

「僕は連絡もプレゼントもしない。実家に泊まりもしません」
「親の期待って呪いですよね…」親孝行が苦手な矢部太郎が語る“唯一これだけすればいいと思うこと”
新R25編集部
「親との距離感」に悩むこと、ありませんか…?
まもなく父の日ですが、筆者は親に感謝の気持ちを伝えるのが正直苦手です。
進路などで何度も地獄のようなバトルを繰り広げてきた身からすると、今さら「いつもアリガトウ!」と言うのもなんか恥ずかしい…
そんな気持ちを抱えて、今回お話を聞いたのはこの方。
【矢部太郎(やべ・たろう)】1977年生まれ。1997年にお笑いコンビ「カラテカ」を結成。2017年に上梓したエッセイ漫画『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍中。2021年6月、父の日に合わせて絵本作家の父・やべみつのりさんとの幼少期を描いた『ぼくのお父さん』を上梓
6月17日に、実の父であり絵本作家のやべみつのりさんとの子ども時代の生活を描いたマンガ『ぼくのお父さん』を上梓する、芸人・マンガ家の矢部太郎さん。
お父さんとの日々をマンガにしてしまうほど孝行者の矢部さんに、親子関係にまつわる悩みを相談してみました。
〈聞き手=いしかわゆき〉
父の「自由に生きろ」という教えが、逆に窮屈だった

いしかわ
矢部さんは、親といい関係を築くために意識してることってありますか?

矢部さん
僕にとって親は、「最初に会った人」。それぐらいの感覚でいます。
大切な存在だけど、「僕らは一人ひとりの人間だ」って意識がすごくある。あんまり一緒にいないですしね。
けっこうドライな矢部さん

いしかわ
矢部さんは、お父さんも絵本作家で、ご自身は今マンガを描かれていますけど“いつかはお父さんみたいに”という気持ちがあったわけでは…?

矢部さん
いや、父みたいにはなりたくなかったですね。
絵本作家で、自由な生き方をしてきた父に、ずっと「好きなことをして生きろ!」と言われてきたんですよね。
それがすごく窮屈で。

いしかわ
「好きなことをしろ!」なんてやさしいお父さんで羨ましいですけど…

矢部さん
お父さんが売れていたら憧れを抱いたのかもしれないですけど、そうでもなかったので…

いしかわ
(反応しづらい)

矢部さん
僕の保育園の先生が辞めるとなったとき、「お父さんの本をプレゼントしようよ!」と2人で本屋に行ったんですけど、置いてなくて。
何軒まわっても置いてなくて、お父さんと自転車で何度も同じ道を往復していたら、あまりに必死に走ってたからか、部活中の中学生に「がんばれー!」と言われたんですよ。
そんなことあります…?普通応援されるべきは学生なのに…
切なすぎる

矢部さん
他にも、ずっと家にいるから「この人、もしかしたら“無職”なんじゃ…」と恥ずかしくなったり、「他のお父さんはちゃんと働いてて、欲しいものを買ってくれるんだろうな」と羨ましく思ったり。
そんな姿を見ていたから、「父さんみたいに好きなことをして生きろ」と言われることがすごく苦しかったんです。

いしかわ
そういうパターンもあるんですね…

矢部さん
父の絵本に意見を求められてダメ出ししたら「優しくない」とか言われるし、「テレビゲームがほしい」って言ったら段ボールで作ったコントローラー渡されるし、最近も僕の『大家さんと僕』に寄せて地元で「紙芝居と僕」みたいなイベントやってるし…
なんかすみません、父のイヤなところがどんどん出てきてしまいました。
けっこうファンキーなお父さんだった
親からの“期待”って、どう応えたらいいの?

いしかわ
もうすぐ父の日ですが、私は毎年スルーしちゃっていて…
矢部さんは「親孝行」についてどう思いますか?

