ビジネスパーソンインタビュー
井上一鷹著『深い集中を取り戻せ』より
集中の専門家が答える“デスク環境の正解”。在宅勤務にオススメのイスとデスクとは
新R25編集部
「映画を早回しで観る」「長時間、活字を読めない」...
集中力の散漫からくるこんな行動に、思い当たる方もいるのではないでしょうか?
スマホの普及によって「現代人は1つのことに集中する力が落ちている」と言われて久しいですが、2015年には「人の集中力が金魚に負けた」という研究結果が出ていたのだそうです...!
著書『深い集中を取り戻せ』のなかでそれを教えてくれたのは、「メガネのJINS」の執行役員/株式会社Think Lab取締役の井上一鷹さん。
集中力を可視化できるメガネ「JINS MEME(ジンズ ミーム)」の開発・研究を推進してきた“集中のプロ”が教える「深い集中を取り戻す方法」とは、一体どのようなものなのでしょうか?同書より一部抜粋してご紹介します。
集中できるイスとデスクに投資せよ
在宅勤務で解決しないといけない課題が、「環境づくり」です。
ここで注目するのは、「オフィスよりもよくない点をなんとかしたい」という観点です。
どんな仕事であっても、アイデアを出したりする思考と、実際に動かしたり説明したりする論理的な思考の両方が必要であることがほとんどです。
論理的な作業をするためには、「理性の脳」を活性化させたいので、「視野が狭い」「他のものが目に入らない」という状態にし、没頭状態に入りやすくすることが有効です。
逆に、アイデアを出すために「直感の脳」を活性化するには、副交感神経が優位になりやすいように、「視野が広い」「明るくする」状態にします。
もちろん、家の中にこんな充実した席を2つ以上用意することは難しいでしょう。
ただ、リラックスできるソファなどはすでにある家庭が多いと思うので、用意すべきは前者の席です。
そうすると、「理性の脳」を働かせるためには、「長時間、座っていられるイスと机」「周辺視野を遮る環境」「人との間の取り方」が大事になります。
イスの選び方:坐骨座りで6時間以上座れて、肘の角度が90度になる
オフィスチェアと家にあるイスの違いは一体なんでしょう。
オフィス家具メーカーの開発の人は次のように話します。
「日本人は、オフィスで6時間半くらい座っています。
ですから、オフィスチェアは、それだけの長時間、座っていても床ずれせず、通気性もよい状態で過ごせることを重視して作られています」
オフィスチェアであればなんでもいいというわけではなく、いい姿勢を保つためには、次の2つが大事になります。
深い集中を取り戻せ・6時間以上、座ることができる弾力と通気性を備えている
・肘掛けに腕をのせて肘の角度が90度になる
また、日本人は、背筋が弱い傾向にあります。
だから本来は、「坐骨座り」という、座禅を組んだときのような姿勢になるイスが最適です。
デスクの選び方:横幅95センチで、片づいた状態がベスト
デスクのサイズは「横幅95センチ」くらいがベストです。
あまり横幅がありすぎると、つい書類などを置きっ放しにしてしまいます。
それが目に入ると、それだけで集中はそがれてしまいます。
ここで加えて重要なことがあります。
それが、「片づいたデスク」です。
今、目の前にある集中すべき対象以外に、他の情報が見えると集中がそがれます。
これは、TO DOリストやカレンダーも同様です。
「いつも見えるようにしておく」ということは、「いつも常に考えておかないといけない」ということなのです。
TO DOリストは確認するときだけ見るようにして、カレンダーも見えないところに貼り替えるようにしましょう。
「五感を活性化させる刺激」を与える
人が仕事などで使っている五感は、視覚が87%、聴覚が7%だと言われています。
つまり、その94%は常に刺激を受け続けていることになります。
Think Labでは、経済産業省の国家プロジェクトにて、JINS MEMEの計測で五感刺激が集中にどの程度影響を与え、効果を示すかの実証実験をおこないました。
その結果、ここで紹介する五感刺激をすべて実践した人は、集中の度合いが8.8%もアップしました。
五感の中でも特に集中に関係するのは、「視覚・聴覚・嗅覚」です。
それぞれの解決策を説明していきましょう。
視覚:「照明」の切り替えで集中度が上がる
実は「照明環境」も重要になってきます。
一般的なオフィスの照明は「寒色系の昼光色」という光の種類です。
一方で、家の照明は、夕方の空の光を模した「暖色系の電球色」であることが多いです。
リモートワークで家に1日中こもって仕事をする場合など、ずっと暖色系の光を浴びていると、集中に影響が及ぶことになります。
そこで、ぜひやっていただきたい技法が、「時間帯で照明の色みを変更する」という方法です。
最近では、リモコンによって照明の色みを調整できる照明が多いでしょう。
それを利用して、仕事に取り組んだり、集中力を高めたい時間帯には「寒色系」を選び、仕事が終わってリラックスしたい時間帯には、「暖色系」に切り替えるのです。
