ビジネスパーソンインタビュー
藤井 貴彦著『伝える準備』より
日テレ藤井貴彦アナは、入社3年目の若手に「努力が足りない」と伝えるならどんな言葉を使う?
新R25編集部
SNSで相手を傷付ける言葉をよく見かけたり、相手に何か伝えたいときに誤解を生んでしまったりしたことありませんか?
個人の言葉が自由に世界へ発信できるようになった今、私たちの言葉は影響力が強くなっています。
そんな時だからこそ、伝え方の重要性を語っているのは『news every.』(日テレ)でお馴染みのアナウンサー、藤井貴彦さんです。
藤井さんの視聴者を思いやる言葉は、「感動した」「勇気をもらった」など度々ネットで話題を呼び、今人気のアナウンサーです。
伝える準備ほんの少し伝える準備をするだけで、少なくとも自分の周りの雰囲気は変えられます。
その雰囲気が各所で広がれば、批判や暴言を減らせるはずです。
と藤井さんは著書『伝える準備』の中で語っています。
藤井さんが実践する、空気をいい方向に変える“伝え方”とは。
同書より、藤井さんの経験談を中心に一部抜粋してお届けします。
今だからこそ伝えたい言葉の力
「本を書きませんか」と言われたのは、(新型コロナウイルスの感染拡大)第2波の終了後だったでしょうか。
あの当時は、孤独や不安を感じている人の力になるにはどうすべきか、できるだけ多くの人に前向きになってもらうにはどうすべきかを毎日考えていました。
一方で、そのコメントを作成するストレスは重く、深く、夜中にフレーズが浮かんだら、起きてメモをする生活を続け、疲れも感じていました。
ですから、本を書くことについて、はじめは躊躇していたと思います。
ほかのメディアからも取材依頼がありましたが、いつ新型コロナウイルスが収束するか全くわからないので、お断りしていました。
近年はSNS上で批判や暴言が飛び交い、多くの人が傷つき、命まで失う悲しい出来事も起きていました。
言葉の怖さを知る立場から伝えられることがあるはずだと、小さな焦りすら感じていました。
新型コロナウイルス禍の今だからこそ、伝えられることもある。
こうして、私にとって初めての執筆が始まったのです。
すべての反応に責任を持つ
言葉たちを外に出すこと、つまり「独り立ち」させる時に覚えておいてほしいことをお伝えします。
発する言葉でも、書いた文章でも、それを受け取る人の反応はさまざまです。
ある人は賛同し、ある人は肯定し、ある人は違和感を覚え、ある人は批判します。
ですから、全員の反応なんて気にしていられないと思うのが当然ですね。
でも、その反応の起点となったのは、他でもない自分の発信です。
例えば、自分の発言で誤解を生んでしまった場合、「そんなつもりで言ったんじゃない」と、一人ひとりに説明するのは大変です。
これがSNSだった場合は、修正不可能な場合さえあります。
でも、この誤解を生んだのも、他でもない自分の発信です。
相手のとんでもない勘違い以外は、やはり自分の発言に対する責任は発生します。
沈黙は金なりと言いますが、何も言わないのが実は一番いいのかもしれませんね。
でも、ここでお伝えしたいのは「全責任を負ってください」というプレッシャーではありません。
責任を持つというスタンスを取ることで、自分に変化が生まれるということなのです。
実際、勢いだけの言葉選びは減りますし、潔い言動が増えてくるのです。
もちろんジャンキーな言葉を使うのは、気持ちのいいものです。
毒舌はストレス解消につながるでしょう。
しかし、それを聞く人たちは、あなたがどういうスタンスで発言したものなのかを、一度探ります。
その無駄な手間が、発言者への信頼を薄く削っていくのではないでしょうか。
一番問題なのは、信頼が薄くなっていることに本人が気づかないことです。
自分の真意を表しきれているか、それは相手に伝わっているか。
発言の前に一度確認するだけでも、言葉のチョイスは改善されていきます。
言葉の「変換ゲーム」を楽しむ
また、この作業をするうえで大切なのが、ネガティブワードの変換です。
私は常日頃から、ネガティブワードにはなかなかのエネルギーが詰まっていると感じていました。
感情があふれてしまった表現ですから、多くのエネルギーを蓄えているはずです。
