる」人間になっておかなくちゃいけない。
では、どんな仕事でも安定して成果を出すコツとは何か…それは「200点狙いをやめること」です。
サノ
200点狙いをやめる?
毎回特大ホームランを狙って、一発逆転を狙うに越したことはないのでは…?
袴田さん
トップ層の人たちのように、異次元の精神力や体力がある人はそのモチベーションを維持できるかもしれません。
でもほとんどの人は、あまり上を目指しすぎるとどこかで折れてしまうと思うんです。
サノ
ああ…
袴田さん
僕もそうだった。トップ層の人みたいに頑張れたらかっこいいけど、身の丈に合わない背伸びを続ければいつか身体も心も肉離れしてしまう。
袴田さん
だから僕は、「200点じゃなく、101点を狙う」。
与えられた仕事は、必ず期待以上にして返す。でもそれは、「1点」分でいいんです。
自分はトップ層の人たちとは違うと受け入れて、自分が続けられるサイズで頑張ればいい。
サノ
なるほど…!
袴田さん
僕にとっては、「一歩でも前へ進む」ことこそが、じつはもっとも速く、遠くへいける速度だったんです。
なので今自分から動けないでくすぶってる人も、そうやって努力を繰り返していれば…
いつか回ってくるかもしれませんね、「オレの番」。
シビれる…!今日は素敵なお話ありがとうございました!
若手時代に絶頂期を経験した袴田さんだからこその「チャンス」をモノにする方法。
どんな人にも、自分に合った「オレの番」のつかみ方がある。苦しいときに前を向けるような、やさしくも心強い素敵な言葉の数々でした。
明日は後編、『あな番』で袴田さんと並びコミカルな藤井淳史役を演じた片桐仁さんのインタビューを公開。お話いただけるのは、「“オレの番”がこない20代へ」…! 乞うご期待!
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=福田啄也(@fkd1111)/執筆アシスタント=山田三奈(@l_okbj)/撮影=オカダマコト(@m_okada7)〉
袴田吉彦さんが出演する『あなたの番です 劇場版』が12月10日公開予定!
企画・原案を秋元康氏が、訳本を福原充則氏、監督を佐久間紀佳氏が担当し、予想を裏切る展開の連続でSNSの話題を席巻したドラマ『あなたの番です』。
12月10日、「もしドラマの1話で違う展開になったら」というifの世界を描いた映画、『あなたの番です 劇場版』が公開されます。
袴田さんも、ドラマ版と同じく「袴田吉彦役」と「袴田吉彦に似ていると言われるエレベーター作業員・久住譲」を熱演。手に汗握るドキドキハラハラの展開のなか、ほっと一息つけるコメディ要素も見せてくれる袴田さんの演技にもぜひご注目。
ドラマ版につづき予想を裏切る展開の繰り返し、ifの世界がどのような結末を迎えるのか、ぜひ劇場でご確認ください…!
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