ビジネスパーソンインタビュー
「持ち運びのできる言葉」とは何か?
政府のキャッチコピーより、一般のツイートが支持される理由。GO三浦に聞く「拡がる言葉」
新R25編集部
最近、いろいろな意味で「広告」が話題になることが多いように思います。
今週の新R25は、「いい広告って何だろう?」という疑問を掲げ、2人の広告人にお話を聞きます。
本日も、The Breakthrough Company GOの代表取締役であり、PR/クリエイティブディレクターとして活躍する三浦崇宏さんが登場。
“愛される広告とは?”をテーマにお話を聞いた昨日に続き、本日のテーマは“愛され、拡がる言葉とは?”。
SNSでの発信から、仕事での企画、社内のキャンペーンなどなど、「人に愛され、支持される言葉」「拡がる言葉」を身につけることの重要性は、昨今ますます高まっているように思います。
“パンチライン製造機”として知られる三浦さんに、広告観点での言葉の生み出し方を聞きました。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
天野
三浦さんは『言語化力』という著書もありますし、多くの「パンチライン」を生み出すというイメージがあります。
「人に支持され、拡がる言葉」はどうやってつくっているんでしょうか?
三浦さん
なるほど。拡がる言葉、つまり「言葉におけるPR観点」ってことね。
天野
はい。今日は三浦さんが過去にしたツイートから、キャッチコピーっぽいものを探して持参しました。
これを例に解説をお願いします!
「………」
三浦さん
なんでこれ!?もうちょっとライムスターの歌詞について言及してるやつとかいろいろあっただろ!
まあいいや…
大きく言うと、言葉を生み出すときに意識すべきことは3つあって…
なんだかんだすぐ解説に入ってくれる優しい三浦さん
“ジャンルを飛び越えて人の心を打つ言葉”とは。「ターザン山本が言ったんだけど…」
三浦さん
もっとも大きいのは「持ち運びのできる言葉である」ってことかな。
「持ち運びのできる言葉」っていうこれ自体が持ち運びのできる言葉になってるんだけど…
天野
難解だな…どういうことですか?
三浦さん
たとえばターザン山本(※元『週刊プロレス』編集長)という人の言葉で、「プロレスについてしか知らない人は、プロレスについて何も知らない人だ」っていうものがあるの。
天野
すでにパンチラインっぽい。
三浦さん
プロレスの勝敗って、プロレスの強さだけじゃ決まらないのね。ストーリー展開とか、どっちが勝ったほうがグッズ売れるみたいなプロモーション観点とか、いろんな要素が絡まってて、それらが組み合わさってできてるのよ。
これってあらゆることに転用できるじゃん。
三浦さん
たとえば「広告についてしか知らない人は、広告について何も知らない人である」と。
ここにある『コピー年鑑』に書いてあること全部暗記しても、ポカリスエットのすばらしい広告をつくって、多くの人を感動させることはできないよね。
三浦さん
あの映像は「人間は、青春期に何かに熱中しているときに美しい」という感覚を表現してるわけで、“青春の楽しさを知る”人だからこそつくれるわけじゃん。あるいは、“それをうらやましく眺める気持ちを知っている人”。
わかる?「持ち運び」っていうのは、構造を自分の仕事や人生にも転用して使えるってことなの。
そういう言葉は、ジャンルを飛び越えて人の心を打ち、拡がっていくのよ。
天野
たしかに。自分の仕事でも言えるな…
三浦さん
だから、自分の言葉がすぐれているかどうかを知るバロメーターは、「後輩がパクって喋ってるかどうか」。
俺がふだん話しているコンセプトを、GOでインターンしてる学生が大学のサークルで後輩に語ってるらしいのよ。
それはすごくうれしい。“持ち運びのできる言葉、考え”である証だからね。
天野
なるほど。
三浦さん
パンチラインが多いって言ってくれたけど、それは「持ち運び」がクセになってるから。
パクるんじゃなく、言葉や考え方を持ち運ぶという感覚を身につけていると、引き出しの数が増えていく。
油そばのツイートでいうと、「ネーミングにだまされるな、本質を見つめろ」も転用できるし、マジメに見せた文体でラーメンの話をするっていう“小ボケ感”をいろんな場面に持ち運べるよね。
自分の過去の小ボケを解説させるという鬼の所業をしていることに気付きましたが、続行します
今、支持され拡がる言葉には「弱さ」がある
三浦さん
あと、あんまり俺ができてないことなんだけど、言葉を拡げたかったら「弱い」ってことが大事だと思う。
天野
弱い? 強い言葉が伸びるんじゃないんですか?
