ビジネスパーソンインタビュー
アラン・B・クルーガー著『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』より
音楽は「体験経済」の一部。アメリカの経済学者が分析する、音楽が動かすビジネス生態系とは
新R25編集部
通勤中に聴いてやる気をだしたり、仕事からの帰り道に聴いて癒やされたり...
日々何気なく音楽を聴く機会は、多いのではないでしょうか?
そんな感覚的な「音楽」の世界に「経済」の思考が隠されていると語るのは、オバマ大統領の経済ブレーンを務めたアメリカ屈指の経済学者アラン・B・クルーガー氏。
今年、邦訳版が出版された『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(ダイヤモンド社)で、クルーガー氏は次のように語っています。
ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!アメリカの労働市場はスーパースターが席巻する勝者総取りの世界になった。(中略)
どうしてこんなことが起きているか、誰にとってもうまくいくもっと公平な経済を実現するにはどうすればいいかを、ロックな経済学(経済学による音楽稼業の研究)で説明するのだ。
音楽の視点から経済を見ることで、わかることとは一体...!?
音楽の要には、経済の仕組みがある
音楽が生まれ、世に送り出されるとき、その要には経済の仕組みがある。
経済の力はぼくらが聴く音楽や聴くときの機器、音楽のジャンル、それからライヴにストリーミング、録音された音源にぼくらが払うお金の額を大きく左右する。
ミュージシャンのサム・クックは、アメリカの音楽番組「アメリカン・バンドスタンド」で「1950年代にゴスペルを離れてポピュラー音楽に移ったのはなんでですか」と聞かれ、笑って本気でこう答えた。
「懐の都合だよ」。
ミュージシャンのポール・マッカートニーも、アメリカの人気ラジオ番組で、「ビートルズは革命を起こそうなんて考えてなかった」と言っている。
ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!ぼくらは単なるリヴァプールの貧しい界隈のガキで、ちょっとお金を稼ぎたかっただけだった。
ミュージシャンが自分では経済的インセンティヴで動いているとは感じていなかったとしても、経済の力はこっそり成功と失敗を左右している。
著書『商業文化を称えて』(未邦訳)で経済学者のタイラー・コーエンもこう言っている。
タイラー・コーエン著『商業文化を称えて』経済が文化に及ぼす影響は、広く信じられているよりも強い。
印刷機ができてクラシック音楽を広める術ができ、電気機器でロックンロールがやれるようになった。
よかれあしかれ、アーティストは経済の制約を受ける。
例を1つ挙げると、今日、複数のアーティストがコラボする曲が増えている。
ジャンルを超えて新しい聴き手を掴もうと、大スターが他のアーティストと一緒に演(や)る、なんてことが最近は増えているのだ。
「デスパシート」がいい例で、これは2017年に一番ストリーミングで聴かれた曲だ。
ルイス・フォンシとダディ・ヤンキーが演った曲で、ジャスティン・ビーバーをフィーチャーしている。
よその歌い手をフィーチャーした曲をよくよく聴くと、普通、フィーチャーされたスターは曲の最初のほう、始まってから30秒以内に出てくるのに気づく。
これは理にかなっている。
ストリーミング・サービスが曲の使用料を取られるのは少なくとも30秒以上ストリーミングされたときだけだ。
つまり、ストリーミングにかかわる経済的インセンティヴが、作詞や作曲、演奏のあり方に直接に影響を与えている。
音楽業界の経済の仕組みを理解すれば、経済の力がぼくらの日々の暮らしや仕事、社会をさまざまな形で左右しているのを理解できるようになる。
音楽がもたらす波及効果とは
音楽はいろんな形で人やコミュニティに波及効果を及ぼす。
一部はお金の面、そしてそれ以上にお金以外の面でそうだ。
音楽のフェスティバルはお金の面で及ぶ波及効果のいい例だ。
テネシー州マンチェスターやカリフォルニア州インディオといった街で音楽フェスティバルが開かれれば、音楽業界に直接つながっていない企業や働き手でもいい思いをする。
レストランに飲み屋、ホテルの需要は高まり、ステージや機材を設置する地元の働き手、地元のレストランや飲み屋、ホテルの従業員だっていい思いができるのだ。
ボナルーやコーチェラといった大きなフェスティバルのおかげで、無名の街でも地図に名前を載せられる。
その結果、あちこちの街が音楽フェスティバルの開催地になろうと競い合うことになる。
経済活動は盛り上がり、知名度も上がるからだ。
実際、アーカンソー州のエルドラドは公私の資金を1億ドル投じてマーフィ・アーツ地区を建設し、7500人を収容できる円形劇場や2000席の音楽ホールを建てた。
街に活気を取り戻し、住民をつなぎとめようとの目論見だ。
直接には音楽経済に含まれないが、音楽業界の恩恵を受ける生態系が丸ごと1つある。
ラジオ局がそうだし、ソノスやボーズ、ビーツ、アップルといった機器メーカー、そしてロック・ビデオの映像作家たちは、みんな音楽経済のおかげで潤う。
iPod、そして後にはiPad、iPhoneが成功したのは、大部分が音楽のおかげだ。
こうした金銭面での波及効果があるのは音楽業界に限らない。
スポーツ・チームや自動車メーカー、映画の撮影所、他にもいろんな業界が経済面で波及効果を生み出す。
波及効果が及ぶ範囲を音楽の生態系に含めたとして、それでもなお音楽業界は他に比べて経済的には小さい。
そういうのより大事なのは、ドルだのセントだの以外に個人的、文化的、社会的なレベルでぼくらを動かす波及効果のほうだ。
苦しいときに「アメイジング・グレイス」が聞こえたら心が安らぐ。
スポーツ・ファンが集まったアリーナやスタジアムは「ウィ・ウィル・ロック・ユー」で盛り上がる。
エリック・キルシュバウムは説得力ある議論で、ブルース・スプリングスティーンとEストリート・バンドが1988年に東ベルリンで30万人を集めて演ったコンサートがベルリンの壁を倒すのに一役買ったと述べている。
音楽が他に及ぼす影響は全部が全部、いいことばかりではない。
寮で隣の部屋の学生が朝から晩まで大音量で曲を流していたのは、今でも嫌な思い出だ。
音楽はいい信念にも悪い信念にも使える(し、使われてきた)。
でも、ぼくらの心や社会の大義に与える前向きな効果があるからこそ、音楽はお金の面で経済に与える貢献をはるかに超える、大きな影響力を持つのである。
音楽は典型的な「体験経済」の一部だ。
手に取って触れる製品やサービスよりも体験を売ることに頼った経済の一分野である。
ぼくたちのGDPのうち、体験を生み出し、販売することで得られる部分の割合はどんどん高くなっている。
経済の残りの部分だって、体験をどう創って売るか、音楽業界からとてもたくさんのことを学べるはずだ。
誰にとっても身近な音楽と経済
著者のアラン・クルーガー氏は、次のように語っています。
「ほとんど誰だってなんらかの形で音楽業界とつながっている」
日々の買い物や食事、遊びや仕事など、こうした生活そのものが「経済活動」と呼ばれるように、経済も音楽と同様に身近なものです。
同書を通じて身近な経済と音楽の関係を知ると、私たちがふだん何気なくしている行動の意味や、音楽との新しい付き合い方が見えてくるかもしれません。
ぜひ一度、読んでみてはいかがでしょうか。
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