この効果は非常に高く、異なる照明下で2日間の単純作業をおこなうという私たちの実験では、1日目に調光・調色をした群としていない群で、翌日の被験者の集中の度合いが「8.2%」も異なるという結果が出ました。
簡単な方法ですが、意外とできていない人が多いので、ぜひ取り入れてみてください。
視覚:「植物」を置くと、集中が長く続いてアイデアも出やすくなる
視覚において、もうひとつ紹介したい技法が、「植物の配置」です。
緑色には、ストレス低減効果や疲労の軽減効果があるそうです。
さらに詳しく説明すると、人の視野の120度内に緑色が含まれている割合を「緑視率」と呼び、その緑視率が「10〜15%」のときに、人の集中のパフォーマンスがもっとも高まるという研究結果があります。
植物を見ると「落ち着いた気持ちになる」のは、植物によるゆらぎが副交感神経を優位にしているからです。
副交感神経を優位にし、リラックスした状態を作り出せば、仕事への集中は長続きしやすくなります。
それに、副次的な効果として「直感の脳」を誘発し、アイデアが出やすい状態にもなるはずです。
特に、クリエイティビティが落ちたような感覚がある人は、ぜひ、机まわりに観葉植物を置いてみてください。
聴覚:「自然音(ハイレゾ)」で生活音をシャットアウト
よく聞かれるのが、「集中するときは音楽を聴いたほうがいいですか?」ということです。
集中時の「音の有無」については、個人差があります。
その前提がある上で、比較的おすすめの方法なのは、「思考している言語以外の言語の音楽を聴くこと」です。
傾向として、たとえば日本語で考えているときに日本語の歌詞の音楽を聴くと、脳の言語野がそちらを意識してしまい、集中はそがれます。
川のせせらぎや鳥の鳴き声などの「自然音」も、集中力向上には効果的です。
これらを「ハイレゾ音源」で流すのも有効です。
ハイレゾ音源には、家族の生活音を仕事モードから遮蔽する「マスキング効果」が期待できます。
マスキング効果というのは、2つの音が重なったときに、片方がかき消されて聞こえなくなる現象です。
くれぐれも、セルフの時間とワークの時間で同じタイプの音環境にしないようにしましょう。
嗅覚:アロマの有無で、集中できる時間は約5%変わる
集中力向上のために「香り」は、古来から活用されているそうです。
アロマの有り無しで、集中できる時間は「5%程度」変わります。
香りを使用する際には、目的に応じて使い分けることが大事です。
一般的に、集中時には「ローズマリー」や「ペパーミント」の香りが、リラックス時には「ラベンダー」がおすすめとされています。
こちらも、「ワーク・セルフ・リレーション」の時間によって変えることが有効です。
深い集中を取り戻せ・ワーク:仕事に集中する時間
・セルフ:自分1人の時間
・リレーション:家族や友人などと過ごす時間
また、休憩しているときに香りに集中する時間を作ると、心の静けさを保持する「マインドフルネス」に近い効果を得られるという研究もあります。
小売店などでは、ブランドのコンセプトに合ったオリジナルの香りを作ることで、入店したお客さんの気持ちを切り替える効果を狙っているケースも増えています。
触覚:ガムを噛めば、不注意や勘違いが抑制される
仕事や作業を長時間続けていると、集中力は低下します。
それに対する解決法を紹介します。
集中が持続しない原因のひとつに、「ワーキングメモリの低下」があります。
「ワーキングメモリ」とは、作業に必要な情報を一時的に記憶し処理する脳内システムです。
ワーキングメモリの回復に効果的なのは、脳の血流をよくする「反復運動」です。
特に、「噛む」行為が効果的であるという実験結果があります。
就業中の大学職員129人を対象に実施した実験によると、作業中にガムを噛むことでストレスや疲労の低減効果が見られ、不注意や勘違いが抑制されたそうです。
在宅で気持ちよく効果的に仕事ができるデスク環境の正解はコレ!
深い集中を取り戻せ
「五感を刺激する方法」について語ってきました。
ザックリまとめると、上のイラストのような環境になります。
これからの世界では、個人が環境投資の責任を持っていくことになります。
だからこそ、「より気持ちよく、より効果的に仕事ができる環境」を主体的に作っていく必要があるのです。
とはいえ、家庭内でこれらすべての空間づくりを100点にすることは現実的ではないので、1つ1つ手の届くところから始めましょう。
気が散りやすい現代人の必読書
「集中できる人は、それだけで自己肯定感を得られて、幸せを感じるのです」
心理学者のミハイ・チクセントミハイの研究によれば、時間を忘れるほどの集中「フロー体験」によって、人は“えも言われぬ高揚感”を得られるのだそう。
『深い集中を取り戻せ』では、1万人以上の豊富なデータをもとに「どうすれば能動的に働けるのか?」「あの頃の集中力を取り戻せるのか?」が追求されています。
気が散りやすい現代において、エネルギーを集中させて何かに没頭する方法を知るために、読んでおきたい一冊です。
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