三浦さん
そうじゃなくて…今SNSやってて「一番伸びないもの」って何かというと、“自分の仕事自慢”なんだよね。
こういうCMつくりましたとか、ストレートな自慢話が一番嫌われるのよ。
基本的に「強い者」「勝ち組」って存在は応援されなくて、発した言葉が支持され拡がっていくことがない。
天野
たしかに、政府の考えたキャッチコピーより、いちツイッタラーのつぶやきが支持されたりしますもんね…
三浦さん
たとえば俺、ツイッターを始めたのは3年前ぐらいなんだけど、当時のほうがフォロワーは少なかったのによくリツイートされてた。
当時は、「この無名の太った人がいいこと言ってる。みんなに教えてあげよう!」って面白がられたんだよね。
ところが今の俺って、有名だし金持ってそうじゃん?
そんなこと真っ直ぐにきかれても…
天野
まあ…
三浦さん
最近言葉がSNSで拡がるのは×××××(※三浦さんたっての希望で名前は伏せます)。なんか、ちょっと優しそうだったり、悩んだりしてそうに見えるのよ。
つまり、今“拡がる言葉”を発したかったら、「自分が弱いこと」を明らかにしなければいけない。
貧乏なフリする必要はないけど、自分が勝ち組前提の発信は応援されない。応援される「弱さ」があるかは考えないといけないね。
三浦さん
そしてもうひとつは「世の中の流れに対してスタンスをとること」だよね。
今、世の中に怒ってる人がたくさんいるけど、自分も同じように怒っているのか? それとも逆なのか?っていうことを明らかにする。
天野
ちなみに、油そばの話でいうと…?
いちいち油そばの話をさせて申し訳ございません
三浦さん
まあ、太ってるっていうことを自虐しているから「弱さ」があるんだよね。シュッとしてるヤツが言うより支持されるでしょ。
事程左様(ことほどさよう)に…この3つが、“バズる言葉の条件”です。
「オリンピック好きじゃなかった」という三浦青年を変えた、あるキャッチコピーとは
三浦さん
今回は「広告の魅力」っていう取材で来てくれたわけだけど、根本的に広告の仕事の魅力は、言葉ひとつ、考え方ひとつで複数の人を同時に幸せにできることなんですよ。
企業は売上が上がるから幸せだし、ユーザーから見ても面白い…ということで幸せになる。
天野
三浦さんも「言葉ひとつ」で幸せを感じる経験をしたことがあるんですか?
三浦さん
俺が大学のとき、タグボート(※1999年に設立された、日本初のクリエイティブエージェンシー)の岡康道さん(故人)っていう人の講演に行って、そこで「アトランタ五輪」のCMを見たときだね。
キャッチコピーは「オリンピックがなければ、平凡な夏でした。」。
おお…すでになんかすごそうだ
三浦さん
俺、オリンピックってあんまり好きじゃなかったのよ。みんなが好きなものが好きじゃないっていう学生だったから。
ミスチルとか聴かなかったし。早稲田にいたけど早稲田祭嫌いだったし。
天野
いっぱいいるヤツだ。
三浦さん
…そのCMはさびれた定食屋で、柳沢慎吾演じるサラリーマンが電話で上司に謝ってるの。店員の女の子も電話で「今年は実家に帰れない…」とか言ってるわけ。
オリンピック関係ない、寂しいシーンなのよ。
でも店の片隅にある小っちゃいテレビにオリンピックが映ったとき、2人は選手を応援して「よし!」って2人同時に声を出しちゃう。そして…「オリンピックがなければ、平凡な夏でした。」っていうコピーが映し出される。
番組宣伝 ある男と女の夏 | 東京コピーライターズクラブ(TCC)
興味のある方は調べてみてください
三浦さん
俺、それを見た瞬間「オリンピックっていいな」って思ったの。
オリンピックというお祭りに乗れてなかった俺みたいな学生にも、うだつの上がらないサラリーマンや定食屋のバイトにも、「あなたの平凡な日常を変えてくれる素敵なものがある」って教えてくれたんだよね。
関連企業が利益を得たうえで、俺みたいなヤツのことも幸せにしてくれてる。
天野
すばらしいですね…
「だろお!?」満足げな三浦さん。ありがとうございました!!
三浦さんが教えてくれた「人の心を打つ言葉」のポイントは、
・さまざまな人の人生や仕事に「持ち運び可能」なこと
・弱さがあり、応援したくなること
という二つ。
広告関係の仕事につく方のみならず、SNSでの発信や、社内の企画、キャンペーンなどにぜひ“持ち運んで”応用してみてください!
さて、明日公開の記事では、ある大物ミュージシャンに「いい広告とは何か?」という疑問をぶつけています。お楽しみに…!
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉
三浦さんから、GOオリジナルキャップをプレゼント!
三浦さん
これ、読者プレゼントしていいよ!
撥水加工、防臭加工。めちゃくちゃいいから。
…とのことで、三浦さんが太っ腹にも読者プレゼントを用意してくれました。
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