矢部さん
いわゆる「親孝行」みたいなこと、僕はずっと避けつづけてますね。
プレゼントも贈らないし、そもそも全然連絡取らないし、2、3年実家に帰ってなかったこともあるし、実家に帰っても泊まらないようにしています。
そういうの、すごい嫌です。
嫌そうすぎてちょっと笑ってしまう

いしかわ
矢部さんってやさしそうだし、親孝行されてそうなので意外なんですが…
どうして嫌なんですか?

矢部さん
「これが親孝行だ」と決めつけることに、ちょっとモヤモヤすると言いますか…
たとえば、プレゼント。ちょっとひどいこと言いますけど、モノをあげることって「自己満足」だと思うんですよ。
家庭によっては、プレゼントを贈るような間柄じゃない親子関係もあるし。
その文化自体は素敵なんですけど、“贈り物をして当然”という空気にしばられる必要もないと思うんです。

いしかわ
なるほど。

矢部さん
あと、「親の期待に応えなきゃいけない」という空気というか、“呪い”が苦手なのもあると思います。

矢部さん
僕が実家に帰らなくなったのも、それがあるかもしれない。一緒にテレビを観ていて電撃婚のニュースが流れると、母がニヤニヤしながら僕のほうを見てきたり。
結婚が親孝行なのだとしても…親孝行のために結婚はできないから。

いしかわ
わかります…
ただ、“親の期待”って無視してるとちょっと申し訳ない気持ちにもなりませんか…?

矢部さん
正直、「生きてるだけで十分だろう」と思うんですよ。

矢部さん
親が求める「理想の子ども像」と、成長して自我が芽生えた自分との間で衝突があるのは、当たり前だと思うんです。
そのとき、“理想”に従うのが本当に親孝行なのかなと。

いしかわ
私も親に夢を反対されて大ゲンカをしたけど、親を泣かせるのも嫌だし、結局どっちつかずになってしまったことありました…
矢部さんだったらどうするんですか?

矢部さん
「自分が幸せを見つける」ことじゃないかな。
親が用意した幸せじゃなくて、「自分が見つけた幸せはこれだ」って見せてあげる親孝行があってもいいと僕は思うんです。

矢部さん
僕自身、奔放な親への反発みたいな気持ちで大学まで進学して、父の仕事とは全然関係ない「芸人」に挑戦したんですよ。
それが今は、まわりまわって父と同じく絵を描いている。でも、自分で選んできたから後悔はないんですよね。
らせん階段のようにぐるっと回りながら上がってきたような…父とは違う、自分だけの道を歩いてきた感覚があるので。

いしかわ
親の希望通りじゃなくて、自分で道を選ぶのが大事だと。

矢部さん
そうやって、「これが僕に一番ハマる幸せのかたちです」って見せられたら、もうそれでいいんじゃないかな。

いしかわ
…今日はありがとうございました。
私は長女だったので、どこかで「親を失望させちゃいけない」って思いがあったんですけど、少し肩の荷が下りた気がします。

矢部さん
もちろんドラマで観るような素敵な家族もいいとは思うんですけどね。
…でも、関係性ってやっぱりそれぞれだと思うので。
一人ひとり、見つけていけばいいんじゃないかな。
矢部さんらしい親子論、ありがとうございました!
親は、最初に会った人。
矢部さんの取材では、一度も「好き」という言葉は出てこなかったけど、それでもずっと大切に思っているのが伝わってきて、「親孝行」ってこういうことなのかもなと思えました。
好きなことに打ち込んで生きているだけでも親孝行だと信じて、わたしはこの記事を父の日の贈り物にしようと思います。
矢部さんとお父さんの素敵なワンショット。二人ともいい笑顔だな…
〈取材・文=いしかわゆき(@milkprincess17)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
矢部さんの最新作『ぼくのお父さん』が発売!
矢部さんの父である絵本作家のやべみつのりさんと過ごした、自身の幼少期のエピソードを描いた漫画『ぼくのお父さん』が6月17日に発売します。
ノスタルジックで心あたたまる、お父さんとの思い出の数々に、ぜひ浸ってみてください。

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