ビジネスパーソンインタビュー
ブルネロ・クチネリ著『人間主義的経営』より
アマゾン・ツイッター社のCEOも注目。世界的ブランドの“人間の尊厳を守る”経営哲学とは
新R25編集部
ものづくりを仕事にする人は、「ブランドの価値を高めるためにはどうするべきか?」と悩むことがありますよね…。
イタリアで高級カシミヤ製品のメーカーを営むブルネロ・クチネリ氏は、「ブランドは宣伝するものではなく大切に保護すべきもの」だと言います。
中世の古城で地域と共に繁栄させてきたラグジュアリーブランド「ブルネロ・クチネリ」は、一体どのようなビジョンをかかげて成長してきたのでしょうか?
ブルネロ・クチネリ著(翻訳・岩崎 春夫)『人間主義的経営』より、ジェフ・べゾス氏など名だたる経営者が“未来の経営モデル”として注目する経営哲学や、ブランドの価値を高める意思の持ち方について抜粋してお届けします。
世界のトップ経営者たちが注目する「ブルネロ・クチネリ」の経営哲学
2019年5月、イタリア中部ウンブリア州のソロメオ村に本社を置く高級カシミヤ製品メーカーの創業者、ブルネロ・クチネリ氏を囲む3日間の対話集会。
集まったのは、アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス氏を始め、ツイッター、セールスフォース、リンクトイン、ドロップボックスなど、アメリカのシリコンバレーからやって来た、名だたるIT企業の創業者やCEOなど16名でした。
これら天才IT企業家たちは、いったい何を目的に、はるばるアメリカから、人口わずか500名に満たないイタリアの小さな村に集まったのでしょうか。
人間主義的経営
ブルネロ・クチネリ社は、鮮やかな色合いを特徴とするカシミヤセーターのメーカーとして1978年に誕生しました。
現在は、紳士服、婦人服、子供服から雑貨・アクセサリーまでを総合的に展開する世界最高級のアパレル企業に成長。
メイド・イン・イタリーにこだわって生産される製品は全世界の137店舗で販売されています。
2012年にミラノ証券取引所に上場し、2019年の売上は6億800万ユーロ(日本円換算770億円)と見事な業績を上げ続けており、財務内容も盤石です。
しかも、この会社は創業当初から「人間の尊厳を守ること」を経営の目標に掲げ、ブルーカラーとホワイトカラーの区別なく世間水準を上回る給与を支給。
会社の収益は、若者に技術を身に付けさせるための有給で無償の職人学校の運営や、劇場、図書館、公園、農園など、村の文化や自然環境の整備に投資しているのです。
消費者の嗜好やライフスタイルが変化し、世界中のアパレル企業が大幅な減収や事業撤退を迫られているなかで、とびきり高級な洋服を人件費の高いイタリア国内で生産するクチネリ社が、なぜこのような素晴らしい業績を上げることができるのでしょうか。
「人生の夢」と思える構想に集中するために、事業を始めた
25歳の時に、現代的な色彩を特徴とする女性用のカシミヤセーターを作ろうと決めました。
高度な手仕事と職人技に支えられたイタリアらしい服、最高級の市場セグメントに的を絞り、高価ではあるが価格以上の価値を持つ製品を作る。
そんな考えが明確になっていきました。
何か特別なことを成し遂げるために、自分の人生の夢と思える構想にだけ集中したいと私はずっと考えていたのです。
正直に言うと、事業を始めた時のエネルギーは無知と本能だけでした。
初めは手探りでしたが、必死にやっていく内にある時点から状況が好転し始めました。
人間主義的経営
当時まだ資金力の乏しかった私には、支払いの確かな顧客を獲得することがとても重要でした。
初期の顧客のひとりであるミラノ在住のヴィンチェンツォも、非常に大切な人物です。
彼の大量の発注書には「このお金をぜひあなたの仕事に役立ててください」という一文が添えられており、その金額の大きさに私は思わず息が詰まりました。
まだ事業を始めて間もなく売上がとても小さい時だったので、私の驚きは容易にご想像頂けることでしょう。
お金も資産もない自分のどこに価値を認めてくれたのかと、儲けのことを忘れて反射的に尋ねると、
人間主義的経営「5人の兄弟、私も入れると6人の兄弟、そして父と母の全員が、君のビジネスマンとしての倫理と才能に高い信頼を置いている。
それだけで十分な理由でしょう。
お金のことは気にせず、いつまでも今のように穏やかに働いて欲しい。
我々の希望はそれだけです」
優しい笑顔をたたえて彼はそう言いました。