また、裏を返せば前向きに言い換える余地が広がっているともいえるのです。
例えば「入社3年目でこのレベルではきつい」という言葉があるとします(この時点で後輩には言えませんね)。
この言葉を「あと少しで3年目として十分なレベル」という言葉に言い換えられれば、後輩としても自分の現在地を理解できますし、アドバイスも届きやすくなります。
さらに、「3年目としては合格だが、目指すのは合格じゃないだろ?」と発破をかければ、勘のいい後輩は努力を加速させていきます。
また、こちらがアドバイスに時間をかけていることに後輩が気づいてくれるようになると、プライド全開だった後輩の表情が、明るく変化していきます。
こんな経験を何度もしてきました。
生では苦い野菜も、油で炒め、火を通すと、深いうまみが生まれてくるようです。
また、単語一つをとっても変換が可能です。
「必要」「重要」「大切」
この3つの言葉はかなり近い意味を持ちますが、使い方で違いが生まれます。
伝える準備・努力が必要
・努力が重要
・努力が大切
みなさんが後輩にアドバイスするとしたら、どの言葉を使ってあげたいですか。
みなさんも、言葉の「変換ゲーム」をぜひ楽しんでください。
さて、ネガティブワードの変換といえば、最近こんなことを感じていました。
お笑いコンビにはボケと突っ込みの役割分担がありますが、近年では、ボケに対する突っ込みと見せかけて、ボケのフォローをするスタイルが人気を博しています。
あのネタが面白いのは、言いたくなる文句やクレームを、瞬時に前向きに換えてしまうからです。
「いや、よくその返しが生まれたな!」と感心しつつ、大笑いしてしまう。
こんな素敵な変換があるんですね。
SNSの世界では批判や中傷が飛び交い、言葉の使われ方がとても冷たくなっています。
誰かを支えたり、励ましたり、喜ばせたりすることに言葉が使われたら、日常はもっと素敵になるでしょう。
今、あのお笑いスタイルが支持されているのは、みなさんが心ない言葉のやり取りに疲れているからではないでしょうか。
後ろ向きな言葉を前向きに換えるって少し難しいけど、楽しい。
言葉を少し変換するだけで、人を笑わせるほどのエネルギーや相手を納得させるパワーが生まれてきます。
大切な瞬間に使う言葉こそ、とことん選ぶ
どんな言葉にも罪はなくて、その「様」を表す最適な存在として役割を果たしています。
どんなに汚い言葉でも、その役割を見事に果たしているから、使われ続けているのだと思います。
ここでお伝えしたい、いい言葉、悪い言葉とは、言葉自体の容姿ではなく「言葉の選び方の良し悪し」に近いものです。
今回は思い切って、具体的な流れから先にお伝えすると、
伝える準備①言葉選びに手間をかけられたか
↓
②選んだ結果に満足できたか
↓
③その言葉は相手に伝わる力を持ったか
最初からハードルを上げてしまったでしょうか。
言葉くらい好きに使わせてくれという声が聞こえてきそうですが、実は大切な瞬間に使う言葉ほど、この確認が力を発揮します。
実際にはどういうことか、「洋服のボタン」を例に使うと、
伝える準備①いろんなボタンを試してみたか
↓
②納得のいくボタンだったか
↓
③そのボタンは相手が喜んでくれたか
こんな流れでご説明したら、少しわかりやすくなったでしょうか。
この中でも最初の「言葉選びの手間」が一番大切で、難しく、でも楽しいのです。
藤井アナの言葉の力
同書を読むと、ストイックな努力と、人を想う配慮があるからこそ藤井さんの言葉は多くの人の心に届くのだと実感します。
藤井さんは、どのように“伝える”ことと向き合い、どのように言葉を培ってきたのか。
同書は藤井さんの言葉の根底にあるものが分かる一冊です。
伝える準備ほんのわずかな伝える準備で、自分の周りのみなさんの表情が変わっていきます。
その表情に囲まれたあなた自身も、さらにいい変化を見せ始めるでしょう。
悪循環を好循環に変えるのは、あなたの「伝える準備」です。
ぜひ『伝える準備』を読んで、“言葉の伝え方”を学んでみてはいかがでしょうか。
自分も、周りの人も、いい方向に導いてくれるはずです。
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