このような出会いと経験が、企業家として、人として、自分をもっと磨き、自分自身を超えていかなければという強い思いとなっていきました。
衰退していく小さな古い村に「中世の古城」を購入
創業当初の成功はささやかなものでしたが、私にとっては特別なものでした。
私はペルージャ郊外にあった小さな工場の移転を計画し、候補先としてソロメオ村が頭に浮かびました。
この小さな古い村が衰退していく様子に私はずっと心を痛めていて、ある日、本能的にこの村の中世の古城を購入することを思いつきました。
人間主義的経営
町の中心の、歴史を身にまとったこの魅惑的な建物は、様々なインスピレーションを生み出す永遠の存在であり、自分の小さな会社の本社を置くのに最適の場所だと考えたのです。
その頃は経済的にも社会的にも少しでも豊かになるために、多くの人々が都会に移り住み田舎から離れようとしていました。
しかし、私に起きたことはその反対でした。
この村に愛着を持つことで会社は成長し、会社の成長によって村の再生に取り組むことができるようになったのです。
古城の購入は、経済とソロメオの復興プロジェクトの事実上の出発点でした。
ソロメオ村を修復するための構想「人間のための資本主義」
ソロメオ村の修復という野心的な計画に取り組もうとしていた私は、プロジェクトを支援してくれる人間味豊かな専門家を必要としていました。
いろいろ調べている内に、ある本でマッシモ・デ・ビーコファッラーニという庭園専門の建築家のことを知りました。
私たちは、人類が長い時間をかけて築いてきた倫理の基準に沿う経済のあり方を考え、私たちが「人間のための資本主義」と名付けた概念について議論しました。
人間や自然を傷つけ攻撃せずに利益を生む資本主義、人間の原点と歴史に根差した資本主義。
人間主義的経営
「人間のための資本主義」という構想の一部は、村人の生活を改善するための施策として具体化していきました。
そのために、熟慮を重ね、恐れず行動する必要がありました。
指針となった考えは常に「人間の利益」であり、すべての生産のプロセスを人間中心に組み立てる、という方法でした。
人間をないがしろにして品質を保てないのは明らかであり、この方法こそが、利益を生み、人間の尊厳を回復する経済のあり方だと考えたからです。
一貫した夢を全員で描く。だから価値あるブランドになれた
私たちの会社の名前は次第に世間に知られるようになり、仕事は広がり、会社は成長していました。
成功の理由のひとつはメイド・イン・イタリーのカシミヤ製品が革新的で現代的であったこと、もうひとつは人間の尊厳、哲学的ビジョン、人類に向けたプロジェクトというメッセージが人々に伝わったことでした。
伝統の価値を守り未来につなげることは、もはや私たち全員の意思となっていました。
人間主義的経営
小さな村の修復作業が一旦完了し、私たちは中世の城で和やかな雰囲気に包まれて快適に働き、村民の生活の質は向上しました。
品質、職人技、創造性、独自性、美の探求は、私たちのブランド「ブルネロ・クチネリ」が目指している価値であり、それは静かに耳を傾けることへの願いと一体のものです。
古代と現代、事業と人間の求めるものをひとつの物語に織り上げていく。
それが私たちの一貫した夢なのです。
私たちにとってブランドは宣伝するものではなく大切に保護すべきものです。
ラグジュアリーの本質は希少性と期待感にあるからです。
私たちの商品が世界中でかくも大きな共感を集めるとは想像していませんでしたが、その共感からもたらされた価値を私たちの土地に還元していくことは正しいことなのだと思います。
自然と人間と夢への志を尊重する“正しい労働”のあり方
「若い情熱と無意識の行動が人生にいかに有益であるかを私は今では理解しています」
「多少のためらいとともに、この本を若い人たちに捧げたいと思います」
自然と人間と夢への志を尊重する“正しい労働”という概念を、未来につなげたいと考えるブルネロ・クチネリ氏。
サステナブルな経営のあり方のほか、時代を越えて愛される“価値あるブランドづくり”に必要な考え方を、著書の『人間主義的経営』から学ぶことができます。
起業を考えている方や、ものづくりに携わるビジネスパーソンは、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
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